第7話

 あくる日。

 一組の老夫婦が、客としてサチのいる宿を訪れた。


「サチ、おらと遊ぶべ」

「え?」


 老夫婦が寝静まった真夜中。

 棚から飛び降りてきたけん玉の言葉に、サチは首を傾げた。


「童の笑い声は、人間を幸せにするべさ?あの人間達に、サチの楽しそうな笑い声聞かせて、幸せにしてやるべ」


 そう言うと、けん玉はサチの周りをくるくると動き始める。

 それは、体の弱かったサチが、ずっとしてみたかった、おいかけっこ。


「ふふふっ、あははっ」


 思わず、けん玉を追いかけるサチの口から笑い声が零れる。

 ふと気づくと。

 いつの間にか目を覚ましていた老夫婦が、じっとサチを見て涙を流していた。


「あんなに楽しそうに…」

「そんなに元気に、走れるようになったのだな」


 そう呟く老夫婦を見ながら、けん玉はサチに小さな声で言った。


 「あの人間達にも、サチとおんなじくらいの童がおったんじゃろな」


 老夫婦の顔が、ととさまとかかさまの顔に重なり、サチは胸が一杯になった。


 ととさま、かかさま。

 サチはこんなに元気になりました。

 付喪神みんなも一緒にいてくれます。

 もう、大丈夫です。

 だから。

 泣かないでください。

 笑ってください。

 そしてどうか。

 幸せになってください。


 にっこりと笑って、サチは老夫婦に小さく手を振った。

 老夫婦は、嬉しそうに互いの手を握りしめ合い涙を流しながら、楽しそうに遊ぶサチの姿を長いこと見つめ続けていた。

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