緊急事態発生! 王研から脱出だ!
「ねえ、TV見て、見て、サラーちゃんが出てるわよ。サラーちゃんがスカウトするモンスターって可愛いし、かっこいいよね。うっとりしちゃうわ!今頃、王位継承祝賀パーティーライブチケット抽選当選してたら、イザベル新王と一緒の場所で生ライブ鑑賞できたのに、本当にがっかりだわ・・・」
ルーフは休憩室で王位継承祝賀特別番組に釘付けになりながら、自分の運の無さをぼやいた。
「私はサラーさんよりもルーフ研究員が可愛いくて、うっとりしちゃいます」
「ゴマすり禁止!それよりも、インジケータを監視しているの?もうすぐ彼が目覚めるのよ!慎重に監視!分かった?彼に名前をつけたのよ。ジャック・エルフだよ。カッコイイ名前でしょ?」
「ルーフ研究員のセンスの良さが光ります。ジャックエルフ様の様子を見てきます」
イザベル新王の誕生と共にジャックエルフが産声を上げようとしていた。
「ルーフ研究員、瞳がかすかに動きました。インジケータの数値は問題無しです」
「エルフエナジー照射中止。羊水を排出して、排出が終わったら保育器の蓋を開くのよ。カニューレと心電図モニターのリード線を外して、直ぐにストレッチャーで医療班に検査を引き継いで。問題がなかったら、調教師を呼んで武術の手ほどを。それと、彼の血液サンプルを抗凝固剤入りの試験管の中にいれて保管して。あと、彼に似合う衣装を用意したから着させてあげて。分かった?」
矢継ぎ早にルーフの指示が飛び、研究員達は慌ただしく動き回った。
ジャック・エルフの顔は人に近いトラのような颯爽とした顔立ちで、ボディービル大会で優勝をしても過言でもない筋肉量と筋肉美だ。尻尾が生えていて黄金色の毛が綺麗に目立つ、彼は間違いなく正義の人型モンスターになるだろうと、ルーフは自負をしたと同時に彼にほれ込んだ。調教師を呼び出し、武術と防御の指南を覚えさせた。上達が早く、調教師がジャックエルフの能力に感心した。
ジャックエルフが口を開いた
「初めまして、ルーフ母さん、私は母さんを一生危険から守り続けます」
「???、ちょっと、ちょっと、ジャックエルフ、違うわよ!
私はあなたのお母さんではないのよ!確かにあなたを育てたけどね。分かった?」
「ルーフ母さんは私の生みの親」
「言葉を話すモンスターは初めてだわ!やったわ!母さんでも悪い気はしないから、いいわ!あなたのお母さんになってあげる!お誕生日おめでとう!」
ジャックエルフは照れくさそうに頷いて、「ありがとう、ルーフ母さん」と言った。
統括チーフも興奮して、ジャックエルフの誕生を祝した。
「ルーフ研究員素晴らしい成果ではないですか!私も優秀な部下が居て鼻が高い
ジャックエルフ君、これからよろしく!」
「上手くいったようだな」
「これはジン博士、これでヒロノスフィアも私の研究認めてくれると思いますか」
「あいつは、頑固だし、ゲノム技術で魔物を作る事自体猛反対しているからな。まあ、どう反応するかは未知数だ」
「ヒロノスフィアはジャックエルフと結婚して尻に敷いて見張っておけと言うんですよ!酷いと思いませんか、ジン博士!」
「まあ、まあ、そういえば、ヒロノスフィアが西の島に行って7日経つな。今頃、カヤック漕ぎながら新種の生物を探しているのだろうな」
「ヒロノスフィアは自分の生き物のお世話を研究員に押し付けて、長期休暇を取って新種の生物探しですか!これはバカンス休暇ですよね?本当に非常識なんだから、もう!帰ってきたら、いっぱいお小言いってやりますわ!」
ジン博士のスマホが鳴り、ヒロノスフィアからだった。
博士はマイクをonにして接続した。
「博士!西の島のエルフバリア防衛装置が何者かによって破壊されました。何体かの魔物を討伐しました。先ほど、イザベル王子とアーニャル王女が魔物一味に襲われているところを発見し救出ました。急いで、博士から国王陛下に報告しエルフ精鋭隊の出動を要請してください!詳しい事はまた後で、これから、二人を連れて王研に戻ります」
興奮しながらヒロノスフィアは博士に訴え出てきた。
「何!? ヒロノスフィア落ち着け、夢でも見ているのか。イザベル王子は今日
王になったばかりだぞ。王位継承の儀式は今テレビで中継しておるぞ」
「そうよ、ヒロノスフィア、あなた頭でも打って、おかしくなっちゃったの?」
「こいつらは偽者です。おそらく特研区域で作られたクローン人間です。今から
この二人がイーサム王の子息である事を証明する王妃の腕輪の写メを送ります。見て下さい。王宮に売国奴が居るはずです。一刻も早くイーサム王に報告を」
「これは、アーニャル王女の腕輪ではないか、イーサム王妃の依頼を受けて、私が製作し奉納したものだ。これは魔物の厄から守るエルフバリアが発生する。いつもアーニャル王女が肌身離さず左腕に付けているものだ」
ヒロノスフィアの報告をかき消すかのように、TV中継は気分が高揚する音楽に合わせて何十発の花火の大輪が連続して打ちあがり、王族達がバルコニーから手を振っている様子が映し出され、国民の盛大な歓声と花火の音、音楽、様々な環境音が中継映像から流れてきていた。
「アーニャ王女の左腕を見てくれんか、ルーフ」
イザベル新王とアーニャル王女が笑顔で手を振る様子がTV画面にアップされた。
「左腕に腕輪は無いわ。皮膚の色も培養仕立ての肌の色のように見える。所々にあるケロイド!ヒロノスフィアの言っている事、本当です博士!」
「よし、分かった。イーサム王に報告するぞ」
ニュース速報のアラート音が鳴りテロップが流れた。
=王立アカデミー研究所で大事故発生。暴走する魔物に注意=
研究員達は目を合わせ顔を傾げた。
スマフォからヒロノスフィアの怒鳴り声が聞こえてきた
「おい、ルーフ!俺が警告した通りだろう!魔物にエルフエナジーを照射するから
こうなんるんだよ!」
「違うって!ジャックエルフじゃないわよ!そもそも、何も起きてないわよ。ねえ、博士」
「そうじゃ、何も起きておらん。このフェイクは・・・」
再びニュース速報が流れた
=ラマズド科学技術長官、ジン博士の反逆により魔物暴走と説明
ケーター首相緊急会見へ=
「ねえ、何フェイクニース流してるのよ!」ルーフはTVに向かって憤った。
「なんだこのフェイクニュースは!」
「私が反逆者だと!!ラマズドに電話を入れるから、電話を切るぞ」
ジン博士はラマズドに電話をかけた。
「ラマズド!私がいつ反逆した!」
「これは誰かと思えば、ジン反逆者ではないか。君は魔物にエルフエナジーを照射し、暴走させ、この国を乗っ取る計画を立てたという事で、研究所と研究員諸々と消えてもらう。君の優秀な発明品は全て接収済みだ。今からケーター首相が会見を行う
よく聞きたまえ。フフフ」
「ケーター首相とラマズドがエルフエナジーを魔物に照射する事を企画し、命令したのを忘れたのか!」
「確かに命令した。だが、この先、君に居てもらっては困るのだよ。これで君の声も聞き納めだな。寂しいが、これも帝国が世界を統一し、百害あって一理なしの戦争を永遠に終わらす為の必要なプロセスだ。仕方がないが、理解したまえ」
電話が切れ、TVから首相官邸記者会見室の映像が流れてきた。
「それでは、ケーター首相の記者会見を執り行います」
「本日17時頃、王立アカデミー研究所、以下王研といいますが、魔物を暴走させる事故が発生したと報告を受けました。イザベル王子が王となられる良き日にこのような事故が発生し、王族をはじめ国民の皆様に多大な心配をかけ、王国行政の統括責任者である私から深くお詫び申し上げます。さて、私の肝いり政策の一つでもありました、帝国生物科学研究所との合同研究を悪用しましたジン博士が、特別研究区域という場所で倫理に反する狂暴な魔物を育て、エルフエナジーを魔物に照射していた事実が判明しました。一刻も早い鎮静化を図るため、関係省庁に指示をし、これから王研を爆破し魔物を封じ込める作戦を展開します。なお、エルフ精鋭隊に出動を命令し、王研施設内にある知的財産、および、発明品類は全て接収してあります。沈静化後、再発防止策を万全に期して、新たに王研を再建致します。また、アルバーニア帝国軍から支援を受け全力で対処しているところです。エルフバリアもジン博士派閥の者とみられる集団に破壊されていると報告を受けています。このようなテロを起こし国家転覆を図る反逆者については厳正に処分致します。国民の皆様におかれましては、魔物から身を護る行動を御願い致します。この度はご心配をおかけして申し訳ありません。以上です」
記者からどよめきの声が上がり、フラシュが焚かれ、新国王誕生の祝賀ムードが一気に吹き飛んだ。永遠の平和から一気に落とされたかのように、国民は魔物に怯える生活が始まったのだった。
「首相までがフェイクに加担している、、、これは詭弁だよ!」ルーフが叫んだ。
ジン博士をはじめ研究員はケーター首相の発言に憤りを覚えた。
「爆破だと!ラマズドとケーターは絶対に許さん!生き延びて、身の潔白を証明してみせる。長年の付き合いのあるイーサム王は信じてもらえる。爆破を阻止する!
みんな助けてくれ!」
「もちろんです、博士!」と研究員が初めて一致団結してこの難局を乗り越えようとしていた。
「ねえ、さっきから土埃が異様に落ちてきてない?蛍光灯が揺れているんだけど」
突然、強い揺れが襲いバリン、ガシャン、バチバチ、バチバチ、ド~ン様々な轟音と共に、研究員は床に叩き落とされた。
「きゃ~~~地震だ!机の下に!」
数分後ようやく揺れが収まったが、非常用設備の赤色灯が部屋を真っ赤に染め、警報音がけたたましい唸りを上げている。辺りを見渡すと、保育器が壊れ、実験道具や試薬瓶が割れて化学反応を起こして有毒なガスが発生している箇所もある。
統括チーフが「怪我はないか!エルフバリアでおそらく実験体の魔物は時間共に光子に分解されるから問題はないと思うが、念のため自衛部隊の研究員はエルフエナジーショットガンを装備するように、一般研究員は自衛部隊と共に脱出するように。床には試薬瓶の破片等が散乱している。また、薬液が落ちて大変危険だから十分注意するように、酸素供給装置も壊れていると思うから、今直ぐ、全員地上に緊急避難する」
統括チーフが統括官としての職責を果たそうと、現場に指示を出していた。
突然、大きな爪が床に刺さった。その爪はルーフを襲おうとしたがジャックエルフが雄叫びを上げて剣をかざし爪を切り刻んだ残骸。全身がケロイド状で、凹凸があり手が左右に6本ある。鋭い爪が生えてる。赤く鋭い目が睨みを効かした大きな魔物が現れる。研究員は悲鳴を上げて部屋の隅に集まり怯えていた。
「ねえ、私達、ここで死んじゃうの?」
ルーフが珍しく弱音を吐いた。
「母さん、諦めないで、母さん達は私が必ず護る!分かった?」
ジャックエルフはその魔物に向かって会心の攻撃を何度も行うが、魔物も容赦なしに
攻撃の手を緩めず、ジャックエルフを集中的に攻撃を行う。ジャックエルフは次第に劣勢になり、魔物の得意技で深い傷を負った。急いでルーフはエルフドリンクを与え傷口が癒えるように手当した。
「自衛部隊!何ボーとしてるのよ!エルフショットガンで集中攻撃!分かった?」
自衛部隊のショットガン集中砲火でその魔物は分解されて小さくなっていたように見えたが、玉切れや研究所内の酸素濃度が徐々に下がってゆき意識が
突然、「大丈夫か!」と大声がして、エルフ精鋭隊ラッセル大尉とスメラが応援に入ってきた。ラッセル大尉の剣さばきとスメラの見事な格闘技で魔物は倒れ分解された。研究員から盛大な歓声が起きた。
ラッセル大尉は「私が辿ってきた道を引き返せば旧坑道に出られる。諦めるな!」
轟音が聞こえた。又、新手の魔物が現れるのかと絶望感と緊張が走った。
まぶしい・・・・
「はやく、このバスに全員乗り込め!」マーサー研究員が叫んだ。
「ジン博士、ご無事で」
「おお、マーサーかよく無事で。奇跡が起きてよかった」
キャタピラーバスは唸りを上げ猛スピードで地下20階の旧坑道から出口に到達し脱出できた。空軍によってミサイルが落とされ、親しみのあった王研は火柱となり、火山のように赤く燃え上がっていた。
研究員達は落胆して悲しみと怒りが入り混じり、売国奴から王研を再び取り戻すと心に誓ったのであった。
エルフエナジー 危険な生物実験体から逃げろ! たけのこ @Noritake117
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