このゲームは終わらせない！

『きっと……来る……』

逃げろ！逃げろ！

足音が聞こえてるよ

振り向けば振り切れない

解（と）いて！解いて！

罠が迫（せま）ってきてるよ

踏（ふ）み違（ちが）えれば踏み外（はず）す

倒して！倒して！

後ろにいるよ

刺し違えても刺し殺せない

ほら、またあなたの悪夢は終わらない

ほら、まだあなたの悪夢は終わらせない

『きっと……来る……』

好評発売中！！

突然ホラー要素満載のCMが動画サイトから流れてきた。

好きなアニメの主題歌（しゅだいか）の動画を見ていたというのにとんでもないCMを挟（はさ）んでくるなと少しイラつき混じりにため息をつく。

『きっと……来る……』

この言葉だけで、いつかの人気ホラー映画を彷彿（ほうふつ）とさせたけど関連はなさそうだ。

どんなものかと少し検索してみたが最近なかなか話題（わだい）になっているホラーゲームらしい。

ゾンビや化け物を退治（たいじ）しながら罠にかからないように仕掛けを解いて進んでいくサバイバルホラーゲームのようだ。

どこにでもありそうなゲームの内容だが、最近の流行（はや）りに乗っかって人気が出てるみたいだ。

公式サイトや攻略サイトなどを見て、ある程度内容やシステムを把握（はあく）できたので動画サイトに戻ってきた。

好きなアニメのオープニング映像が主題歌に合わせて流れていく。

異世界転生（いせかいてんせい）した主人公が、恋をして、戦っていく。たくさんの仲間とのバトルシーンの後、みんなで笑い合いながら歩いていくところで動画が終わる。

落ち着いて見ることができなかったのでもう一度最初から再生する。

ふと思う。

異世界転生はマンガや小説でありふれている。

転生先（てんせいさき）は様々（さまざま）あれど恋愛ゲームやRPG、マンガやラノベの世界など大体は夢のような場所。

立場などは色々あるけれどどんなものでも大抵（たいてい）は主人公がチートであったり、このアニメの主人公のように最後はハッピーエンドになるものが多いだろうしそうであってほしいと思う。

そんな異世界転生ものを見ていてふと思ったのは絶対ホラーゲームには転生したくないということだ。

何が悲しくて転生してまでゾンビや化け物、幽霊や鬼なんぞと戦わなくてはならないんだと。

恋愛でも友情でも青春でもなく、ただ生き残るために戦うなんてまっぴらごめんだと。

ゲームというフィクションだからこそ成り立つものなのだと。

思っていたというのに……。

夢ならばどれほどよかったでしょう。

頭の中でそんな歌い出しの曲が流れていく。

今、自分は目を覆（おお）いたくなるような現実に直面（ちょくめん）している。

数多（あまた）の化け物たちを目の前にして。

数々（かずかず）の仕掛けられた罠を目の前にして。

いくつかの解かれた仕掛けを目の前にして。

そして大慌（おおあわ）てで自分は動き出す。

「今すぐこの仕掛けを作りなおして！！くっ！ずいぶん頭のいいヤツが主人公してるな！！とりあえずゾンビABCと化け物3体は所定（しょてい）の位置について、それから幽霊1.2.3と鬼5体はここの護衛（ごえい）にまわって！この罠をあと3つは仕掛けないとっ……」

ホラーゲームに転生したどころか、まさかのホラーゲームのラスボスに転生するなんて誰も思わないじゃないか。

しかも、あろうことか誰かがプレイしてるのか、この世界の主人公として生まれてきてるのかわからないが主人公、ものすごく賢（かしこ）い。

そして強い。

どんどん自分が仕掛けた罠やギミックを解いてどんどん自分に向かってくる。

蘇（よみがえ）るとはいえ今や自分の唯一（ゆいいつ）の仲間であるゾンビや幽霊たちがバンバン倒されていく。

それでも迷っている暇（ひま）はない。

生き残るためにこの先には進ませない。

いくつもの仕掛けや罠を起動させて主人公の邪魔をする。

正義や悪、主人公や悪役なんて関係ない。

逃げ続ける、逃げ切ってみせる。

このゲームは終わらせない。

扉の開く音がすぐそこまで近づいてきている。

「この仕掛けを直して、あともっと難しいギミックを用意しなっ……」

ガチャッ……

ギャーーッ！！キットクルーーーッ！！！