第30話

 肩が重い。重力に従って、身体は落ちていく。受け身を上手く取れずに、ドサリと地面に叩きつけられた。


「まだまだぁ!」


 ミユは何度も発砲する。その弾丸は、寸分の狂いもなく、俺の右腕に命中する。なんて射撃能力……!


「ふふ。お祭りの射的で鍛えた私の射撃を見たか!」


 まじ? 射的で鍛えたのか? 天賦の才能かよ。だが、ここからは当てられないぞ!

 結界を正面に出す。これでとりあえず弾丸は防げるな。だが、ここからが問題だ。ミユは遠距離型であまり近づかないと思っていたが、めっちゃ近づいてくる。経験上、結界は拳などのには纏えるが、例外を除いて全身に纏うことはできない。

 とすると、弾丸に当たってもダメージを最小限にすることが重要だな。俺がここに来てから何もしてない訳がない。ちゃんと、アレのリスクは減らしてきたんだよ……!


「【変幻自在】、スライム!」

「そろそろ、終わりにしようかな。」


 ミユが発砲する。狙いは、鼻の少し上……鼻根か!

 弾丸が身体に触れる。速度が少し落ちたところを狙って後ろを振り向いた。我ながら見事に受け流す。


「色々あるんだね。」


 ミユには防御手段もあるはずだ。近づこうもんならカウンターで千切り、いやミンチにされる可能性だってある。だから迂闊には近づけない。

 だが、これだけは違う。これは、俺が【変幻自在】に慣れようと練習していた時に気づいた、更にその延長―――!

 手をピストルの形にして、人差し指をミユへと向ける。ミユが一歩退いた。よし! 行ける!

 素早く人差し指を腕ごと上に向けた。


「ん?」


 ミユから疑問の声が漏れる。これは……。


「やっぱり失敗か!」


 ミユが、なんでやねんとばかりに眉を下げた。上手くいくと思ったんだけどなぁ。


「ま、いっか。」


 剣を取り出してミユのいる方へ走る。確かに接近は自殺行為だが……!

 ミユの前まで来て、剣を振り上げる。ミユは銃を仕舞った。体の動きからして、やはりカウンター狙いだな。


「竹之下流――――」


 来る! 俺は剣を手から離す。そして後ろに回った。ミユは何かを勘づいたのか、身体の流れるような動きから一転、パワフルな動きへと移り、後ろを向く。そのタイミングを見計らって背後へと俺は移動した。そして落ちた剣を取り、ミユの脚辺りを斬る。


「んっ……!」


 鮮血がほとばしる。う……ん。相手が死なないとはいえ、顔見知りには流石に罪悪感があるな。脚を斬られてもなおミユは体制を崩さず、流れるような動きで剣を蹴り飛ばした。


「竹之下流、波浪流!」


 そのままミユは滑り落ちるように体を下へ動かし、華奢な右腕を地面に着け、左脚で蹴りを放つ。それを結界で止め、直ぐに結界を解除してミユの脚を掴んだ。腰をひねって後ろを向き、ミユの脚を右肩に背負うようにして持つ。


「よい、しょっ。」

「ふぇっ!?」


 小さな悲鳴が聞こえた直後、俺はミユを地面に叩きつけた。背負い投げ……というのだろうか。俺はただひたすらにミユを叩きつける。


『しゅーりょー!』


 この一声で正気に戻った。


『ミユ選手気絶! 続行不可能と判断しましたので、勝者は、アオ!』


 突如、身体が紫色の炎に包まれたかと思うと、気がついたら客席に座っていた。銃創や他の傷も消えている。


『なんとも立体的な戦闘を魅せてくれました。さぁ続いては! アヤカ対レン!』


 会場が更なる盛り上がりを見せる。


「ふむ、いい試合だったぞ。」


 右隣りにいたの声の主は、リスクだった。


「これぐらいの強さがあれば奴も……。」


 何かを考え込んでいるようだったが、アヤカとレンが入場してくると直ぐに顔を上げた。

 アヤカは家紋のようなものが、鞘に刻まれた刀を握っていた。レンも刀を持っていたが、その鞘は所々穴だらけだった。

 どっちが決勝に進むのか。見ものだな。


『それでは、保険の準備はできましたね? では、開始!』


 ミユは素早く抜刀する。一方レンは顔色一つ変えずにクールな顔を保ったまま、居合の姿勢を取った。


 「はぁぁぁぁぁっ!」


 アヤカは刀を振り上げ、レンに走って斬りかかる! レンはゆっくりと刀を抜いた。


「喰らえっ! 《無限斬撃》!」


 アヤカはレンに刀を振り下ろす。ピタリと刀がレンの頭上で止まった。

 しかし、何も起きない。レンの纏っている、オーラのようなモノの為であろうか。不測の事態。アヤカは動揺を隠しきれていなかった。


「うん、いいね。太刀筋は素晴らしい。剣を振り下ろした箇所に斬撃を与え続ける、《無限斬撃》とかいうスキル。噂でしか聴いたことなかったけど、実在したんだ。でも、スキルの格では僕の方が上かな。」


 レンはアヤカの刀を自らの刀で振り払った。


「なんで効かないの……?」

「僕のスキルさ。ちょっと特殊でね。さぁ、《無限斬撃》の可能性。じっくりと見させてもらうよ。」


 ミユは、振り払われた刀を持ち替え、レンへと薙ぎ払う。レンは涼しい顔で刀を結界で防いだ。


「成程、無限斬撃は刀から少しズレた位置で発動するのか。結界での防御は意味ないかな。発動があと少し遅れていたら僕は粉々だったろうね。」


 レンの瞳が、好物を見つけた幼子のように輝いた。

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転生したら激弱スキル!?〜鍛えまくって無理矢理使いこなしました〜 らんらん @rantetetan

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