女子甲子栄

棘野 咲希

第一章 一年春

第1話 予感

「キンッ!」

 部屋の中に金属音が鳴り響いている。

 テレビの画面には土と芝のフィールドが広がっていた。画面越しでもわかるうだるような暑さの下、十八人の少女たちがフィールドで動いている。

「あの人たちかっこいいなぁ」

 突如あふれてきた言葉に少女は自ら口を抑える。少女の名前は牧瀬まきせ陽香はるか。現在中学三年生であり、受験期真っ盛りである。進学先は友人とすでに決めている三木島高校だ。北海道の中ではそれなりの都市にある高校だが、日本全体で見れば、まだ名も知られていないような学校である。

「野球かぁ、私もやってみたいな。あの人たち大変そうだけどすっごく楽しそう。それに真剣さがテレビ越しでも伝わってくるよ。でも私、野球どころかスポーツやってみたことないんだよねぇ」

 そういいながら、少女は机の上に置いてあったリモコンを手にし、高校野球の試合中継を消した。

「こんなことしている暇はないよね。とにかく私は志望校に合格しないとどうにもならないよ。せっかく来年から夢の高校生活が始まるっていうのに、テレビばっかり見ていたせいでみんなとは別の私立高校にひとりぼっちなんてさみしいよ」

そう告げた後、彼女は自分の両頬を叩き、今一度気合を入れなおすのであった。

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女子甲子栄 棘野 咲希 @shinkakumei

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