7-3

 オレはブラウザを閉じた。なんだか壮大な茶番劇に巻き込まれてしまった。巻き込まれてしまったというか、最初からオレは巻き込まれていた。風車宗治という強大な力を持つ能力者のワガママに付き合わされて、今のオレはいる。そこに怒りは湧かなかった。今のオレ以外の人生が考えられるかといえば、考えられない。これまでのオレがいて、これからもオレはオレのまま。喋れるか、喋れないかは関係ない。だから、ゲーム内のあの氷見野ひみの雅人まさひとは同姓同名の別人物。オレとは違う存在。

「そのゲーム、消さないんですか?」

 無事に帰ってきた卓は、壁によりかかって腕を組んでいた。ゲームの中では黒髪お下げの不健康そうな美少女だったけれども、現実ではよれよれの背広を着たおじいさん。……美少女の姿のままでよかった。

『そうだよ。けさないの?』

 卓と“知恵の実”は同意見らしい。オレがこのゲームをパソコン上から消したところで、宗治の創った世界が消えるわけではない。あちらの世界には、あちらの世界の時間が流れていく。ゲームはただのウィンドウでしかない。天井から主人公を眺めるための装置だ。

「またわたしが呼び出されるのは嫌なのですが」

 卓は、そうだろうな。なんせ、オレがゲームを起動した瞬間に倒れたらしい。気付いたら、ゲームの中の“作倉ゆめ”だったというからおそろしい。これが【威光】の、最後の輝きだったのだろう。


 オレは宗治の気持ちに応えられなかったが、宗治のことは嫌いではない。もっとも仲のよかった友人として、これからもたまには様子を見に行こうと思う。なので、消さない。デスクトップの隅っこに、異世界を置いておくのもいい。オレはオレとして、やるべきことをやるだけだ。

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パーフェクト・ソリューション 秋乃晃 @EM_Akino

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