第30話 その首領と次期魔王は語り合う?
1階の店から追い出された僕らは、2階のラスボス帝国アジトの部屋まで来たのだが……。
「おやっさんにああ言われては仕方ないからな。少女……いや、ドクナよ! 買い物の邪魔をしてすまなかったな」
「今回は見て回るだけで十分であったゆえ、そこまで気にせんでもよい」
デカい態度なのはあれだが一応、裏牙のやつも悪いと思っていたのかドクナさんにさっきのことを謝ったようだ。
ドクナさんも冷静な対応をしてくれたようで、事を荒立てずに済んでよかった。
「ハル殿も可愛かったでござるが、ドクナ殿もとても可愛いでござるな~」
「ところで、こやつは一体何なんじゃ……」
僕らが来る前から部屋にいた虎白さんが、裏牙と話す彼女に先程からずっとその髪に頬ずりするなどしながらべったりとくっついていた。
その服装はいつものコスプレ……今日は僕が知らない何かの作品のキャラだろうか、派手な色合いのヒラヒラした衣装にツインテールのウィッグを着けていた。
「虎白さん、そろそろ離れてあげて……」
「ああ、拙としたことがつい……この可愛さに夢中になってしまったでござる!」
「はぁ……助かったぞ、雪理」
ドクナさんの様子からべったりしてる彼女に離れるように伝えると、素直にそうしてくれた。
「それにしても、その喋り方も実に分かっているでござる……裏牙殿が一目置くのも分かるというもの」
「そうだろう、ゴザルよ。この子は良き素質を持っている!」
「お主らは一体、何のことを言っておるんじゃ……妾にはさっぱり理解できん」
彼女の疑問ももっともである。
付き合いの長い僕でもなんとなく分かるくらいの、彼らの好きな要素についてのことなのだから、このノリを知らない上にこっちの世界の知識もあまりないドクナさんからすれば理解できないのも当然だろう。
「これはですね、2人が良いと思ってる喋り方とか……雰囲気? みたいなものの事だと思います。本当にそうなのかは僕も自信ないですけど」
「なるほどな。言いたいことはなんとなく理解はできた気がするが……」
「ふむ、では語らせてもらおう! 我が帝国のことを!」
「いや、別にそういう意図ではないんじゃが!」
設定語りを始めようとする裏牙に僕もドクナさんも圧倒されてしまう。
こういうノリの時のアイツには割り込む隙が無いというか……。
■■■■
「……それこそが我が帝国の野望、すなわち世界征服!」
長々と設定を語った後、軽く弓なりに体をそらせながら胸を張り、両腕を大きく広げながら裏牙がそう叫ぶと、やっと長い話が終わった。
「やっと終わった……今日はやけに気合が入っていたような」
「ほう……ほうほう……」
ぼそっと、そうつぶやきながら横を見ると、話を聞いている間ずっと腕組みをしながら思考しているように見えたドクナさんが、何かを理解したような様子でうつむく顔をゆっくりと上げる。
「悪くはない……が」
「ドクナ……えっと、ちゃん?」
そのまま立ち上がった彼女は、裏牙の体全体を見まわすように視線を動かしながらアイツに近づいていく。
「まずはその身なりじゃが。全体的に悪くはないが、もっと装飾により支配者たる威厳を出すべきじゃな。そして、そのポーズ……」
いきなりそう話し始めたかと思えば、腕を広げたまま驚いた様子の裏牙の背後に彼女が回るとその広げた両腕をつかみ、動かし始めた。
「ええい、何をするのだドクナ!」
「腕や腰の角度はもっとこう……どうじゃ? この方が良い感じじゃろう」
「ほぉー、確かにさっきより整った感じになったでござるなぁ」
彼女によって修正されたポーズを見て虎白さんが感心している様子を見てなのか、裏牙も抵抗をやめて素直に従ってみる素振りをし始めたようだ。
いや、でもドクナさん。いきなりどうしたの……。
「な、なかなかやるではないか。装飾に関しても一応、以前から頭にはあったことでな。そこを見抜くとは、小さいと侮っていたが随分と分かっているではないか……」
「それにじゃ……世界征服と言ったが、その先には何がある? 民を導く覚悟はあるのか?」
何やら真剣な表情で彼女は裏牙のやつの顔を見つめる。
もしかして、彼女的にはかなり真面目にアイツの設定を捉えてしまったとか……。
「フッ……どうやらそこに関しては見抜けていなかったようだな、小娘よ!」
「小娘とは何じゃ! 妾はなぁ! お主より……いや、何でもない。それで、何を見抜けていなかったと?」
ドクナさんが年齢の事をバラしかけて少しヒヤヒヤしたが、なんとか踏みとどまったようでよかった……。
彼女が何歳なのかは僕もまだ聞いてないけどあの様子を見ると、こちらの普通の人間の寿命は平気で超えていたりするんだろうか。
それはそれとして、僕としても彼女が抱いた疑問の答えには少し興味があったので、裏牙のほうを見てみると。
「聞きたいか? いいだろう! ラスボス帝国の掲げる世界征服の野望。それは、それ自体を達成することにあらず……」
「ほう」
続けて彼が先程とはまた別のカッコつけたようなポーズをしながらその口を開く。
「『世界征服を企む』ことに意味が、ロマンがあるのだ! 我が帝国はあくまでもその理想を追う組織! 世界征服の達成後のことなど考えてはいない! 悪の組織は正義によって最終的にはやられるのがお約束というのもあるがな」
「それは拙も初耳でござったが……なるほど、裏牙殿はそういうこだわりを持っていたんでござるなぁ。拙にも分かるでござる、その深いロマン!」
「深い……深いかなぁ?」
深いかどうかはいいとして、そういった考えが乗っている設定だったとは僕も知らなかった。多分、小さい頃はそこまで考えてはいなかったんだろうけど。
一方、ドクナさんのほうを見ると彼女は何度か軽くうなずき。
「こちらが少し真剣に捉えすぎていたようじゃな……妾も物語における悪役のあり方というのは、むか……以前にも考えたことはあった。討ち倒される者にも矜持ありと」
「悪事を企んではそれを阻止され、吹き飛ばされたり撤退しては同じことを繰り返す……俺はそういう悪役が昔から好きでな。ここまで語ったのはお前が初めてかもしれん」
「そうだな……妾も好きだったものを思い出せた。良い時間であったぞ、裏牙」
言葉を交わした後。裏牙は彼女の目線に合わせるように片膝をつき、向かい合った2人はそのまま握手を交わした。
「これは熱い握手でござるなぁ!」
「そう……なの?」
2人の共通点がやんわりと見えてきてはいたけど、実際会ってみるとここまでかみ合うとは僕としても予想外だった。
僕にはイマイチ理解できない感じで意気投合したみたいだけど。まあ、険悪なままよりは全然良い……かな。
■■■■
あれから2人の話が盛り上がりしばらく経った後。
日も暮れて、今日のラスボス帝国の活動は解散というタイミングになり、アジト部屋の入口前。
「今日の活動はここまでとする! そして、最後に……ドクナよ」
「何じゃ?」
相変わらずカッコつけてるんだか何か分からないポーズをした後、裏牙はドクナさんを勢いよく指さし。
「お前を我が帝国の幹部に任命しよう!」
「なっ! 拙よりも上でござるか!? 可愛いからいいでござるが……」
「いや別に妾は……まあよい、付き合ってやろう」
「あの流れだとこうなりそうとは思ったけど……」
2人の正体を知らないとはいえラスボス帝国にドクナさんも加わることになるとは……。
付き合わせて悪いと思いつつ、今の彼女の表情からまんざらでもないのではとも感じた。
「というわけで……戸締りよし! 解散だ!」
「またでござる~」
「また会おう裏牙、虎白よ」
部屋の戸締りを済ませ、それぞれが帰路に着こうとする中でこの前のことで少し疑問が浮かぶ。
そういえば先日、アリスさん達と戦った時にマイスターさんが動かしていたロボット……ラスボスカイザーだけど、虎白さんはどこまで知っているのかと。
「ところで虎白さん。あのプロトだっけ? ラスボスカイザーって今どうなってるの?」
「雪理殿からそういうことを聞かれるのは意外でござるが……ああ、そういえば」
裏牙に聞こえないようにこっそりと、それとなく彼女に聞いてみると何か異変があったかのような反応を見せた。
「問題があるから整備がしたいとマイスター殿から連絡を受けて、別に今のところあれは置いておくだけの物になっていたこともあったから預けて……それからまだ返って来てないでござるよ」
「そうなってたんだ……あ、変なこと聞いて悪かったね。それじゃまた」
「別に構わないでござるよ……拙らは秘密を知る仲でござるしなぁ」
最後に彼女は一瞬、ニヤリとした表情をして微かな声でこちらの水晶の姿の状態を知っていることをこちらに再認識させてきた。
その口ぶりから他にバラしてはいなさそうだったが、彼女には全ての事情を話しているわけではないものの、それでも少しドキッとしてしまった……。
「それでは雪理殿。またでござる!」
「雪理、どうかしたのか?」
部屋の前に最後に残ったのがドクナさんと僕だけになると、彼女が今の虎白さんとの会話について聞いてきた。
「大したことじゃないですよ」
「そうか……それでは妾達も帰ろうか」
「ええ、途中まで一緒に行きましょう」
先日の戦いのことはドクナさんには話してもよかった気がしたけど、長くなりそうだったしここではやめておくことにした。
徐々に空が暗くなっていく中、僕らは帰路に着いた。
繋がる異世界、やって来たダークエルフと次期魔王!? 積木仮面 @motiumei3
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