第8話 ロボットものはすぐに中二病する風潮
水曜日がやってきた。敵も宇宙からやってきた。だからファイローと俺は衛星軌道上で敵のロボットをルガールキスキで迎撃したのだ。まいていこう!
『ふはは!隕石を落としてやる!させません!いやああああ!ぐはぁ!しょせんわたくしごときアンドロイドでは…そんなことないよ。君にしかできないことだよ(ホストボイス)きゅん!これが感情!はあああああああああ!なにぃ!隕石ごとこの私を破壊だと!ぐわあああああ!』
まあこんな感じでいつものごとく敵を倒した。苦戦しているような気がするけど、実際はファイローのメンタルが安定しないだけで、地力はこちらの方が圧倒的に上である。
「今日もなんとか敵を退けられました。いい知らせがあります。敵の残りの数はそう多くはないはずです。この時代に転移してきたディンギルの質量数から推測すると残りは15%程度のはずです」
マロニエの予測は正しかった。ファイローの敵、ディンギルさんはもう残り少ないようだ。
「…わたくしはディンギルをすべて倒したら未来に帰らなければいけません…なのに。おかしいんです。その命令にわたくしは従いたくないとそう思って…」
ファイローが俺のことをじっと見つめながら、頬を赤く染めて寂しそうにそう言った。なんか未来に帰らないといけない設定らしい。だけど絶対に素直に帰らないのは間違いない。口では殊勝なことを言っても好き勝手にやるのがヒロインという生き物である。だからこそのテコ入れなのだ!!
『未来になどお前にはないのだよアンドロイド・ファイローよ!!』
宇宙空間に謎のイケボが響く。いや宇宙なのになんで声が響いているんだよ。ツッコミ入れたくて仕方がないが、巨大ロボットが未来から来るような世界だ。きっと物理法則なんて意味ないんだろう。そしてその声と共に俺たちの搭乗するルガールキスキの目の前に大きな禍々しい光のリングが現れる。そして暖簾を開くように手がそのリングから現れて、一体のロボットが出現した。その瞬間俺たちの乗るルガールキスキのコクピットに警告のウィンドウが現れ、ビービーと警告音が響き渡る。
「これはいったい?!ルガールキスキが!世界の王であるこの子が怯えている?!」
ルガールキスキは目の前に現れたロボットに反応しているようだ。ファイローは真剣なまなざしで現れたロボットを睨みつける。
「あなたは何者ですか?!ディンギルの戦士ですか?!」
『わたしは何者でもない。ただただ計画の成就を願うだけの亡霊。ただ一つ言っておこう。わたしは真なる夜明けのために君をこの時代に招くように仕組んだ』
その声と共に俺たちのコックピットにウィンドウが現れる。そこには仮面の男が映っていた。リアナの時と同じく俺が操作し演じているライバルキャラである。
「わたくしをこの時代に招いた?!バカな!わたくしはこの時代に逃れたディンギルを倒すためにやってきたのですよ!」
『そのディンギルをこの時代に送り込んだのはこの私だよ。よくよく考えてみたまえ。ディンギルは滅亡寸前だったんだ。この時代に戦士を送り込む余力なんてなかったのだ』
これは法螺です。マロニエが例によってファイローの物語に介入するための設定をこじつけてみせた。まあよくよく考えてみれば、タイムスリップする余裕があるなら再起を図るのが筋ってもんだと思う。
「そんな?!なんて愚かなことを!!あなたも博士と同じ手合いですか!?人類に試練を与えて、神を気取るような愚者め!」
『違う。私は人類には興味がない。私が興味を持つのは君とルガールキスキだけだ。素晴らしいよファイロー。君はイベント・ホライズンの向こう側から愛の力でもってルガールキスキをサルベージして見せたのだからね。くくく』
ファイロー版の仮面の男の目的が明らかになっていく。それと共にファイローの顔色がどんどんと悪くなっていく。ファイローからしたら今までの任務の前提が崩れ去るような虚無感を憶えているのだろう。
『すべては真なる夜明けのためだよ。ルガールキスキはかつて一つの銀河系を破壊してみせた。ならば自然と思わないかね?銀河だけではなく宇宙さえも破壊することができるんじゃないかとね。くくく、あーはははははは!』
「宇宙の破壊!?そんな馬鹿な!いくらなんでも!ルガールキスキであっても!そんなことはできやしません!」
『可能なのだよ。ああ、可能なのさ。ルガールキスキ。そしてこの私の愛機たるルガールキブラティムアルバイム。この二体の機体さえあればこの偽りの宇宙を破壊することが可能となるのだ!』
「偽りの宇宙?いったい何を言っているのですか?」
いやマジで何言ってんだろうね?でもマロニエさんから渡された台本には偽りの宇宙(笑)と書いてあった。意味を本人に聞いたら、『特に考えてません!』ってくそみたいな回答が返ってきた。なお仮面の男が乗るロボットは、ホワイトホールに捨ててあった誰が創ったのかよくわからないロボットをマロニエが拾ってきてものらしい。別にルガールキスキとの間に直接関係があるわけではないそうだ。
『ファイローよ。この宇宙はおかしいと思わないのか?神ではなく人が創った君になぜ心が宿ったのだ?』
「それは…!いえ!わたくしは進化したAIとしての性能を発揮しただけです!」
『それがあり得ないのだよ。ルガールキスキは『心』に反応して君のそばにやってきた。そう。君には心がある。あり得ないのだよ。人が創るものに心が宿ることなんてありえない。ゆえにこの宇宙は偽りなのだ』
シンギュラリティ(笑)くそどうでもいい話だ。体が機械でできていたって心があっても別にかまわないと俺は思う。だけどそれは当事者にとっては別なのだろう。ファイローは震えていた。心を持ってしまったことが間違いなのだと断じられてショックを受けている。
『真なる夜明けは近いのだよファイロー。君と君の駆るルガールキスキがこの偽りの宇宙を必ずや破壊するだろう。そして共に作ろう。真なる宇宙を!すべてが真に満ちた清らかなる宇宙を!!』
マジで仮面の男が何を言っているのかわからない。中二病患者ならきっとその意図を理解できるのだろうけど、俺には理解できない。だけど演技はできる。仮面の男は俺が演じる人形。だからこそそのセリフには確かにヒロインたるファイローの心を動かす力があった。
「違う!わたくしはこの世界を守るためにここに来たのです!!やああああああああああああああああああああああ!!!」
ファイローが操るルガールキスキは、剣を振りかぶってルガールキブラティムアルバイムへと肉薄する。
「王権専断!シュレーディンガーブレェエエエエエエエエエド!」
『ふん。なんとも雑な剣だね。ああ、君の心が乱れている証拠だよ。麗しいじゃないか…!』
ルガールキスキの振るった必殺の剣を、ルガールキブラティムアルバイムは人差し指と親指だけで掴んで止めた。
「な?!そんな!因果律さえ超える超光速の剣が?!」
『心はたかだか箱に閉じ込められた猫だけで語りつくせるものではないのだよ。ふん!』
そしてシュレーディンガーの剣はルガールキブラティムアルバイムに叩きおられてしまった。ファイローは茫然とその光景を見詰めていた。
『まだ貴様には足りないのだ。まだ人形であることに甘えようとしている。お前はもはや心を持ってしまったのだ。だから決めねばならないこの世界の行く先を!!』
そしてルガールキブラティムアルバイムはルガールキスキを思い切り蹴飛ばした。ルガールキスキは地球に向かって吹っ飛んでいく。
「きゃああああああああああああああああああああああああああ!!」
『せいぜい心を育めファイロー。お前が心を得て人形をやめたとき、それが
仮面の男の高笑いを聞きながら、ルガールキスキは地上に墜ちていく。そしてルガールキスキは太平洋上の無人島に落下した。その衝撃でコックピットが開いて俺とファイローは外に吹っ飛ばされてしまった。空を舞う中で、俺はファイローを抱きしめる。そして地面に落ちたときに彼女を衝撃から守った。俺たちが落ちたのは綺麗な砂浜だった。俺の半身を波が濡らしていく。
「そんな!わたくしを助けることなんてしなくていいのに!だってわたくしはアンドロイドです!ただの人形…なのに!」
「君は人形じゃないよ…俺から見れば女の子だよ」
俺は彼女の頬に手を伸ばして、頬をなでる。ファイローは今にも泣きそうな顔をしている。それはしたかがないと思う。さっきの会話は意味不明なものであっても、心を持ったファイローという存在が世界にとって脅威であると告げたのだから。
「ちがいます!わたくしは人形なんです!人形でいいんです!だってじゃないとわたくしは!わたくしは!この世界を…壊しちゃう…んっあ…」
ファイローはボロボロと涙を流す。申し訳ないなって思う。あの仮面の男は俺が演じたお人形劇でしかないのだ。俺はファイローを抱き寄せる、そして唇を奪った。
「ダメ…やめ…て…わたくしは…ちゅ…ん…心をこれ以上…」
「俺は…君に未来に帰ってほしくないんだ…」
「…でもわたくしは…」
「帰ってほしくない。帰らないでくれ。君と一緒にいると心が震えるから…いなくなったら寂しいから…」
どうしてこうふわっとして意味のない言葉がつらつらと自分の口からいくらでもこぼれてくるのか不思議でならない。そしてそういう意味のない言葉ほど、心を捉えて離さないものだ。
「…ううっ!わたくしも!わたくしも寂しいんです!いや!いや!この世界から離れたくない!でもこの世界に残ったら世界を壊しちゃうかもしれません!そんなのいや!いやなのにぃ!」
ファイローは俺の胸に縋りついてわんわんと泣き続ける。俺は彼女を抱きしめて、頭を優しくなでる。
「一緒に探そう。すべてを何とかする方法を。きっとあるよ。だって俺たちは一緒にいられるんだ。だから大丈夫大丈夫だから…」
「う、うわああああああああんん」
俺に縋りついてファイローは延々と泣き続ける。ありもしない脅威の前に俺へと依存を深めていく。心があるからこそ、俺に騙されてしまう。だけどせめて今は甘い痛みの中にいさせてあげたい。そう思ったのだ。
木曜日。例によって八王子のカラオケ屋さんにて作戦会議を行う俺とマロニエ。こんなところで世界の趨勢が決まるとかどうかと思う。
「いやぁマジでパイセンまじでホストじゃん!家出少女を沼らせるのまじでクズ!」
「枕営業はしてないからセーフ。つーかマジで胃が痛いんですけど。まじでなんとかならんのですかねぇ…ほんと…」
「なんとかするために時間を稼いでるんです!先輩の胃は尊い犠牲ですよ!きゃはは!」
マロニエちゃんまじで悪魔。俺の胃の痛みを犠牲にして、世界を守ってる。
「ねぇねぇマロニエちゃん。俺のこともケアしてよ」
「えー?じゃあパンツ見ます?」
「今日はパンツ以外が見たい。じゃなきゃ胃が爆散する」
「もうパイセンはしょうがないなぁ…!」
そう言ってマロニエは上のブレザーを脱いでワイシャツ姿をさらす。JKってずるい。ブレザー一枚脱ぐだけで一瞬にしてエチエチになれるんだもの。しかもこの女すさまじい匠である。
「な、なあそのワイシャツ。ワンサイズ小さいんじゃ…!?」
「あは!さすがパイセン!わかりますか!」
マロニエが着ているワイシャツはワンサイズくらい小さい。だからシャツの生地がぱつんぱつんに引っ張られて、彼女のおっぱいの形がいい感じに浮き出ている。そしてそれを包むブラの色と形も透けて見えた。俺は生唾をごくりと飲み込んだ。
「いやーん!ブラすけ見て興奮してるパイセンきんもー!きゃははは!」
そして彼女はシャツのボタンを上から二つほど外す。そしてソファの上でハイハイし始める。
「う、うわああああああ!マロニエ!マロニエぇええ!いくらなんでもそれはエチエチすぎるぅ!」
「さあどうします先輩?ハイハイするJK!後ろから見るか!?前から見るか!!?」
前から見れば透けブラにおっぱいの谷間が見えてエチエチ。後ろから見ればスカートの中のもろパンがエチエチ。どっちらかなんて選べない!!だから俺は異能を使う!
「傀儡の術!!」
俺はすかさず自分を模した人形を生成する。人形とは視界も共有できるのだ!
「あっそれずるい!」
「ずるくないし!」
そして俺の人形を彼女のパンツが見える位置に。俺自身は彼女の正面に回り込み、透けブラ谷間を堪能する。
「あー癒されるぅ」
「つーかわたしはブラとパンツを同時に見られてすごく恥ずかしいんですけど…!」
「うるせえ!俺のストレスフルな心をいやすための尊い犠牲じゃ!受け入れろ!ひゃっはー!」
こんなバカなことで俺の心は癒されてしまう。男なんてどうせ女の子のよしよしされれば心が治ってしまうしょうもない生き物でしかない。だから思うんだ。マロニエはこの世界のラスボス。世界を滅ぼすって決めた女の子。どうやったら彼女の心を救えるのだろう?男の俺にはそれがちっともわからなかった。それがとても悔しい。
魔法少女、アンドロイド、超能力者なヒロインたちの傍にいがちな『理解ある彼くん』になってしまいました!メンヘラな彼女たちへの理解力が足りないと、世界が滅びます!誰かマジで代わってくれよ… 園業公起 @muteki_succubus
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