第12話・消滅の剣士


彼女には心の余裕がなかった。



「はぁ……はぁ…」



「こんな私が、いずれこの王国を引っ張るなんて、無理よ…」


私には民を引っ張り先陣で剣を振る力など、

これっぽっちもない。



魔法の才覚も、剣術も、昔から周りより優れていると言われても、足りない。



本当の強敵を前にした時、私では殺される。



「なのになんでっ!!みんな私なら出来ると、時期王女だから出来るって押し付けるような視線を向けるのっ…」



初めの一歩から他の皆とは違う…背負う物が違う。土俵が違う。平等に評価されていない。




「だったらこの先に居るんでしょ…?」


強大な何かが、


それに今の私の全部をぶつける!



とてつもない怒号さっきから聞こえてる。



少しづつ近づいてる。




「こんな声を出せる生き物想像が着くわよ」




腰に掛ける剣へと手を当て、震える全身を落ち着かせる。




その何かは別の何かと戦ってる。


そして苦しんでる。



茂みからその様子を覗くと、



有り得ない光景だった。


人生で初めて目の当たりにするドラゴンではなく、


それをおもちゃの様に痛め付ける人間達に。





つま先から頭のてっぺんまで震える光景だった。





……あっ……はぁっ……はっ……





震えながら立ち尽くすルミナは、


ただ呆然とする。



するとドラゴンはルミナの存在に気づいた。



グァァギヤァァァ




ルミナは本能的に山の下へ下へと引き返す。



あれは人間が勝てる相手じゃないのはすぐに検討が着く。なのになんで……あの場に居た三人はドラゴンを弄んでいた?



とにかく早く先生に、伝えないと。



焦りと緊張が極限まで彼女を襲い、




道を踏み外す。



「キャッッ!」



左足を捻った彼女は立ち上がれない。



背後から迫る大きな吐息はもうすぐそこまで迫っている。



ドラゴンの足音は止まる。



ガガァァアァッ!!



振り返ると、今にも口から何かを吹き出そうとしている。




あぁ、自分は死ぬのか、、こんな化物を単独で倒せると言う「パラディン」の力は本当に偉大なのだと、身に染みる。



不思議な事に、さっきまで震えて力が入らなかった腕に、


ありったけの力が漲る様な気がした。



「……どうせ最後、最後なのよ、死に方くらいは自分で変えれるっ!」




「変えてみせるわ!」


もはや逃げるのは不可能、ならば残る選択は一つ、



ルミナは腰の剣を抜く。


「お父様…」


「お父様に頂いたこの剣で、私は最後まで戦いますから、どうかお元気で……」



はぁぁぁっ!



ドラゴンの腹へと剣を振るう。



奇跡に等しく、


その一太刀はドラゴンの腹を斬り裂く。



グキャァァッッ!!



ドラゴンは大きく右腕を振り、


ルミナを叩き飛ばす。



……ぐはっ……


「えぇ、いよいよなのね……悔いはないわ」



ドラゴンは口から青色の何かを今にも吹き出すようだ。



「ここまで……ね……」



ゆっくり目を閉じ、その時を覚悟し、




すぐそこまで迫る焼けるような炎を肌で感じる



ツキィィィッッン!




炎の熱さも何も感じないわ…、


もうあの世なの…?




いっそ夢だったらと思い



少女はゆっくりと目を開ける。



そこには見覚えがある少年と、


少年の剣から漂う青い炎だろうか、


きっとあれはドラゴン、の……



「君の父には、、国王には!!」


「命に変えても君を守ると、約束してるんだっ!」




少年は一瞬にも満たない速度でドラゴンの頭上へ駆け上がる


「…速いっ…!」


ドラゴンはすかさず少年目掛けて先程より長く貯めたブレスを今にも吹き出す。



青い炎が少年を包むその瞬間。


その炎は全て跡形もなく消滅した。




「そんなっ…!」


少女は目の前で起きた出来事に、驚愕する。


呼吸をする事すら忘れるほどに。


炎を斬った。違う、消した…



「あぁっっ!」


少年は目にも止まらぬ速さでドラゴンの体を

斬り刻む。


腕を落とし、腹を貫き、翼を両断し。

自分の何十倍もの大きさのドラゴンを解体していく。



やがてドラゴンは二十秒足らずで絶命する。



グランは少女の元へ飛び、着地する。



「…あ…っ…っあ……私は、生きて…るの?」


彼女はこの短時間での出来事により痙攣仕掛けていた。


「生きてるさ、君は死なせない」


「でっ…でもっ、私はさっき……」


やはり信じられないようだ。


「静かにっ」


現実を疑う少女の口へ、手を当てる。



「そこに居るんだろ?」


瞳を閉じて深呼吸、半径二百メートルまでの、あらゆる気配を索敵する。



三人か、挑発を濁らせはしたが、乗ってくるかは分からない。自分がほとんど気配を感じ取れない、限られる人間だ。


薄気味悪い草陰、木の上、岩陰から一人ずつ全身をコートで覆った人間が姿を表す。



「第二回戦なら受けて立つが、ここにはパラディンも向かってる、今引けば見逃してもいい」



岩陰の一人は一歩前へと出る。


他の二人に比べて細身で長身、女性だろうか。



「パラディンと言えば脅しになると、そう思っているのかしら?」


こちらを覗き込むように迫ってくるその影との距離は僅か十メートル。


「それにさっきの技と言い、その腰の剣と言い…アナタはパラディンなんかよりもずっと怖い存在のようだけれど…?」


「答える義理はない、あるのは剣を抜くのか、抜かないのか、二つに一つだ」



「あら怖い…そんな威嚇しないで欲しいですわ…」


まるで怖がっていないその口調に、不気味さを感じる。



「じゃあ…アナタのその強さに免じて、今回は引かせてもらおうかしら?」


「こっちもそれがありがたい」


辺りは静まり返り、もう時期朝を迎える。



「下がるわよっ」


同時に、左右の二人からの威圧は消えてゆく。


「次会う時を、心待ちにしてるわ?」



「出来れば、二度と会いたくないね」


少年が答えた次の瞬間には、


三つの人影は薄くなり、


気配も同時に消えていく。




どうやら、

最悪の事態にはならずに済んだようだ。



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