第6話

「サチは、みんなを幸せにするために、ここに残ったの」


 ほんとは、ととさまとかかさまを、一番に幸せにしたかったけど。

 その言葉を飲み込んだサチに、けん玉が玉をぴょんぴょんと弾ませる。


「ほんなら、いつまでもべそべそしとっちゃ、いけんね」

「ほうじゃ。サチのととさまもかかさまも、泣いとるサチの姿は見とう無いはずじゃあ」

「…うん」


 けん玉と団扇の言葉に小さく頷くサチに、壺が言った。


「そう言うことなら、わしらもお前さんに協力するで、のう、みんな」


 壺の言葉に、団扇も湯呑もけん玉も、どこにいたのか他の古い置物たちも、一斉にカタカタと賛成の意思を示す。


「のう、お前さん。お前さんはこの童にはよう気づいて欲しゅうて、こうしてわしらの所へ連れて来たんじゃな?」


 壺の問いかけに、縁側の下からぴょんと飛び上がってきたのは、サチが履いていた、赤い鼻緒の下駄。


「おめぇさんは、もうサチから離れては、いけんよ?おめぇさんは、サチのととさまとかかさまからの、サチへの想いそのものじゃけのぅ。これから先も、絣の着物と一緒に、サチを守ってやらにゃあ」


 団扇の言葉に応えるように、赤い鼻緒の下駄は、サチの足にするりと戻った。

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