第13話・始まりの誓い
「終わった…の、?」
力が抜けたように倒れる彼女を支えるように、
座らせる。
「あぁ、終わったよ、大丈夫か?」
「えぇ、大丈夫と言いたい所だけれど……今にも意識を失いそうな所だわ、ってちょっ! 何してるのよ!」
グランはふらついた彼女が歩くのはまだ危険だと判断し、承諾なしに彼女を担ぎ上げた。
「その足じゃあ、僕が君を持って歩いた方が下まで早く着く、少し仮眠でもとった方がいい」
「……いいえ、寝れないわ、貴方に聞きたい事が山ほどあるもの」
グランはルミナを両手で持ち上げ、降り始める。俗に言うお姫様抱っこだ。彼女は真剣な面持ちで改まって問いかける。
「貴方は、本当に何者なの?」
「いや、君こそ、僕をなんだと思ってるんだよ」
「いいから答えて」
出会ってから一番真面目な顔を魅せた彼女を見て、「……そんな顔も出来るのか」と小さく呟く。
「何者って、君と一緒の学園の、一緒クラスメイトで」
「そうじゃないわよ、私が言ってるのは」
「どうしたらドラゴンを倒した説明が着くのよ?」
「たまたま運が良かったんだ」
「嘘よ、少なくとも、貴方の剣裁きはこれから剣を習う人間の動きではなかったわよ」
「それに私は見たわ、あのドラゴンを弄んでいる人間達を、あれは怪物、その怪物達をなんで撤退させれたの?」
「あれは賭けだったんだ、駆け引きも戦場では立派な戦術だ。」
納得出来ない表情をするが、無理もない。
時期王女候補とも呼ばれる彼女にとって、
先程までの出来事は到底納得出来はしない事ばかりのはずだ。
「じゃあ」
少女は大きく深呼吸する。
「なんで、お父様から私を守る様に頼まれてるのよ!国王とそんな約束交わせるなんて普通じゃないわ!」
「そ、それは…」
「言わなきゃお父様に、貴方からみだらな行為をされたと言ってもいいのよ?」
呆れるようなため息を零す。
「時期王女ともあろう人が、とんでもない脅しだね…」
ほんとに陛下にあることない事言われたらどんな誤解を生むか分からないし、彼女なら本当にやりかねない。少年はそう判断する。
「分かったよ。僕にも言える事と言えない事がある。だから下に着くまでなるべく答えるよ」
「その代わり他言無用って約束が出来るなら」
彼女は迷うことなく真剣な眼差しを向ける。
「出来るわ」
真っ直ぐと自身に向けられる、サファイアのような瞳にはきっと嘘は通じない。仕方がない。
「僕は一応、「パラディン」なんだ」
「……っ?!」
ルミナの時は一時的に止まる。
「そうでもないとさっきの出来事の説明が付かないけれど、本当なのね」
「あぁ、でも歳を偽ったりはしていないから
本当に君と同い年だし、この学園に来た理由も他にある。君を守る為にだけ入学した訳じゃないから、そこ勘違いしないように」
「えぇ、なんか尺に触るけどまぁいいわ、おかしな事だらけだもの、Sクラスの定員数が過去に例がない十八人なのも、ってもしかして…貴方と来たあの二人もパラディンなの…?」
ダン、サテラ、二人の存在にも気がついた様だった。
「あぁ、そうだよ。そして君の言う通り、国王の特例でSクラスの定員数を変えてもらった」
「僕達三人は訳あって学園とか、そういう経験が無いんだ。だから一般知識も少ない。別にパラディンだからって君達、騎士のたまごを馬鹿にしに来たわけじゃない、信じるかは勝手だけど」
「信じるわ」
返ってくる返事は早かった
「でも……フフッ、そうよね」
まるでお姫様抱っこの様に担いでいるこの至近距離で、彼女は見た事ない笑みを見せる。
「良かった、そりゃどれだけ考えても無駄な事ね」
「パラディンに張り合ってた自分がバカみたい」
「ごめん、本来なら僕達の入学がなければ君が首席だったのは間違いない、」
「謝らなくていいわよっ、逆に貴方達パラディンと同じ学園、同じクラスなんて私にとって好都合よ、貴方達から学べばもっと強くなれるもの」
「ルミナ、一つ僕からも聞いてもいいかい」
彼女は不思議そうな顔をし、こちらを見つめる。
ここで彼女に可愛いなどと言えばぶん殴られるだろうからやめておこう。
「えぇ、何かしら」
「何度も考えたけど、君が強さにこだわる理由はなんだい?時期王女としては分かる。
でも入学当時から君はやけに先急いでる様に見えるから…何か目的があるのか?」
黄金の髪は緩い風に吹かれ、彼女もまた、
大きく一呼吸
「私はいずれ、八大国全てを同盟国にしたい」
「━━━━━━━━━━━━━ッッ!」
今度は少年の時が、一時的に止まった。
覚悟はしていたが、
その規格外の答えに思考が止まり、
しばらく沈黙の時は流れる。
「ごめん、びっくりして少し頭が混乱してたよ」
「理想や夢なんかじゃないわ、私はもうこの列強八大国が争わない未来を作りたい」
「おかしいかしら?」
「人の夢に、ましてや時期王女の夢におかしいなんて言えないさ」
彼女の眼差しを、入学してからこんなに近くで見るのは初めてだ、サファイアのような瞳に映るのは「決意は変わらない」と表明しているみたいだった。
ならば言う事はない。
「ねぇ、私ならこの夢、絶対叶える事ができるわ、貴方も応援してくれないかしら?」
「心の片隅に置いとけばいいのか?」
「いいえ、」
彼女は言葉を続けること無く、少年の頬に両手を当てる。
「……ぇっ……?」
両手で彼女を持ち上げているグランには抵抗のしようがない、そして近い
「グラン・アルデラ、私と契約しなさい」
グランは状況がいまいち飲み込めない。
「契約…?」
「私が目指す夢を叶えるのには、強大な壁が数え切れないほどあるわ、だから私の騎士になりなさい。パラディンとしてでは無く、私を守る一番の騎士に」
「ルミナッ……!? 狂った訳じゃ……?」
「もちろん本気よ、時期王女の個人的な頼みを聞かないなんて、後から後悔するかもしれないわよ?」
「なんで上からっ?!」
「第一、君は契約と言ったけど、契約は双方にメリットがなきゃ成立しないと思うんだけれど?」
「一旦下ろして」
言われるまま彼女を立たせると、彼女は東の空を指さす。
どうやら、彼女を連れ戻す為に考え無しに追いかけていた間に、すっかりもう朝になろうとしていた。
少し肌寒い気はするが、味わった事がない不思議な心地を感じ取る。
二人が立つ場所は、今まさに薄明に照らされていた。
肩を叩かれ、景色に目を奪われていた事に気がつくと、グランは直ぐに彼女の方に振り向いた。
振り向くとそこには、またしても出会ったから初めて魅せる彼女の自信に満ち溢れた笑顔があった。
「丁度簡単には忘れられない場所と景色、これは始まりの儀式に相応しいわよ」
太陽の輝きを纏う彼女はまさに女神と言える。
「何よ? さっきからぼっとして」
「いや、……なんでもっ」
「さっきの話だけれど、貴方へのメリットよ」
「一度しか言わないから聞き逃さない事よ」
「だからなんで上からなんだよ!」
「……」
彼女は一呼吸置いてから再び口を開く。
「…………」
「えっ……今、なん……て?」
「だから! 一度しか言わないって、言ったでしょ!」
「そんなっ!」
「私にここまで言わせたんだから、もちろんもう契約は成立でいいわよね?」
「だから理不尽過ぎる……けどまぁ、分かったよ。その代わりちゃんとその規格外の夢を叶えてくれるんだろうな?」
「えぇ、もちろんよ? でも」
「この契約は、夢が叶うまで絶対に消える事はないからっ! だから絶対忘れない事よ!」
「……全く、ほぼ一方的な気がするけど分かったよ」
「えぇ、約束」
彼女は地面に自らの剣を刺し込み、その迷いのない表情と真っ直ぐな瞳は「決意は固まった」と言わずとも彼には伝わった。
「今この瞬間始まるのよ、私と貴方の世界への挑戦は━━━━━━━━━━━━━━」
プロジェクト・エデン はめつ @Limrim
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