されど、風は吹く
桧木
月明かりと小唄~プロローグ~
叶わないものだからこそ追いかけたい
進路相談用紙の候補を無視して、空欄の場所に丁寧に記されていた言葉に天を仰いだ真夏の職員室。
溜め息を消すように、カップに入った白湯を流し込み、背中まで伸びた髪を結び連絡先を調べた。
「いるんですよね、厄介な生徒って。」
呆れた声を出しながら、用紙を覗き込んできたのは眼鏡を首飾りみたいなものでぶら下げたショートヘアの音楽教師、関さんだった。
「本当に、十代ってどうしてこんなに自信に溢れてるのか本当に分からないわ。その後の事とか考えてから書いて欲しいよね。」
「そう、ですね。」
こちらが作り笑いを強いられるような小言を挟むのがお決まり。また、自分の意見を通さなければ気が済まない、私の学年の主任である。
さっきの白湯も、関さんが冷房で喉を痛めてはいけないという理由で頼んでもいない白湯が入れられていた。
「まぁ橘さんは、若いから学生の目線に立ちやすいと思うし、用紙の子と上手く話せそうね。」
そう言って、用紙の子の名前をメモ帳に留めた後音楽室に去っていった。
私は息を深く吐き、一呼吸置いてから連絡帳から用紙の子を見つけ電話を掛けた。
かつての私によく似た、小野寺未完の親御さんにー
されど、風は吹く 桧木 @hinoki57
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