第7話 魔法少女にテコ入れ!設定を捏造してやれ!!

 毎週毎週敵どもは懲りもせずに世界を滅ぼしためにヒロインたちに戦いを挑んでいく。そしてあっけなく散っていく。傀儡麻呂贄マロニエことラスボスヒロイン様が早期決着を予測して暗躍するのも無理からぬはなしである。てかよくよく考えるとマロニエって名前からして変だよね!ヒロインであることを疑うべきでした!もっともカミングアウトしてくる前に気がついたところで何かができるわけでもないけど。そして例によって休日明けの月曜日。リアナの敵であるムンドゥス以下略の怪人が現れた。場所は世田谷区のリッチな住宅街。有閑マダムが自己実現(笑)のために通っていたカルチャー教室の講師と不倫関係になり、なんやかんやあって怪人と化した。くそどうでもいい。だけど怪人は始末しないといけない。だから魔法少女は現場に駆け付けるのだ!なお俺も連れて行かされる。拒否権はない。肩に乗って狸型の使い魔です!とりままきでいこう!


『変身!参上!からのー!雑魚戦!からのーピンチ!メンヘラタイムからのー使い魔イケボの応援からのー復活!からのー必殺技!ドヤ顔!爆発!ざまぁ!』


 って感じで怪人を順当に始末したリアナだったが、そこからのー------!マッチポンプである!!


『ほう?この地の魔法少女はこの程度なのかね?』


 渋いイケボが住宅街に響き、それと共にリアナを狙って銃弾が降り注ぐ。それは一発一発に魔力が充填された一撃必殺の魔弾だった。リアナはそれをバク転とバク宙で華麗に避ける。そして銃弾が放たれた先を睨む。


「卑怯者!怪人との戦闘直後を狙うだなんて!!あなたはいったい何者なの?!」


 リアナの視線の先には、電柱の上に立つ謎の仮面の男がいた。手には銃と剣が合体しような武器を持っている。まあそいつは俺が創った人形なんだけどね。俺が指を動かすと、人形は思った通りに動きしゃべりだす。


『くははは!この私を忘れたのか?!リアナ・インソニアよ!ふははは!お前の両親を殺したこの私のことを!!』


「…え?…パパとママを殺した…?違う!だってあれは事故だったのに?!」


 なんかね。リアナって幼いころに両親を飛行機事故で亡くしたそうなんだよね。リアナもその飛行機に乗っていたそうなんだけど、魔法少女としての才能がその瞬間に目覚めたので、一人だけ助かったらしい。それ以来、リアナは魔法少女としてその才能を生かす生き方を選んだ。世界を守ることが彼女なりの贖罪なのだという…。ってマロニエが言ってた。なお飛行機事故の原因はよくわかってないそうである。だから無理くり因縁を吹っ掛けるのだ。関係者が全員死んだ事故なら何が起きていても、別に誰にも真実はわからないのだから。設定を付け加えるという言い方もできる。ってマロニエが作戦を練った。あいつマジでおっかねえ。よくもこんなにもエグイこと考えつくよね。だがその脚本を演じる俺も同じくらいにはクズだ。たとえそれが世界を守るものであっても。


『違う。あの事故はこの私が引き起こしたのだ。お前のその魔法の才を目覚めさせるために仕組んだのだよ…お前は罪の意識ゆえに自身の記憶を改竄してしまったのだよ』


 俺が演じる渋いイケボが突然のカミングアウトであってもその発言に説得力を持たせてしまう。


「そ、そんな…あれは…パパとママは…私のせいで死んだの…?!」


 すごく悲しそうな顔で、リアナは体を震わせている。可愛そうだが、俺は人形に演技を続けさせる。


『そうとも。お前のその才能を目覚めさせる生贄としてお前の両親は死んだのだ!すべては偉大なる計画のため!真なる世界の夜明けのために!!』


「真なる世界の夜明け…?!それはいったいなんなの?!」


 計画(笑)。中二病ポエム(笑)。客観的に見れば痛いけど、演じる側としては超楽しい!リアナには申し訳ないけど、俺の演技はノリノリだった。ちなみにマロニエもそんなに深いところまで設定は考えていない。とりあえず計画で!中二病で!押し切る作戦である。


『今はまだ言えんな!なぜならば!!!』


 俺の操作する仮面の男は電柱から、リアナの目の前に超速度で移動する。


「なんて速さ!?クロス・ロッ…がはっ?!!!」


 リアナの持つ二槍を仮面の男は軽く捌き、リアナの首根っこを掴んでその場で持ち上げる。


『弱い。弱すぎるぞリアナ・インソニア。まだその才能を扱いきれていないようだな!まったくこれでは君のせいで死んだご両親も、無駄死にではないか!ふはははははは!!!』


「…無駄死に…?違うパパとママは…!」


『無駄死にだよ。弱者の死はすべて無駄死にだ。お前が何も今できていないことがその証拠ではないかね?』


 それがリアナの心に止めを刺した。瞳から生気が失われる。心が折れた。完全にメンヘラモードだ。そう。ここからがマッチポンプの真骨頂である。


「たぬたぬぬぬぬぬぬたぬうううううううううううう!(リアナから手を放せぇえええええ(イケボ))」


 リアナの肩に乗っている使い魔であるこの俺の出番である。俺は自分が操作する人形の手に噛みつく。そしてそれと同時に仮面の男はリアナから手を放した。リアナは咳き込みながら、地面にうずくまる。そして俺は。


『ほう?魔法少女よりもその使い魔のほうが根性が座っているではないか。ふははは!!』


 そして仮面の男は噛みついている俺を振り払う。俺は吹っ飛ばされて、近くの邸宅の塀に衝突した。ぶっちゃけマロニエによって超強化された今の俺にはちっとも痛くはない。だけどここはあえて気絶したフリをする。


「たぬぅー」


「アヤノブさま!!?」


 リアナが俺のもとに駆け寄り、俺の体を抱きかかえる。


『今日のところは挨拶だけで済ませておくことにしよう。リアナ・インソニア。真なる世界の夜明けは近い。今のままでは貴様はきっと無駄死にするだろう。くくく。大切なものたちとのお別れは今のうちにすましておくことを勧めるよ。くく、くはははははははは!あーはははっははははは!!!』


 そして仮面の男がマントを翻すと、一瞬にしてその姿を消した。というか俺が人形を消しただけだけど。これだけで圧倒的強者感が出ててなんかかっこいい!やっぱり演じるなら悪役ですよ!


「リアナ…大丈夫かい…?」


 リアナに抱かれている俺は、目を覚ましたフリをする。リアナは俺を見てぼろぼろと泣き出す。


「ごめんね!ごめんねぇ!アヤノブ様ぁ!わたし!わたしは!!うわああああああああん!」


 マロニエの持つスーパーパワーがここで発動する。天気はいきなり雨になった。なんだろう。こういうシーン。ドラマやアニメで何百回も見てる気がするよ。


「わたし!調子に乗ってたの!でもただのバカだった!パパもママも私が殺しちゃった!アヤノブ様も守れなかった!こんな私には魔法少女の資格なんてないようぅぅぅぅ!!!あああああああああ」


 激しく降る雨の中で、リアナは慟哭する。いわゆるメンヘラタイムである。このまま沈んだままだと世界が危ない。なので俺は使い魔の変身を解いて、人間に戻る。そしてリアナを抱きしめて、その唇を奪う。


「んんっ?!っちゅ…ン…ぷはっ…アヤノブ様…やめて…私…いい子じゃないの…パパとママ…私が殺しちゃった…私…ただの最低な女…」


「違う。君は最低なんかじゃない!!リアナ!俺は君のいいところをたくさん知ってる!あんな仮面野郎の言うことなんて真に受けるな!!」


「でも!でもぉ!!…っあ…んっ…!」


 再び俺はリアナの唇を奪う。柔らかくてとびきり甘い感触を憶える。いやでも男としては興奮してしまう。だがそれに飲まれないようにしながら、俺はリアナを熱く見詰めて囁く。


「…俺の方が悪い子だよ…。だって君が魔法少女じゃなかったら、俺たちは出会えなかったんだ…俺は君に出会えてとっても嬉しいんだよ…でもそれは…君のご両親が亡くなっているからなのに…それを知ってもまだうれしいままなんだよ…魔法少女の君に…俺はキスしたくなっちゃったんだ…」


 そして再びリアナの唇を奪う。俺は彼女の頬を優しくなでる。リアナの両手は俺の背中に回り、俺のことをきつく抱きしめてくる。


「違うよ…アヤノブ様ぁ!違うの!違うよ!私だって嬉しかったの!幸せだった!あなたを私だけで独占できるのは魔法少女だったからぁ!ごめんなさい!でもでも!アヤノブ様のそばがいいようぅ!!」


 リアナは俺の胸に体を預ける。俺は彼女を深く深く抱きしめる。もうほんと勢い任せだよね!なんかそれっぽいこと言ってキスしてごまかしてるあたりマジで俺クズ男。でもエッチまではしてないんだからセーフだよね?こうして魔法少女なリアナのお話にテコ入れが入ったのである。謎の男の登場と両親の死の真相という鬱回!これでしばらくは時間が稼げるだろう。魔法少女へのテコ入れマッチポンプは成功に終わったのである。なおリアナの俺への依存はさらに深くなったのは間違いない涙。









 火曜日。俺とマロニエは八王子駅近くのカラオケ屋でミーティングを行うことにした。


「パイセンマジでクズですわー!ホストもびっくりのたらしですわー!パイセンに沼っていくリアナちゃんさん見るのマジで萌えましたよ!」


「言っておくけど、世界平和のためだからね。本当の俺はむしろシャイボーイだよ」


 つーかぶっちゃけリアナに対してやったことを考えると胸が痛い。だから罪滅ぼしじゃないけど、メッセージの類は既読即返信を心がけるようになった。


「またまたそんなこと言っちゃって!まあ、でもこれでテコ入れで来たんで、ムンドゥス・コンコルディアが駆逐されても、仮面の男との対決っていうイベントで時間稼ぎできるようになりました。世界は守られたのです」


「早いところ新しい敵を見つけてきてくれよ」


「わかってますよ。いくつかよさげな敵候補を見つけてきたので、リアナちゃん先輩のシーズン2は意外に早く準備できるかもしれません」


「ねーねー。できればリアナのシーズン2は別の魔法少女との百合にしてさ、俺は自然にフェードアウトとか狙えないかな?」


 男の使い魔とか邪魔じゃない?百合物にして自然とフェードアウトするってありだと思うの。


「あー。その手いいですね。考えておきます。じゃあ次はファイローさんですね」


「はぁ。また似たようなことをやんのか…キッツぅ…。罪悪感で胃が爆散しそう…」


「大丈夫ですか?」


「マロニエのパンツ見たら治るかも…」


「うわぁ…パンチラで治る罪悪感って…パイセンぶれねー!」


 そうは言いつつも、マロニエはソファーの上に立ってくれた。黒のデルタに白いフリル。そしてスカートの裏地が見える。


「からのー!レッツミュージック!」


 曲を入れたマロニエはソファーの上でぴょんぴょん飛び跳ねながらかわいらしく歌う。


「すばらしい!停止画のパンチラもいいけど、動くパンチラもこんなにも素晴らしいとは!!」


 跳ねるスカートから見えるデルタゾーンにお尻の食い込み。そして太ももの艶々した肌。サイコーです!


「パイセンきんもー!まじきもいーきゃはは!」


 パンチラ見て復活する俺マジで単純。男なんてこんなもんでいいと思う。でもだからこそ。男として女を思うからこそ、考えてしまう。マロニエはどうして世界を滅ぼすのだろう。もし世界が嫌いなら、悲しい。もし世界が憎いなら、憤る。俺はこの世界で可愛いマロニエと出会えたのに、どうしてこの世界がなくならなきゃいけないんだろう。俺はそれがとても悔しいと思ったのだった。

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