第8話
あの宿に泊まると、そこにはいるはずのない子供が姿を見せることがある。
その子供は、紺地に赤い文様の入った絣の着物を着て、赤い鼻緒の下駄を履き、古びた団扇やけん玉、壺や食器などと一緒に、楽しそうに遊んでいる。
もし、その子供が姿を見せ、嬉しそうに笑いかけてくれると、その人には幸運が訪れる。
あの宿は、座敷わらしのいる宿だ。
そんな噂が流れ始めたのは、それから間もなくのこと。
サチはその後も訪れる人達が笑顔になれるように、幸せになれるように、付喪神達と一緒に、サチなりに精一杯、笑顔で楽しくもてなした。
ととさまもかかさまも、きっとお空の上から元気な笑顔のサチを見て、幸せそうに笑ってくれていると信じて。
そうして宿は、前にも増して繁盛した。
「あの童も、随分と立派な座敷わらしになったもんじゃの」
竹とんぼと戯れながら、
「サチは、そのために生まれて来たんじゃあ、きっと」
壺の側で、団扇も嬉しそうに呟く。
幸せな子になって欲しい。
周りを幸せにする子になって欲しい。
団扇のかつての持ち主であったサチのととさまとかかさまが、願いをこめて名付けたサチ。
「サチ。おめぇさん今、幸せだか?」
「うんっ!」
団扇の問いかけに、サチは幸せいっぱいの笑顔で、元気よく返事を返す。
サチの周りの付喪神達も嬉しそうに、カタカタと音を立て鳴らした。
【完】
座敷わらしのしあわせ 平 遊 @taira_yuu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます