最終話『解明』
「お見事です」
「まだ、喋れるのね」
「そこまで行けば直に思い出すでしょうが、まだ一応貴女はリセット状態なので。
…と言っても、数分でしょうが」
彼の殺意が届く前に、欠けた欠片は繋ぎ合わさった。
横に倒れる彼に元気は無いので、推理は正解と見て良いのだろう。
「熱力学第二法則の長く未解明だった謎の定義…ジェームズ・クラーク・マックスウェルが提唱した永久機関を殺した最後の欠片」
「ええ、ええそうです。
私は状態変化をしているのではなく、見えている範囲の分子を振り分けて気体液体固体を自由自在に動かせるのです」
「そして、君を殺した存在となると…」
熱力学第二法則でもなく、科学でもない、それは
「『忘却』…だな」
「言い方は個々それぞれですが…そうです。『忘れる事』それが貴女の権能です」
マックスウェルの悪魔は『忘れる』時にエントロピーが増加し、それによって謎は解かれ葬り去れた。
「一定数居るのですよ、貴女レベルの巨大な権能は貯めに貯めてリセットをしてを繰り返して居るんです」
「彼等は君を…永久機関の可能性を見出したのか」
「事実、貴女が正常じゃない時、私は正常《異常》なのでその目論みは間違っても無いですが…」
私は…私こそ永久機関を否定した最後の欠片である以上見過ごせませんでした。
「そうね、永久なんてものは存在してはいけないのにね」
「人類どこに進んで行くんでしょうね…本当に」
彼は、軽く微笑んだ。
「見送りは出来ませんが…帰れますね?」
「ええ、大丈夫」
「なら、これでお別れです」
「なら、最後に良いかしら?」
「…なんですか?」
眠ろうとしていた彼を見下ろす。
「きっと、欲深い人間はまた同じ事をするでしょう」
「なので…また、助けてくださいな?一生のお願い、継続サービスと言うやつです」
ポカンとした顔の彼に笑う。
「まぁ、貴女に死なれると不利益しか出ませんし…仕方ありませんね、引き受けましょう」
「それでは、また500年後に」
彼が目を閉じるのと同時に、身体が軽くなり浮いていく。
動く太陽や、限りある大地に見送られ次に目を開けるといつかの九龍城の様な街だった。
「居たぞ!!あいつがっ…あれ?」
「どうし…た?」
「…そんな重装備で何かありましたか?」
「あれ?なんでこんな重装備?」
「さぁ?」
先日見たかの重装備の人間にパチンと指を鳴らし、『忘却を殺せば永久機関が可能かもしれない』という考えを忘れさせる。
「そうですか…なら、行きましょう」
私の権能は『忘却』。
人間が恐れる、過去を消すものである。
人間を鼓舞する、未来を見るものである。
記憶喪失の貴女へ贈る 朝方の桐 @AM_Paulownia
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