転生

 どれだけの時間が経っただろうか、彼女には分からない。

 再生炉の中は熱くも寒くもない。落下感もなくなって、ただ暗闇の中に意識だけがある。しっかりと握っていたイスセンスダの手の感覚もない。彼女はにわかに不安に襲われた。

 しかし、その不安は急速に緩和される。不安になる必要はないのだ。これから彼女は世界そのものになるのだから。彼女の意識は世界とともに、そこに生きる全ての命とともにある。そう理解していた。



 そして彼女は目を覚ました。雲一つない白い空、同じく白い砂の大地、赤い海……違和感は何もない。

 だが、相変わらず自分が何者だったか思い出せない。再生炉に落ちたところまでは分かっている。その後のことが思い出せない。

 まずは再生炉に行こう。ケルボルクに会って話をしよう。そう考えた。


 彼女は小高い丘に向かい、ケルボルクと再会すると、自ら話しかけた。


「この世界に変化はありましたか?」


 ケルボルクは彼女の姿を認めると、驚いたような声を出す。


「イスセンスダか?」

「イスセンスダ? あぁ……ええ、そうでした。私はイスセンスダ。『瞳』のイスセンスダ」


 彼女は仮面を外して名乗る。仮面の下には女性の顔があった。彼女と全く同じ女性の顔が……。

 ケルボルクは一つ頷くと、改まって応えた。


「これを見よ。何だと思う?」


 ケルボルクが軟体の手で指した地面には、細く短い産毛のようなものが、まばらに生えていた。


「ああ、それは植物という命です」

「植物! しかし、想像していたものとは違うな。聞くところによると、もっと大きく複雑な形状で緑色をしているはずだが」

「これがこの世界に適合した姿なのでしょう」

「確かに、ここには明るい太陽も、透き通った清い水もないからな」

「加えて言うなら、このまま定着するとは限りません」

「なるほど、見るからに弱々しい命だ。砂に還るかもしれん」


 一呼吸おいて、二人は同時に真っ白な空を見上げる。

 先に言葉を発したのはイスセンスダ。


「豊かな世界への扉は、いつ開きますか?」

「そう遠くない内だと思う。とにかく今は漂着物から知識を得るより他にない」


 二人は同時に豊かな世界を思った。この世界は退屈すぎる。

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異世界残酷物語 @odan

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