月のない夜をすごせ

水登 みの

月のない夜を過ごせばいい

 今のあの子は酷いものだったよ。ぐちゃぐちゃで、昔の面影なんかまるでありゃしなかった。


 君も眩く光り輝く女神様たいようの事は知っているだろ。

 その女神様の光はあまりに強すぎて、女神様を見た者はその明るさに何も見えなくなり、女神様に近付いた者は皆その熱に焼かれた。

 だからね、人々は女神様の光が届かない場所に逃げたんだ。

 そうやって出来た集落は「夜」と呼ばれるようになったよ。

 夜は暗くて、その暗闇にありとあらゆる物を程良く隠してくれた。


 夜の中で、次第に人々は弱い光を求めるようになった。見たい物を見る為にね。

 それで、女神様の光を弱く反射して我々に届けてくれる存在をとしての生贄を用意しようという話になってね。

 その生贄に選ばれたのが、あの子だったって訳。

 あの子が反射する程良い光のおかげで、夜は少しだけ明るくなり、世界をよく見渡せるようになった。

 それによって、人々の生活はどんどん豊かになって、そのうち文明なんて物まで生まれたんだけどね。

 その間も、あの子はずっと女神様の光に焼かれ続けていたんだ。


 さっき、望遠鏡であの子の様子を見たらね、体中の皮膚が爛れて、もう顔もわからないような有様だったよ。

 そりゃあ、息をする為にほんの少し口を開けただけでも、そこから高温の空気が入ってくるような状況に、ずっと置かれていたからね。


 私はあの子を取り戻しに行こうと思うんだ。


 あの子が光を反射しなくなったら、人々の文明が成り立たなくなるかも知れない。

 自分達の便利さの為だけにあの子を犠牲にした人々の文明なんて、滅びてしまえば良い。


 あの子に近付けば、あの子と一緒に私も女神様に焼かれるだろう。

 人々があの子を生贄するのを黙って見ていた奴なんて、焼かれてぐちゃぐちゃになれば良いんだ。


 そして、彼女はあの子を奪い。夜の集落は再び闇に包まれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

月のない夜をすごせ 水登 みの @333mmmzzz

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ