異世界に転移したので生き残る為に戦わなければならない件
あずま悠紀
第1話
「勇者よ、世界を救うのです」
その天啓が彼の人生を決定づけた。
15歳を迎えた年、彼は村を飛び出した。
彼の村は平和だった。しかし、魔王が現れればそんな平和も長くは続かない。
彼は剣の鍛錬と魔術の訓練に明け暮れた。
だが、彼が旅立つことは誰にも告げなかった。なぜなら……
「いってらっしゃい、アルス。必ず無事に帰ってくるのよ」
「母さん。俺、強くなって必ずここに戻ってくるよ」
彼は母親にそう告げると、村の外れで待っていた馬車に乗り込んだ。
そして、勇者となる少年は旅に出た。
16歳の春、アルスは故郷に帰ってきた。
故郷の町は魔物の大群に包囲されていた。
アルスは魔物の群れに飛び込んだ。そして、一騎当千の活躍で魔物を次々と倒していった。
やがて、最後の魔物を倒したアルスは、ついに町へと戻った。
しかし……
「母さん!」
家の前では母の姿があった。ただ、彼女の身体は半分が無くなっている。
「アルス、ごめんなさい。私が弱いばっかりに……」
そう言うと母は事切れた。
アルスは呆然とした。そして、すぐに決意した。
魔王を倒すことを。
それから一年後、16歳になったアルスは旅に出る。今度はたった一人で。
最初の二年ほどは順調だった。一人で戦い続けた。しかし、徐々に苦戦することが多くなってきた。
そんな時、とある人物から手紙が届いた。
「君がアルス君か?俺はライアス。君の仲間だ」
「本当か!?仲間なんていないと思っていたが」
アルスがそう答えると、彼は少し困ったような顔をする。
「ああ、俺も最近になって知ったんだがな。まあ、よろしくな」
そう言ってライアスは手を差し出す。
「……わかった。これからよろしく頼む」
こうして二人は仲間となった。
「お前、なかなか強いじゃねえか。驚いたぜ」
アルスの目の前にいたゴブリンが倒れた。この森には、まだ数匹のゴブリンが残っているはずだ。しかし、もうアルスの前に敵はいない。
「それはこっちのセリフだよ。さすが元騎士ってところだな」
ライアスの腕は確かなもので、剣技に関してはかなりのものであった。アルスにとって、彼ほどの実力者は初めてであった。また、彼には魔法の才能もあったようで、回復魔法や補助魔法も難なく使いこなす。アルスは彼に戦い方を教わり、彼もアルスの戦いを参考にした。
さらに二人は旅を続ける。
アルスとライアスの実力はかなり高いものとなり、二人で協力すればほとんどの敵に負けることはなかった。
二人が出会って半年後、二人の旅は突然終わりを迎える。
その日は珍しく雨が降っていた。二人は近くの洞窟の中で休んでいた。
「……なあ、ライアス」
雨音を聞きながら横になっていると、ふとアルスが話しかける。
「どうした?」
「いや、別になんでもない」
「何だよ、気になるじゃねえか」
「そうだな……もしも、俺が死んだら悲しんでくれるか?」
アルスの質問にライアスは少し考え込む。
「……ああ、もちろん悲しむよ。お前は大事な仲間だからな」
「そっか……ありがとう」
それだけ言うと、アルスは眠り始めた。
次の日、目を覚ますと、ライアスの姿はなかった。代わりに置き手紙が置いてあった。そこにはこう書かれていた。
『親愛なる勇者へ。すまないが先に旅立つ。俺にはやるべきことがある。だからお前の仲間にはなれなかった。今までありがとう』
「なんでなんだよ……」
誰もいない場所でアルスはつぶやく。目からは涙が溢れてくる。
「一緒に戦うんじゃなかったのかよ!一人にしないでくれよぉぉぉぉお!」
アルスは泣いた。大声を上げて、涙が枯れるまで泣き続けた。その後のことはあまり覚えていない。気がつくと次の町に到着していた。
そして三年の月日が流れ、ようやく彼は復讐を果たした。
彼の人生を大きく変えた元凶を討ち滅ぼしたのだった。
「終わったぞ……父さん」
その呟きは風に流されて消えていった。
その後、アルスは魔王を倒し世界に平和をもたらした英雄として祭り上げられた。しかし、彼にとってそんなことはどうでもよかった。
彼はただ静かに暮らしていたかっただけだ。誰も彼を束縛しなかったし、彼も誰からも干渉されないように振る舞った。だが、そんな生活も長くは続かなかった。
ある時、とある少女が訪ねてきた。アルスと同じくらいの年で美しい金髪と碧眼の持ち主だった。彼女の名はアリアと言った。彼女は村を出てからずっと各地を転々として暮らしてきたらしい。
「なぜ俺なんかのところに来た?」
アルスが尋ねると、アリアは答えた。
「私ね、自分の力がどこまで通用するのか試してみたいの。それに、一人でいると危ない目に遭うかもしれないでしょう?あなたは腕が立ちそうだからお願いしたいんだけど、ダメかな?」
彼女はアルスを誘ったが、当然断った。これ以上誰かと共に過ごすつもりなどなかったのだ。すると、アリアはこんなことを言い出した。「じゃあ、私の護衛をしてちょうだい。報酬ならちゃんと払うわ」
結局、根負けして彼女を手伝うことになった。最初は仕方なくだったが、一緒にいるうちに彼女と一緒にいる時間が少しずつ楽しくなってきた。いつしかアルスは彼女に恋心を抱いていたのだ。
やがて二人は結婚した。子供にも恵まれ幸せな家庭を築いていった。だが、ある日事件が起こる。彼女が病にかかったのだ。治る可能性は低いと言われ、医師からは覚悟するように言われた。
それでも彼女は気丈に振る舞い、治療を続けた。そんなある日、奇跡が起きた。彼女の病気は完全に消え去ったのだ。どうやら治療法が確立されたらしいのだが、それはどうでもいいことだ。とにかく彼女が回復したことは事実だ。アルスはとても喜んだ。それからしばらくして、二人は男の子を授かった。彼は父親に似てとても強く育った。しかし、同時に問題も起きた。彼は母親を守る騎士になると言って聞かなかったのだ。このままでは騎士の道を諦めさせなければならないだろう。だが、そこでアリアが言ったのだ。
「アルス、この子のことは貴方が責任を持って立派な騎士にしてあげて」と。彼はそれを了承した。しかし、彼自身はその道を選ぶつもりがなかった。なぜなら自分はもう騎士ではないからだ。だからこそ彼に言ったのだ。「俺は剣の道を選ばなくていいんだぞ」と。しかし、彼の答えはこうだった。「僕は母さんのために強くなりたいんだ」そして、彼は騎士になった。
数年後、息子は立派に成長していた。もう心配はいらないだろうとアルスは思っていた。
さらに二年後、再び悲劇は起こる。今度は妻が命を落とした。そして今度はその息子までいなくなったのだ。アルスは必死で探したが見つからなかった。もう、彼を止めるものは誰もいなかった。
もう何もいらない……家族がいない世界なんて滅んでしまえばいい……
そう願い続けた末にたどり着いた場所は何もない荒野だった。
目の前にはかつての親友がいた。
「やあ、やっと会えたね」
ライアスがそう告げる。まるで旧友にあったような口調だ。いや、実際に彼にとってアルスはそういう存在だったのかもしれない。だって、彼はまだアルスのことを恨んでいるだろうから……
「そうだな……それで、俺をどうするつもりだ?」
ライアスの目的はわかっていたが一応聞いてみた。
「君は……君だけは許さない……君のせいでみんなが死んだんだ……俺の妻と娘は君が殺したも同然だ!!」
ライアスの叫びが響く。そして、ライアスは剣を構えた。それと同時にアルスもまた構える。
こうして最後の戦いが始まった。
(やっぱりこうなるんだな……)
激しい攻防が続いた後、ライアスの剣は折れた。勝負はもう決まったも同然だ。しかし、ライアスはまだ諦めてはいないようだった。彼は腰に付けていたナイフを取り出すと、その刃先を自分の心臓に向けた。
「最後に言っておくことがある。君に出会えてよかった。本当に楽しかったよ」
そう言うとライアスは自らの胸を貫いた。そしてそのまま倒れた。
「……馬鹿野郎が」
そう言い残してアルスはライアスに背を向けると歩き出した。
これで終わったのだろうか……いや、終わっていいはずがない。俺はまだやることがあるのだ……絶対に成し遂げてみせる!! そんな思いを胸に秘めながら、彼は歩き続ける。その先にあるのが死であろうと……例えそれが神だとしても抗うつもりだ。
16歳を迎えたその日、勇者は姿を消した……
次回より最終章となります! ここまで読んでいただきありがとうございます!楽しんでいただけたでしょうか?この小説についてや感想などを聞かせていただけると幸いです(o^―^o)ニコ それでは皆様よいお年をお迎えくださいm(__)m 私はいつも一人だった。
物心ついた時からそうだった。いや、違うか……私がもっと小さい時に両親が亡くなってから、ずっと一人で過ごしてきた。
両親は共に王国に仕える兵士だった。しかし、ある日突然死んだ。当時、私にはわからなかった。でも、今ならば理解できる。二人は魔物によって殺されたのだ。
二人の死体は無残なものだった。腕は千切れ、腹部には大きな穴が空いている。血塗れで倒れている二人の姿は今でも脳裏に焼き付いて離れないほどだ。おそらく一生忘れることはないだろう……
両親の葬儀の後、親戚の家に預けられることになったがそこでの生活もひどいものであった。食事も満足に与えず毎日暴力を振るうだけの日々が続くばかりであった。しかも最悪なことに、両親が亡くなった原因は彼らによるものだとわかったのである。彼らは口を揃えてこう言った「お前が悪いんだ」と……それからは地獄のような毎日であった。何度も死にたいと思ったが、そのたびに二人の言葉が蘇る。「幸せになれ」「愛してる」その言葉が頭の中で反芻されるたびに生きる意味を見出したような気がした。たとえ自分が不幸になろうともあの二人さえ生きていればそれでいいと思ったのだ。
だが、それももう終わりを迎えることになる。16歳の誕生日を迎え、これからというときに奴らがやってきたのだ。私を引き取りに来たと言っていたが、そんなことあるはずがない。どうせ、また私に乱暴を働こうとしているに違いないと思った。だが、奴らが私を引き取るのを拒んだ途端、いきなり殴りかかってきたのだ。必死に抵抗したが、所詮は女の力だ。大の大人に勝てるはずがなかった。私は殴られ蹴られ、意識が薄れゆく中である人の顔が浮かんだ。「ああ、父さんと母さんに会いたい……」そんなことを思っているうちに私の意識は深い闇の中へと沈んでいった。そして、目が覚めた時、見知らぬ場所にいたのだ。
目を覚ました私に向かってその人は優しく微笑みかける。どうやら私のことを助けてくれたらしい。名前はアルスさんと言うそうだ。話を聞くところによるとどうやら魔王を倒しにきた勇者の一人らしいが……どう見ても強そうには見えないし優しそうな人だった。最初は信じられなかったが、この人の話を信じることにした。もし嘘だったら見抜けばいいだけのことだと思ったからだ。
そして、彼は驚くべき事実を打ち明ける。なんと彼がかつて勇者と呼ばれていて、その魔王こそが私の実の父親だというのだから驚かないわけがないだろう。だけど不思議と疑う気持ちは起きなかった。むしろどこか懐かしい感じがしたくらいだ。もしかしたら無意識のうちに気づいてたのかもしれない……あの人がお父さんであることを……だから彼のことを信じられたのだと思う……
そして私は決めたのだ……私も魔王討伐の旅に連れて行って欲しいと。最初は断られたが諦めなかった。どうしてもついていきたかったからだ。すると、渋々ながらも同行を認めてくれたのだった。その後、私たちは馬車に乗って近くの街に向かったのだが道中で魔物の群れに襲われてしまった。その時もやはりというか何というか、私は戦わせてもらえなかった。まあ仕方ないとは思うけれど……ただ、何もしないのもどうかと思って魔法で援護したんだけど驚いた顔をしていたなぁ……その後でお礼を言われたんだけどちょっと嬉しかったかな……
そういえばアルスさんはなんであんなに強かったんだろう……前に少し聞いたことがあったけどはぐらかされてしまったんだよね……今度機会があったら聞いてみよう……
さてと、そろそろ寝るとしようかな……おやすみなさい…………
翌朝、私とアルスさんは宿を出るとすぐにギルドに向かった。理由はもちろん昨日の依頼の報告をするためである。
アルスさんが職員の人に報告を終えると、何やら封筒を渡されている。気になったので聞いてみたら、どうやらゴブリンの巣の調査を頼んだ際に、一緒に受けてほしいとお願いされたそうだ。なんでも今回の巣には上位種のハイ・ゴブリンがいたらしく危険らしいので報酬とは別に特別報酬としてお金がもらえるようだ。なのでありがたくもらうことにしたのだそう……ちなみにその依頼は本来ならBランク以上の人が受けるものなのだとか……つまり私たちは普通より高い依頼を受けて成功させたというわけだ……改めてとんでもないことしてたんだなって思ったよ……でもまぁ報酬もいっぱいもらえたからいいんだけどね♪ あ、そういえばギルドに来る途中に露店が出ていて美味そうなものが売ってあったんだよな〜あれも買っておけばよかったなぁ……
「あ、あの……すいません」
突然後ろから声をかけられた。振り返ってみるとそこには一人の女の子が立っていた。年齢はたぶん10歳くらいだろうか……金色の髪に碧眼が特徴の子だった。服装は少し汚れていたが仕立ての良さそうな白いシャツに紺色のロングスカートを身につけている。そして、手には赤いバラを持っていた。アルスさんの知り合いなのかな……そう思っていると、彼女はアルスさんに話しかけた。
「もしかして……アルス様ですか?」
彼女の口から発せられた名前にアルスさんと思わず顔を見合わせた。アルスさんも困惑しているようだ……なぜ自分の名前を知っているのか?アルスさんの名前を知っているということは、彼女はアルスさんの正体を知る関係者ということなのか?それとも偶然なのだろうか……いや、そんなはずはないだろう……なぜならここは王都なのだ。王国の兵士の中でも特に有名なアルスさんのことを知らない方がおかしいだろう……となると彼女は一体……いや、まさかこの子も!?だとしたら……
「あの、失礼ですが……あなたのお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」アルスさんが尋ねる。すると少女は答える。
「えっと、私はアリアと言います。アリア=フォン=ルーレントと申します」
やっぱりそうか……彼女も勇者の子孫のようだ……
「初めましてアリア様。私はアルス=ディルグといいます」
アルスさんが挨拶を交わすが、なぜかアリア様は俯いたまま黙り込んでしまった。何かあったのだろうか……?
「……やっぱり違いますか……」ボソッと呟く声が聞こえる。
「……え?」
「…………いえ、何でもありません」アリア様が顔を上げて言う。何か呟いたように聞こえたが気のせいだったのだろうか……
「ところでアリア様はどうしてここにいらしたのですか?」アルスさんが尋ねると今度は顔を赤くするアリア様。どうしたんだろ?もしかして体調が悪いのかな?心配だ……そう思って声をかけようとしたときだ。彼女は意を決したように顔を上げるとこう言った。
「実はアルス様にお願いしたいことがあって来たのです!」その言葉に私とアルスさんは顔を見合わせる。
(これはもしかするとアルスの助けになってくれるかもしれない)
そう思うとなんだか嬉しくて思わず笑みを浮かべてしまうのだった。
次回より第二章となります!これからも応援よろしくお願いいたしますm(__)m ここまで読んでいただきありがとうございます!楽しんでいただけたでしょうか?この小説についてや感想などを聞かせていただけると幸いです(o^―^o)ニコ 次回はついに主人公が登場します!お楽しみに!!
※今回はかなり長めとなっています!! 突然現れた少女アリア様のお願いとはいったい何なのだろう? 俺とエルシアは疑問を抱いたまま、彼女の話に耳を傾けることにした。
そして聞かされた話は驚くべき内容であった……それは彼女がある組織の一員だということだった……彼女が所属しているその組織というのは【救世の御旗】というらしい……なんとも怪しい響きだな。しかも王国内に潜伏しているらしいのだ……正直、驚きを隠すことはできなかった。なんせ国に仕える兵士が知らないうちに敵に回っていたなんて考えたくもないからな……
それに気になることが他にもあった。彼女には俺たちと同じ紋章が刻まれていたのだ。これがどういう意味を示すのかはまだわからない……しかし、警戒しておく必要はあるだろうな……とはいえ今ここで話すことはできない……とりあえず今日は彼女を家まで送って行くことにしよう。その後はエルシアに任せて俺は一度城に戻ることにしようかな……国王にも相談しなければならないだろうしな……
というわけで俺たちは早速行動に移すことにした。まず初めにエルシアと別れることになるのだが……
『アルスさん……気をつけてくださいね……』と、俺の腕に絡みつきながら言ってくるものだから困ってしまう。この子はいつもこんな感じなのだろうか?いや、さすがにないか……たぶん今は緊張のし過ぎで少し気が緩んでいるのだろうな。普段はもっとしっかりしてそうだしな……まあそれはそれで可愛いんだがな……いかんいかん、そんなことを考えてる場合じゃなかった。とりあえず今は彼女に返事をしないとだよな……まあ適当に理由をつけて誤魔化すしかなさそうだけどな。そんなことを思いながら口を開く。
「わかったわかった。だからそんなにくっつくなって……」
そう言って無理やり引き離すが、不満そうな顔で見つめてくるので仕方なく頭を撫でてやった。途端に彼女の顔が赤くなるが気にしないことにする。
「それじゃあまた後で連絡するからそれまで家で待っていてくれ」
俺がそう言うと彼女は小さく頷いた。
その後、アリア様と別れた後、俺は急いで城へと向かった。
門の前に着くと、すぐに衛兵が近づいてきたので、自分の名と用向きを伝えると中へと通してくれた。そのまま城内を進み階段を上ると、玉座の前に出た。そこには陛下と数名の貴族らしき人たち、そして護衛の騎士が立っていた。
陛下の前まで行くと、膝をついて挨拶をする。すると陛下はこう言った。
「よくぞ戻ってきた、勇者アルスよ……さあ、さっそく本題に入ろう。そなたにやってもらいたいことは一つだ。そこにいるライラ姫の護衛に就いてほしいのだ。知っての通り我が娘は隣国のリゼルに嫁ぐこととなったのだが……最近、不穏な噂を耳にしたのだ……」陛下はそこで言葉を区切ると深刻な顔つきになった。周りの貴族たちも同様に顔色を変えていた。おそらくこれから言うことはそれほどまでに重大なことなのだと察したのだろう……いったいどういうことなのだろうか……?
「実は最近、各地で魔王軍が活発化してきているようなのだ。奴らの動きは活発になるばかりで収まる気配がない……それだけでなく、奴らの中に新たな戦力が加わったという話もあるらしい。それが事実ならば我々にとって非常に脅威的なことだ」
確かにその通りだろう。もし本当であれば、今の私たちにとっては相当厄介な相手になるかもしれないからだ。だが、なぜそこまで問題視する必要があるのだろうか? 私が考えていることに気づいたのか、再び口を開いた陛下はその理由を教えてくれた。なんでも魔王が復活したのは今から20年も前の話であり、当時戦った者たちがいたというのだ。その者たちは全員命を落としたため、詳しい情報は残っておらず詳しいことはわかっていないらしい。そのため、新たに力をつけた者がいるかもしれないということを懸念しているようだ。なるほどな……たしかにあり得ないことではないな……ただ単に力を得ただけで世界を相手にできるほど強大な力を持つ存在を倒せるようになるとも思えないが……まあまだ情報が少ない以上、決めつけるのもよくないな。
そんなことを考えていると陛下の話は続いていたようで「そんなわけでお前には娘を護衛しつつ魔王に関する情報を集めてほしいというわけだ」と言ったので私は「わかりました。このアルス、身命を賭して姫様をお守りすることを誓いましょう」と言って跪く。これでようやく話が終わったので、立ち上がるとすぐに城をあとにした。
それから俺は一旦家に帰り準備を済ませるとすぐに宿に戻った。そして明日に向けて眠りに就くのだった。
翌日、ギルドで依頼の確認を行うと、すぐに出発することにした。目的は勿論ハイ・ゴブリンの巣だ。どうやら依頼書に書かれている地図によれば、目的地までは徒歩で5時間程度かかるようなので馬車を使うことにした。馬車の御者は冒険者の中から募集することになっていたらしく、私もそれに参加させてもらうことになった。私以外の参加者は二人いるらしく、二人とも男性だったので安心することができた。
道中では特にこれといったトラブルもなく進むことができた。途中魔物に襲われることもあったが、大した強さではなかったために難なく対処できた。まあ、仮に強敵が現れても私の魔法でなんとかなると思うから大丈夫だろうな。そんな調子で進んでいくと目的の森に到着したのでここから先も慎重に進む必要があるだろうな。そう思いながら森の中へと入っていくのだった。
〜〜〜〜〜〜 一方その頃、とある場所の一室では、ある男が水晶玉のようなものを見ながら笑みを浮かべていた。男の背後には大きな魔法陣が描かれている。するとそこに二人の男女が姿を現したのだ。それを見た男は二人に声をかける。
「どうだ?アルスの様子は……」その問いに答えるのは女性だった。
「はい、現在彼は王都にて休暇を満喫しています。彼があの町を出るのを見計らったのですが、どうやらうまくいったようですね」そう話す彼女の表情はとても穏やかだった。それを聞いた男の方も笑みを浮かべている。
「ああ、さすがはお前の妹だな。よくやってくれた……それでこそ我々の同志として相応しいというものだ」彼女の姉と思われる男性はそう言いながら妹の頭を撫でる。その表情には笑みが溢れており、心から喜んでいようだった。撫でられている方も満更ではない様子である。二人はしばらくそうして抱き合っていたが、不意に少女が口を開いた。
「お父様、そろそろお時間が近づいています」彼女の言葉に頷くと今度は父親の方が言った。
「そうか……なら始めるとしよう。まずは私からやらせてもらおうではないか……」
そう言うと父親は手を前に出して魔力を込める。すると巨大な魔法陣が出現したかと思うと、それはやがて回転を始め始めた。その様子を見た少女は笑みを浮かべる。彼女は知っているのだ。もうすぐ始まることを……
そしていよいよその時は来たようだ。
父親がさらに力を込めると、魔法陣はより一層輝きを増した。それと同時に部屋に魔力が充満していくのを感じた少女はニヤリと微笑むのだった。
〜アルス視点〜 俺は今アリア様とともに馬に乗って目的地を目指していた。今回の目的地となる森はこの道を通って2時間もかからないほどの距離にあったため迷うことはないはずだ。一応道は舗装されていたため歩くよりも楽だったが、それでもやはりお尻が痛いものだな。ちなみに俺は馬に乗れなかったせいで後ろに乗せてもらう形となっていた。まあ仕方ないことだろうがこれはなかなか辛いものがあるな……それに、ずっとこのままでいられるとも限らないわけだし早めに慣れないといけないだろうな……そんなことを思っているうちに目的の場所へと到着したようだ。アリア様は馬から降りると近くの木の根本に腰掛けた。
「ごめんなさいね、アルス君……本当はこんなことお願いするつもりはなかったのだけど、あなたを見ているとどうしても断れなくて……」と申し訳なさそうに言ってくる彼女に対して俺は気にしないでいいと言ったのだが、彼女の方はどうも気にしている様子だった。俺は彼女を励ますようにこう告げた。
「俺でよければいくらでも付き合いますよ。あなたの騎士になったのですから、いつでも頼ってください」俺の言葉にアリア様は笑顔を取り戻すと、嬉しそうに頷いてくれた。その姿を見て俺も嬉しくなる。やっぱり彼女には笑っていてほしいからな……さて、それはそうと今は仕事を終わらせることにしようかな。俺は周りを見渡すが何もおかしな点はなさそうだな。とりあえず怪しいものがないか探してみようかと思った時、突如地面が大きく揺れた。突然のことで驚いた俺たちは思わず倒れそうになったが、どうにか持ちこたえることができたので安心する。いったい何が起こったというんだ……?そう思い、周囲を警戒するがどこにも変化はないように思える。アリア様に視線を向けると彼女は静かに頷いたので間違いなさそうだった。ということは、つまり何者かがこの付近に潜んでいるとみて間違いないだろうな。とりあえず気配を探ってみるが、どうにも奇妙な感じだった。というのも、近くに複数の人間が存在しているような感覚があるというのに、それらしい気配を感じ取れないでいるのだ。明らかに異常だと思う。もしかすると、これが例の異変に関係しているのではないだろうか?俺が考え込んでいると急に声が聞こえたような気がした。慌ててそちらの方を向くと一人の男性がこちらに歩み寄ってくるのが見えたので俺は身構えたが、すぐにそれが誰なのかを理解した。何故ならその男の顔に見覚えがあったからだ。そいつは俺の姿を確認すると口を開いた。
「やあアルスくん、久しぶりだね」まるで友達のような態度で話しかけてきたこの男の名は、エルネスト・オルムグレンだ。かつて王国にいた頃の俺にとっての友人であり良きライバルでもあった男だったのだが……今では敵となってしまっていたのだ……
奴が現れたことによって再び緊張が走ったわけだが、それを解してくれたのもまた彼だった。
「おや、君は誰かと思ったらまさかアリアじゃないか……こんなところに来るなんて珍しいこともあるものだねぇ……それで、彼とはどういったご関係で?」と、相変わらずマイペースな感じではあったが……それでも、俺たちにとってはとてもありがたいものだった。しかし、なぜこいつがここに?しかもこいつは以前とは全く雰囲気が変わっていたし、それに名前だって以前のものとは違っていた……一体何が起きているというのだろうか?そんなことを考えていた時だった。ふとあることを思い出した俺はそのことを口にする。
「そういえばお前の名前なんだが……もしかしてエルネストというのは偽名なのか……?」俺がそう問いかけると奴は一瞬笑みを浮かべたように見えた後、小さく頷いた。
「そうだね……僕の本当の名はエルネスト・オードレックだよ。でも、そんなことはどうでもいいと思わないかい?今の僕は君と友人になりたいと思っているんだよ」正直言って意味がわからないというのが正直な感想だった。なぜなら、俺にはこいつのことがわからないからだ。いや、違うか……むしろ理解できないと言った方が正しいのかもしれないな……だが、奴が俺と戦いたくないということであれば無理に敵対する必要もないわけだから別に構わないと思っていたのだ。だからこそ俺は奴の提案を受け入れることにしたのだ。
「まあ、お前がそう言うのであれば別にかまわないぞ。それよりも、どうしてお前はこの森にいたんだ?」と聞くと、奴は相変わらず穏やかな笑みを浮かべながら答えた。
「実は、ちょっと気になることがあったからね……まあ、そのことに関しては僕の方から話すわけにはいかないけど、いずれ君にも話す機会が来ると思うからその時に改めて話そうかなと思っているよ。それより今は君たちの手伝いをすることにしよう。僕に何か手伝えることはあるかな?」と言ってきたのだが、正直言うと今のところはないので気持ちだけ受け取ることにする。
「ありがとう。その気持ちだけでも嬉しいぞ。ただ今は俺たちだけで大丈夫だ。何かあったら遠慮なく呼ぶからその時は頼むな」と告げると奴は笑顔で頷いたのだった。
「それじゃあ僕はこの辺で失礼するよ。頑張ってくれたまえ、アルスくん……」そう言うと彼は一瞬で姿を消してしまったのだった。おそらく何らかの魔法を使ったのだろうと思うが、いったいどのような魔法なのだろうか?興味はあるな……後で本人に聞いてみるとしようかな……まあ、そんなことはさておき、これからどう動くべきなのかを考えておこうか……ひとまず周辺を調査してみるのが良さそうだしな……そう思い俺は早速行動を開始するのだった。
〜〜〜〜〜〜 調査を開始したアルスは周辺の木々を注意深く見回ることにした。やはりと言うべきか、この辺りは何かがおかしいと感じる。何というか違和感があるのだ。そして、その原因はすぐにわかった。まず最初に気づいたのはその異様なまでの静けさだった。生き物の気配がないどころか草木すらまともに生えていないような印象を受けた。それに加えて妙に霧も深いのだ。そのせいで視界はかなり悪い状態だといえるだろう。さらにいえばかなり湿度が高くて蒸し暑いということもあって汗が滝のように流れてくるほどだった。これでは集中力を維持するのは難しいのではないかと不安にも思ったのだが、どうやらそうでもないようだった。理由は単純で先程アリア様と別れた地点よりも奥地へと進んでいたことで人の気配が全くなくなったことから精神的なストレスが軽減された結果であると言えた。そんなわけで精神的にも体力的にも楽になったおかげもあって、順調に探索を進めていくことができたというわけだ。その結果として、あるものを発見したのだがそれは小さな家だったのだ。見た目的には小屋といった感じだが造りとしてはしっかりとしたものなので住居というよりは何かの研究所とかそんな感じの建物に見えるかもしれない。俺は中を調べようと試みたのだが入り口は硬く閉ざされており入ることは難しそうだった。そのため一旦引き返すことにした。ここでこれ以上の収穫が得られるとも思えなかったしな……そしてそのまま来た道を戻り始めたのだがその時のことだった……突如として地面が激しく揺れ出したのだ!何事かと思い周囲を確認するが特に変わった様子は見受けられない……となれば地震ということになるのだろうか……?だが、ここは森の奥で山に囲まれている場所だからもしかしたら自然災害の類なのかもしれないと思ったが、仮にそうだとしてもこれほどまでに激しいものなのだろうか……まあなんにせよここに留まるのはあまり良くないと判断した俺は急いでこの場を離れようとするのだった。ところがその直後、突然背後に気配を感じたために振り返った時には既に遅かったようだ。気がつくとそこには見知らぬ男性が立っていた。その男を見て俺は思わず驚愕してしまう……何故なら目の前にいる男の容姿は明らかに異様だったからだ……その男は全身真っ黒の衣装に身を包んでおり顔もフードのようなものを被っていて素顔は見えない状態だったが明らかに人外のものだとわかるほどに異形の姿をしていた。
そいつが言うには、この場所では魔力の供給が行われていなかったので仕方なく俺の力を使っていたということだった。俺の力を勝手に使っていたことに腹が立ったがそれでも奴の言葉に引っかかる部分があったために問いかけようとした瞬間、奴は一瞬にして姿を消したかと思えば気づけば俺のすぐ近くまで迫ってきていたのだ。あまりのスピードに対応できなかった俺は避けることができなかった。そして、男は俺の腕を掴むと強引に引っ張ったかと思うと俺を投げ飛ばしてきたのだ。どうにか着地に成功した俺は即座に体勢を立て直すと男に向かって炎を放つ。だが、それも簡単に避けられてしまう。その後何度も攻撃を仕掛けるがどれもこれも簡単にあしらわれてしまったのだ。しかも、攻撃の合間合間に反撃してくるので回避するだけでも精一杯だったこともあり、徐々に押され気味になっていたことで焦りが生じ始めていた頃になってようやく援軍がやってきたのである。
現れたのはアリア様ともう一人……見たことのない人物だったが、状況的に考えて先程の男性の仲間なのだろう。彼らは現れた途端に加勢してくれたおかげで俺もだいぶ楽に戦うことができるようになったため一気に攻勢に出ていた。すると今度は俺の攻撃を避ける必要のないと考えたのか黒い男性はこちらへ向かってきたかと思うと攻撃をしてきたのだ。それに対してこちらも対抗するように剣を振るうとお互いに打ち合いが始まるのだが相手の力は相当なもので、なかなか押し勝つことができないでいた。しかし、そのタイミングで新たな援軍が加わったことで形成が逆転することになる。新たにやってきた女性は両手に魔力を宿すとそれを相手に叩き込むと同時に爆発を起こしたのだ。それにより相手が怯んだところですかさず追撃を行うとその身体を斬り裂いていくのだった。相手は苦痛の表情を浮かべながらその場から後退すると、俺たち三人から距離を取るべく後方に下がっていったのだがその際に何かを呟いた後、俺たちの前から姿を消すことになるのだった……
〜〜〜〜〜〜 無事に撃退できたことを確認した三人は互いに自己紹介をすると握手を交わすのだった。そして互いのことを話した後で今後についての相談を始めたところ、あの屋敷についての情報を提供する代わりに協力してほしいと言われたため、それを受け入れた上で再び目的地に向かうことになったのだが、道中で色々と話を聞くことになった。その内容は主にこの森の異常に関してのことだ。というのも、以前アリア様に話を聞いた際にはこのような話は出てこなかったからだ。そもそも彼女の記憶によれば以前は至って普通だったはずなのだ。それが今では完全に変わってしまっているらしい……となると、考えられる可能性は二つだな……
まずは単純に何らかの理由で変化したということ。しかし、それならば他にも変化が見られるはずなので、可能性としてはもう一つの方が有力と言えるだろう。つまり誰かが故意に変えたということである。そこで気になったのが、一体誰がそんなことをしたのかということだ。もし犯人がいるとすればその正体は何なのかということなのだが、これについては既に見当が付いている。問題はどのようにしてそのような行為を行ったのかという点だ。いくら魔物の仕業だとしたとしてもこれだけの大規模なものを仕込むことができるとは考えにくいのでおそらく犯人は魔族である可能性が高いだろうと考えている。だが、そうなると一つだけ疑問が生じることになるのだがその理由こそが奴らの行動にあるのだ。基本的に魔に属する者は基本的に己の欲望を満たすことを優先する傾向にあるので自らの欲求を抑えることなどあり得ないとまで言われているのだ。だからこそその行動や発言などに一貫性がなく目的を達成するためだけに行動するということがないのだ。そう考えると今回の一件に関してはあまりにも不可解なことが多いのでどうにも怪しいと思ってしまうわけなのだ……ただ、現状ではあくまで仮定の域を出ないのも事実なわけであって真実はまだわからない状態でもあるからな……いずれにせよもう少し様子を見てみる必要があると思うのだった……
それからしばらくして俺たちは問題となっている建物へとたどり着いたのだがそこは相変わらず静寂に包まれていた……まるで人の気配がないということもあって少し不気味な感じもしたが気にせずに中へ入ろうと思ったのだが、その瞬間何者かによって呼び止められたような気がした。驚いて後ろを振り返ってみたのだが、誰もいなかった……しかし、その代わりに一枚のメモ書きのような紙が床に落ちていることに気がついた。その紙を拾い上げるとそこには文字が書かれていたのだが、それはこう書かれていた……『我ヲ探セ』……
この一文を見た俺は首を傾げてしまう……どういう意味なのだろうか?……それに探し出せと言われても一体何を探し出せばいいのかが分からないしヒントも何もない状況でどうやって見つければいいのだろうか……
とりあえずは周囲を調べてみる必要があると思ったので調査を始めることにしたのだがやはりこれといって気になるようなものはなかったな。念のため隠し部屋などが無いかを確認してみるものの、そんなものは無かったようで何も見つからなかった。結局わかったことは何もなかったということになりそうだな……さてどうしたものか……このまま諦めるしかないのかなと思っていたら急にアリア様が俺に声をかけてきたのだ……何やら話があるということだったのだがどうしたのかなと思い聞いてみたのだが、どうも様子がおかしいように感じた俺はどうかしたのかと尋ねたのだが彼女は無言のままだったのでますます心配になった。もしかして何か重大なことがあったのではないかと考えた俺は彼女に声をかけたのだが返事がないどころかどこか様子がおかしかったのだ。それで慌てて駆け寄ったのだがその直後、アリア様はその場に倒れ込んでしまった。それを見た俺はすぐに助け起こそうとしたのだが、それと同時にアリア様の身体に触れた瞬間に異変が起きてしまった……何と身体が砂のようにボロボロと崩れていったのだ!俺は驚きのあまりその場で固まってしまったがそれでも彼女を助けなければいけないと思い必死に声をかけるのだが全く効果はないようだ。そうしているうちにもどんどん身体は朽ちていき、最後には骨だけになってしまったのを見て言葉を失ってしまうのだった……
〜〜〜〜〜〜 呆然と立ち尽くしている俺は目の前の出来事を受け入れられずにいたのだが、いつまでもそうしてはいられないと思ってひとまずここから移動しようと考えて外へ出るとそこには黒い衣服に身を包んだ男が立っていたのだ……その男の正体は言うまでもなく例の男だった。奴は俺を見ると笑みを浮かべるとともに言った……「残念だったな」……その言葉に俺は苛立ちを覚えて奴に問い詰めるのだが、どうやら奴が犯人だったようだ。何故こんなことをしたのかと言うと実験のためだと言うではないか。何でも俺が放った光のせいでこの場所一帯に結界のようなものが張られてしまったせいで外部からは入ることができず、中に入った人間のみが自由に行き来できるようになってしまったために、それを防ぐためにこうした措置を取ったというわけだ。
ちなみになぜアリア様を狙ったのかというと魔力を持っていたからである。それはそうだろう、普通の人間にはこんな真似はできないからな。まあ確かに一理あるがそれにしてもやり方がえげつないとしか言いようがない。何せ人の命を道具みたいに扱っているんだからな。こいつだけは何があろうとも許すことはできないと感じた俺は戦う意思を固めると、剣を構えて戦闘態勢に入ることにした……しかしその時だった、不意に足元が大きく揺れたかと思うと地面から巨大な化け物が現れたのだ!そいつは俺を標的として認識すると大きな口を開けて食らいつこうとしたのだが、その前に俺の炎がそいつに襲いかかり一瞬で灰に変えてしまう。その結果を見るなり唖然としていた男に向かって今度は氷塊を放ち奴の全身を凍りつかせようとするが、ギリギリのところで回避されてしまう。しかし、そんなことは想定内なのですぐに次の手に移った俺は風を巻き起こすと刃となって相手に襲いかかる。これはさすがに避けきれなかったようで、まともに受けたことで全身が切り刻まれていくと最後には大きな風穴を開けられて男は倒れるのだった……これでやっと終わると思ったが奴はまだ諦めてはいなかったようだ……なんと全身傷だらけになりながらも立ち上がると再び襲いかかってきたのだ!だが、俺もそう簡単にやられるつもりはない。今度こそ息の根を止めてやるつもりで攻撃を放つのだが、それを難なく躱された上に反撃までされてダメージを負ってしまった。その後も攻防を続けるうちに徐々に劣勢に追い込まれていた時のことだった……突然、俺の身体に変化が起こり始めたのだ。最初は特に変わった様子もなかったはずなのに気がつけば身体中が黒く変色しており、さらには目が真っ赤に光っている状態だったため、これには流石に動揺してしまうのだった……そしてその直後、何故か意識が遠退いていくのを感じた俺はそのまま意識を失ってしまった……〜〜〜〜〜〜 目を覚ました時には既に夜になっていて俺は倒れていた場所から離れた場所にいた。しかも驚いたことにいつの間にか元の姿に戻っていただけでなく怪我の類は全て無くなっていたのだが一体どういうことなのだろうか?とにかく考えてもわからないので、一度屋敷に戻ることに決めた俺は森の中を歩いていたんだがその際にあるものを発見したのだ。それが何なのかについては言うまでもないだろう……それは死体の山だった……
おそらく俺を襲ったあの化け物の仲間なのだろうと思われるものが大半だったが中には魔族もいたらしく、それらは全て首が無かったり胴体に大きな穴が空いていたりするなど酷い有様だったのだがその中に一つだけ奇妙なものが混じっていたのだ……
その一つというのは頭がないのだ。しかしこれだけでもかなり異様な光景なのだが、さらにおかしな点があったのだ。まず一つ目に胴体だ。本来なら頭部があるべき場所にそれがなく、その代わりに胸には拳ほどの穴が空いている。そして二つ目はその傷口から赤い液体のようなものが滴っていたのだ。この時点でもはや嫌な予感しかしなかったがとりあえず確認することにした俺はその物体に触れようとしたのだがその瞬間、どこからか声が聞こえたため咄嗟に手を止めてしまったのだ。『コレイジョウハフメツデキナイ』というその声はおそらく先程聞こえた声と同じものだと思うのだが一体どこで誰が言っているのだろうかと考えていたらまたも声が聞こえて来た。今度ははっきりとした声だったのだがそれは俺の頭の中で響いたものであり、つまりは俺の脳に直接話しかけてきていたということになるのだ。その事実を理解した俺は驚くと共に戸惑いを隠せなかったのだが次の瞬間だった……突如視界が真っ暗になると身体の感覚が無くなったかと思うとそのまま意識を失なってしまうのだった……
それからどれくらいの時間が経過したのかはわからないが目を覚ますとそこにはアリア様がおり、彼女が泣きながら俺にしがみついてきたのだ。どうしてそんなことをするのか分からなかった俺は理由を聞いてみることにしたのだが、どうもうまく話すことができないのか上手く説明することができなかったので代わりに自分が覚えている限りのことを話してくれた。どうやらあの男との戦いの途中で気絶してしまったようだが、その後しばらくして目を覚まして立ち上がった瞬間いきなり暴れ出して周囲にいた者たちを皆殺しにしたらしい……ただその時の様子はかなり異様だったそうでまるで獣のように見境なしに攻撃をしてきたということだった。当然その場に居合わせた者たちは抵抗しようとしたそうだがあまりの圧倒的な力に為す術もなく次々と命を奪われてしまい最終的には全滅したということなのだそうだ。しかしどういうわけか俺にはそのような記憶は一切無かったので一体どういうことなのかと考えていると、アリア様がこんなことを教えてくれた……『私はあなたが変貌していく様子をこの目で見ていました。その恐ろしい姿に恐怖を抱いた私はあなたから離れるべくその場を離れました』と言うアリア様は続けてこう続けた……『あなたの意識は完全に消えているようでしたし私一人では到底対処することができなかったので何とか森から出ることができましたがこのままでは私の身が危険に晒されることは明白でした。だからこうしてあなたに助けを求めるためにここまで戻って来たというわけなんです。どうか力を貸していただけませんか?』そう言って俺の手を取ると真っ直ぐに目を見つめながら懇願する彼女の姿を見た俺は断ることなどできなかったため承諾することにする……しかし、その前にいくつか質問をすることにしたのだがそこでアリア様はこんな話を始めたのだ……実は俺と出会う前にある夢を見たというのだ。その夢では俺によく似た人物が現れて何やら助言のようなものをしたとのことで、その内容というのが俺の能力に関するものだったのだという。何でもその夢の中で俺が語った言葉が今の俺の力となっているとのことだったのでそのことを詳しく聞かせてほしいと言ったところ、少し戸惑ったような表情を浮かべたのだが、それでも答えてくれたのでそれを聞いた結果、いくつかのことがわかった。
一つ目は俺自身にもまだわかっていないことがあるということであり、二つ目に自分の意思とは無関係に発動していることで制御することが困難であることと、三つ目にはその力を使ってしまうとしばらくの間意識を失うこと、最後に四つ目としては何らかのきっかけがあれば発動するのではないかということだった……それを聞いた俺としては色々と気になることもあったのだがそれについては後回しにして今はここから出ることが先決だと思い、アリア様に声をかけて一緒に行こうと誘ったのだが何故か彼女は首を縦には振らなかった……それどころか「私がここに残ります」と言って俺から離れようとしないのだ……そのことには正直困ったのだが、それでも無理やり連れていくわけにもいかないと思った俺は渋々ながらも彼女を連れて行くことにした。ただし、絶対に離れないようにという条件付きで……それから二人で森の中を歩いていくことになったのだが、ここでふと気になったことがあった。それは、どうしてこんな危険な場所で暮らしているのに今まで襲われることがなかったのかということだ。その理由については彼女によればこの付近に張られている結界のおかげで外からは入ることはできても中から出ることができないかららしいのだが果たしてそうだろうか?そもそも、いくら出られないと言ってもずっとその場に留まれば食料や水が尽きる可能性だって出てくるはずなのだから普通はそんな生活を続けることなんてできないと思うのだが……そこまで考えたところで不意に足音が聞こえてきたため、一旦考えるのをやめて気配を消して様子を窺っていると、そこに現れたのは魔族の一人であった。それを見た俺はすぐさま飛び出してそいつを始末しようとするが、それよりも先にアリア様が魔法を発動させる。それによって相手はあっけなく消し炭になってしまったが、その時には既に俺は動き出しており剣を抜いて奴に斬りかかっていたのだ。だが奴はそれを見てニヤリと笑うと何と魔法を放とうとしたのだが、それよりも早く俺の攻撃の方が先に命中していた……はずだったのに何故か傷一つついていなかったことに驚いていると、いつの間にか背後に回っていた奴が炎の塊のようなものを放つと同時にアリア様に向けて叫んだのだった。「今だ!」と。するとその言葉に応えるかのようにアリア様も魔法を発動させた。それも先ほどとは比較にならないほど巨大なものを放ち、俺を巻き込んでしまうのもお構いなしといった感じだったのだ。そして次の瞬間、俺とアリア様は跡形もなく吹き飛んでしまったのである……
〜〜〜〜〜〜 次回から第二部が始まりますのでよろしくお願いしますm(__)m 気がつくと、そこは何もない空間だった。
いや、正確に言えば、真っ暗な空間に無数の扉だけが浮いている場所だった……
「……ここはどこなんだ?」
周囲を見回して思わずそんな言葉が漏れる。するとその直後に、不意に目の前に一つの扉が現れたのだ……しかもご丁寧に看板まで掲げられていたのだが、そこに書かれていたのはこんなことだった。
〈ようこそおいでくださいました、ライアス様〉 そんな文章の下に、さらに続く文言があるようだった。なのでよく見てみるとそこにはこのように書かれていた。
〈ここは、これからあなたが向かわれる世界への入り口となっております。もしこのままお進みになる場合は、一度扉の先を覗いていただく必要があります。ですが、その先に進むかどうかはあなた次第でございます。それでは、どういたしますか?〉それを読み終えた俺はすぐに決断を下すことにする。
何故ならこの先でどんな光景が広がっているのかはわからないが、それでも前に進もうという気持ちがあったからだ。なぜなら、この扉をくぐった先の世界が自分にとって新たな人生を歩むためのスタート地点になると信じていたからだった……
そして覚悟を決めると扉を開けて中に入るのだった……
「うっ……」
一瞬立ちくらみのようなものを感じた直後、俺の目に映り込んできたものは信じられないものだった。何しろ辺り一面に死体の山が積み上げられていたからである……それはどう見ても尋常ではない光景であり、一体誰がこんなことをしたのだろうと思っていると不意に頭の中に声が響いた。
『これは君がやったんだよ』というその声は間違いなく先ほどの看板にあった案内人と思われる者の声だったのだが、当然ながら身に覚えのない俺がそれに反論しようと口を開きかけた時、彼は更に続けた。
『いや、君は覚えていないだろうが、あの時に起きたことは全て現実だ。
だからこそ君の身体は既に死んでいるし、魂だけの存在になっているわけだよ』その言葉に愕然となる。だがそれと同時に一つ納得できることもあった。それは、やはりあの惨劇を引き起こしたのは自分だったのだということだ……何せ、俺の記憶が正しければ俺はあの魔族に対して激しい怒りを感じていた上に、奴らを倒すことしか頭になかったからである。つまり、冷静になって考えればあの時の俺には冷静な判断ができていなかったというわけだ……だが、それでも俺は聞かずにはいられなかった。「何故、こんなことをしたんだ」と……
それに対して返ってきた答えはあまりにも残酷なものであった。
『君には力があるからね。その力を最大限に活用したまでのことさ』それを聞いて思わず絶句してしまう。そしてそれと同時に悟ってしまった。目の前にいるこの者は、少なくとも俺にとっては決して味方と呼べる存在ではないということに……
「なら、どうして俺だけを生かしたんだ?わざわざこんなことをするくらいなら最初から殺すべきだったんじゃないのか?」
その問いに対する答えはなかったが代わりに彼が続けて言う。
『まあ、確かにそうかもしれないね。でも僕としてはどうしても確かめたかったことがあるからそうしただけだよ。
というわけで悪いけどそろそろ死んでもらうよ。
もちろん僕も死にたくはないからさ。できれば君のような力ある者を仲間に引き入れたいと思っているからね』そう言った直後のことだった。突如凄まじい衝撃が俺の身体を駆け巡ったのだ。その衝撃で身体が粉々に砕けていく感覚を覚える中で俺は最後の抵抗を試みることにした。すなわちそれは『時間逆行』の能力を使うことで現状をどうにかできないかというものだった。というのも俺の能力はあらゆる事象を元通りにするというものであってこれを使えばおそらく死ぬ前の状態に戻すことができるはずだと思っていたのだ。
ただ残念ながら既に死んだ者に対しては使うことができないので試したことはないが今のこの状況ではそれしか方法が無かったのだ。しかし、その結果は失敗に終わることとなる……
なぜなら時間を戻した瞬間またしても俺の中から何かが失われるような感覚に陥ったからだ。どうやらこれが死の原因となっているようで、これ以上は危険だと思い能力を中断した俺は、今度こそ本当に死んでしまうことになった……
「ん……」
ふと目を覚ました俺は、ゆっくりと起き上がって周囲を見渡してみる。そこは先程までいた森ではなくどこか別の建物の中だったのだが、それでもそこが普通でないことは理解できた。何しろ周囲に広がっている光景というのが……
『ガシャン!ガチャ!』
と、まるでロボットアニメに出てくるような格好をした人間たちによって銃を突きつけられているのだから。
そこでようやく気がついたことがあった。そういえば、確かさっきは変な連中に捕まって……そうか、俺は殺されたのか!?ということはここは天国とか地獄の類なのかと思ったわけだが、その割には殺風景というか……なんというか微妙な場所のような気がした。そもそもなぜこんなところに連れてこられたのかが全くわからないし、それ以前に俺が殺されてしまったことをアリア様は知っているのだろうか?……いや、多分知らないだろうな。
なんせ彼女は今気絶しているはずなのだから……
そこまで考えたところで改めて周囲を見回してみると、俺以外にも数人いることが確認できたのだが全員が武装していることに気がつく。しかも彼らの装備はかなり重装備のようで見るからに頑丈そうな鎧を身につけており、さらには大型の銃まで携帯しているのだ。そんな彼らが俺の方を睨みつけながら話しかけてきた。
「起きたようだな」
その言葉を聞いて反射的に構えてしまうが、相手はそんな俺に構わず話を続けた。
「そんなに身構えなくてもいいぞ。我々は別に君をどうこうしようというつもりはないからな」そういってきたのは一番先頭にいる人物なのだが、他の連中とは違い明らかに雰囲気が違うのだ。というのも彼の着ているスーツや靴などは高級品のように見え、加えてその顔も精悍なものだったのでおそらくは上の立場の人間なのではないかと考えたのである。実際周囲の連中は彼の一挙手一投足に注視しているようだし、何よりも彼から伝わってくる圧倒的な威圧感に押し潰されそうになるほどだった。そのため俺も迂闊には動くことができずにいたのだが、そんな中で今度は別の方から声をかけられることになった。「やあ、久しぶりだね」いきなりそう言われても何のことかわからず戸惑っていると相手は少し残念そうな顔をして言った。
「あれ、覚えてないかい?ほら私だよ。ライアスさ……」そこまで聞いた時点でピンときた。何故ならその声は以前出会ったことのある人物のものだったからだ。とはいえその時は直接会話することはなかったが、俺はその人物のことを一方的に知っていたので名前くらいはわかっていたのだ。だからこそ恐る恐るその名前を口にしたのだが……「……もしかしてアベル・カヴァロか?」そう答えるとその男性は大きく頷きながら答えた。「ああ、そうだとも。あの時は挨拶できなかったからね。だから今こうして会いに来たんだ」そしてそれからも彼は色々と話してくれたのだが、その話によれば俺を助けてくれたのは彼の息子らしいのである。何でも俺が意識を失ってからすぐに連絡を受けて駆けつけてくれたとのことらしく、そのお陰で助かったということだった。またその際に一緒に連れてきた人物がいるということでその人物のことも教えてくれた。ちなみに名前を聞いて驚いたのだが、何とその人はアリア様の婚約者でもあるエヴァンさんだった。さらに他にも護衛としてついてきた人物がいるらしいのだが、今は席を外しているとのことだった。だがそれよりも気になることといえば……そもそもどうして彼らがこんな場所にいるのかということであった。まさか偶然通りかかったなんてことはないだろうから何らかの目的があってやってきたと思うのだが……それについて聞いてみると予想外の答えが返ってくることになる。というのも彼らはとある目的でこの星を訪れており、たまたま俺のいる場所の近くに着陸することになったそうなのである。しかもそれだけではなく、俺を発見したのは彼らだったのだが、その際同行者の一人が俺に見覚えがあったために接触を試みた結果このようなことになっているのだという話だったのである。それを聞いた俺は、正直言って信じられなかった。なぜなら俺には以前に会った記憶は全く無かったからだ。しかし実際に会ってみると何となく見覚えのあるような気がしていたのでもしかしたら無意識のうちに会ったことがあるのではないかと思ったのだ。だが、それを彼らに伝えたところであまり意味はないと考えた俺は結局そのまま何も話さないでいたのだが、その時だった。突然部屋の外から何かが壊れる音が聞こえてきたかと思うと次の瞬間扉が開いて一人の男性が入ってくるなり叫んだのである。
「敵襲だ!」
その直後、俺の目の前で戦いが始まった。だがそれは今まで目にしてきたものとはまるで違ったものであり、それは例えるなら戦争のような光景に思えた。しかも戦っている相手は魔物であり、どう見ても人間同士の争いとは思えない光景だったのだ。そのため思わず呆気に取られていたのだが、そんな俺に声をかけてきた者がいた。もちろんそれが誰なのかは言うまでもなかったのだが、彼に対して何を言えばいいのかわからなかったため無言のままでいると、彼は苦笑しながら言ってきた。
「どうやら驚いているようだね」それに頷くことしかできなかったものの、それで構わないといった感じの反応を見せた後で再び話し出す。「だけど驚くにはまだ早いよ。何せこの戦いはまだ始まったばかりだからね」そう言ってきたのを聞いて改めて戦場へと目を向けてみたのだが、そこで行われていたことは更に信じられないものだった……何故なら、そこには見たこともないような生物が当たり前のように存在しているのだから。
その姿はゴブリンに似ていたが、その身体は全身が鋼で覆われているうえに尻尾が生えていて先端には棘までついていた。さらに口からは鋭い牙のようなものが見え隠れしており、そこから垂れ落ちる涎のせいで周囲は嫌な臭いに包まれていた。
「あれはメタルデビルだね。しかも相当高位の個体だよ」そう語ってきたのはアベルで、彼もその生き物を見たことがあるらしく、過去に何度も戦ったことがあるという。
ただしそれは、あくまでも普通の武器を使用した場合のことであり、魔力でコーティングすることによって攻撃力を増大させることができたり魔法が使えるようになったりと様々な恩恵を受けることが可能となるのだが、それでも倒すまでに多くの犠牲が出ることから上位悪魔と呼ばれているのだという。
そしてこの悪魔の恐ろしいところは、防御力と耐久力だけではなく、攻撃に関しても凄まじいものがあった。
というのもこの悪魔の爪というのはとても鋭く、まるで刃物のような形状をしており、それによって相手を切り刻んでしまうというのだ。
現に今戦っている者達はその攻撃を避けることで精一杯で反撃することさえままならない状況が続いていた。しかしその一方で向こうの方はまだまだ余裕が残っている様子で攻撃を繰り出してくるのだが、それに対してこちらは防御するのに精一杯という状況に陥っており、このままでは全滅するのは時間の問題だというのがわかった。
ただ一つだけ幸いなことがあったとすれば敵が一体だけしかいないという点だろう。もしこの場にいるのが複数体の敵であったなら間違いなく敗北していたことだろう。
とはいえ、現状においてはかなり不利な状況であることに変わりはなくこのまま戦っていてもジリ貧になるだけだと判断した俺は、何とかこの状況を打破できないものかと考え始めていたのだが、そんな時になってアリア様が目を覚ますことになったのである。
「……んっ……」ゆっくりと目を開けた彼女がまず最初に目に映ったのは、見知らぬ天井だった。そのせいもあって最初は混乱していたのだが、それでも段々と冷静さを取り戻していくうちにここがどこなのかということに思い至ることになる。その結果導き出された答えは、どうやら自分はあの森から無事に生還することができたらしいということである。そのことを実感した瞬間彼女の胸の中には熱いものが込み上げてくるのを感じたのだが、それと同時に一つ気になったこともあったので、慌てて周囲を見渡してみるとそこには見覚えのある顔があった。それもかなり見慣れた人物であり、その人物こそ自分が最も信頼している人物であると気がついた時には自然とその名を口にしていた。「アルス!?」すると彼女に気づいた男は笑みを浮かべながら話しかけてきた。「やあ、目が覚めたみたいだね」「あ、あなた、何でここにいるのよ?」当然と言えば当然のことだが、彼女はアルスがどうしてここにいるのかを知りたかった。というのも、彼はアリアが倒れた直後にその場を去って行ってしまったからである。それ故に、てっきり一人で行動しているものだとばかり思っていたのだが、実際はそうではなかったようで、アリアが眠っている間にアルスは戻ってきていたのである。しかも驚くべきことに、その場にいた者たちを指揮して戦闘の指揮を取っていたというではないか!これには彼女も驚かざるを得なかったが、同時に嬉しくもあった。何故なら、彼が戻ってきたということは自分を見捨てずにいてくれたということだからだ。そのためアリアとしては彼に一言お礼を言いたかったのだが、それ以上に気になることが彼女にはあった。それは彼の格好があまりにも変わっていたことにある。以前の彼は、もっと身だしなみに気をつかうタイプだったのだが、今の彼からはそういった部分が全て消えてしまっていたのだ。それこそ別人のように……
そんなことを考えていた彼女に対し、彼は笑みを浮かべてこう言ってきた。「ああ、これかい?いや実はさっきまで戦っていたんだよ。その時に少し怪我をしてね。だから包帯で応急処置をしているというわけさ」それを聞いた瞬間、思わず耳を疑ってしまったが、よくよく考えてみれば彼が嘘を言うはずがないと思い直したのでとりあえず信じることにしたのだが、ここで一つの疑問が浮かんだために質問してみることにした。「それで一体何と戦ってたの?」その質問に対して彼は少し間を開けてから答える。「うーんそうだね……何て言えば良いのかな……簡単に言ってしまえば魔物みたいな存在ってところかな」「魔物みたいな存在……?」彼の言葉をそのまま返すことしかできずにいたのだが、その後にも続けて説明をしてきたのである。「そうだよ。彼らは元々は普通の動物だったんだ。でもある日を境に突然姿が変わったらしくてね。しかも凶暴化して人を襲うようになるらしいんだ」その話を聞いた彼女はあることを思い出した。それは前に聞いた内容だったのだが、その時は聞き流していたせいで詳しいことを覚えていなかったのだが、今なら思い出せるかもしれないと思って聞いてみたのだ。「そういえば、前にも同じような話をしたことがありましたよね?もしかしてそれってこの星の生き物だったりするんですか?」それを聞いた彼は一瞬だけキョトンとした表情になったもののすぐに答えてくれた。
「ああ……その通りだよ。よくわかったね」
「ええまあ……昔少しだけ耳に挟んだことがあったものですから……ところで一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」そこで言葉を区切ると一度大きく深呼吸をしてから再度口を開くと改めて問いかける。
「あなたが先ほど口にした魔物という存在ですが、まさか他にもいたりしますか?」その問いかけに今度は別の反応を返してきた。というのも、何故か笑い始めたのだ。そしてそれがひとしきり続いた後で、ようやく落ち着くと笑いながら答えてくれた。「あはは、すまない。ついおかしくて笑ってしまったよ。何せ君の様子がおかしかったからね。ひょっとして僕が知らない間に何かあったのかなって思ったんだよ。だけどまさかそんなことを聞いてくるとは思わなくてね」「いえ別にそういうわけではないんですけど、何か急に気になってしまって……でも確かに言われてみれば変な質問をしてしまいましたよね?本当にごめんなさい!」そこで改めて謝罪したのだが、それを見たアルスは笑顔で言うのだった。「気にしなくても良いよ。だって君のおかげでこうして戻ってくることができたんだから……だからお礼の一つくらいさせてくれてもバチは当たらないはずだと思うけどね」それを聞いた彼女は思わず赤面してしまうことになったが、その様子を見て更に笑みを浮かべると続けて話しかけてくる。「さてとそれじゃあ話の続きをしようか。さっきも言った通り僕はさっきまで戦っていたんだけど、途中で問題が起きたんだ。何せ敵が増えてしまったもので僕一人ではどうすることもできなくなってね……どうしようかと思っていたらそこへ君がやって来たというわけさ」「私が……?ちょっと待ってください。確か私は森の中で意識を失ったはずですが……」その説明に対してアリアが首を傾げると彼はそれに答えるように説明した。「どうやら覚えていないようだね。だけどこれは事実だよ。実際僕もあの場所に駆けつけた時はびっくりしたくらいだしね。
ただ君は倒れていたわけではなく、気絶していたのさ。しかも魔物たちに包囲された状態でね」
それを聞いて彼女は再び絶句することになった。何故ならその話が本当なら自分が生きていることは不自然だったからだ。何故ならあの時見た限りにおいて自分は間違いなく殺されかけたはずなのである。それなのにこうして生きており傷も負っていないのだからどう考えても辻褄が合わない。だがそこでふとあることに気がつく。「あれ……そう言えば今何時ですか?」「時間かい?それならもうすぐ午後の四時になるところだ」その返答を聞いた彼女は慌てて飛び起きるとそのままベッドから降りようとしたのだが、その瞬間激しい痛みに襲われたため思わず悲鳴をあげてしまったのだが、それを聞いたアルスが慌てて駆け込んできた。「どうしたんだい!」「ご、ごめんなさい。何でもありませんわ」そう言って誤魔化してみたものの彼は誤魔化されなかった。それどころか逆に心配させてしまったようだった。その証拠に彼の表情は真剣そのものだったからである。そのため彼女もこれ以上誤魔化すわけにはいかなくなったのだが、それでも真実を口にするわけにはいかなかった。何故ならばそれを語れば必ず彼を巻き込んでしまうことがわかっていたからである。とはいえこのままだと埒が明かないことも理解していたため彼女は意を決して打ち明けることにした。「……じ、実は昨日の戦いの後、夢を見たんです……」
それを聞いたアルスは訝しげな表情を浮かべたものの特に口を挟むようなことはしなかった。しかしそれとは別に一つだけ気になっていたことがあったらしく問いかけてきた。
「夢だって?どんな夢だったんだい?」その問いにアリアは一瞬口籠ってしまったものの、ここまで来た以上もう隠し通すことはできないと考えたので正直に話すことにした。「信じてもらえないかもしれないですけど、夢の中で誰かが私に語り掛けてきたんですよ。それでそいつがこう言ったのです『あなたはまだ死んではいけない。生きて幸せを掴むべきです』って……」そこまで話したところで一旦言葉を切ると更に続ける。
「最初は何を言っているのか理解できませんでしたが、次第に意識が薄れていく中で何となく理解した気がしたんです。多分あいつの言う通りなのかもしれないって……だけど私のせいでアルスさんや他の人達に迷惑をかけるわけにはいかないのでここを離れようと思ったんですが、その時にまたあいつが語りかけてきたんです」その言葉の意味を理解したのか、アルスは納得したような表情を浮かべて呟いた。「そうか、そういうことだったのか……」「えっ、どういうことですか?」その意味を理解できなかった彼女が問いかけると、彼は苦笑しながら答えた。「さっき言ったことが本当なのか確認しただけさ。それよりもアリア、君に一つだけ聞きたいことがあるんだけど良いかな?」
突然そう聞かれて少し戸惑った彼女であったが、断る理由もなかったのでとりあえず頷くことにした。「はい、何ですか?」「もし良ければなんだけど僕にもう一度君を幸せにさせてくれないかな?」それを聞いた彼女は一瞬頭が真っ白になってしまったが、すぐに冷静さを取り戻すと確認するべく口を開いた。「それは一体どういう意味でしょうか?まさかとは思うが、プロポーズのつもりですか?」その問いに対してアルスは真剣な眼差しで答えるのだった。「勿論そうだよ。ただし今回が初めてじゃない……これで二度目なんだ……」「二度目ですって……?」思わず聞き返す彼女に対してアルスが頷いたのを見て、アリアは驚きのあまり目を丸くしながら呆然とすることしかできなかった。
それから暫くして我に返った彼女が最初に取った行動は頭を抱えることだった。それもそのはずで、よりにもよってプロポーズされるなんて思ってもいなかったからである。そもそも今まで彼からそのようなアプローチを受けたことがない上に、結婚適齢期と呼ばれる年齢にも達していないのだから尚更だ。だからこそ、今回の彼の発言はかなりの衝撃があったのだが、それと同時に嬉しくもあった。何しろずっと恋焦がれている相手が自分のことを好いてくれているのだから無理もない話だ。それ故にアリア自身も色々と考えを巡らせてみていたのだが、やがて覚悟を決めると静かに頷いて言った。「わかりました……あなたと一緒にならこれからの人生を過ごすことにしましょう」それを聞いたアルスは思わずガッツポーズをしてしまったが、すぐに我に返ると謝罪すると同時に感謝の言葉を述べるのだった。「ありがとう、アリア!僕なんかを選んでくれて嬉しいよ!」それを聞いた彼女は照れ臭そうに顔を赤くしながらそっぽを向くとぶっきらぼうに言い放つ。「ふ、ふん!べ、別にあなたの為じゃありませんから勘違いしないでくださいね! ただ私自身のためですから!」それに対してアルスも負けじと言い返す。「わかったよ。そういうことにしておくことにするよ」「え、ええ、そうしてくださいな」そう言ってお互いに微笑み合う二人だったのだが、そこで唐突に扉がノックされると二人の会話が中断されることとなった。「誰だ?」その音に気づいたアルスが声をかけるも返事がなかった為に首を傾げていると今度は別の声が聞こえてきた。「すみません、失礼しますね」そう言いながら扉を開けて部屋の中へと入ってきた人物は何とミネットであった。そして彼女はアルスとアリアがいるのを見ると笑顔で話しかけてきた。「お二人とも目が覚められたようですね。安心しました」そんな彼女に対し、二人は同時に答えるのだった。
「ああ、おかげで助かったよ。どうもありがとう」「助けていただいてありがとうございます」それを見たミネットは小さくお辞儀をすると再び話し始めた。「いえ、私は大したことはしておりませんわ。それよりもお二人にご紹介したい方がいらっしゃるのですが、入室してもよろしいでしょうか?」その言葉に対してアルスは頷くと彼女に告げる。「わかった、入れてくれ」それを聞いた彼女が一礼した後にドアに向かって合図を送ると一人の少女が部屋に入ってきた。そしてその姿を見た途端、アルスはあることに気がついた。「おや?確か君とはどこかで会ったことがなかったかな?」その問いかけに少女は頷きながら答える。「はい、以前に一度だけお目にかかったことがあると思います。もっともその時の記憶は残っていないと思いますが」それを聞いたアルスは何かを思い出しかけたのだが、やはり思い出せなかったので素直に諦めると少女に向かって自己紹介をするのだった。「そうだったんだね。じゃあ改めて……僕の名前はアルストロメリア・カルネヴァル。よろしくね」「よろしくお願いします。私はアリスティア・ラナンキュラスと申します」二人が挨拶を交わす中、その様子を見ていたアリアもまた自分の番が来たことを知ると挨拶をするのだった。「こちらこそ初めまして、アリアと言います」するとそれを聞いてアリスティアが反応を示すと言った。「もしかしてあなたが以前私が出会ったという女性なのですね?実はあなたにお話ししたいことがあったのです。是非聞いてくださいませんか?」そう言われたアリアは彼女のことを見つめながら考えると答えた。「まあ……構いませんが話とは一体どのようなものなのですか?」その質問に彼女が答えるよりも先にミネットが口を挟むと代わりに話し出した。「その話は後にしましょうか。ここで立ち話をしていても仕方がないでしょうし、続きは応接室で行うとしますのでまずはそこへ行きましょう」それを聞いた三人は顔を見合わせると無言で頷くとそのまま部屋を後にすることにした。こうして無事に目的を果たすことができた彼らは一度客間へ向かうとそこで今後について話し合うことになったのである。
第一部 完!!️ いや~なんとか無事終えることができました(*^_^*)
ここまで読んでいただいた皆様本当にありがとうございましたm(__)m さてさてここからは後書きとして作者によるちょっとした解説をしていきたいと思っています(* ́ω`*)
まずは第二部についてですが、こちらはタイトル通り異世界ものとなります。ちなみに主人公はもちろんアルス君になります( * ́ 3`)ノ♪ この第一部の最後で語られたことが関係しているわけなのですが、一応言っておくと本編の内容とも繋がっていたりするので興味があったら是非読み返してみてください( ̄ー+ ̄)ニカッ それでは次ページからネタバレを含みます。それでも構わない方のみ進んでください(>人<;)
まず初めに……このお話を読んでいただきありがとうございますm(__)m楽しんでいただけましたか?もしそうであれば作者としては幸いです!まだまだ文章力が未熟な部分もあるかもしれませんがこれからも頑張りますので応援していただけると嬉しいですo(〃^▽^〃)oでは次に第二部の予告をしたいと思います(/・ω・)/今回は主人公たちの過去が明らかになりますよ~♪果たしてどんな出来事が起こるのか!?次回からはいよいよ第二部スタートです☆どうぞお楽しみに( * ́3`)ノ 第一章〜プロローグ編【出会い】
僕は物心ついた時から孤児院にいた。理由はわからない。だけど僕が生まれて間もない頃に両親は亡くなったらしい……というのも僕には記憶がないからだ。それに何故捨てられたのかもわからない……唯一覚えているのは名前だけだ。でもそれを言うとみんな僕のことを哀れんだ目で見てくる。それが堪らなく嫌だった。だからいつも院長先生や周りの大人達には愛想笑いを振りまいていた……だってそうすればみんなが笑ってくれるんだから仕方ないよね?なのにそのせいか同年代の子供からは距離を置かれるようになっていつの間にか独りぼっちになってしまったけど別に寂しくはなかった。何故なら僕には本があったからね……本の世界の中ではいつだって友達ができたし魔法を使って冒険することだってできたんだ。だから僕は幸せだった……そうあの日が来るまでは…………それは今から五年前のことだった。いつものように朝起きると珍しく他の子供達がいないことに気がついた。
(珍しいな……いつもは騒がしいくらい賑やかなのに)そう思いながらも僕はいつも通り読書をしていた。だけど途中で気になることがあって本を一旦閉じると椅子から降りて本棚へと向かった。
「……確かこの辺に置いてあったはずなんだけど……あれ?ないな……どうして?」いくら探しても見当たらない。そんなはずはない……確かにこの辺りに置いたはずだ……そう思って辺りを見回すとテーブルの上にあったのを発見した。しかしそれを見て思わず固まってしまった……そこには『世界を救った魔法使い』と書かれた絵本が置いてあったのだ。そして表紙に描かれている絵を見て思い出した。この本は自分の宝物だったということを……何故ならこれは両親が買ってくれたものだったのだから……そこで不意に背後から気配を感じたので振り返ってみるとそこに見知らぬ男が立っていた。年齢は20代後半といったところだろうか……背格好からしておそらく冒険者だろうと思われるその男は僕に気がつくと声をかけてきた。「やあこんにちは。ところでこんな所で何をしているんだい?」突然のことに驚いてしまい暫く言葉が出なかったのだが、やがて冷静さを取り戻すと彼に話しかけた。「あ、あのすみません!ここにある本を読んでいたのですがその途中で見当たらなくなってしまって……もしかしたらここじゃないかと思ったんですけど、やっぱり違ったみたいです」それを聞いた男は笑みを浮かべるとこう言った。「なんだそういうことだったのか。だったら心配はいらないよ。君が探していた本はこれかい?」そう言いながら手に持っていた本を僕に見せてきたのだった。
それを見た僕はすぐさま駆け寄って手に持つと何度も確認をした。間違いない!間違いなくこれだと思った。そう確信した僕は興奮のあまりつい男に問いかけてしまった。「あっ、あの!この本って一体どこにあったんですか!?」そう問いかけるも相手はただ微笑むだけで答えてくれなかった。「そんなことより良かったね。大切な物が見つかって」それに対して頷くことしかできなかったのだが、すぐに大事なことを聞いていないことに気づいた僕は慌てて質問した。「そういえばまだ名乗っていませんでしたね。僕の名前はアリアといいます。あなたは?」その問いかけに男は少し考えた後で答えてくれた。「私の名前はアルスだ。よろしく頼むよ」これが僕とアルスさんの初めての出会いだった。
あれから二年が経過したある日、僕は孤児院の近くの草原で剣の稽古をしている時にそれは起こった。突如何者かの魔力が近づいてくるのを感じ取った。「ん、誰か来るみたいだな……」その直後現れたのは全身をローブで覆った二人組の男であった。一人は体格のいい男性でありもう一人は少し小柄な男性である。見た目から判断して年齢的には10代後半といった感じであろうか?とにかく彼らが何者なのか気になったため声をかけることにした。すると彼らもまた驚いたようで一瞬硬直してしまったようだ……だがすぐに我に返ると大柄な男が話しかけてきた。どうやら二人は兄弟のようだ。兄はダンという名前らしく、弟の方はバジルというらしい。二人と会話しているうちに僕はあることに気がついた……それは彼らがどこか怯えているように見えたことである。その理由については結局わからなかったのだが、しばらくして彼らの表情が和らいでいたので恐らく緊張を解いただけなのだろうと思うことにした。その後僕たちはしばらく他愛もない話をしていたのだが突然ダンさんがある提案をしてきた。その内容を聞いた時はとても驚き、そして同時に嬉しかった。というのも、まさか彼が僕達が住むことになる屋敷の持ち主だということがわかったからである。
それからというもの、彼らは度々孤児院を訪れてきてくれたので僕も次第に仲良くなっていった。最初はとても戸惑ったものだが、今では本当の兄のように慕っている。特に仲良くなったきっかけは、やはりアルスさんの存在が大きかったといえるだろう。何せ彼との出会いは衝撃的だったからな……なんせ初対面の時に「アリア……僕の妻になってくれ」と言われたんだからな!当然のごとく断ったわけだが、それ以降も会う度に同じようなことを言ってくるので正直うんざりしている……だけど悪い人ではないので邪険にするわけにもいかないし本当に困っているところだ……え?そんなことで困ってるのかって?ああそうだよ!僕は本気で悩んでるんだよ!というか君たちならわかってくれると思っていたんだがな……そうか、そうだよな……すまない、変なことを言って混乱させてしまったようだ。話を戻そう、実は先程も言ったように彼らと出会ったことで僕達は屋敷に住まうことになったのだ。そしてそれと同時に新たな生活が始まることにもなる。というのも屋敷に住むことになったのは僕達だけではなく、他にも数人いるのだがその者達とはまたいずれ会うことになるだろうからここでは割愛することにしよう……ではそろそろ話に戻ることにするか……といってもこれ以上話すこともないのだが、まあとりあえず簡単に纏めておくとしよう。というわけで以下本編へと続く……という形になりますm(__)mちなみに作者はアルス推しですのでその辺りのことも考慮した上で楽しんで読んで頂けると嬉しいです♪それではまたお会いしましょう! 第一章〜プロローグ編【再会】
とある日の午後のこと……アリスティアがふと疑問に思ったことを口にしたことにより二人の過去にまつわる物語が再び幕を開けることになるのだった……
第一部 完!!️ 第一部完結までお読みいただいた皆様ありがとうございます(*^_^*)いかがでしたでしょうか?面白かったですか?少しでも面白いと思ってもらえたら嬉しく思いますo(〃^▽^〃)oでは次に第二部についてお話させていただきたいと思います☆第二部は主人公たちが18歳になった時のお話となります。内容としては今まで以上に冒険をする感じになり、魔王との戦いなども繰り広げていく予定となっております。そのためかなりのボリュームになると思いますので是非楽しみにしていてくださいませ☆※一応ネタバレを避けるために今回は第二部についてのお話のみに留めておきますm(__)mご了承ください(>人<;)最後に改めてですがここまで読んでいただきありがとうございました( ̄ー+ ̄)ニヒィこれからも頑張って書いていきますのでどうぞよろしくお願いいたします!以上作者でした(*・ω・)ノシ あの出来事の後、アリア達はライアスを家まで送り届けることにした。しかし、ここで予想外の出来事が起こった。なんと道中魔物に襲われてしまったのだ。幸いにも敵の数はそこまで多くなかったのでなんとか退けることができたのだが、このままではキリがないと判断した彼らは一度町へ戻ることに決めたのだった。
「ふぅ~やっと終わったね」ミネットが一息つきながらそう言うとアリアは苦笑いを浮かべながら答える。「そうですね、一時はどうなることかと思いましたがこれでひとまず安心できそうです」そう言っている間に町の門が見えてきて安堵したのか、アリアの表情には笑みが浮かんでいた。だが次の瞬間にはその表情を真剣なものへと変えるとこう口にした。「ミネットさん……もし良ければこのまま私と一緒に来てもらえませんか?」その言葉にミネットは一瞬驚いたような表情を浮かべたものの、直ぐに微笑みを浮かべるとこう答えた。「うん……そうだね。本当はずっと気になっていたんだけど今のアリアちゃんを見ていたらなんだか大丈夫だと思えるようになったよ……でもどうしてそう思ったの?」その問いに対してアリアが真剣な表情を崩すことなくこう返した。
「実は私達がここに来た理由なんですが……もしかしたらもうご存知かもしれませんが以前、勇者様が訪れたという記録が残されている町がありまして……そこならもしかするとミネットさんを治すことができるかもしれないと考えたんです」それを聞いたミネットは驚愕すると共に困惑した表情を浮かべていた。何故なら彼女の予想が正しければおそらく自分はこの町に置き去りにされるのだろうからだ……しかしそれでも彼女は諦めなかった。なぜなら彼女にはまだアリアに伝えていない秘密があったからである。だから勇気を出して問いかけたのだった。
「……ねぇ、私が病気だっていつ知ったの?」それに対してアリアはすぐには答えなかった。いや、正確にはどう答えるべきか迷っていたのだ。「実はあなたが倒れているところを見かけた時からずっと疑っていたんです……」そこで一旦言葉を切ると今度は申し訳なさそうな表情になりながらこう言った。「勝手にごめんなさい……どうしても気になって仕方がなくて」それに対してミネットは首を横に振った。そして笑顔でお礼を述べた。
「ううん、いいんだよアリアちゃん……寧ろこっちの方がお礼を言わなきゃいけないくらいだから」そう口にしてから何かに気づいたのかハッとした表情でこう言った。「あっ!もしかしてそれが理由でさっきあんなことを言ったの?」それに対してアリアは静かに頷いた。
「ええ、その通りです……それで一つ質問なのですがあなたの病を治せる可能性を持つ人物に心当たりはありませんか?」その問いかけにミネットはしばらく考え込むとやがて申し訳なさそうに首を振った。「ごめんね、私には全くわからないや」それを見たアリアは思わず項垂れてしまった。そんな彼女を見たミネットは慌ててこう続けた。「でもね一つだけわかったことがあるよ!」その発言を聞いて顔を上げると続きを促した。すると彼女は嬉しそうな顔で言った。
「私の命はもう残り僅かなんだってことがはっきりと理解できたよ……だから私ね今とても幸せなんだ……」それを聞いた瞬間、何故かアリアの目から涙が溢れてきた。慌ててそれを拭おうとしたのだが、その時初めて自分が泣いていることに気がついた。それ程までに感情が揺さぶられたのだと思った時には自然と口を開いていた。
「大丈夫です……私は必ずあなたを幸せにしてみせますから!」それは心からの叫びであった。だがそれに対しミネットは首を横に振って答える。「ありがとう……その気持ちだけでも嬉しいよ」しかしその言葉を聞いてもアリアの表情は変わらなかった。「いいえ、絶対にそんなことはさせません!だから約束します!いつかきっと私があなたを助けてみせると!」そう言いながら右手を差し出すとミネットはその手を握った。
そして二人は誓い合う……例え何があろうとも決して諦めることはせず共に生きていくことを誓うと……こうしてこの日二人は新たな決意を胸に刻み込んだのである。
それから数日後、アリア達が滞在している町から少し離れた森の中にある小さな小屋にて二人の人物が話をしていた。一人は椅子に座りもう一人は椅子に座った状態で向かい合っているという状態だった。
最初に口を開いたのは椅子に座っていた女性の方である。「そうかい……それじゃああの町に例の娘が住んでいるのは間違いないということだね」それを聞いた男は小さく頷くと肯定の言葉を口にした。
「ああ、その通りだよ……それにしてもまさか生きていたとは……てっきり死んでいるものかと思っていたが……まあそれならそれでいいさ……今度こそこの手で殺すだけだ……ふふふ」不気味な笑みを浮かべながらそう口にする男を見てもう一人の女性はため息をついた後で呆れた顔をしながらこう尋ねた。「相変わらずだな……まあいいけどさ……それよりも本当にあの娘を生かしておくのかい?今ならまだ間に合うと思うよ」それに対して男も呆れたような表情をすると首を左右に振りながら返答した。「それはこっちのセリフだ……君こそ何故そんな生温いことを言えるんだ?あの時確かに止めを刺さなかった君が今更何を言う……まあ、君の気持ちもわからないでもないが……ただ俺は違う……奴は俺の手で必ず殺すと決めたんだよ!だから邪魔だけはしないでくれよ」それだけ言うと椅子から立ち上がった。
その直後のことであった。不意に扉が開き何者かが中に入ってきた。そして男の姿を見るなり嬉しそうに声をかけた。「やあ、ここにいたんだね♪僕だよ、覚えているかい?」その言葉を聞いた途端男の顔色がみるみるうちに変わっていく。どうやらその人物とは面識があるようだ。「貴様!一体どうやってここに現れた!ここは俺とあいつ以外知らない場所だぞ!」それを聞いてもなお、彼は笑みを浮かべたまま近づいていき目の前に立った。
それから数秒後、男は突然呻き声をあげ苦しみ始めた。まるで何かに締め付けられているかのように……そんな彼に向かって目の前の人物は優しく問いかける。「苦しいよね?わかるよその気持ち……だからそろそろ楽になってもらおうかな」そう言うと彼の体に右手をかざした。次の瞬間だった。「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ!!」突如として男が悲鳴をあげると同時にその場に倒れこんでしまった。そしてしばらくして意識を取り戻すと目の前にいる彼に対し恐怖に満ちた眼差しを向ける。それに対して彼は満面の笑みでこう告げた。
「それじゃあ始めようか♪」
というわけで第一部完結です(* ́∀`)第二部からは本編へと突入いたしますので是非お楽しみください☆それと作者的には今回のような終わり方が好きなんですが皆さんはどうでしょうか?ちなみに今回は一話完結という形にしました!理由としてはこの話は前々から書きたいと思っていたものでしたので早く皆様にお見せしたいという思いがありました。なのでこのような形を取らせていただきましたm(__)mでは次に今後の予定についてですが、とりあえず次回は第二部プロローグ編ということで主人公達の過去について触れていきたいと思っていますのでよろしくお願いします(>人<;)また、その際に主人公の現在のステータスを開示しようと思うのですが正直どのくらいがいいのかわからず困っております。もしよろしければアドバイスなどいただけると嬉しいですo(〃^▽^〃)oではまたお会いしましょう!! 第二章〜再会【序】
1人の少年が森を駆け抜けていく。その後ろからは黒い何かが迫ってきていた。少年は後ろを振り返ると大声でこう叫んだ。「くっ!このままでは追い付かれる……仕方ない、この辺りで一度身を隠そう」そう言うと近くにある茂みの中に入り息を殺しじっと待つことにした。暫くしてから再び走り出し近くの洞窟の中まで入るとようやく安堵の表情を浮かべることができた。
その後、少年ことアリスティア・レイティスは改めてこれまでの経緯を思い出していた。事の始まりは今朝の出来事に遡る……朝食を食べ終えた彼女はいつも通り魔法の訓練をしようと思い屋敷の裏の森へ向かおうとしていたのだが玄関先で父であり屋敷の主でもあるアルフレッドに呼び止められたのだ。この時彼女が真っ先に抱いた感想は面倒だというものだった。なぜならこれから行こうとしている場所が自分にとって最もお気に入りの場所でもあるからだ。勿論そんなことを口にすればどうなるかなんてわかっているため口外するつもりは毛頭なかったが、それでもやはり残念には思うのであった。
とはいえ無視するわけにもいかず結局渋々ながらもついていくことになったのだがここで更なる悲劇が起こることになるのだった。それは彼女の護衛役を務める騎士であるロゼットが一緒に行くと言い出してきたのだ。これにはさすがの彼女も反対しようとしたが時既に遅し……気づいた時にはすでに馬車に乗り込んでいたのだ。それから間もなくして彼女は後悔することになる……なぜなら、目的地へと向かう最中もひたすら話しかけられ続け全く気が休まらなかったからだ。
しかも困ったことに相手は自分の好みを知り尽くしていた上に話が上手くついつい引き込まれてしまいそうになるのだから性質が悪いというものだ……そのため何度も逃げ出そうと思ったもののその度連れ戻されてしまうものだからもはや逃げる気力すらも失ってしまったというのが正直なところだ。
そうして数時間後……遂に目的の場所へと辿り着いた彼女達は早速魔法の特訓に取り掛かったわけだがすぐに異変が起こった……というのも急に魔物の大群が現れたからである。それもかなりの数だったので最初は驚きのあまり言葉を失った彼女だったが、すぐに気を取り直すと急いで戦闘準備を始めた……しかしその時、どこからか声が聞こえてくるのを感じたかと思うと突如巨大な影が目の前を覆い尽くしたかと思えば瞬く間に辺り一面を覆ってしまった。それにより完全に逃げ場を失ってしまった彼女達は完全に追い詰められてしまったのだが何故か敵はそれ以上襲ってこようとはしなかった。その様子を見ていた二人は一体何が起こっているのか理解に苦しんでいたのだが、やがてあることに気がつくと同時にその正体に気づき愕然となった。なんとそこにいたのは一匹のドラゴンだったのである。そこで最初に口を開いたのはアリスティアだった。
「どうしてこんなところにドラゴンがいるのですか?」その問いに答えたのは同じ馬車に乗っていたはずのロゼットではなくいつの間にか隣に立っていたメイド姿の女性であった。見た目はかなり若く見えるのだが、実際にはかなり年上であることは知っていた。そんな彼女の名前はアリア・メルノリアといいアリスティア専属のメイドとして長年仕えてきた人物でもあった。そんな彼女は今何が起きているのかわからないと言った表情で首を傾げている。どうやら本当に何も知らされていないらしい。それを見たロゼットは思わずため息をつくと説明をすることにした。といっても簡単に説明しただけなのだが……それを聞いていた彼女は納得してくれたらしく頷いてみせた。だがその表情には若干の困惑の色が見て取れたのでおそらく信じてはいないだろう。ただ今はそんなことを議論している場合ではないと判断したようで、気持ちを切り替えて再び真剣な表情に戻るとアリスティアに対して問いかけた。「お嬢様……いかが致しましょうか」するとそれに答えるかのように彼女はドラゴンの方を指差した。それを見てロゼットはすぐに意図を理解すると後ろに控えていた騎士たちに指示を与えるべく口を開いた。
それから数分後、ようやく準備が整ったらしく騎士団長のロイドを筆頭に次々と馬に乗って現れたのだがその顔には疲労感が色濃く浮かんでいた。恐らく相当な数の敵を相手にしたのであろうということが容易に想像がついたが、そんな彼らにも休む暇を与えずにすぐさま指示を出していくと全員が配置につくのを確認した後で号令を出した。「これより総攻撃を仕掛ける!皆のもの決して油断するな!」その言葉に皆が返事をするなり攻撃が始まった。それを皮切りに一斉に突撃していく騎士達だったがアリスティアはその様子を見ることなくアリアに話しかける。「それでは私達も行きますよ」そう言って歩き出そうとした彼女を慌てて引き留める者がいた。言わずもがなその相手はアリアである。「お待ちください!一体何処に行くおつもりですか?危険ですのでここにいてくださいませんか?」懇願するような眼差しで見つめるアリアに対しアリスティアは小さく首を振ると静かにこう告げた。
「すみませんがそれは出来ません……」それを聞いた途端思わず頭を抱えてしまった彼女だったのだがすぐに気を取り直したのか顔を上げると強い口調でこう言った。「どうしても行くと言うのであれば私を連れていって下さい」しかしその言葉を予想していたかのように即座に否定の言葉を口にすると今度は諭すように話し始めた。
「あなたは駄目です!私なら大丈夫ですから……心配しなくても大丈夫ですよ、だからここに残っていて下さい」それでも尚、引き下がろうとしない彼女に苛立ちを感じたアリスティアはついに怒鳴ってしまう。「いいからさっさと行きなさい!」突然の大声に驚いた様子の彼女だったがすぐに我に返ると申し訳なさそうに頭を下げるとそのまま森の中へと姿を消していった。そしてその場に残された彼女は一人考え事をしていたのだが突然あることに気がついた。それは先程まで目の前に広がっていた森が跡形もなく消えていたことだ。いや、正確には木も草も全てがなくなっていたのである。
「これはいったいどういうことでしょう?もしかして私の知らない間に新たな魔法を開発してしまったのでしょうか?……だとしたらとてもすごいですね!さすがは私の可愛い妹です♪」どうやらこの状況を作り出したのが自分の弟子だと気づいていないようだ……というよりむしろ気づかない方がおかしいと思うのだが、きっと彼女の中ではまだ幼い少女のままなのだろう……それがいい事なのか悪いことなのかわからないところがなんとも微妙なところだ。
とはいえこのまま放置しておくわけにはいかないと考えたのだろう。仕方ないといった様子でため息をつくと自分も後を追いかけようとした……まさにその瞬間の出来事だった。突然、頭上から声が聞こえたかと思うと目の前に何者かが姿を現したのだ。そのことに驚いたアリスティアは後退りをしながら相手の姿を確認すると警戒しながら問いかけてみた。「あ、あなた誰ですか!?」その問いかけに相手が答えるよりも早く別の声が耳に届いたので咄嗟にそちらの方に視線を向けるとそこにいたのは黒い髪をした男性であった。そしてその傍らには見覚えのある人物がいた。
「おや、君は確かあの時の……なるほどそういうことだったのか……だったら話は早いな」男は何か納得した様子だったが今の彼女にはそんなことはどうでもよかった……何故ならその男性があまりにも異質な雰囲気を醸し出していたからである。しかしいつまでも呆けているわけにもいかないと思ったのだろう……彼女は勇気を振り絞り話しかけてみた。「えっと……貴方はいったい何者なんですか?それとそこにいる方は一体誰なんでしょうか?」すると男性はニヤリと笑みを浮かべた後でこう告げるのだった。
「……初めましてだね……僕の名はアーサー・ルーベンス。この世界で最も力を持っている人間さ……君の名前を教えてもらってもいいかい?」
アルスの過去については本編の方で書いていこうと思っているので、気になる方はもう少し待ってもらえると幸いです。また、その際に第一部における重要な伏線なども幾つか張ってあるのでその辺りにも注目していただければと思います(* ́ω`*)というわけで次話以降は第二部に入っていきますのでよろしくお願いいたしますm(__)mでは皆様、またお会いしましょう!! 第二章〜再開【前】
1人の男が空を見上げながら佇んでいる。その瞳に写っていたのは今にも消え入りそうな三日月だった。ふと彼は自分の右手へと視線を移す。するとそこには小さな傷が幾つもついていた。どれも致命傷とは程遠いものだがそれでもそれなりに深い傷である。それだけ彼が命懸けの戦いをしていたことを物語っているのだった。
暫くして我に返った彼は辺りを見回すと再び視線を戻した。その視線の先には無数の死体の山が転がっていた。その数は百を軽く超えていた。そのことからいかに激しい戦いだったかがうかがえることだろう……その証拠に今もあちこちからうめき声のようなものが聞こえてくるほどだ。
そんな光景を見ながら彼、アドル・オルフィスが呟くようにしてこう言った。「やはり僕はまだまだのようだね……」するとそれに応えるようにして一人の女性が近づいてきた。彼女は彼の部下であり仲間でもあるルミエという女性だ。彼女の姿を目に止めるなり小さくため息をつくとこう問いかけた。「やっぱりまだ気にしているんですか?あれは仕方がなかったと思いますよ」
それに対してアドルは何も答えようとしなかった。それを見たルミエは困ったような表情を浮かべると更に続けた。「そんなに落ち込まないでください……確かに結果は散々でしたけど、こうして無事に生き残れただけでも奇跡に近いと思うべきなんですよ……それなのにあなたが落ち込んでしまったら、私はどうすればいいんですか?」それを聞いて少し気が楽になったのか、表情こそあまり変化はなかったがそれでも先程よりは少しだけ明るい声で答えた。
「ありがとう……そうだね、いつまでもクヨクヨしていたって何も変わらないものね……それにもう済んだことは忘れることにしようかな、その方が精神衛生的にもいいだろうしね……それで早速なんだけどこれからどうしようか?とりあえず拠点に戻るのもありだけどせっかくだから何処か他のところへ行ってみないかい?」その言葉を聞いた瞬間、ルミエは目を輝かせた。そして次の瞬間には勢いよく首を縦に振ると小さく微笑んだ。
それから数時間後……二人は王都まで戻ることにしたのだがそこで思わぬ出来事に遭遇することになる。それは魔物に襲われた商人を助けた時のことなのだが、実はその時に助けた相手が王国に仕える騎士団の一人だったのだ。つまり二人は彼らにとって恩人にあたる存在となったわけなのである。そんなわけで是非お礼をさせて欲しいということで彼らは今、王城の中にいた。ちなみに何故彼らがこのような場所にいるかというと……理由は簡単だった。なぜなら彼らの格好を見た兵士の一人が勝手に国王へ報告してしまったからである……もちろんこれには理由があるのだが、それはここでは置いておくことにする。そうして案内されたのは謁見の間と呼ばれている場所なのだがそこに辿り着くなり二人の足が止まることになった。それもそのはず、何故ならそこにいた人物はこの国の王であるライアス本人だったからだ。流石に驚きのあまり言葉を失っている二人をよそに、当の本人は至って平然とした態度で声をかけた。「やぁ、久しぶりだね。元気にしてたかい?それにしてもまさか君達がこんなところにいるとは思いもしなかったよ」そう言って笑顔を見せる王様に対し、アルスは苦笑いを浮かべながら挨拶を交わすと軽くお辞儀をした。それを見たロゼットもそれに続いて挨拶をすると再び顔を上げた。するとそこには何やら含みのある表情をしたライアスがいた。それに気づいた彼女が首を傾げてみせると彼は笑いながらこう告げた。
「いやいや、すまない……どうやら僕が思っていたよりも随分と成長したみたいだと思ってね、これは実に喜ばしいことだよ。ただ一つだけ気になった点があるとすれば君の隣にいる美しい女性のことが全くわからないということだね……」そこまで言ってから今度はアドルの方へと視線を向けてきた。するとそれを敏感に察知したアルスが慌てたように二人の間に割って入るとその行動によってライアスの視線は再びアドルへと戻ったわけだがそれと同時にあることを悟った彼は小さくため息を漏らすと改めて彼に問いかけてみた。
「……ところで君の名前はなんていうのかな?」突然の質問に驚いたのか目を丸くしている様子を見るとどうやら予想外の質問だったらしい。それでも何とか気を取り直したのか姿勢を正すとしっかりと自己紹介を始めた。
「あ、えっと……僕の名前はアーサー・ルーベンスと言います!そしてこちらはロゼット・アストネさんです!」
「うん、よく出来たね……それじゃあ僕も名乗らないわけにはいかないな……僕の名前は知っての通り、ライアス・ベルゼリオでこの王国の王様をやっているよ。どうぞよろしくね♪」それから暫くの間、他愛もない会話をした後で本題に入るべくアドルが話を切り出した。というのもこの場に来た本来の目的を忘れてはいけないからだ。しかしそれはどうやら無駄になってしまったらしい……そう感じたアルスが残念そうに肩を落とす一方でアリスティアの方はといえば何故かご機嫌斜めの様子である。その理由を問いかけるよりも早く、彼女が先に口を開いた。
「私なら大丈夫ですよ……ですから気にしないで下さい」どうやら一人で行こうとしていることに気がついていたらしい。とはいえ、こればかりは仕方がないことだ……なにせ相手は国で一番強いと言われている男なのだから……そんなことを考えていると不意にライアスの視線が自分に向いていることに気がついたので不思議に思っているとなんと彼から声をかけられてしまったのだ。
思わず返事をしてしまいそうになったものの慌てて口を噤むとなんとか誤魔化そうとしたがすぐに無駄だということを悟ってしまった。何故なら明らかにこちらを観察していたからだ。そんな彼の様子に観念した様子のアドルが小さくため息をついてから返事をすることにした。
「わかりました……それなら二人で行きますね」
そう言ってから再びアリスティアの方へ視線を向けると彼女に優しく話しかけた。「そういうわけで僕だけ行ってくるよ……その間、君はゆっくりと休んでおくといい……それに、どうやらその方がいいようだしね……」それを聞いた彼女は嬉しそうに微笑むと大きく頷いた。それを見てホッとした表情を浮かべた後、最後に彼女に向かって微笑みかけてから歩き出した。
二人が去った後の室内では重苦しい空気が漂っていた……それは別に先程のことが原因ではないということは全員がわかっていた。そもそもそんなことでこの雰囲気にはならないだろう……何せ先程まではあんなに和やかな空気だったのに今ではすっかり変わってしまっていたのだから……その理由はただ一つ、アドルに見惚れているアリスティアの存在が原因であった。そんな彼女のことを睨みつけるような視線で見つめるアーサーであったが今は無視することにしたようだ。やがて彼の姿が見えなくなると同時に大きなため息をつくと共に肩を落とした……それが何を意味しているのかを理解出来る者はほとんどいなかったことだろう。いや、唯一理解していなかった人物が一人いたのだがそのことに気づいたのは彼の口からその名が出た時だった。
「やれやれ……僕の勘も衰えてしまったみたいだね……まぁ、何にせよ君には悪いけど彼との勝負は僕の勝ちってことでいいかな?」するとその人物は不敵に笑うとこんなことを言ってきた。
「あら、まだわかりませんわよ?だってアドル様は貴方よりもお強いのですから……」それを聞いたアーサーは一瞬だけ顔をしかめたが、すぐに笑みを浮かべるとこう言った。
「なるほど……そういうことか、わかったよ。君がそこまで言うなら仕方ないからね……僕は潔く身を引くとしようじゃないか」だがそんな言葉とは裏腹にその表情はどことなく嬉しそうだった。もっとも本人はそのことに気づいていないようだが、それを察したのだろう。ルミエもまた笑顔を浮かべながら頷いてみせた。こうして暫くの間は平穏が続くことになるのだった……
その一方、アドル達は城を出ると馬車に乗って王都を出ることに決めたのだがその行き先について話し合っているところだった。本来であれば馬を走らせて直接魔王のいる場所まで向かうはずだったのだが、生憎近くには馬が見当たらなかった為仕方なく馬車を使うことにしたのだ。そんな中、アルスが思い出したかのようにこう口にした。
「そういえば僕達って何処へ向かっているのか聞いてませんでしたよね?」
それを聞いて一瞬、キョトンとしてしまったルミエだったがすぐに笑顔を作るとこう答えた。
「目的地はですね、あの山脈を越えた先の地にあるんです」それを聞いてアドルは納得がいったような表情を見せると再び考え込み始めた。何故なら彼が考えているのは自分達だけで魔王の所まで辿り着けるのかということだった。普通に考えれば無理であろう……しかし、だからと言って引き返すわけにも行かない。そんなことを考えて悩んでいる彼に向かってルミエが問いかけた。
「どうかなさいましたか?」その言葉に我に返ったのか顔を上げると申し訳なさそうに答えた。
「あぁ、いえ……大したことじゃないんですけど……これからどう進むべきかを考えていて……」その言葉を聞いて彼女は納得したように頷くとこんな提案を持ちかけてきた。
「それなら私が空から案内しますよ……ちょうどあそこからなら道が開けていますし丁度いいと思います」
そう言うと空を指差すようにして上を指差した。それに対してアドルは最初こそ戸惑っていた様子だったが最終的には彼女の意見に従うことを決めたらしく、そのまま任せることにした。それからしばらくして馬車を走らせること一時間ほど経過したところで急に止まったかと思うと目の前に広がっていたのは先程と同じような光景が広がっていたのだが一つだけ違っていたことがあった……そこには今まで見たこともない程の巨大な門が立ち塞がっていたのである。
「これは……凄いね」
思わず声を漏らしてしまうほどの衝撃だったのだろうか……しばらくの間、言葉を失ったまま立ち尽くしている彼を見て苦笑を浮かべながらも声をかけた。
「さて、それでは行きましょうか……ここにいても仕方ありませんからね」そして二人は門をくぐり抜けるとその中へと入って行ったのだが、その先にあったのは広大な草原が広がるばかりで他には何も見えなかったのだ。これには流石に二人共驚いていたようではあるがアルスはすぐさま周囲を見渡すと何かに気がついたようで指差した方向に目を向けると笑みを浮かべた。どうやら何かがいるらしい……それも一つや二つではない……恐らく数にして百匹近いだろう……それに気がついた瞬間、彼等の表情が一変するのがわかった。
「ねぇ、あれってまさかゴブリンだったりするのかな……?」恐る恐る聞いてみるとその予想通りだと言わんばかりに返事が返ってきた。つまり彼らは目の前にいる相手から命の危機を感じているということになる。その証拠に額に汗が滲んでいた。だがここで逃げ出すわけにもいかないと考えたアルスが一歩前へと踏み出した。その直後、一斉に動き出したゴブリン達が襲いかかってきた。それを迎え撃つ為に構えをとったアドルだったのだがそんな彼の前に躍り出たのは意外な人物であった。何と彼女は懐から小さな箱のようなものを取り出すとその中から取り出した何かを口に加えて火をつけると勢い良く吹き出すように息を吸うと次の瞬間には凄まじい勢いで煙を吐き出し始めたのだ。そのおかげで視界が塞がれてしまい思うように身動きが取れなくなってしまったゴブリン達ではあったが、アドルはその隙を狙って一気に攻撃を仕掛けた。それは以前と同じように魔法で作り出した風の刃なのだが今回は大きさを変えており、その結果として一度に数十匹の敵を薙ぎ倒すことに成功した。それを見たルミエは思わず拍手をすると共に褒め称えたが当の本人である彼は恥ずかしそうに頭を掻く仕草をしていた。その様子を見る限りあまり喜んではいないようなのだが……まぁいいだろう。
それよりも気になっていることがあるからだ。というのも、あれだけ大量のゴブリンがいたにも関わらずあっという間に全滅させてしまったことに対して疑問を覚えたからである。確かにこれだけの数の敵がいる以上、多少時間が掛かるかもしれないとは考えていたがそれにしても早すぎると思ったのだ。それだけならまだしも、今の戦闘によってかなり消耗したにもかかわらずまだまだ余力があるように感じられるので尚更不思議な感じになっていた。
それはそうと煙が晴れてきたところで改めて見渡してみたのだが特にこれといって変わったところはないようだった。そこで少し安心していたのだが突然アルスがこんなことを言い出した。
「どうやらまた何処かへ連れて行かれるようですね」それを聞いたルミエが慌てて周囲を見てみるとすぐにわかったことだが先程の煙幕でわからなかったはずの洞窟のような場所がそこにあり、まるで二人を歓迎するかのようにその入り口は大きく開かれていた。それを見てしまった彼女は驚きを隠せずにいたものの、同時にあることを思っていた。
(もしかしてこの先にいるのが例の魔王なんでしょうか……?だとしたら私達二人だけでは勝てないでしょうね……ここはやはり引き返して誰かに協力してもらうしか方法がないみたいです……)そして意を決して振り返った彼女が見たものは先程まで一緒にいたはずのアドルの姿ではなく、別の人物が立っていたのだ。それは間違いなくアドル本人なのは間違いないのだろうが、どこか様子がおかしいことに気づいた。いや、それどころか何故ここにいるのかがわからなかったのだ。そう、そこにいる人物は彼女よりも年下にしか見えない少年だったからだ。
そのことについて質問しようとするよりも早く、少年の口が動いたことで驚いてしまうと同時に固まってしまったのだがそれでも何とか勇気を振り絞って声をかけることが出来た。「あ、あの~すみませんが貴方はどちら様でしょうか?私の知っている方と同じ顔なのでつい声をかけてしまいましたけど人違いでしたら申し訳ないんですが……」その言葉を聞いても少年は黙ったままであったが不意に笑い始めるとこんな答えを口にした。
「ふふっ、何を言っているんだい君は……まぁいいさ……そんなことよりも僕と遊んでくれないかい?」そう言ってきた直後のことだった。なんといつの間にか距離を詰められていたようで気がつくと既に目の前まで迫っていたのに彼女は全く反応出来なかったのだ。その為、防御すら取れず相手の攻撃をまともに食らってしまうと後方に大きく飛ばされてしまったが、何とか受け身を取ることに成功すると急いで立ち上がり剣を構えると共に相手の方へと視線を向ける。だがその時、気づいたことがあった。何故なら相手はその場から動いていなかったのだから……そのことに戸惑いを感じつつも警戒しながら様子を窺っていると不意に少年がこんなことを言ってきた。
「あぁ、そういえば自己紹介がまだだったね……僕は魔王様の忠実な部下であり四魔天将の一人であるアスモデウスだよ」その名前を聞いた瞬間に彼女の頭の中である仮説が浮かんできたのだが、まだ確証を得ることは出来なかったようだ。なぜならもし仮にそれが本当だとしたら自分達に勝ち目がないことを理解したからである。だからこそ今の時点で出来ることは時間稼ぎしかなかった。しかしそれも長く続くはずがないことは本人が一番よくわかっていたことだと言えるだろう。それを証明するかのようにアスモデウスが声をかけてきた。「どうやら君も薄々気がついているんじゃないのかい?君達二人では僕に勝つことは出来ないってことに……」その言葉を耳にした瞬間、悔しそうな表情を浮かべるとともに拳を握りしめたがそんな彼女に対してさらに追い打ちをかけるかの如く言葉を続けてきた。
「それと君だけじゃない……他の仲間も同じように思っているんじゃないかな?まぁ、僕からすれば誰が来ても同じだけど……」そんなことを言われた彼女は一瞬だけ動揺したがすぐに気を取り直したのか真っ直ぐに見つめると覚悟を決めたようにこう宣言してみせた。
「例え私一人だけになったとしても必ず勝ってみせます!」それに対して笑みを浮かべながら頷くとようやく本腰を入れることにしたのか構えをとった……するとそれと同時に周囲に変化が現れ始めてきたことに気がついた。
(一体どうしたというのですか……!?これは魔力……?いいえ、違う!これは殺気です!!でもどうして急にこんなことに……まさか、彼の力がこれほどまでに強大なものだとは考えてもいませんでした……これでは本当に勝ち目がないかもしれませんね……)そう思った直後のことであった……突如背後から凄まじい勢いで何者かが現れたかと思うと彼女の隣に並ぶようにして立つと共に声をかけてきた。
「どうやらここまでのようだな……」その声に聞き覚えがあった彼女は反射的に振り返ると驚いた表情を見せたのだがすぐに納得したような表情を見せると小さく頷くのだった。そして二人が並び立つとお互いに頷き合うと目の前の敵に向かってこう言った。
「待たせてしまって悪かったわね……ここからは私達も一緒に戦うわよ」しかしそんな言葉を聞いても顔色一つ変えなかったばかりか、逆に嬉しそうな表情を浮かべながらこんなことを言い出した。
「やっと来てくれたんだね♪待っていたよ、ずっとね♪」そんなことを言っているのだが、その様子からは敵意のようなものを感じることが出来ずむしろ好意的にすら思えたことだろう。その証拠に笑顔を浮かべているようにさえ見えるのだから無理もない。そしてそれを見ていた二人は困惑してしまうとお互いに顔を見合わせながら困惑した表情で言葉を交わすのであった……
アルスとライアスは目の前にいる相手を見て驚愕していた。何故なら自分達の予想を上回るほどの実力を持っていたからだった。とはいえこのまま何もしなければやられるのを待つだけなので反撃を試みることにすると、まずは二人同時に攻撃することにした。最初に攻撃を仕掛けたのはアドルであった。懐から取り出した小さな箱のようなものの中から取り出した何かを口元に加えると勢いよく吹き出すようにして息を送り込むと次の瞬間には凄まじい勢いで煙を吹き出すのだが、それに対してアスモデウスは全く気にすることなく平然としたままその場を動こうとしないことに疑問を感じていたのだが、それを深く考える前に答えは出た。その理由は彼が口から何かを吐き出すようにして手から放すとそれはそのまま真っ直ぐ飛んでいきアドルの体を貫く形で突き刺さった。その直後のことだった……彼はゆっくりと地面に倒れ伏したのだがその表情はとても穏やかで満足しているようにさえ見えた。その様子を目にしたライアスが驚きのあまり呆然と立ち尽くしているとそんな彼のことを嘲笑うかのような声が聞こえてきた。それは言うまでもなく目の前で立っているアスモデウスのものであった。
「さてとこれで邪魔者がいなくなったことだし、続きを始めようか♪」そう言うと構えをとると先程までとは比較にならないほどの殺気を放ってきたので思わず冷や汗を流してしまうと体が強ばってしまったのか動きが鈍くなり始めていた。その為、なんとか抵抗しようと試みるも思ったように動けずにいたので焦りを感じ始めた頃になって突然横から割り込んできた人物がいた。その人物こそ先程、アルスと一緒に行動していた少女ことルミエだったのだが、この時はアデルの姿は何処にも見当たらなかった。それでも彼女は臆することなく立ち向かっていた。
「貴方みたいな化け物には負けません!!」そう言った途端、ルミエが魔法を放つとそれを見た相手が感心したように頷いた。「へぇー凄いじゃん!流石だね♪僕の一撃を止めるなんてさ……それじゃあ少しだけ力を見せてあげようかな?」彼女がそう口にした次の瞬間、先程まで目の前にいたはずのアスモデウスの姿が突然消えたことに驚くと直後に頭上の方から声が聞こえてきて咄嗟にその場から移動することで何とか避けることに成功したルミエは安堵のため息を吐いた。
(ふぅ~危ないところでした……ですがこれならどうでしょかね!)心の中でそう思いながら今度は彼女が仕掛けることにしたようだ。それからしばらくの間は激しい攻防が続いていたがお互いに一歩も譲ることなく戦いを続けていたのだが、そんな中でルミエがあることに気づくと慌てて距離を取った。
というのもそれはアスモデウスの手に先程まで持っていなかったはずの物があったからだ。それが何なのかというと槍であり、しかもただの槍ではないことが見ただけでわかるほどに禍々しい形をしていた為、ルミエは警戒心を強めたのだがそれでも引くことはなかった。何故ならここで引いてしまったら相手の思う壺だと思ったからである。そんな彼女を見たアスモデウスは再び笑みを浮かべるとその槍を振り下ろした。それにより地面が抉り取られたことで足場を失ったことからバランスを崩すと同時に後方へと飛ばされてしまったのだが何とか着地に成功した彼女は体勢を立て直すともう一度攻めようと駆け出した直後、いきなり何かに気がついたのか驚きの表情を見せていた。何故ならば彼女の足元に魔法陣が現れていたのだから。だがそれだけではなかった……その魔法陣は光り輝くと共に彼女を包み込んだのである。その瞬間、彼女は意識を失いその場で倒れた。その様子を近くで見ていたアデルも最初は何が起こったのかわからなかったものの、少し遅れて理解することになる。つまりは彼女が操られているのだと……
それはそうとアスモデウスが何をしたのかと言うと単純に空間魔法を使っただけだった。ただ、それだけのことなのである。しかし、それだけで充分だと言えた。なぜなら、今この瞬間にこの場にいる者達全員が敵に回したことになったのだから。
ライアスの攻撃を軽々と避けたアモンだったが、彼としては納得できる結果ではなかった。何せ、自分の方が実力は明らかに上だと思っていたからである。なのに何故か全く攻撃が当たらないだけでなく余裕のある態度を見せているアモンに対し苛立ちを募らせていたライアスではあったがそれでも諦めようとはしなかった。何故なら、自分にはある考えがあったのだ。それはどうにかして敵の隙を作り出せばいいということである。しかし問題はどうすればそんな状況を作り出すことが出来るのかということだ……いくら考えても答えが出ないことに頭を抱えながらもとりあえずは試してみることにしてみた。だが案の定と言うべきかそう簡単に隙を作ることなど出来なかったのだが、一つだけ方法があることに気づいたのである。それは先程の少年が言っていたことを試して見ることである。果たして成功するのかはわからないが何もしないよりはマシだと判断したのだろう。早速実行に移してみると見事成功したのだった。それも今までとは違い、アモンの動きが鈍くなったように見えたのだ。この機会を逃すことなく次々と攻撃を繰り出したところ初めて彼の表情が変わる瞬間を目撃した。それが何を意味するのかまではわからなかったようだがそれでも確かな手応えを感じたのは間違いないだろう。その証拠に少しずつではあるがアモンの表情が曇ってきていたのだから。だがその時だった……背後から気配を感じ取ったかと思えば突然何かが飛び出してくるとそのまま体当たりを仕掛けてきたのだ。突然の奇襲により対応しきれなかったこともあり直撃すると共に吹き飛ばされてしまい地面を転がりながら何度も激しく叩きつけられてしまった。そのおかげで身体中に痛みが走っており動くことさえままならない状態に陥ってしまったのは言うまでもない。それを見ていたアデルは慌てて駆け寄ると心配そうな表情で話しかけてきた。
「大丈夫!?酷い怪我……すぐに治してあげるからね!」そう言って治療に取り掛かろうとした時であった……何者かが攻撃を仕掛けてきたせいで妨害されてしまうのだった。その結果、またしても戦闘が始まりそうになったわけだが今度は違う展開を見せた。なんと相手の方から戦いを止めにしてきたのである。当然、それを聞いた二人共困惑してしまうのは仕方がないことだろう。しかしそれ以上に気になることがあった為、思い切って尋ねてみることにした。一体どういうつもりなのか?ということについてである。すると意外にもあっさり教えてくれる気になったらしくあっさりと話を始めた。その内容というのは簡単なものでこうなってしまった以上、もう勝ち目がないと判断して撤退することにしたとのことらしい……ただし完全に信用したわけではなく条件付きで撤退を認めたということだったのだが、その内容とは自分達と協力関係を築くことだった。どうやらお互いに利用価値はあると思っているようで、その為の提案であったようだ。勿論のこと拒否することは出来ず渋々受け入れることになったのは言うまでもなかった。
魔王城に戻ってきた僕達は早速アルスさんと二人で話し合うことにした。理由は今後のことについてである。いつまでもこうしていられないことはわかっているのだがどうしても踏ん切りをつけることが出来ないでいた為、どうするべきか迷っていたからである。だからというわけではないのだろうが、しばらく無言のまま何も言えない状態が続いたのだが、そんな状況を打破したのは以外にも彼女だった。アリアさんの「そろそろ次の町に向かいませんか?」という言葉を聞いた僕は小さく頷くとようやく決心を固めることができたのか話し合いを始めると、すぐに結論を出したので仲間達にもそれを伝えた上で出発することに決めたのだが、最後に一つだけやらなければならないことがあった為、みんなには先に向かってもらうようお願いした後、僕とアルスさんだけは別行動をすることにした。向かった先はとある部屋の一室なのだが、その部屋の中に入るとそこには誰もいなかったので一安心しながら周囲を確認すると目的の物が置いてある場所を見つけ出すことができた。その場所というのは壁の一部が不自然に出っ張っている所のことで、一見すればわかりにくい作りになっていたのだがよく見てみると取手のようなものを発見するとそれを掴み引っ張るようにして押してみた。その直後、壁に亀裂が入ると同時に音を立てながら開くと中から階段が現れると同時に下へと続く階段が見えた。それを見た僕は覚悟を決めると中へと入っていった。そう、ここが僕の目的地だったのだ。そして階段を降りきるとそこには一つの扉があり、躊躇うことなく扉を開けて中に足を踏み入れるとそこにいたのは一人の女性が立っていた。見た目的に僕よりも年上であることはわかっていたがそんなことはどうでもよかった。何故なら僕の目的は目の前にいるこの人に会うためなのだから。その為、挨拶を交わすとゆっくりと近づいていくことにした。その際、相手の方からは何も言ってくることはなかったので特に気にする必要はなかったのだが、それにしても不思議な感じがする人だったなと思ったりもしたが別に大したことではないだろうと考え直した後で改めて自己紹介をすることにしてからこれまでの経緯について説明することにしてみた。僕が異世界から来たということや、ここに来るまでの経緯についても正直に話すことにした。
そうしなければ信じてもらえないだろうと思ったからであるが実際はそこまで難しいことではなかったようで普通に信じてくれたので安心したのは言うまでもないことだがそれでも念のため、証拠としてアイテムボックスの中からステータスプレートを取り出すことにした。ちなみにこれは以前、ギルドの人達に見せたものとは別のものであり名前の部分だけ書き換えておいたものだったがこれが効果を発揮してくれたようだ。これにより彼女は僕のことを完全に信用してくれたようだった。その後で彼女にこれからどうするつもりだったのか尋ねられた僕は素直に答えた後、アルスさん達とは別々に行動することになったのでこの場所には当分の間は戻って来れないことを伝えると小さく頷き返してくれた後で僕の為に用意してくれたであろう部屋を案内してくれた。そこでしばらくの間、生活をするといいと言ってもらえたのでお言葉に甘えることにしたのだった。その際に何かあれば遠慮せずに言ってほしいとのことだったので早速、相談させてもらおうと思ったがその前にまずはお礼を言わなければと思い感謝の言葉を口にした。すると微笑みながら気にしなくていいと言われて少し戸惑ったものの悪い気はしなかった。
それからというもののしばらくはこの部屋の中で過ごしていたのだがその間に色々と考えてから行動することを決めたのだ。というのも、やはり一緒についてきてしまったライアスさんのことが一番の気がかりとなっていたからである。本来なら真っ先に会いに行くべきなのだろうが今は状況が悪すぎることからもそれができなかった。もし、仮に会えたとしても何を話せばいいのかわからなかったからだ。だからこそ僕は自分自身に問いかけることにした。本当にこのままでいいのだろうかと?もしかしたら今ここで動かなければ二度と会えないのではないだろうか?そう思った時、既に体は動いていたのである。
(待っていてください!今すぐ会いに行きますからね!!)心の中で決意を固めながら部屋から飛び出して行ったのだったが……それはまだもう少し先のお話であった……。
その頃、ルミエはアスモデウスと共に近くの森を歩いていた。目的はもちろんあの人間を探すためである。しかし、そう簡単に見つかるはずもなく、森の中をただひたすらに彷徨っていたのだ。だがそれも限界が近づいていることくらい彼女は理解していた。何故ならここまで歩いてきてわかったことがあるからである。それは、魔物の数が尋常ではない程に多くなっているということだった。それに気づいているのかいないのかアスモデウスは平然としている様子だった。そんな彼女に恐る恐る話しかけることにした。
(あ、あの……ここら辺一帯にいる魔物の数ってどのくらいでしょうか?かなり多いような気がするのですが……まさか、あれ全部を相手にするなんて言わないですよね……?さすがにそれはちょっと無理があるというかなんというか……あはは……)
苦笑いしながら質問する彼女に対してアスモデウスは少し笑みを浮かべながら答えるとそれを聞いた瞬間、表情が一変して青ざめた。
その様子を見ていたアモンは呆れてしまい何も言う気にはなれなかったようだがそんなことに構わず、更に続けて言った。(どうやらやっと理解できたようだな……ならもういいだろ?ここからさっさと立ち去るんだな……今なら見逃してやる……これ以上無駄な時間を過ごさせるなよ……)
その言葉を聞くとルミエは小さく悲鳴を上げながらも急いでその場を離れようとしたその時だった……突然目の前に現れたかと思うと声をかけてきた人物がいたのだ。その声の主とは誰であるかは既に察しがついていた為、すぐに振り返った。そしてその人物の姿を確認したところで安堵の表情を見せたのだった。それもそのはずだろう……何せ探していた人間が向こうからやって来てくれたのだから嬉しくないわけがない。とはいえすぐにでも声をかけたい気持ちでいっぱいだったがそれよりも優先すべきことがあったので必死に我慢したのだ。
それを見ていたアモン達は不思議そうな表情を見せると一斉に問いかけたが、二人は無視したまま話し続けた。しばらくしてようやく終わったかと思えば何やら準備を始め出した為、一体何をしているのか気になりだした二人であったが次の瞬間、驚きの表情を見せることとなった。なんとルミエが巨大な魔法陣を展開し始めたのである。これにはアモン達だけでなくアスモデウスですら驚く様子を見せたが当の本人である彼女はそんな余裕がなかったようで一心不乱に集中しながら魔力を練り上げている様子であった。そして準備が整ったことを確認した後で詠唱を開始した。
「古より生まれし大いなる力よ……我が求めに応じその姿を現せ……」その言葉と共に周囲の空気が一気に張り詰めていくのを感じた三人は冷や汗を流していた。それほどまでに強力な魔力を感じたのだろう。しかし、それを気にせず彼女はそのまま続けるといよいよ魔法を発動したのだ。その結果、地面が大きく揺れ動いた直後、突如として大きな穴が開き出すと地の底まで続いているかのような深さを誇るものが現れたことで思わず言葉を失った三人を尻目にルミエはそのまま中へ飛び降りたのである。それを見て慌てて追いかけようとするアスモデウスに対してアモンは言った。(おい、待て……!お前まで飛び込むつもりか!?このバカタレが……!!お前はここに残って奴らのことを見張っていろ……いいな?)そう言うと止める暇もなく飛び降りてしまった為、一人残された形となったのだがすぐに我に返ると「ああー!ずるいですー!」という叫び声と共に悔しそうに顔を歪めるのであった……。
穴の中に飛び込んだ私は着地するなり周囲をキョロキョロと見渡していたが人の気配が全く感じられなかったので少し不安になっていたのだが、しばらくすると奥の方から声が聞こえてきたのでそちらに向かって歩き出したのだった。そこには小さな部屋があって中には二人の男女がいた。一人はまだ幼い女の子でありもう一人はその少女の父親と思しき男性だった。そんな二人に近づこうとした矢先、不意に声を掛けられたので驚いたがなんとか平静を装って返事をすることに成功した。しかし、その直後で衝撃的なことを聞かされることになった。なんとその二人が勇者とその家族だったのである。それを聞いて一瞬、思考が停止してしまったのだがどうにか気を取り直して話を続けることにした。すると今度は向こうが話しかけてきたのだが、どうやら私のことを覚えていないようであった。まぁ仕方ないかとは思ったがやはりショックだったのでその場で肩を落としていると少女が私に話しかけてきてくれたおかげで少しだけ救われた気がしたので元気を取り戻すことができた。その後はお互いに自己紹介した後、今後どうするのかという話になったわけだがそれについては特に問題はなく、むしろ大歓迎だとさえ言ってくれたのには驚いてしまったものの嬉しい気持ちでいっぱいになりお礼を述べると再び会話が始まった。そんな中、私の頭の中はアルスさんのことでいっぱいになってしまったのだがそれを察してくれたらしく、父親の方から彼のことを教えてもらうことになったのだ。それによると今は王都に向かっているということでしかも国王直々の依頼を引き受けたらしいと聞かされた私は心配しつつも無事に会える日が来るのを待つしかないと考え、それまでの間にできることをやっておこうと思ったのである。その為、しばらくここでお世話になることにしてまずは両親と話し合うことにした。その後、改めて話し合いを行った後で許可をもらい受けることにしてから今後の生活について話し合ったりしながら楽しく過ごすのだった。
こうして、アルスさんがいなくなった後の生活が始まりを告げたわけなのだが僕は相変わらず森の中で彷徨い続けていたのである。そんな時だった、背後から気配を感じたような気がしたので振り返ってみるとそこには見覚えのある女性が立っていた。そのことに驚きつつもどうしてここにいるのかを尋ねたのだがそれに対して返ってきた言葉は意外なものだった。
実はあれからアリアさんと別れてから一人で行動することにした僕はひたすら歩いていたのだがふと思い立ったことがあり町に向かうのではなく別のルートを通って行くことにした。そうすることによって何かしらの情報を得ることができればと考えての行動だったのだがどうやらそれは間違いではなかったようだ。何故なら偶然にもこの場所を訪れた人物こそが僕をこの世界に転生させてくれた女神様だったのだから……。そのことを理解した時、嬉しさのあまり涙が出そうになったのだったが何とか堪えながらお礼を言った。
それから僕は彼女に事情を話すことにした。というのも僕自身ではどうすればいいのかわからない上に、女神様にならわかるかもしれないと考えたからである。
※次回の更新は12月29日の23時30分となります! それから僕は今までのことを洗いざらい話してからお願いした。
『どうか僕に力を貸してください!』と……
僕の頼みを聞いた女神様はとても困ったような顔をしていたもののすぐに表情を元に戻すとゆっくりと話し始めた。
その内容は今の僕では間違いなく足手まといになる可能性が高いというものだった。つまりは役立たずということだ……だが、このまま何もしないでじっとしているわけにもいかないのでどうにかして協力できないものかと考えていたところ、一つ考えがあると提案してくれた。
それは以前、僕が使ったことのあるユニークスキルであるアイテムボックスを扱えるようにするということだった。何故ならば彼女は以前にも同じような状況に陥り困っていた際にこれを使うといいよと言ってくれていたことを思い出したのだ。だからこそ早速試してみることにしステータスプレートを取り出すと女神様は何やら唱え始め、やがて魔法が発動すると同時に僕の体に変化が訪れた。
(えっ?こ、これはいったい……?)
戸惑いながらも自分の身に起きたことを確認する為に周囲を見渡すと目の前には見慣れないものが映し出されていた。
そこには、見たこともない項目がいくつも並んでいたのである。そしてそれを見た瞬間、自分がどのような状況にあるのかを理解し呆然となった……何故ならそこに書かれていたものはあまりにも非現実的な内容だったからだ。なぜなら……
ーーーーーー
・名前 アルス(変更可能)
【称号】なし 【種族】人間族 【性別】男 【年齢】15歳 【レベル】1
・体力 F+
・攻撃力 E-
・魔力 G
・耐久力 F+
・精神力 A
・俊敏性F+ 【装備】麻の服上下 革の靴 アイテムポーチ(中)
水袋(空)
【スキル】鑑定 探知 隠密行動 罠感知 暗視 アイテムストレージ 気配遮断 身体強化 精神耐性 料理 裁縫 【ユニークスキル】アイテム作成 想像具現化 【特殊スキル】火魔法E 光魔法C 闇魔法D 重力魔法D 時空魔法A 精霊魔法G 錬金術G 【派生スキル】
念話I→II 影縫い I ーーーーーーーーーー とまぁ、こんな感じになっているわけだ……それにしても……
(いやいや……いくらなんでもこれは……いくらなんでもやりすぎなんじゃないの……?それにこれってチート過ぎるよね……あはは……)
思わず苦笑いを浮かべてしまう程の圧倒的なステータスを前に乾いた笑みを浮かべることしかできなかった。するとそれを見ていた女神様が「これでもまだ足りないくらいだけど……」と言っていたが、もはや何を言われたところで僕には理解できなかった。だってそうでしょ?これで足りてないなんて言われたらもうどうしたらいいかわからなくなっちゃいますって……いやね、確かに勇者の力が使えなくなったことで大幅に弱くなったけどそれでもそれなりに強くなっているとは思ってたんですよ?それが蓋を開けてみればとんでもないことになっていたわけですよ……なので、あまりの変わり具合に驚いているのも当然の話でしょう……というかそもそもここまでする必要あったんですかねぇ?どう考えてもやり過ぎだと思うんですが、どうなんでしょうか?そんなことを思いつつ質問してみると「あ、あのですね……これには理由があるのです……えっと、その……」と何やら言い辛そうにしていたので、仕方なくその先を待ってみたものの中々口を開こうとしなかった為、仕方がないと割り切って「それじゃあ……とりあえず、先に進めましょうか?」と言うと「……はい」と返事をしてようやく動き出したのである。
(はぁ……なんか納得いかない気がするなぁ……まぁいいや……とりあえず、これで戦える力を手に入れることができたんだから良しとしよう)そう思いながら歩き始めると女神様もまた隣を歩くような形で歩き始めたのだった……。
そんな二人のやり取りをこっそりと覗いている人物がいたのだが二人は気づくことはなかったのである……そう、この人物が今回の一件を引き起こした張本人だということも知らずに……。
しばらくして森を抜けた先で街道に出たのだがここからどうしたものかと悩んでいると不意に背後から声を掛けられたのだが聞き覚えのある声であったこともあり振り向くとそこには案の定と言うべきか、そこにはアモンの姿があったのだ。
その様子を見る限り、どうやら僕達を追ってきたようだ……だがしかし、そんなことは既に予想できていたことだ……問題は彼がなぜ追ってきたのかというその理由だった。まさかとは思うが勇者の力を欲していたのではないかと思ったのだがどうも様子がおかしかった……というのも、なにやら怯えた様子でこちらを見ている様子だったからだ。
一体、何があったのだろうか?そう思って問いかけてみると彼は震えながら答えたのである。なんと目の前にいる人物は魔王だと言い出したのだ。それを聞いた瞬間、耳を疑ったのは言うまでもなかった。何せいきなり現れたと思えばそんなことを言い出すなど誰が予想できようか……しかしそこでふと、そういえば女神様の姿が見当たらないことに気づき辺りを見回すと少し離れた所にいたので声を掛けることにした。すると、まるで最初から知っていたかのような反応を見せた上で話しかけてきたのでどういうことか聞いてみると「実は私、初めから気づいていたのですよ……」と答えた後、こう続けた。
『アルスさんの後ろにいる女性がおそらくですが女神アリア様だと思われます……』と言った直後、アモンが急に震え出したかと思えば「ひぃぃ……!ゆ、許してください……!」と言いながらその場で土下座を始めてしまったのだ。その異様な光景を目の当たりにした僕は呆気に取られていたのだが、それと同時にある考えが頭に浮かんだのでそれを実行することにした。
その方法というのは相手の視界を塞いでしまうというものだ……実際にそれをやってみると思った以上に効果があり、暫くは怯えているように見えたものの数分経つと落ち着きを取り戻してきたようで普通に話せるようになっていたのである。そして話を聞いてみると自分達は悪魔で今は人間の姿で人間に化けて暮らしていたらしく、その時に偶然にも僕と出会い意気投合したことからずっと傍にいたらしいのだが今回に限っては自分の存在がバレてしまったためやむなく行動に移したらしいということだった。ちなみに女神様の正体を知ったのはつい最近のことで最初は信じられなかったものの目の前で見せた姿こそが本来の姿であり今の姿の方が仮の姿だと聞いた時には言葉を失ってしまったほどだった。そんな話を聞いた後でこれからどうするのかを聞いた結果、当初の予定通りに行動を共にすることになったので今後の予定を決めるために近くの町へと向かうことになったわけだがその際に気になることを話していたのを思い出しその内容について尋ねてみたところ……
「えっ!?もしかして、それって本当なんですか……?」
「はい、本当ですよ!だから言ったじゃないですか!私達は仲間だって!」と満面の笑みを浮かべながらそう言ってきたのだがそれを聞いて僕は頭を抱えそうになった。というのも、それは先程、女神様との会話で話題になっていた内容と同じだったのだ。つまり、彼女から見た僕の立ち位置は今も昔も変わらず『勇者の仲間』としてしか認識されていなかったということになる……ただそれだけのことなのに無性に悲しくなりつつも落ち込んでいるとその様子を心配した二人が声を掛けてきたので気持ちを切り替えて移動を再開した。それから一時間程歩いたところで目的地の町へと到着したわけなのだがその町の雰囲気はとても明るくいい意味で賑やかさを感じさせられた。だがその一方で何やらきな臭い感じもしなくはなかったのだが特に気にすることなく中に入ってみるとこれまた予想外にも活気に満ち溢れた町並みに驚くとともに行き交う人々の顔に笑顔が溢れていることに安堵しつつ、この町ではどのような依頼があるのか確認するために冒険者ギルドへと向かったのだった。
中に入るとそこは多くの冒険者達によってごった返しておりとても賑やかな場所であった。そんな中をどうにか進んで受付の前まで来ると早速とばかりに話を切り出したのだがここでも驚くべき事実を知ることになるとはこの時は知る由もなかったのである……何故なら受付嬢から聞いた内容が信じられないようなものだったのだから無理もないことだろう。
「あの……もう一度聞いてもいいですか?」「ええ、いいですよ?ですからお答えしました通りです」「……えっ!?」僕が聞き直す度に繰り返し説明してくれた内容は以下の通りである。まず最初にここを訪れた時には既に僕に関する噂が流れておりそのせいで対応されたとのこと。そして次に何故こんな状態になっているかというとギルド内でも問題視される程に悪評ばかり広まっていたことが原因であり、このままではいずれ他の国や他の街からの印象が悪くなってしまう恐れがある為、その前に何としても食い止めたいと考えていたそうだ。その為、早急に解決したいと思い僕に直接話がしたかったというのが彼女の主張だったらしいのだが正直言ってあまりにも無茶苦茶すぎる話で思わず困惑してしまった。
(いやいや……いくら何でも無理があるだろこれ……いくらなんでもあり得ないでしょ……)そう考えずにはいられなかったものの、いつまでもこのままにするわけにはいかないと判断してすぐに行動を開始したのだ。
とはいえどどうすればよいのやらと考え込んでいるとアモンがある提案をしてきた……それによれば僕達と一緒に活動すればいいだけの話じゃないかということだった。確かにそれならばわざわざ問題のある人間を雇う必要がない上に自分達の手で問題を解決できるのだからこれほど楽なことはないと思うだろうが、それでは根本的な解決にはならないのではないかと考えているとここで意外な人物から声が上がった。
「いえ、それは止めた方がいいと思います……」そう言ったのはアリア様だった。理由を尋ねると彼女は真剣な眼差しでこう語った……「今の彼の力は普通の人より少しだけ強い程度でしかありませんしそもそも私達の味方であるとも言い切れません……むしろ敵だと断言しても過言ではありませんよ?」と言ってきたのでどうしてなのかを尋ねてみたところどうやら以前の世界での僕に対する行いが尾を引いているせいだということらしい……確かにそれも一理あるかもしれないがだからと言ってそう簡単に諦めるわけにはいかなかった僕は再度、二人に頼み込んだところ「そこまで言うなら分かりました……」そう言ってくれたので内心ホッとしつつも礼を言ってその場を後にしたのだがその後、何故か宿屋に連れていかれてしまい何が何だか分からないまま部屋に入ることとなった。
「さてと……それじゃ色々と説明していこうと思うんだけどいいかな?」
「あっ、はい……」突然、話を始めるものだからつい返事をしてしまったものの、よくよく考えてみれば女神様と魔王様が目の前にいる時点で普通ならありえないような状況だというのにそこにさらに女神様本人までいるのだ……いや、厳密に言えば元、魔王という方が正しいのだろうがどちらにしても普通では考えられないことなのだ。
それなのに何故こんなにも平然としているのだろうか……それが不思議でしょうがなかったが考えても答えは出そうになかったので考えるのをやめることにした。するとその様子を見ていた二人が少し笑った後、真剣な表情に戻ったかと思えばそのまま話し始めたのだ。
その内容は僕の力に関しての話だったが予想以上のものだったことに驚きを隠しきれずにいると最後にこんなことを言ってきた。「君の力が封印されていることは知っているね?それでここからが本題になるんだけど君は今後どうするつもりなんだい?まさかとは思うけど復讐を果たす為に魔王と戦うつもりかい?」
「それは……」正直に言ってしまえばまだ心のどこかで躊躇っている自分がいることは事実だった。なんせ今まで生きてきた中で一番の親友と言える存在だったからこそ簡単に割り切れるはずがなかったのだ……だからこそ悩んでしまったわけだが、それを見兼ねたかのように女神様は優しく微笑んでこう言ってくれたのだ。
「そんなに悩まなくても大丈夫ですよ……あなたが思う通りにしてくれれば私達はそれに全力で協力するつもりです。なので何も心配する必要はありません……」その言葉に背中を押されたのか自然と笑みが零れると覚悟を決めてから二人に告げたのである。
『改めて宜しくお願いします!』
その言葉を受けて二人とも満足そうな表情を浮かべてくれたのを確認するとこれからのことを話し合うべく部屋を後にするとロビーへと移動した。そこで話し合った結果、まずは勇者の情報を得る為の旅を続けるということで意見が一致したので今後の予定が決定したことで今日は宿を取ることになったのでそれぞれの部屋に別れた後に眠りにつくことにしたのだった。そして翌朝、目を覚ました僕は準備を済ませた後でロビーに降りてみたのだがそこには二人の姿が見当たらなかった……どこに行ったのだろうかと思いつつ待っていると数分後には何事もなかったかのような表情で現れた為、思わず苦笑いしているとどうやら先に食事をしてから冒険者ギルドへと向かうつもりだったらしくそれを聞いた僕は二人に続いて食堂へと向かった。ちなみに朝食を食べた感想だが結構美味しいと感じたと同時にこれならお金さえあれば普通に暮らせそうだとも思ったので今後の方針としては安定した生活の為にも依頼を受けながらお金を貯めていこうという結論に至り食事を終えるといよいよ町を出て旅立つことになったのだがここで一つの問題が浮かび上がった。なんとアモンの容姿である。彼は男の姿をしているがその見た目は女性そのものだったのでどうやって誤魔化そうか考えていたら思わぬところから助け舟が出たのである。それはなんと女神様からの提案で一時的にではあるが魔法で姿を変えることが出来るそうで、しかも完全に別の人間として認識されるらしいので試しにやってみてもらうと見事に成功したようで無事に出発することができた。
「さてと……それじゃあ行きましょうか」「ああ、そうだな……」そう言って三人で町の外へと出ていくと人目につかない場所に移動した後で旅を再開するとそこからは寄り道せずに真っ直ぐ北の方角へと向かって進んでいった。理由は二つあり、一つ目は情報を集めるなら王国内に潜伏した方が手っ取り早いということであり二つ目はこの付近に魔王の部下である【四天王】と呼ばれる存在がいる可能性があるからだと言われたためであった。ただそうなると当然、勇者とも遭遇してしまう可能性が高くなったわけだがそれでも行くしかないと判断した僕は二人の案内に従いながらも歩き続けた結果、ついに目的地に到着したわけなのだがそのあまりの変わりように驚いてしまい思わず言葉を失ってしまったのだった。何故なら、そこは草木すら生えない荒野のような場所になっておりとても人が住んでいるような場所とは思えなかったからである。しかしよく見てみると明らかに人工的な建造物がいくつか見られたことから恐らく、そこが目的の場所なのだと理解はしたものの正直、信じられない気持ちの方が大きかったのだが……
だがそんな僕の思いはすぐに打ち砕かれることになった……というのも、その理由というのが目の前の光景にあった……「これは一体どういうことなんだ……?何で建物が全て壊されているんだ……?」と疑問を呟くとその答えを知っているのか二人は笑みを浮かべてきた。するとその時、後ろから声をかけられたので振り返ってみるとそこにいたのは一人の男だったのだがその姿に驚かされる羽目になった。何故なら男の頭部が人間のものではなかったのだから……
そしてそれを見てすぐに彼が何者か分かった僕は無意識のうちに警戒を強めてしまったのだがその直後に起きた出来事によって更なる衝撃を受けることになってしまったのだ……それは……男が突如苦しみ出したかと思うと見る見るうちに体が変化していき最終的には巨大な魔物へと姿を変えたではないか!これには僕も驚いたがその一方で納得も出来たのである。なぜなら以前にも見たことがある光景だったからに他ならない……そう、僕が初めてこの世界に召喚された時に見たあの悪夢の中での出来事と同じだったのである。つまり、この目の前にいる魔物こそがあの時、勇者を殺したとされる悪魔なのだと思った僕はいつでも攻撃出来るように構えを取った上で様子を窺うことにしたのだが、ここで思わぬことが起きた……何とアモンと魔王までもが同じ行動をし始めたのだ。その為、思わず呆然としてしまった僕に対して二人が声を掛けてきたのだがそれは衝撃の内容であった。
「大丈夫だよ、彼を倒してしまえば全てが終わるからね」
「その通りよ、ここは私に任せておいて」と自信満々に言って来たのである。それを聞いて一瞬、呆気に取られてしまったもののすぐに気を取り直すと改めて戦闘態勢に入ったところで再び、戦いが始まった……とはいっても、もはや一方的な展開だったと言わざるを得ない。何故なら相手がどれだけ強力な攻撃をしようともアモンには全く通用しなかったのだから。それどころか、相手の方が一方的にやられているだけという状況になってしまい最終的に地面に倒れ込んだ状態で命乞いを始めたのだがそんなことを許すはずもなかったアモンはその姿を嘲笑うかのようにこう言い放った。
「お前のせいで多くの者達が犠牲となったのだ、せめて死ぬ前に己の罪を償え……」そう言って相手の息の根を止めようとしたところでようやく止めに入ることが出来た僕は急いでアモンを止めると共に魔王がトドメを刺すことで決着が付いたのだがそれと同時に、ある異変が起こり始めたことに気付いた僕はその原因を突き止めるべく辺りを見渡してみるとそれはすぐに判明した……なんと先程まであった建物がなくなっていることに気が付いた僕は驚きを隠せずにいたが、どうやら原因というのは目の前にいる巨大な怪物のようであった……そう、魔王との戦いで受けたダメージによって死んでしまったのだろうと思い、どうしたものかと考えていると突然、頭の中に声が聞こえてきて思わず驚いてしまうこととなった。そしてその内容はというと……
「我の名はガープ……貴様のおかげで蘇ったことを心から感謝するぞ」というものであった。そこで気になったのでそのことを尋ねると詳しく説明してくれたので、その内容を聞いた僕だったが正直なところ困惑していた。というのもガープの話では以前までの姿とは大きく異なる姿をしている上に能力が大幅に低下しているというのだが具体的にどういった風に変わっているのか尋ねてみると驚くべき内容が告げられた……何と彼の体には魔王による呪いが掛けられていたのだということが判明した為、それをどうにかする為に行動した結果、先程の現象を引き起こしたのではないかということだった。そしてそれが事実であれば今の状態なら間違いなく倒すことができる筈だと確信したので早速試してみたところ見事、成功したらしく元の魔族としての姿を取り戻したばかりか以前よりも魔力が増加していたことが分かったので今後の活躍に期待できるなと思いつつ改めて二人にお礼を言ってその場を後にしたのだった。
こうして復讐を終えた俺は新たなる目的の為に動き出そうと思った矢先のことだった。突然、謎の声が頭に聞こえてきたかと思えば、俺が今、どんな状況にあるのかを説明した上で力を授けるという趣旨の話をしたかと思うと最後にこう言った。
「私は女神アリアです……あなたに一つだけお願いしたいことがあります。それは私達の仲間になってほしいのです……」正直、突然の申し出だったこともあって戸惑ったものの、どうせこれからすることなど無いに等しいので暇潰し感覚で引き受けることにしたのだが問題は仲間になった後の扱いについての話が出てきた為、その点に関しては不安しかなかったがそれも杞憂に終わりあっさりと了承してくれただけでなく、その後も詳しい話を詰めていき話し合いが終わったところで明日には合流することになったのだがその際、とある条件を付けられたことで頭を悩ませてしまうこととなった。というのもそれは……【もし裏切った場合、あなたの大切なものを全て破壊しますからね?】という内容のものだった為、それを守る為に色々と準備する羽目になったのである。
まあでも裏切らなければ問題ないわけだし大丈夫だろ!そう思いながら宿に戻った後は食事と風呂を済ませて就寝することにしたのだが翌日、待ち合わせ場所に指定された場所に到着するとそこには既に仲間達の姿があった為、声を掛けることにした。すると向こうも気付いたようで近寄ってきたところで自己紹介をした後で本題へと入った……といっても、それは予想の範囲内のことだったので大して驚くこともなく淡々と話を聞いていくと、やはりというべきか勇者の情報を集めながら、その居場所を探ってほしいとのことであった。だがそうなると、しばらくの間は自由がないと考えた方が良いだろうと判断してそれを伝えたところ意外にもアッサリと承諾してくれちゃったのである。
しかし何故だろうか……先程から嫌な予感しか感じないのは気のせいだと信じたいものである……そして案の定、俺の予感が的中したのは翌日の早朝に勇者の居場所を掴んだとの連絡が入った直後であった……まさかこんなに早く見付かるとは思っていなかったので少し戸惑いながらも話を聞くことにするとどうやらこの町に滞在しているらしく更に運が良いことに一人でいるという話なので奇襲を仕掛けるなら絶好のチャンスだと力説してきたのだ。
その為、反対するのも気が引けたのでとりあえず様子を探るだけという条件で作戦を実行することになり俺とアルスさんが担当することになったのだがここで一つ問題が浮上した……それは変装用の衣装を調達する必要があったということである。何故なら俺達の顔は、この世界ではかなり知られているので仮に勇者を見付けたとしても迂闊に近づけないどころか騒ぎになりかねないのでどうにかして正体を隠さなければならないのである。
しかし、どうしようか悩んでいる間に出発の時間となってしまったので仕方なく、そのまま行くことになったが道中は魔物に襲われることなく無事に町に到着した俺達は、そこからは怪しまれないようにしながら聞き込みを開始していくとすぐに勇者の情報を得ることができたのだがその居場所はなんと王都にあるギルドだということが判明したので思わず、マジか!?と言いたくなったが何とか堪えた。というのも理由は二つあり、まず最初に考えついた理由だが実は王国内にも魔王の部下と思われる存在がいるかもしれないと考えていたからだ。
しかも王国の騎士が失踪するという事件が発生しているということは既に内部に潜んでいて、今も隙を見て暗殺を繰り返している可能性がある為、安易に近付くべきではないと思っていたのだがこうなってくると流石に躊躇せざるを得ないなと思いながらどうするか考えているとここで思わぬ情報が舞い込んできたのである……何と現在、勇者が王城にいないということが分かったからである!それを聞いてこれは好機だと判断した俺達はすぐさま実行に移すことにして移動を開始すると人気のない場所に移動した後で人目の付かない場所に隠れつつ、その時を待つことにした……そしてそれから数分後、ようやく待ち望んでいた瞬間が訪れたことで行動に移すことにした俺は物陰から出るとゆっくりと勇者に近付いて行ったのだが何故か彼女は一向に気付く気配がなかったので不思議に思いながら後一歩の距離にまで近付いたところで声を掛けた。
「……こんな場所で何をしているんだ?」
「!?」
その瞬間、彼女の体はビクンッと跳ね上がった後にこちらに視線を向けて来たので俺は続けて言葉を発しようとしたのだが次の瞬間、予想外の出来事が起こってしまった。
「き、貴様ぁああああああああ!!」
「なっ!?」
突然、襲いかかってきた彼女に反応できなかった俺であったが、その直後にアモンさんの魔法によって吹き飛ばされてしまい、その衝撃で意識が朦朧としてしまったのだが直後にアルスが俺を抱きかかえてくれたお陰でどうにか一命を取り留めると再び立ち上がり戦闘態勢に入ったわけだが、そんな俺に彼女がこう言ってきた。
「なぜ私を狙うのだ!!私が一体何をしたというのだ!?」
「……お前が、お前の存在が多くの人の命を奪ったからだ」そう告げるとそれを聞いた相手は信じられないといった様子でこちらを見て来たものの、すぐに表情を一変させると憎悪に満ちた顔になりながらこちらに向かって剣を振り下ろしてきた……しかしそれでも俺にはまだやらなければいけないことがあると思ったからこそ、最後まで諦めずに立ち向かうことを決めたところでついに戦闘が開始されたのだった……その結果、戦い自体は俺が勝つことが出来たのだがここで思わぬ誤算が発生してしまったことで窮地に追い込まれる羽目になってしまった。その理由とは……なんと、彼女が生きていたということだったのだ!確かに致命傷を与えることに成功したはずなのに生きている理由が分からず混乱していると突然、体から光が漏れ始めたのを見て慌てて距離を置こうとしたのだが時すでに遅く気付いた時には光の中に包み込まれてしまっていた。そう、それはかつてアリア様のいた世界で起きたことと同じ状況でありこのままでは確実に死ぬことが分かってしまったのでどうにか抵抗を試みるも全く通用せず成す術もなく呑み込まれていったのと同時に意識が途絶えてしまった為、その後のことは分からないままになってしまったのだが次に目を覚ました時、俺の視界に飛び込んできた光景を見て絶句してしまった。何故ならそこには見たこともないような美しい街並みが広がっている上に、行き交う人々は皆、笑顔を浮かべていて中には楽しそうに会話を交わしている姿が目に入ったからである。あまりにも現実離れした景色を目にしたことで思わず言葉を失ってしまったのだがしばらくして冷静になったところで今の状況を考える為に思考を働かせることにした。
まずは分かっている情報を確認していくことにしようと思い、周囲を見渡すように視線を動かしてみることにした。どうやらここが町の中心に当たるらしく大きな建物が多く並んでいるのが分かる一方、少し離れた場所にある広場には小さな子供達が元気に遊んでいる姿を目にすることができて平和的な日常風景を楽しむことができたのでひとまず安心することができた。そして次に気になっていることについて考えてみるとそれは今自分がどのような状況にあるのかということだ。何せ今の今まで森の中で仲間達と一緒に旅をしていた筈の自分が知らない土地にいるだけでなく見たことの無い人達に囲まれているのだから、どう考えてもおかしいと考えるのは当然のことだったのだがここで新たな事実が発覚したのである。それはこの町にある施設の一つに自分の写真らしきものが飾られていたことである。それを見て驚いたことはそこに映っている姿が今の自分とはかけ離れた姿であるという点だった……それだけではない。そもそも体格や顔つきまでもが大きく変化していた為、別人のようにしか見えないという衝撃の事実を突きつけられて動揺する他なかったのである。
そんなことを考えていたところで一つの疑問が生まれてくることになった……それはこの場所は一体どこなのかということである。もし仮にアリア様が話していた異世界ならば元の世界に戻る方法が分からないので非常に困った事態に陥ってしまう……つまり帰ることが出来なくなってしまうということになるからだ。そうなれば今後どうするべきか考えていたところであることに気付いた。というのもこの場所には人間以外の者達も存在していることに気が付いて気になった為、確認してみることにした。するとその正体はエルフと呼ばれる種族だと判明し他にもドワーフや獣人などが存在しておりそれぞれが共存していることを知ったことでこの世界についての大まかなイメージを持つことができたので安心したところで今度は町の中を調べる為に移動を始めるのだった……ちなみに服装に関してはなぜか制服のままだったのでこのままでもいいかと思った矢先に重要なことを思い出してしまった為、思わず叫んでしまい近くにいた人達から変な目で見られてしまうというトラブルはあったものの、とりあえず落ち着いた後で仲間達に連絡を取る為に一旦、城へ戻ることにした。
幸いにも場所は分かるものの念のために地図を確認しようとしたところ意外なことが判明することとなった……何と俺のいる場所が王都ではなかったのである。それどころかこの町の名は『エルドランド』と言い魔王軍に滅ぼされてしまった国の名前であった……それを知った俺は愕然としたものの今はそんなことをしている場合ではないので気持ちを切り替えると仲間達と合流する為に行動を開始した。そしてそれから数時間後、目的地に到着したので早速、中へ入ってみた結果……誰もいなかった。いや正確に言うと一人だけいたのだが既に事切れていた為、結局、会うことが出来なかったのだ……そのことに悲しみながらも他に何か手がかりになりそうなものはないかと探してみたところ机の上に一枚のメモが置いてあったので読んでみることにしてみるとその内容は以下の通りとなっていた。【しばらく旅に出る。帰りを待っていろ】という内容だったのだが……明らかに様子がおかしい内容に困惑しつつも続きを読んでみるとさらに驚くべき内容が書かれていたのである。
それは何者かによって暗殺されたという事実であり、それを知らせに来た人物はアルスという名の青年だったということが分かったのだがその人物は既に死んでいるらしいということが記されていた。更にその死体は見当たらなかったが血の跡だけは残っている為、何らかの方法で殺されたのは間違いないと思われるということと犯人はまだ分かっていないということだけが書かれていたのである……そこでふと、思い出したことがあった。
それはこの世界に来る前に出会った神様を名乗る人物が去り際に言っていた台詞についてなのだが『お主が魔王を倒したら元の世界に帰してやろう』と言われていたことを思い出すと同時に同時にあの言葉が本当ならばこの世界で死んだ場合、どうなるか分からないと思ったことで背筋が凍り付く思いを味わっているとその時、ある考えが浮かんできたので試してみることにした。それは本当に死んでみたらどうなるのか確かめるということである。普通なら思い付きもしない方法かもしれないがこの状況だとやってみる価値はあると判断した上で覚悟を決めるとすぐに実行に移すことにした。とはいえ流石にそのまま自殺するわけにもいかなかったので一先ず人気のない場所へ移動すると剣を取り出して心臓目掛けて突き刺すことにして思いっきり力を込めながら勢いよく突き立ててみたのだが残念ながら刃の方が折れてしまったため失敗に終わった挙句、その反動により体に激痛が走るという結果に終わったことで諦めるしかないなと判断しているとここで再びあることを思い付いた俺は実行してみることにするとその方法は至って簡単なことだった。要はその場所にいなければ良いだけのことなのだからと考えた俺はすぐさま行動することに決めた俺は近くにあった木を切り倒してその頂上に上り詰めてからゆっくりと目を閉じると意識を手放したのだった……そして目が覚めると元の姿で目を覚ましたのだが不思議な事にどこも痛くはなかった……どうやら死ぬと自動的に回復するようだと知った俺はこれでもう大丈夫だと判断したところで城に戻ると仲間達と連絡を取り合うことに成功したのだった。それからすぐに事情を説明しあったのだが誰も戻ることができなかったことが分かったが、俺に関しては無事に戻れたということを伝えると皆、安心して喜んでくれたのだがその直後にアモンさんがこう告げてきたのだった。
「実はもう一つ、伝えておかなければいけないことがあります」
それを聞いた俺は一体何のことなのだろう?と不思議に思っていたのだが次の言葉を聞いて驚きのあまりに固まってしまった。何故ならそれは魔王が復活した可能性があることを告げられたからである……その事実を知ってようやく理解することができたのだがまさか勇者達だけでなくアリア様まで犠牲になるとは思ってもいなかった。しかし何故、彼女がそんな危険な世界に再び足を踏み入れてしまったのか気になった俺は理由を聞いてみることにした。だが、それについても分からないとのことなので結局、謎に包まれたまま終わってしまったのだった……だがそれでも一つだけ分かったことがあるとすればそれはアリア様の身に何かあったのではないかという可能性が浮上してきたということだった……それが何を意味をしているのか分からない以上、警戒しておく必要がありそうだなと思いながらこれからの行動を考える為に皆と相談しあうことにした。すると全員が賛成してくれたことから方針が決まると今後の予定を決めるべく話を進めることにしたのだったがその中で気になる話題が上がった。
「ところで一ついいでしょうか?」そう前置きしてから話し始めたのは意外にもアリア様の側近を務めていたアルスの生まれ変わりだという女性である……名前はアリスといい、彼女は俺達の話し合いに参加してくれているのだが、どうやら彼女によるとどうやら俺が元いた世界とは違う場所が存在していることが分かったらしくそこなら魔王が復活しても問題ないので仲間達と共にその場所へ向かうことが決まった……そうして決まったのは数日後のことであり準備を入念に行うことになった。ちなみにその間にも魔王が動き出したという情報は全くと言っていいほどなかったこともあって俺達は安心しきっていたこともあり、この時はまだ気付いていなかった……それはアリア様に起きた出来事の意味が少しずつではあるが動き始めていることに全く気付くことが出来なかったのである……
あれから一週間が経過した頃、俺達はついに旅立ちの日を迎えたので出発することにしたのだがその際に仲間の一人がある提案をしてきたのだ。その内容というのはアリア様が最後に訪れたという村に立ち寄るという案だったのだが皆もその意見には賛成していたので早速、出発することにした。こうしてアリア様が残した手掛かりを元に新たな旅に出ることを決意した俺達一行の旅はここから始まったのである……。
※今回はアリア様の故郷を探すために旅を始めた私達の様子を描いております!! 私達は新たな一歩を踏み出す為に王都を後にした私はライアス様と行動を共にすることになっていたので馬車に揺られながら景色を眺めているとあることに気付いたのである……それは街道の途中に森が存在していたことだったのである。それに気付いたのは偶然のことだったのだけれど……もしかしたらと思い始めるようになっていたのだ。
というのも私がアリア様のお墓へ参ろうとした際の出来事がずっと頭から離れずにいたからである。あれは確か魔王との戦いが終わった直後のことだった……あの時、私とお婆様は一緒に町へと戻ろうとしていたのだが突如、私の目の前に現れたのはアリア様ご自身であった。しかも服装は当時のものではなくまるで若かりし頃の格好になっていたのである。そのことに驚いていた私達に対して彼女はこう告げたのだった。
「今まで黙っていてごめんなさい……だけどどうしてもこれだけは伝えておきたかったの……今から話すことをよく聞いてね……」そう言った後、語られた内容は驚愕の内容だった。まず彼女の正体は私と同じ転生者であること、そして神様から与えられた使命を全うした後に亡くなった後にここへ導かれたのだということが分かったのである。ちなみに彼女の役割とは魔王を倒した勇者達の力となること……そして彼らが魔王の脅威にさらされた時には駆けつけて助けることが使命だったのだが、魔王討伐に成功した後になって初めて知った事実があったのだ。
それはアリア様が命を落とすことになった理由が実は魔物などではなく彼女自身に原因があったことだった。その理由というのが当時、この世界へ転生する際に女神様より力を授かった時に受け取ったスキル『創造主』によるものが原因だと言っていたのである……つまりその力を使いこなせていなかったことが原因だったのだ。そしてそのせいで彼女は自分の魂の一部を切り離してしまう事態に陥ってしまったのだという……その後、その切り離された一部が原因で亡くなってしまったことを知った神はすぐに彼女を異世界で蘇らせることを決めたらしい……ただし、条件として魔王を倒して平和が訪れた後の世界でなければ不可能という条件付きだった為、それを叶えるには時間が必要となったのである……それからしばらくしてやっとの思いで願いを叶えた神は私をこの世界に呼び寄せることに成功し、更には私の能力に合わせて新しい体を用意してくれてそこからアリア様は新たに人生を歩み始めたのだという。その話を聞いた私は感動のあまり涙を流すことしかできなかったのだが、それと同時に疑問に思うこともあったので質問してみたところ彼女は笑顔でこう答えてくれた。
「これはあくまで仮説なのだけれど……きっとあの女神様は私のことを心配していたのよ。だからもう一度チャンスを与えてくれたのかもしれないわ……だからこそ今度こそはちゃんと魔王を倒して平和になった世界で生きていきたいと願っているの……その為にもどうかあなた達の力を私に貸してください」
その言葉を聞いた私は勿論、断る理由もなく素直に頷いてみせるとそれを見て安心したのか彼女も嬉しそうな表情を見せたところで話を一旦終わらせることになった。ただこの時の話が嘘ではないということを証明できる証拠があったのでここで公開しようと思う。それはこの指輪についてのことである……この指輪こそがアリア様が女神様にいただいたものらしく、これを装備している間はどんな攻撃を受けても絶対に傷を負うことがない上に様々な支援効果が発揮されてくる代物だと聞かされた時、実際に試したこともあるのだが確かに攻撃が全く効かないことが判明したので間違いないと確信したのである。ちなみに私も似たようなものを頂いたので今は身に着けているのだがこれのおかげで今も元気に過ごせていると言っても過言ではなかった……なのでそのことは感謝しなければならないと思いつつもまずはこれから向かう予定の村に辿り着くことに意識を集中したのである。
しばらくするとその村が近付いてきたのが分かった為、私達は急いで準備を行うことにした……というのもこの村では昔から伝えられている伝承があって『災いを祓うことができる力を持つ者はその代償として命を落としてしまう』というものがあったからだそうだ。それを聞いた瞬間に私は真っ先に自分が持っているスキルのことではないかと不安になってしまったがどうやら違うらしく別の人物を指しているらしいことが分かった。とはいえ油断ならないと思ったのもまた事実だったので気を引き締めつつ村へと入っていったのである。それから宿を取ると仲間達はそれぞれの部屋で休憩をとることに決めたようなので私は自分の部屋に向かうとすぐに荷物を置いてから椅子に腰掛けるとこれからどうするか考えることにした……何せ、ここまで来るのにかなり時間がかかったこともあって疲れが溜まっていたのだが、ここで立ち止まるわけにもいかないという思いもあり、休むことなく思考を働かせることにした。
(一体、これからどうすればいいのだろう? やはりアリア様のように勇者達のサポートをすることが一番なのだろうけど……正直言って私には自信がない……それに仮に出来たとしても本当に助けることができるのか不安になる)そう考えた途端に気分が落ち込み始めていた時だった……急に部屋の扉を叩く音が聞こえてきたかと思うと外から声が聞こえてきた。
「ちょっといいかい?」どうやら声の主はアリスさんのようだが何の用だろうと思いながら扉を開けるとそこに立っていたのはアリスさんだけではなくもう一人いることに気付いたのだがそれが誰であるのか理解するのと同時に私は固まってしまうことになるのだった……何故ならそこにいたのは私が知っているはずの人だったのだから……
「どうして君がここにいるんだ?」
「え……?そ、その声はまさかアルス様!?」なんとそこには私の夫であるアルスがそこにいた。ということは隣に立っているのはもしかして!?そう思ったところでアリスさんが彼を紹介するかのように言った。
「彼女はアリア様です。アリア様自らが私達と共に旅をすることを望んでくださったんです」
その言葉に思わず驚きのあまりに大声をあげそうになってしまったが、すぐに手で口を押さえると気持ちを落ち着かせてから二人に部屋の中へ入るように促すと椅子に座ってもらうことにした。そこで改めて話を聞くことになったのだがどうやら二人はこれからの旅に同行することになったそうで目的地は私達と同じだと聞いて驚いたのだがそれよりも気になる点があった……何故ならば彼らはアリア様のことを知っている様子だったからである。それ故にそのことを尋ねてみたところ思わぬ事実が発覚したので、そのことについて詳しく説明することにした……
二人が語った内容は次のようなものだった……かつて二人の勇者が魔王を倒す旅に出掛けた際に彼らのことを手助けしてくれる女性が存在したらしいのだがその正体は目の前にいるアリア様であり、しかも二人と出会った当時は見た目は幼い子供であったというのだ。しかし彼女が持つ特殊な力によって彼らを支え続けたことにより旅は順調に進んだのだそうだ。また同時に彼女にはとても大きな秘密があるのだということも教えてくれた。それは何かというとアリア様の本当の正体はこの世界の人間ではなく私達の世界の人間であるということが判明したのだという……つまり転生者ということだったのだ。しかもそれだけではなくて彼女は元いた世界で命を落した際に神様の手によってこちらの世界に連れてこられたのだという……だが、その理由というのが魔王を倒す為だけに必要だったからだというのだ。
そこまで話を聞いてからようやく理解することができたのだがそれと同時にアリア様という存在自体が私達とは根本的に違っていたという事実を知って衝撃を受けることになった……なぜならアリア様は私達のことなど気にすることなく自由に生き続けていただけでなく、私達が考えもしなかった方法で困難を乗り越えていたことが判明したことで自分達のしてきたことに対して恥じる気持ちが強くなってきてしまった……何故なら自分達が必死になってやってきたことは全て無意味だったということが判明したからである……それ故に意気消沈してしまったのだ……ところがそんな私達に向かって励ましの言葉を投げかけてきた人物がいたので私達は顔を上げた。それはなんとライアスさんだったのだが彼のおかげで何とか立ち直ることができたので感謝の言葉を告げると彼は首を横に振って答えた。
「気にすることはないよ。君達は必死に頑張ってきたからこそこうして魔王を倒したわけだし、だからこそ俺達はアリア様に会うことで再び会うことができたんだからね……まぁ、アリア様が本当はどのような気持ちで俺達と一緒に旅をしたいと思ったかなんて俺には分からないけど、きっと心の中では喜んでいると思うんだ。だからもっと自分に自信を持つべきだと思うよ」
彼の言葉はお世辞でも何でもなく本気でそう思ってくれているのだと分かるほどに優しい気持ちが込められているのを感じ取ることができ、そのお陰で救われたような気がしたのだ……そして私達はある決心を固めると同時に新たな旅を始めることを決めた。何故ならアリア様の目的は『この世界を救いたい』という目的があるらしくその為には一人でも多くの仲間が必要だと感じたからである。そして何よりも仲間として迎え入れる為にわざわざ故郷にまで出向いてきたのだと知ったので彼女の願いを叶えるためにも精一杯頑張ることを決意した。
こうして魔王討伐を成し遂げた後に始まった新たな旅が再び始まろうとしていたのだが……その前にまずはやらねばならないことがあった。それはアリア様とお別れをするという儀式を行わなければならないことだったのだがこれはあくまでも形式的なものであり実際は別れなどではないと思っている……というのも彼女は今もこの世界に存在しており、その気になればいつでも戻ってくることができるのである。とはいえ実際に会えるかどうかについては別問題ではあるが少なくとも私は彼女と二度と会えないなんてことは考えていないので再会できることを信じてその時を待ち続けるつもりだった。
さて、話は戻るわけだが実はこのことに関して私とお婆様以外にあと三人いるのだがまだ誰も知らなかったりする。ちなみに誰なのかというと、その内の一人というのはあのエルシアだった。彼女には今回の一件に関しては協力してもらうために敢えて話していないこともあり既に事情を知っているアリスさんには後で事情を説明して了承を得ているので問題は特になかったりする。そして残り二人なのだが一人目は勿論のことアドルだ。彼については今回の件に関しては無関係なので巻き込むつもりは全くなかったのだが、何故か付いていくといって聞かないので断ることができなかった……なので彼も一緒に行くことになっているというわけだ。ただし、これには理由がある。
というのも彼には今回ばかりはしっかりと働いてもらわなければならいと思っていた。それは言うまでもなく『神託の間』についての話である。元々、神託の間に呼ばれた者は皆、女神様と謁見する資格のある者達だけであって特別な力が授けられる代わりにその力を悪用してはならないとされている。だから今までにも選ばれたことがある人間は何人かいたらしいのだが誰もが途中で脱落してしまい最後まで残っていた人物は誰もいないと言われていたのだ。だからこそ私も心配になっていたのである。果たして彼にその力を受け入れるだけの覚悟があるのかということを。もし彼が受け入れずに逃げた場合のことも考えてあらかじめ対策は取ってあるのだが……とはいえ実際にどうなるのかまでは私にも予想がつかない。何せ私はその場にいなかったし、直接見てはいないからだ。だからこそどうなるかは全く不明な状態ではあるもののとりあえずはやってみるしかないと思い今に至っているわけである。
最後にもう一人の存在なのだが、それが誰かというとラキナお姉ちゃんだったりする。彼女は私と違って既に大人に近い年齢となっていることもあって今では聖女としての務めを果たすようになっているが元々はただの村娘に過ぎなかったので戦闘経験がないに等しい状態だった。そんな彼女がいきなり世界を救うだなんて荷が重すぎると考えた私は事前に手を打っていたのである。それは私の持っている指輪を彼女に預けるという単純な作戦であり、これであればもしもの場合の場合でも逃げることはできると判断した結果でもある。とはいえこれはあくまで保険に過ぎないので最悪の事態にだけは陥らないように注意しながら行動するつもりでいたのだ。
そして翌日、私達はそれぞれの荷物をまとめると宿を引き払って町を出ることにした。その際、アリスさんとアリア様からは見送りの言葉をかけられたが正直言って寂しくなる気持ちはあったのだが今は立ち止まっている暇などない……一刻も早く魔王を倒さなければならないので私達は足早に次の目的地へと旅立つことにした。
(待っていてね、アリア様……必ず助けてみせるから)
私は心の中でそう呟きながら自分のやるべき事を頭の中で整理して気合を入れると先を急ぐことにしたのだった。するとその様子を見守っていたアドルが声をかけてきた。
「どうしたんだ、突然?」
「ううん、何でもないわ。気にしないで」そう言って誤魔化そうとしたものの、どうやらそう簡単には見逃してくれないようで追及してくるのを分かったうえで逃げ出そうとしたのだが、それを察したアルスに捕まってしまい結局諦めることになった。そこで私は仕方なく説明することにしたのだがその内容を聞いた途端に驚いていた。
「えっ!?アリアさんが元神様!?」それを聞いて驚いている様子の二人に私は静かに頷いた。何故ならこの話は私達にとっては最重要機密の一つであったからだ。なぜなら下手に話してしまえば面倒な事になりかねないし下手をすれば騒ぎになるかもしれないと思って誰にも伝えてはいなかったのだ。しかし、今となってはもう関係ないと思ったので話すことにしたのである。
話を聞いた二人はかなり驚いていたようだがそれでもアリア様のことを信じてくれている様子だった。その証拠に二人は揃って笑顔で頷いてくれたのだから……それを見て安心した私は思わず微笑んでしまう。やはりこの二人は私のかけがえのない友達だと改めて実感することになった……だからこそ、これから私がやることは決して無駄ではないのだと思えるようになったのだ。だからこそ、何があっても絶対に成し遂げてみせると改めて誓うのだった。それから程なくして私達は次に向かうべき場所を決めることにした。といってもここから一番近い場所にある国といえば間違いなく帝国であることは間違いないのだが問題があるとすればそこを治める人物がどういう人物であるかという点である。そう考えていた矢先のことだった。私達の前に一人の女性が現れて声をかけてきたのだ。その女性の名はレティと言い、アリア様に仕える従者なのだという。しかもアリア様本人から聞いた話では彼女はかなりの実力者だということが分かったので是非とも私達の旅に同行してもらおうと考えて話をしてみると二つ返事で了承してくれたのだ。
こうして旅の仲間が増えたところで私達は再び歩みを進めることにする……目指す場所は魔王の支配によって危機に瀕している国々を救うためにある勇者の子孫が住んでいるとされる国『セカルド王国』へと向かうことにした。何故ならば、そこが最も近く最も安全な街だからだと判断していたからに他ならない……それに何よりもそこに行けば私達の目的を達成することができるのではないかと思ったのだ。
だがこの時の私達はまだ知らなかった……まさかあんな出来事が起こることになるなんて思いもしなかった……
「ふぅ……今日も無事に終わったわね……」仕事を終えて自室で一息ついていた私はベッドに倒れ込むようにして横になった。いつもならすぐに眠りにつくところだったけどこの日は違った。何故なら、今日はアリア様が帰ってくる日だったからだ。そして今日で彼女が戻ってきて一年となるのでその記念を祝うパーティーが行われることになっていた。
しかし、正直なところ不安で仕方なかった。というのも今回の一件は私にとって全く予期せぬものだったからだ。いや、厳密に言えば予感のようなものは感じていた。だからこそ、それを確かめるべくあえて彼女の同行を許したのだ。だが、その結果はあまりいいものではなかった……それどころか最悪なものとなってしまっており、そのせいで私は頭を抱えることになってしまったのだ。というのも、その原因というのは私達をこの世界に連れてきた張本人にして女神アリア様のご友人であるリフィル様からの伝言が原因だったのだ。
そのメッセージとは『アリア様はこの世界には来られない、つまりは元の世界に戻れないことをお知らせいたします』といった内容だったのだ。どうして今になってそんなことを伝えてきたのだろうか……私には理解できなかったし信じたくなかった。だけど、こうしてアリア様が姿を現さない以上、真実なのだと思わざるを得なくなってしまい……そうなると次に考えられるのが別の可能性ということになるわけだが残念ながら今のところ思い当たるような人物はいない。となれば一体誰なのかという話になるわけだ……そこで考えた時に出てきた答えは一つしかなかった……すなわちその人物こそがアリア様をこの世界から連れ去った犯人ではないのかという結論に至ったのだ。しかしだからといって簡単に断定することはできなかった……何故なら、もし本当にそうだとするのならば犯人は既に目的を達成していて尚且つ、これからもそれを継続していく可能性があるわけで場合によってはこの世界を支配しようとするかもしれない……そうなった場合、真っ先に狙われる対象になるのはおそらく私のいる城だろう……そしてそうなれば真っ先に標的とされるのは間違いなくアリスさんだろう。
そのことを思うだけで胸が苦しくなった……彼女は私なんかよりもずっと優しくて素晴らしい人間だということはわかっている……だから彼女を守りたいと思うのは当然のことでもあるし同時に私自身の手で決着をつけたいとさえ思っているほどだ。それなのに肝心な時には役に立てないばかりか逆に守られる立場になってしまうことが何よりも情けなかった……だからどうにかして力になれないかとあれこれ考えを巡らせてみるが結局のところ、私にできることは何もないのだという事実を突き付けられることになってしまい、ますます落ち込んでしまう……そんな時だった。
コンコン……突然、部屋の扉を叩く音が聞こえてきたので誰だろうかと思いながら扉を開けてみるとそこにいたのはなんとアリア様だった。私は突然の訪問だったので驚いたと同時に何か用事があってきたのかなと思っていたら予想もしない言葉が飛び出してきたのだ。
「お久しぶりです、ミザリー」
それを聞いた瞬間、驚きのあまり一瞬、思考が停止してしまったがすぐに我に返ると急いで扉を閉めた。
(今、アリア様が部屋の中にいた!?でも気のせいよね……だって私の部屋にアリア様が入ってくることなんてあり得ないはずだもの)そう思いながら恐る恐る扉を開けようとした次の瞬間、扉が勝手に開いたことで慌てて身を引くとそこにはニコニコ笑っているアリア様が立っておられたのだ。それを見た私は思わず言葉を失ってしまっていた。それは無理もない話だと思う。何せ目の前にいたのは紛れもなくアリア様であり本物であることも間違いない事実だ。だから本当なら今すぐにでも抱きついて再会を喜びたかったのだがそれ以上に気になったことがあった。
「アリア様……どうやってここに……?」
そう、彼女はこの部屋にやってきたということなのだ。それは当然、彼女が転移魔法を使ってきたということだと理解することができたのだが、だとしたら誰が使ったのかがわからない。そしてそれはアリア様自身も同じようで首を横に振ってこう答えてくれた。
「それが私にもわからないんです……気づいたらこの部屋のベッドで寝ていたので……」どうやら本人も知らないうちにこの場所に来てしまったらしいのだ。とはいえ私としては嬉しい反面、不安もあった。なにせ、この城は警備体制もかなり厳重な上に常に衛兵が見張りについているのだ。にもかかわらず気づかれることなくここまで来られるとなると相当な実力の持ち主であることを意味しているからだ。だとすれば犯人は誰なのかと考えながら私はある可能性に行き着いた……もしかしたらアリア様をここに呼び寄せた人物は私が予想していた人物と同一なのかもしれないと……そう思った直後、今度は背後から声が聞こえてきた。
「やっぱりここにいたのね、アルス」
その声に反応して振り向くとそこにはアリスさんとライアスがいた。どうやら二人も彼女を追ってここまで来たようだった。それを見て私はホッとしていた……なぜなら、これでアリア様に危害を加えるような輩が現れたとしても少なくとも私達四人で対応することができると思ったからだ。だがその時、私は妙な違和感を感じてしまった。というのも普段ならこういう時は一緒に来るはずのアリスさんがいなかったからである。しかも何故か彼女は顔を伏せていてその表情を確認することができなかった。その様子を見て少し心配になり声をかけようとしたところで先に口を開いたのはアリア様の方だった。
「皆さんにお話があります」その言葉を聞いた私達は互いに顔を見合わせた後、とりあえず部屋に入れることにした。すると、アリア様は私と向かい合うように座ると神妙な面持ちで語り出したのである。
その話の内容を聞いて私は驚愕せざるを得なかった……まさか、あの伝説の勇者の子孫である少年が生きているなんて夢にも思わなかったからだ。しかし、よく考えてみれば確かに不思議な点はあったのだ。それは彼がまだ子供だというのに一人で森を抜け出してきたことだ。普通ならば大人が同行するのが当たり前だしそもそもあんな場所に一人でやって来る時点でおかしな話だと疑問には思っていたのだがそういう事情なら理解できる……というよりむしろ納得できたくらいである。それに何よりもその勇者の子孫の少年の名前を知っていたということが最大の要因と言えるのかもしれない……そう、彼の名前はアレンというらしく年齢は16歳ということまで教えてくれたのだ。だがそれでも謎は残るばかりだ……果たして、どうして彼がアリア様を連れ去ることができたのかという点である。もちろんその理由は見当すらつかなかったが一つだけ確かなことがある……それは間違いなく彼が私達の世界へとやってくる存在であるということである。そしてその役目を全うしたら元いた世界へ帰っていくということもわかっていた。だがそれとは別に私はもう一つのことを考えていた……仮にその仮説が正しいとするならば彼を私達の世界に連れてきてしまったのは他ならぬ私達だということだ……しかもその事実を知っている者はごく少数であり知っているとすれば必然的に犯人ということになるわけでそう考えると背筋が凍りそうになる……なぜなら、それは私がアリア様をここへ呼び込んでしまったことになるからだ。
(そんなのってあんまりじゃない!!)そう思うと同時に涙が止まらなくなってしまった……もしもあの時、彼女に出会わなければこんなことにはならなかったと思うと悔やんでも悔やみきれなかった。だがその一方で彼女のお陰で今の私があることも理解していただけに複雑な心境になっていた。だからこそ自分を責めずにはいられなかった……しかし、そこで思わぬことを言われて驚いてしまった。というのもそれはアリア様が私に謝るような素振りを見せたのである。
「えっ!?」
まさかそんなことを言われるとは思ってなかったので思わず声を出してしまったのだが、すぐにその意味を理解することができた。何故なら彼女の表情からは罪悪感を感じているというのが伝わってきたからだ……だがどうして彼女が謝る必要があるのだろうか……だって今回のことは彼女にとっては全く関係のないことだったのだから。それなのに何故なのか……その理由がどうしてもわからなかったがやがて彼女がその答えを教えてくれることになった。そしてそこで聞いた内容は私にとって驚くべき内容だった。なんと彼女が謝罪したのは私の両親が死んだ原因を作ってしまったことに対してだということが判明したのだ。それを聞いた時、最初は意味がわからなかったのだが、その直後にあることを思い出していた……そう、彼女は以前こんなことを言っていたのである。自分がこの世界に来たのは自分のせいで死んでしまった人達を救うためなのだと……
正直言って最初は信じていなかった……いや、正確には信じたくなかったのだ……何故なら私には両親を失った時の記憶が鮮明に残っていたからである……だからこそ、目の前にいる少女の言葉が信じられなかったのである。だが話を聞くにつれ少しずつではあったがあることに気づいた……それは彼女の話す内容が所々で矛盾していることに気付いてしまったからだった。つまり要約すればこういうことになる……彼女は本来、別の世界で暮らしていたはずだったのだが気付いたらこの世界にいて更にはこの城にいたのだというのだ。それも記憶のない状態で……それを聞いて最初は信じられないと思っていた私だったが、彼女の真剣な表情を見ていたせいか次第に嘘を言っているとは思えなかった。なので思い切って質問をしてみることにした……一体何があったのかと……それに対して彼女はこう答えた。
「私にもわからないんです……」その言葉を聞いてやはりという気持ちが沸き上がってきた。何故なら彼女には嘘をつく理由がないし何よりこんな冗談を言うような子ではないと誰よりもわかっているつもりだからだ。だから恐らく本当のことなんだろうと思いつつ次の言葉を待っていた。
「私は元々、違う世界で生きていたんですがある日、急に意識が遠のいて気がついたらこの世界で倒れていたみたいなんです……だから私にはそれ以前の記憶がないですし、本当に何が何だかわからなくて混乱していました……ただ幸いにもすぐ近くに街があったのでそこで色々と情報収集することができましたし住む場所を見つけることもできたのですが、ここで問題が起こりました……それは資金不足です」
その言葉に私達は首を傾げるしかなかった。何しろ金欠という言葉を聞くとは思わなかったからである。すると彼女はそれについて説明をしてくれたのだがどうやら手持ちのお金がほとんどなくなっていたことが原因だったみたいだがそれならば仕事を探して稼げば良いだけの話だと思ったのでそれを伝えたのだが、彼女は難しい表情をしたまま首を左右に振った。「それは無理だと思います……なぜかと言いますと、この国は今、隣国との戦争状態にあるからです」その話を聞いた瞬間、私達は息を飲んだ。戦争が起こっているということは聞いていたが具体的な情報までは入ってこなかったので詳しいことはわからないでいたのである。しかし彼女が言うのであれば間違いはないと思いそのまま耳を傾けることにした。
そして話は戻るのだが、そもそもこの国の王である陛下に保護してもらったのには理由があったようだ。なんでも彼女は身分を明かすことができなかったために城の前で座り込んでいたらしいのだ。さすがにこれはまずいと判断した陛下はすぐに兵士に命じて連行しようとしたらしいのだが彼女は抵抗する素振りすら見せなかったらしい……その様子を見た陛下は慌てて事情を聴くと身の上話を聞かせてもらうことになったらしいのだ。
「なるほど……そういうことだったのか……」私は彼女の話を聞いてようやく納得した。それと同時に疑問に思うこともあったので聞いてみることにした。それは彼女の両親のことだった……実は私だけでなく他の三人も同じことを考えているようでお互いに顔を見合わせていると代表してライアスさんがこう切り出した。「なぁアリアちゃん……君さえ良ければだけどご両親の話を聞かせてくれないかな?そうすれば君の力になれるかもしれないからさ」その言葉に対して私は思わず身を乗り出してしまっていた。
確かにライアスさんの言うこともわかるのだがそれ以上に知りたいという衝動に駆られてしまったのだ。だから私はライアスさんの制止を無視して彼女に質問した……どんな人だったのかと……
すると意外なことに彼女の表情は少し曇ってしまった。そして申し訳なさそうに答えると言ってくれた……どうやら話したくないことのようだったがそれでも私は構わないと言って無理に聞き出そうとした。というのもここまで聞いてしまって今更引き下がれるわけがなかったからだ。するとそんな私達の様子を見て観念したのか彼女は話してくれた。
その内容は衝撃的なものだった……なぜなら彼女が言うには母親の方はエルフ族の女王で父親が人間族だったのだが二人が結ばれた理由は種族の壁を乗り越えるというものだったそうだ。だが二人の結婚を認めてもらうためには条件があってそれが二人のうちどちらかにエルフ族の血を継がせることだったそうである。そのため二人は話し合いの末、母親は父親ではなく普通の人間の男を夫として迎えることになったそうだがそのおかげで彼女は無事生まれてくることができたのだという……そこまでは良かったのだが問題はその後だった……というのも二人の間に生まれた子供というのがとんでもない魔力を宿していたのだという……それこそ魔法に関する才能に関しては全て持ち合わせていたと言っても過言ではないほどだったらしい……だがそれは同時に呪いのようなものでもあったのだそうなのだ……何故なら、その子は生まれてすぐに森に捨てられてしまったからだ……しかもそれだけではない……それからしばらくして母親が病に倒れて帰らぬ人となってしまうと今度は父親の方までも倒れてしまう事態に陥ったというのである。しかもその原因は母親の死による心労が原因だと医者に言われたのだそうで結局二人ともこの世を去ってしまうという結果になってしまったというのである。
私はその話を聞きながら心の中では嘘だと言いたくて仕方なかったがアリア様の真剣な表情を見ているとどうしても信じることができなかった……なぜならあまりにも非現実的な出来事ばかりだったからだ……しかもこのタイミングで聞かされたことが災いしたと言ってもいいだろう……というのも、私達四人とも既に彼女の秘密を知っていたことである種の安心感を持っていたからだ。
だからこそ余計に信じることができないでいたのだ……そう、彼女を除いて……何故なら今の話が本当なら、間違いなく彼女はその捨てられた赤子の生まれ変わりであり勇者の子孫だということになるからだ……つまり彼女がここに存在している時点でこの世界を救う役目を負っているということになるのだから、きっと神様からの使命があるのだろうと考えていたからだ。
(でも……そうなると……この子はどうなるんだろう……?)そう思ってしまった時、不意に涙が溢れ出てきた……それを見た彼女が慌てて心配してくれたのだが、それに気づいた私は急いで涙を拭った後、なんでもないことを伝えて改めて考えてみることにするのだった。だが考えれば考えるほど、思考が悪い方向へと向かってしまい、もはやどうすることもできないでいるとそこで再びライアスさんから声をかけられた。
「ねぇ、アリアちゃん、もしよかったら君が今までどうやって暮らしてきたのか教えてくれないかな?」それを聞いた瞬間、私は嫌な予感しか感じなかった。何故なら、先程聞いた話だけでも十分すぎるくらい酷い仕打ちを受けていたからである……それなのにどうしてその話をする必要があるのだろうかと思ったからだ。しかし、私が止めるよりも早くアリア様が話し始めたので私は口を挟むことができなくなってしまった。なので仕方なくそのまま成り行きに任せるしかなかった。
「……そうですね……どこから話せば良いのでしょうか……」そう言って少し考えた後で彼女はゆっくりと口を開いた。それは今からおよそ100年ほど前の話だそうです……当時、この国はまだ発展途上の国であったそうなのですが魔王を名乗る者が軍を率いて攻め入ってきたことから戦争が始まります。そしてその戦いの中で王国軍が劣勢に立たされた頃、まだ幼かった当時の王女殿下はある決断を下すことになったのです。
「このままでは全滅してしまうと考えた王国の上層部では苦渋の決断を強いられることになってしまうんです……」それを聞いて私達は驚きを隠せなかった。何故ならまさか王族自らが最前線に赴くなど前代未聞の出来事だったからである……普通であればあり得ないことである……何故ならもしものことが起きた時に責任を取る者がいなくなってしまうからである。
つまりそれだけ追い詰められているということだった。だからこそ、彼女のとった行動は正しかったと言えるだろう……もちろん国民全員が全員同じ意見だったというわけではなく反対する声も多かったようなのだがそれを押し切ってまで実行させたのには理由があった。それは敵国側に優秀な人材がいたらしく一人で戦況を変えることができるほどの力を持った人物がいたために下手に動くことができなかったからだという。だからこそ王女が先頭に立って戦うというのは最もな選択だったのかもしれないが実際はそんなに単純なものではなかった。何故なら王女自身は前線に立つとはいえあくまでも指揮官という立場だった。それは万が一、敵に捕らえられた時のことを考えてのことであった……だが、それも今となっては意味のないことだったかもしれないが、それでも国の存亡がかかった状況においては仕方がないことだったのだろう。
そんな状況の中でも、なんとか勝利することができた王女はその後も戦い続け、遂には勝利を収めることができたので、これでようやく安心して暮らせると思ったのだが、そこで悲劇が起きてしまうことになる。それは戦いが終わった直後に新たなる脅威が訪れたということである。
その驚異の正体が魔族だったということまではわかっていたので、すぐさま戦闘の準備に取りかかったが既に体力を消耗しきっていたこともあり、まともに戦える者が少なくなっていた。更にはその魔族達の中には四天王と呼ばれる存在がいてその実力は凄まじく一国を相手にしても引けを取らないと言われているほどだった。実際、実際に対峙してみないと分からない部分もあるが恐らく間違ってはいないだろうと誰もが思っていたに違いない……それくらい圧倒的な力の差があったのだそうだ。
そんな相手が数十人単位で押し寄せてくるのだ、到底勝ち目などあるわけがなかった……それでも逃げるわけにはいかなかったので、どうにかこうにか対応していたのだが、次第に追い込まれてしまいいよいよ覚悟を決めなければならないという状況にまで陥ってしまった……するとその時である、突然、辺り一面に眩い光が降り注いだと思ったらそこから一人の少年が現れたのだ、それが勇者様との出会いでした。
そして驚くことに、なんと彼は一瞬にして目の前の敵を葬り去ると瞬く間に周囲の魔族達を一掃してしまったのでその場にいた者は呆然として見守ることしかできなかったらしいです。やがて彼の姿が見えなくなる頃には既に勝敗は決していたのでした。その様子を見ていた私達はしばらくの間、何も話すことができなかったようです……何しろ相手は伝説の勇者の生まれ変わりですから無理もないですよね?ですがそんな中で最初に口を開いたのは意外にもライアスさんでした。
「……なぁ、もしかして、それってさ……」とそこまで言うと何故か言い淀んでしまいました。そして何を言おうとしているのかを察した私は思わず口を挟んでしまいます。なぜならその予想が外れてほしいと思っていたからです。なぜなら彼女が言った勇者の名前を聞いてしまったから……すると彼女は頷いて答えてくれました。
そう、私達がよく知っているあのお方の名前を…………『ラガス帝国初代皇帝』と呼ばれた英雄の名を……
(そんなはずない……!だって……あの人は亡くなったはずだもの……生きているはずがないわ……)そう思いながら否定しようとするもできなかった……何故なら目の前に現れた人物がまさしくあの人本人だったからだ……それによく見てみれば姿形が変わっているものの見間違うはずがなかった……いや、そもそもこんな特徴的な髪色をしている人物なんて他にいるわけがない!そう思い至った瞬間に私の頭の中で一つの結論が出たのだった……この人は……アリア様だと……しかし何故なのかわからなかった……だって彼女は人間だし、見た目だって全然違うというのに……でも直感で確信できた……だから私は素直に認めることにしたのだ。そう、彼女がアリア様だということを……そして同時に自分の使命を思い出したのだ。
(ああ、そうだった……私はこの人を守りに来たんだ……絶対に死なせないようにしないと!そのために私はここにいるんだから!)そう思うと自然と体が動いていた……気がつくと私は彼女を抱きしめていたのだ……もう二度と離さないという意思を込めて……
その後で我に返った私は恥ずかしさのあまりすぐに離れたのだけれど、その様子を黙って見つめていた陛下達は優しく微笑んでくれていました。するとそこへちょうど戻ってきたアルスさん達が入ってきたことで一気に場の空気が変わってしまうことになります。どうやら用事が終わったようで帰ってきたのだそうです。ちなみに何があったのかを聞くとなんでも王様からアリア様のことについて尋ねられたのだそうだ……まぁそうでしょうね……
ただ、ここで一つだけ言っておきたいのはこの質問は別におかしいことではなかったのである。なぜなら彼女達はすでに面識があったのだから当然であろう……何故ならこの旅の間、ずっと一緒だったそうなのでお互いに知らない方がおかしい話なのである。
それからしばらくして食事を終えたところで解散することになったのですが、この時になって初めて知った事実がありました。それは実はアルスさんが人間ではないということだそうで何とエルフ族だということが判明したのです。その事実に驚いた私達はすぐにアリア様に確認したところ本人も認めていました。しかし、どうして黙っていたのかと聞いてみたら、彼女は笑って誤魔化した後に私以外の二人にも同じように尋ねることになりました。
それに対して、二人共が同じ答えを返してきたので、私も納得してそれ以上の追求をするのをやめました。
(それにしてもどうしてわざわざ聞く必要があるのかな……?)そう思った私が首を傾げているとそこでアリア様が手招きをしたので近づいてみると小声で話しかけてきたのだった。
「あのね、一応みんなには内緒にしておいてくれると助かるんだけど……」そう前置きをした後で彼女は話し始めた。
「実をいうとね、私にはちょっとした秘密があるのよ……」
それを聞いた私は驚きながらも黙って耳を傾けることにした。すると彼女は更に続けた。「それはね……私が元々、この世界とは別の世界から来た転生者だということなのよ」そう言って悪戯っぽく笑う彼女の姿は今までで一番可愛らしく見えたのだった。
第5章・完 翌日になり目を覚ますと既に起きていたアリアが話しかけてきた。どうやら俺に話があるということで朝食を食べながら話をすることになったようだ。そのため食堂へと向かうとそこには誰もいなかったため二人で向かい合って食事を摂ることになった。そしてある程度食べ終えたところで俺は本題に入ることにした。
「それで、話したいことってなんだ?」そう問いかけると彼女は少し躊躇う素振りを見せたがゆっくりと話し出した。その内容を簡潔にまとめるとこうなる……まず俺やみんなには隠していたが、実は彼女は元王女だったらしい。そして俺達と出会うまでの話は聞いているので知っているつもりだと答えた上でさらに続けてこう言った。
自分はかつてこの国に住んでいたことがあるのだが、当時の国王に裏切られてしまったために国から追放されてしまったのだという……その理由というのが俺が想像していたものとは全くの別物だったのだ……というのも彼女は魔王軍の四天王の一人を倒した勇者の末裔だったのである。
そこで一旦、区切ると今度はどうして追放されたのかについて話し始めた。それは当時の王侯貴族の間でとある噂が流れ始めたのが原因だったようだ。その真相については、ある夜会に参加していた時に、とある貴族の男と偶然にも出くわしてしまい、その場で激しく口論になってしまったらしい。そしてその結果としてその男が不敬罪で投獄されたのだが、その罪状とは『国家転覆を謀る組織の一員だった』というものであったらしくそれによって疑いをかけられたようだった。もちろん、そんなことなど全く身に覚えがないと言ったそうだが結局、そのまま牢獄へと連れて行かれることになってしまい二度と出てくることはなかったらしい。だが、それでも疑惑の目は消えなかったために様々な調査が行われた末に彼女のところにまで回ってきたようなのだが、そこで彼女はこう告げたらしい……自分が王女であると、それを耳にした王は驚愕しながらも何か裏があると考えすぐさま捕らえることを決めたようだが、その時すでに彼女には護衛として仕えていた者がいたようでその人物が見事に彼女を逃してくれたということだった。しかし、問題はここからであった……その者が何者かによって暗殺されてしまったからである……これによりますます追い詰められた王は最後の手段として秘密裏に刺客を放つことに決めたのだという……そうして放たれた者達によって命を狙われることになり、結果命を落とすことになってしまうことになったのだった。
ここまでの話が今回の一連の事件の全てであると締めくくった後で、アリアは申し訳なさそうにしながら謝罪してきた。それはおそらく自身が王女であることを黙っていたことに対してのものだったのだろうが特に気にしていなかったので普通に気にしていないことを伝えたら安堵の表情を見せた後で嬉しそうにお礼を言われたのだった。
その後、改めて俺の方からも今回起きた出来事に関する考察を伝えると彼女もそれに同意した後、今後の予定についての話し合いを始めることになったが、まずは俺の考えを述べてから話すことにしたため彼女にも聞いてもらうことにする……
「確かに、このままいけば俺達は王国から追われることになってしまうだろう……そうなれば行くあてもないためにいずれは野垂れ死んでしまうかもしれない……だがな、だからと言って大人しく捕まるわけにはいかないんだよ。もし仮に捕まったとしても、また同じように刺客が送られてくることは容易に想像がつくからな……」そう言うとアリアは少し考える仕草を見せた後で頷き返してきた。
「……確かにそうだね……でも一体どうするっていうの?このままだと確実に捕まっちゃうと思うけど?」不安そうな表情を浮かべてそう問いかけてきた彼女に対して、俺が考えた案を話すことにした。その作戦というのはこうだ……今現在において王国内にいる勇者一行を捕らえるために刺客を放っているわけだが、彼らは未だに誰一人として捕らえられてはいないことから躍起になっていると思われる……だからこそ必ず近いうちに何らかの動きを見せてくるはずなのでその時を見計らって反撃に転じるのだ。ただしこれにはいくつかの問題点があるため注意しなければならない。まず一つ目は、この作戦にはこちらの犠牲も少なからず出るということである……なぜなら向こうはこちらを殺るつもりで仕掛けてくるだろうからこちらも相応に相手を殺さなければならないのだ。しかしそれでも全員を救うことができるのであればまだいい方であり最悪の場合は全滅してしまう可能性も考えられるからだ……だからこそ慎重に動かなければならなくなるというわけだ。二つ目はこれが最も重要になってくることなのだが、こちらは相手の正体をしっかりと見極める必要があるということなのだ。何しろ相手が誰なのかわからない以上は下手に手出しすることができないのである。そうしなければ返り討ちに遭ってしまう恐れがあるからだ……いくら腕に自信があったとしても不意討ちを受けてしまうと対処しきれないこともあるからな……よって、こちらについても相手の正体を見極めてからでなければ動くことができないということになるわけだ……こればかりはすぐに判断できるものではないために時間をかけて探っていくしかないだろう。そして三つ目に関しては、そもそも王国を敵に回すことが得策かどうかという問題なのだがこれについては今は置いておくことにするとしよう……何せ今はまだ判断を下すべきではないからな……まあとにかくそういうことで当面のところは様子見ということになるだろう……さて、とりあえずのところ話はこんなところだが他に聞きたいことはあるか?」そう尋ねると彼女は少し考え込む仕草を見せると口を開いた。
「うーん、そうね……あっ、そういえばラガス帝国の人たちはどうするの?さすがに放っておけないんじゃない?」その言葉を聞いて俺は難しい顔をしてしまった。なぜなら彼らがどういう目的でこの国にやってきたのかがまだわかっていないためどうするべきなのか迷っていたのだ……まさか帝国内でクーデターが起きたなんて話ではないとは思うが……それにもし本当にそうだったとしたら助けに行かなければならないと思うしな……するとアリアが声をかけてきた。どうやら考えが顔に出てしまっていたようだ。そこで慌てて取り繕った後に返事をすることにした。
「そうだな……一応、様子を見に行ってみようと思うがお前はどうする?」そう聞いてみると彼女は迷わず答えた。
「うん、もちろんついていくよ!だって、放ってなんかおけないもの!」それを聞いた俺も同意を示した上で出発の準備を行うことにしたのだった。
第6章・完 翌朝、身支度を整えた俺達は宿をチェックアウトした後で街中を歩いていると、昨日までの閑散とした雰囲気がまるでなかったかのように人で溢れかえっていたのだった。
(一体どうしたんだろう……?みんな元気そうだけど何かあったのかな?)そう思いつつも歩いていると突然声をかけられたのである。それはなんとアルスさんだったのである。どうやら彼も王様の命を受けてこの街を調査しに来たようだ。すると彼はこんなことを言ってきた。
「すまないが一緒に来てもらうことはできるか?もちろん無理強いはしないが、できれば同行してもらいたいのだ」その言葉に私とエルシアは一瞬顔を見合わせた後で互いに頷くとすぐに返事をした。それから案内されるがままについていくととある建物の前までやって来た。そこには既に他の仲間達が集まっており、何やら話し合いをしているようだったので少し聞き耳を立てていると、その内容は信じられないものであった。
どうやらこの街で異変が起きており、その影響によって住民達の様子や行動がおかしくなっているらしい。そしてそれが魔物の仕業ではないかという話になったらしく、私達にも協力して欲しいという要請が来たというわけであった……そこで私達は再び顔を見合わせると小声で話し合うことにした。
(どうする?これってどう考えても怪しいと思うんだけど……それにどうして私たちなんだろうね?)
(そうですね……これは何か裏がありそうです。もしかすると罠かもしれませんね……どうしますか?一度引き返しますか?それとも……やはり調査した方が良さそうですかね?)私はそう尋ねてみたところ彼女は首を横に振った後で言った。
(う~ん、やっぱりやめた方がいいと思うよ。だって明らかに怪しすぎるもの……きっと危ないことに巻き込まれる可能性が高いと思うんだよね……だからここは素直に指示に従っておいた方が良いと思うのよ)彼女が言う通りだと私も思っていたのでありのままを伝えると彼女も頷いてくれた。
それからしばらくした後に全員で王城へと向かうことになった。その間も周囲に注意を払いながら進んでいたのだが特に何も起こることはなかった。しかし、それは王城の中へと入っても同じことであった。そのまま王がいる謁見の間まで通されることになったが、そこに辿り着くまでの間、誰からも声をかけられることはなかったので、おそらく既に調査済みの場所なのではないかと考えてしまったが敢えて口にはしなかった。
それからしばらくすると王からの呼び出しがあったので中に入ると案の定、その場には王が座っていてその横には側近達が控えていたのだった。そこで改めて自己紹介をした後で早速本題に入ることになった。その内容としては、最近になって街に活気が溢れているのは、恐らく魔王軍の影響によるものと思われるが、今のところは大した被害は確認されていないために現状のままでも良いと考えているので引き続き監視を続けて欲しいということだった。それに対して私達は承諾の返事をしてその場を後にしたのだった。そして宿に戻ったところで一息ついた後で今後のことについて話し合った。その結果、今後は今まで通りに行動するということで一致したのでその日はゆっくり休んだのだった。
次の日になると、街に出てみることにした。相変わらず人が多いのだが以前に比べると活気がないように見えた。そこで私は気になったのでみんなに聞いてみた。すると彼女達も同じことを感じていたらしく、不思議に思っているとのことだった。
それからも街を調査していく中でわかったことは、どうやら住民達にも影響が出始めているらしいということと、一部の人達の間でおかしな言動が見られるようになっているということだった。それを聞いて思ったことはもしかしたら、この街にいる者達全てが何かしらの影響を受けてしまっているのではないかという推測だった。そこで念の為に街の外へと出た後で、ある場所に立ち寄ってみるとそこは洞窟になっており中へ入っていくことにした。その際、見張りの兵士から止められることになり理由を聞くとどうやらここに立ち入るためには許可が必要らしくそれを取ってきてほしいと言われてしまった。なので一旦戻ることにしてから改めてその許可を取るために役所へと行くことにした。
その後、手続きを済ませて許可を得ることができたので中に入ってみることにする。するとそこには、かつて訪れた時のような不気味さは一切感じられず至って普通のダンジョンのようだったのだ。しかし、どこか様子がおかしいとも感じていてその原因についてはまだ掴めずにいたがとりあえず先へと進むことにして進んでいった。
奥へ進んでいくとやがて開けた場所に出た。その中心部では一人の男性が倒れていたので駆け寄ってみると意識を失っていたようだが命に別状はないようであった。だが、かなり疲労している様子だったのでこのままにはしておけないので、一度地上に戻ることにした。そして、男性の容体についてアリア様に調べてもらった結果、やはり原因不明で眠っているだけで他にはどこにも問題はないということがわかった。また彼の身元は王国の人間ではなく、旅の行商人だということが判明したので念のために彼が目を覚ますまではここで面倒を見ておくことになった。
※この話は第7章・完の後の話になります! 第6章を読んでいただきありがとうございましたm(__)m楽しんでいただけたでしょうか?もしよろしければ感想などを教えていただけるとありがたいです(*^_^*)
それと次回から新章となりますが今後もお付き合い頂けると嬉しいです!! それでは皆様よいお年をお迎えくださいm(__)m それから三日ほど経過したが未だに男性の方は眠ったままだった。なので、目が覚めるまでは私が看病することにして、それ以外のメンバーはその間に情報交換をすることに決めた。そして現在、それぞれ集めた情報をお互いに共有したところによると、どうやら王国内だけでなく世界中で同じようなことが起きていたらしいということが判明していた。それに伴って住民達は混乱し始めていたようで中には暴動を起こして騒ぎを起こす者もいたようだ。しかしそれもすぐに収束したため大事にはならなかったようだ。ちなみに原因はいまだにわからないとのことで解決には至っていないようだ。さらに、どうやら魔物達の様子がおかしくなってきているとのことであり、一部ではかなり強力な個体が現れたりするなど問題が起こっているそうだ。
それらの話を聞いた後、今後のことを話し合うとひとまず王都から距離を置くことにした。というのも、これ以上調査を行っていても有益な情報は得られないだろうと考えたからである。そのためこれからの方針を話し終えると、とりあえず一度家に戻って必要なものを揃えてくるように言われたため準備を行った後で出発することにした。それからは何事もなく進んでいき数日が経過したところでやっと村が見えてきたのである。その村の名は【イシス】といい人口は二百人ほどしかいない小さな集落であった……しかし何故か妙な胸騒ぎを感じていたために警戒を強めたままゆっくりと近づいて行った。そして入り口付近に到着するとそこには一人の女性が立哨しており、こちらをジッと見つめていたが敵意は感じられなかったのでそのまま素通りしようとした時に声をかけられた。
「すみません、少しよろしいでしょうか?」そう話しかけてきた彼女に視線を向けると微笑みながら問いかけてきた。
「失礼ですが、あなた達はどこから来たのですか?この村に何か用でも?」
「あ~いや、俺達はたまたま通りかかっただけだ。特に用事とかは無いんだが……」そう言うと彼女は頷きながら言った。
「なるほど……わかりました!それなら私達と一緒に来ませんか?ちょうど食料が底を尽きそうで困っていたところなんです。それでどうでしょうか?」俺はエルシアに視線を向けたが彼女も同じように判断を委ねるようにこちらを見つめてきた。
(どうするかなぁ……?確かに彼女の言うことも一理あるんだが……)そんなことを考えながら考えていると再び声をかけてきた。「あの……どうかしましたか?」その問いかけにハッとすると慌てて口を開いた。
「ああ、すまない!少し考え事をしていてね……実は今仲間達とはぐれてしまって一人きりなんだよ……だからできれば助けて欲しいんだけど良いかな?」そう言って問いかけると彼女は笑顔を浮かべながら頷いた。
「もちろんですよ!困っている人がいたら助けるのは当たり前ですからね!それではついてきて下さい!」そう言った後に歩き始めると俺達もそれに続くようにして歩き始めたのだった。
村の中に入った後で軽く説明を受けた後に村長の家まで案内されることになったのだが、その際に気になる点があったことを思い出したので質問をしてみた。それはここに来るまでの間ずっと気になっていたことだったのだが、なぜか村のあちこちに魔物の死体が大量に放置されていたことだ。それについて質問してみると彼女は平然とした様子で答えてくれた。何でも少し前に大量の魔狼の群れが現れて村人達を襲いに来たことがあったらしいのだが、偶然通りがかった旅の戦士によって退治されたらしくそれ以来、村に魔物が現れることは無くなったとのことだった。その話を聞いていると目的地に到着したのか立ち止まって振り返ると笑みを浮かべている彼女と目があった。それからは家の中に入り、椅子に腰掛けたところで自己紹介をすることになった。まずは俺が名乗ることになりその後に続けてエルシアとアリア様が続いた後で最後に彼女が名乗りを上げたのだがそれは驚くべき名前であった……なんとこの国の第一王女である『ユナ・グランティール』という名だったのだ。その事に驚いてしまったがよくよく考えてみれば王族ならこんな所に一人でいることはおかしいと思ったので納得すると同時に納得できないこともあった。どうして一国の王女様がこんなところにいるのだろうかという点だった。仮に何らかの理由があって城を抜け出したとしてもおかしくはないだろうがさすがに無謀すぎるのではないだろうかと考えていたのだ。するとそんな俺に対して説明をしてくれたのだった。その話によると元々病弱な体質だったためほとんど城の外に出たことがないらしく外に興味を持っていたらしいのだが国王の命令により、渋々ながらも城を出ることになってしまったらしいが道中で体調を崩してしまったせいで道に迷い森の中を歩いていた際に魔物達に襲われて逃げている内にここへ辿り着いたらしい。つまり行き倒れ状態だったところをここの村長に助けられたらしくその時に恩返しも兼ねて手伝いをしていたということだった。そこまで話すと不意に立ち上がり言った。
「さて、そろそろご飯の準備を始めますね」それからしばらくしてテーブルには豪華な料理の数々が並んだのを見て驚いていたがせっかく用意してくれたということでいただくことにした。味はとても美味しくあっという間に平らげてしまったので、お礼を兼ねて食器洗いなどを手伝ってから部屋に戻った後で今後についての話し合いを始めることになった。ちなみに食事中に他の者達についても説明した上で今は休んでいるということにしてある……なのでこの場にはいない。そこで早速本題に入ると全員が真剣な表情を浮かべていたので俺も気を引き締めながら問いかけた。
まず始めにユナは自分以外に仲間がいると言った。しかし居場所や状態については何もわからなかったが一つだけ手掛かりのようなものはあった。それはここから南に行った先にある街の付近で目撃したという証言が得られたらしいということだ。それを聞いて俺とアリア様はすぐに向かうことにした。他のメンバーにもそのことを伝えてから出発したのだがここで問題が起こったのだ。それがエルシアが付いてくると言い出したことだ。どうやら何か嫌な予感がするらしくその調査のために自分も向かうとのことだった。俺は正直迷ったが戦力としては申し分ないため一緒に連れていくことにした。ただし無茶はしないように言い含めておいたのは言うまでもないことだろう……こうしてメンバーを入れ替えた俺達は目的の場所へと向かうことになった。
そして数日後に街に到着したのだが以前とは違って異様な雰囲気を漂わせる街に言葉を失ってしまった。というのも以前は活気溢れる賑やかな街並みだったのに対し今では見る影もなく荒んだ様子だったからだ。それに住民達もどこか虚ろな目をしていてまともに話ができる状況ではないと判断した俺達は手分けして情報を集めることにした。
俺はとりあえず近くにいた人達から話を聞くために話しかけたのだが誰も口を開こうとせず視線すら向けようともしなかった。なので、仕方がなく適当に選んだ一人の男性に話しかけることにした。「突然すまないがちょっと聞きたいことがあるんだが良いだろうか?」しかし彼は無反応のままだったが構わず続けることにした。「……ここらで怪しい奴らを見なかったか?もし見かけたのなら詳しく教えて欲しいんだが?」するとそれまで無表情だった男性が急に笑みを浮かべたので思わず後退りしてしまったがそれでもなんとか堪えていると、彼はゆっくりと口を開き話し始めた。
「……そいつらならさっきここを出ていったよ……確か西の方へ歩いて行くのを見たけど……?」その言葉にお礼を言ってすぐに立ち去ろうとした時、呼び止められたので振り向くと彼は笑みを浮かべてこちらを見ていたがその顔を見た瞬間、恐怖のあまりその場から動けなくなってしまったのだ。なぜなら彼の目が完全に濁っていたからだった。それからは何も考えられなくなりそのまま呆然と立ち尽くしていると男は笑い出したかと思うと俺の横を通り抜けていった……その瞬間、まるで金縛りが解けたかのように体の自由を取り戻したことで慌てて追いかけようとしたがすでに手遅れだったようで誰もいなかった。そしてその場に残っていたのはその男性の死体だけでそれ以外の者は跡形もなく消えていた。そのあまりの状況に絶句してしまいしばらくその場から離れることができなかった……それからどのくらい時間が経った頃だろうか……ふと背後から足音が聞こえてそちらを向くとそこには見覚えのある人物が立っていた。それは紛れもなく王国を出発する際に同行させてほしいと願い出たあの女性であり俺達を助けてくれた恩人でもあるユナさんだったからだ。しかしその様子は普段とはまったく違い虚ろな瞳でこちらを見つめていたのだがしばらくするとこちらに近づいてきたかと思うと抱き着いてきたのだった。突然のことに驚いているとその女性は笑みを浮かべながら言った。
「……会いたかったわ……」そう言うと静かに目を閉じて動かなくなってしまった。どうやら気を失ったようだがこのままにしておくわけにはいかないと思った俺は急いで宿屋を探し出して運び込むとベッドに寝かせた後で今後のことについて話し合った結果、この街で何が起きたのかを調べて回ることになった。そのためにしばらくは滞在することになるだろうと予想していたのだが、まさかあんな出来事が起きるとは思ってもいなかった……
※新章スタートです!楽しんで頂けると幸いです(*^-^*)
次回からはいよいよ事件発生です!!果たして彼らはどうなってしまうのでしょうか!?
※今回は短くなってしまいましたが、これからも応援よろしくお願い致しますm(__)m
※また、感想などがありましたら遠慮なくお寄せください!皆様の声をお待ちしておりますm(__)m
(……一体「よし、それじゃあ行ってくるね」そう言って私は皆んなに声をかけた後に歩き出したんだけどすぐにアリアが隣にやってきた。
それを見て苦笑いを浮かべていた私だけど内心はとても嬉しいと思っていたので笑顔で頷きながら言った。
「今日はよろしくね、アリア!」すると彼女も笑顔になって頷いた。その後ろの方ではミレイちゃんが寂しそうにしていることに気づいた私は声をかけることにした。「……えっと……もしかして寂しかったりするのかな?」それに対して首を横に振りながら否定する彼女を見て小さく笑みを浮かべると頭を優しく撫でながら言った。
「大丈夫!ちゃんと戻ってくるからね!」そう言った瞬間、嬉しそうに頷いていたので私も嬉しくなったのだった。それからしばらくの間歩いている間も私達は雑談を交わし合っていたが特にこれといった話題は無かったもののとても充実した時間を過ごすことができたと思っている……ただ一つだけ不満があるとすればユナとエルシアがいないことだろう……二人は用事があるから先に王都に行っているように言われたのだがどうしても納得できずに食い下がってしまったことを今でも後悔していた。
(はぁ……どうしてあんなこと言っちゃったんだろうなぁ……きっと呆れられたに違いないよね……でも二人と一緒の方が絶対楽しいと思うのに……)そう考えているうちに悲しくなってきたので慌てて頭を振ることで思考を切り替えて顔を上げるとちょうど良い感じのところに川が見えたのでそこに近づくと水浴びをすることにした。ちなみに服を脱いでから裸になった後、川に入っていく様子を少し離れた場所からアリアが見ていたので首を傾げているといきなり声をかけられたので驚いて飛び上がるようにして振り返った。
「どうしたの?」すると彼女は笑顔を浮かべたまま近づいてきて話しかけてきたのだが私の体をじっと見つめているので顔が熱くなってきたので思わず顔を背けてしまったが、そんなことを気にせずにさらに顔を近づけてきた彼女に問いかけると意外な答えが返ってきたので驚いた。何故ならそれは彼女の提案であったからだ。それを聞いた私は驚きつつも喜びのあまり抱きついてしまうという行動に出てしまったのだがそれも無理のないことだったと言えるだろう。なぜならそれは彼女が私達のことを仲間として認めてくれたということなのだから……そのことに感動しつつお礼を言うと顔を真っ赤にしながら照れていたので微笑ましく思っていたのだが、それと同時にある考えが浮かんできたので実行してみることにした。
そしてそれを実行に移すべく準備を始めたところで再び戻ってきた彼女に向かって声をかけると不思議そうな顔をしたので簡単に説明した後で着替えてもらうように言った。最初は戸惑っていた様子だったが私が説得を試みたことで了承してくれたので早速準備に取り掛かることにした。まずは先程脱ぎ捨てた服を回収した後で下着類を脱ぐと一箇所に集めておきその間に着ていた服を脱ぎ始めた。その際、自分の胸に視線を向けた時に少し悲しかったことを思い出したので落ち込んでいるといつの間にか近くにアリアが来ていたので声をかけようとした時だった。「ユナは大きい方が好きかな……?」突然の問いかけに首を傾げると続けて言ってきた。「男の人って胸の大きな女の人が好きなんだよね……?それって本当なのかな……」その発言を聞いた私は驚きを隠せなかったのだが、よく考えてみると言われてみれば納得できることでもあったため真剣に考え込んでいたのだが、そこでふとあることに気がついたので本人に聞いてみることにした。それは以前にアルスから聞いた情報を思い出してのことで、その話を聞かせると彼女は恥ずかしそうにしながらも否定しなかったことに加えてエルシアも同じようなことを言っていたらしいことが決め手となったことでアリアを味方につけることに成功して作戦を実行することに決めたのだ……
※ついに始まりました(笑)次回からは本格的に物語が始まります。どうぞお楽しみにしてください!それでは失礼致しますm(__)m あれからしばらくして目を覚ました俺は村長さんにお礼を言いに向かうことにしたのだがその途中で一人の女の子に話しかけられたので返事をしようとしたのだがその子の顔を見た瞬間に固まってしまった。というのも声をかけてきたのが王女様だったからだ。さすがに無視するわけにもいかなかったので恐る恐るではあるが返事をすることにした。すると、彼女は笑顔を見せると嬉しそうに話し出した。「あ、あの……その……助けていただきありがとうございます……それで、お礼をしたいのですが何かしてほしいことはありませんか?私に出来ることであれば何でもします!」その言葉を聞いてどうしようかと悩んでいたのだが、そこであることを思いついた俺はそれを伝えることにした。「それなら少しだけ時間をもらっても良いですか?この村に知り合いがいるはずなのでそいつを探してきますのでそれまでここで待っててくださいますか?」そう言うとなぜか顔を赤らめながらも頷いてくれたのでお礼を言った後でその場を後にするのだった。
村の中を一通り見て回った後に村の外の方へと向かって行ったが目的の人物の姿を発見することができず途方に暮れていたが不意に後ろから声をかけられたことに気がつくと振り返るとそこにはライアスが立っていた。その姿を見つけた俺がホッとした表情を浮かべていると彼が不思議そうな表情を浮かべたまま問いかけてきたのでこれまでの経緯を説明すると納得した様子で頷いた。そしてお互いに自己紹介を済ませた後で今後のことについて話し合うことになった。ちなみにだが彼も国王からの依頼を受けてここにいるらしい。そのためこれからの行動について話し合っていたのだがふと気になることがあったので彼に尋ねたところ、なんでも最近この周辺でゴブリンやコボルトの姿が頻繁に目撃されるようになったらしくその原因を調べるために派遣されたのだと言う……それを聞いてあることを考えていた俺だったのだがそれは彼も同じだったようだ。そのことを話すと真剣な表情をして頷いていたが何かを決断したかのような表情を浮かべると言った。
「……実は俺も同じことを考えてるんだがお前はどうする?もしよかったら手を組まないか?」そう言われたことで驚くと同時に迷うことなく即答した。というのも彼の力は非常に頼りになると思ったからである。なにしろ彼はあの王国の勇者なのだ……それに彼には人を惹きつける魅力もあるようだし信用できる人物だと思ったのもあって俺は喜んで頷くのだった……それから互いに自己紹介をしたあとで握手を交わした後で一緒に行動をすることにした俺達は調査を続ける中でゴブリンの巣を見つけることになる。そしてその奥深くに隠されていた部屋を見つけた俺達が中へと入って行くとそこには一匹のゴブリンの姿があったがすぐにその正体が判明することになった。なぜならそいつはゴブリンキングだったからだ……しかし様子がおかしいことに気づいた俺達はすぐに剣を構えたがその様子を見て察したのだろう、奴は笑みを浮かべると驚くべき発言をしてきたのだ。なんと自分の正体を明かすとともに協力を申し出てきたことに驚いていると続けてこう言ってきた。「……確かにお前らは強い……だけど所詮人間なんだ!だから魔王様のためにお前達には消えてもらおうと思ってるんだ!そうすればあの方も喜ぶからな!」その言葉を聞いた時、奴の目的に気づいた俺達は同時に攻撃を仕掛けることにした。するとそれを見た奴は笑い出すと共に俺達に向かって叫んだ。「……フハハハハッ!!まさかとは思うが本気で勝てると思っているのか!?ならば見せてみろ!絶望というものをな!!」そして戦いが始まったのだがそれは一方的なものとなるだけだった。何故なら奴が繰り出してきた攻撃はどれも強力で一撃でも食らえばひとたまりもないほどの威力だったからだ……その証拠に攻撃を受けてしまった俺はかなりのダメージを受けてしまっていた。そんな俺の姿を見た奴は不敵な笑みを浮かべると再び攻撃を仕掛けてきた。しかも今度は連続で放ってきたために避けることもできずに直撃してしまうと吹き飛ばされて地面に倒れ込んでしまった……それを見ていた奴らが勝ち誇った表情で近づいてきたが次の瞬間、その顔が恐怖へと変わったかと思うと信じられないといった表情を浮かべた……なぜならそこにいたのは無傷の状態で平然としている姿があったからだ……それに対して怒りを感じた彼らは一斉に攻撃をしかけた。
しかし結果は先程と変わらないもので次々とやられていったのだが、その中には何故かライアスも含まれていた。その理由についてはすぐに分かった……なぜなら彼は俺と戦っていたはずなのに突然こちらに襲いかかってきたのだから驚いたがよく見るとその瞳に光はなかったことから操られているのだと気づくと同時に何とかしようと考えたのだが今の状態だとまともに戦うことはできないと判断した俺は魔法を使って吹き飛ばすと距離を取ることに成功したので急いで立ち上がるとライアスに向かって叫ぶように声をかけた。「目を覚ませ、ライアス!そのままだと死ぬぞ!」だが、その声は届かなかったようで何も反応がなかった上に襲ってくる様子もなかったので覚悟を決めると自らの体に宿っている魔力を全て解放してその力を全て解放することで一気に勝負をつけるべく動いた……そして決着がついた時にはすでにその場に立っている者は一人もいなかった……
意識を取り戻した俺はゆっくりと目を開けると視界に入ってくる光がとても眩しくて思わず目をつぶってしまうと徐々に目が慣れてきたところでようやく周りの様子が分かるようになってきたので、まだ意識が朦朧としていることもあって上手く働かない頭を無理やり働かせながら何があったのかを思い出そうとしていたのだがその直後のことだった。突然何者かの気配を感じ取った俺は咄嗟に身構えたのだがそれと同時に声をかけてきた者がいたので振り向くとその人物の顔を見た瞬間、目を見開いて驚いた。何故ならそこに立っていたのが先程まで敵だったはずの者だったからで何がどうなっているのか分からなかったが、それよりも重要なことに気づいてしまったことで呆然と立ち尽くしていると不意に声をかけられて慌てて振り返るとそこにいたのはアリアだったので驚きつつも話しかけようとしたがそこで初めて自分の体を見たことでさらに驚くこととなった。それはなぜか裸になっていてしかも全身に傷があったからだ。だがそれ以上に気になったのはその傷は全て治っていたことだった。
(……どういうことだ……?俺は確かあの時にあいつと戦ってたはずだよな……?だとしたらなんで傷がなくなってるんだ……?そもそも何でこんな場所で寝てるのかもよく分からないんだがもしかして夢だったのか……?それにしてはリアル過ぎるような気が……ん?ちょっと待てよ……そう言えばどうしてアリアの顔が見えてるんだ?今までは視界がぼやけてたから気づかなかったが今見るとはっきり見えるってことはやっぱりあれは現実にあったことなのか……?でもそうだとしてもなぜ俺はこんなところにいるんだ……?いや、そもそも本当にあれが現実に合ったことなのかどうかさえ怪しいところなんだがな……)そこまで考えた時に一つの可能性が思い浮かんだ。(もしかするとこれは夢の中の出来事だったんじゃないのか?……もしそうだとすれば今の状況にも説明がつくしな……)そう思いながらアリアの方を見てみると不思議そうな顔をしながら俺のことを見つめてきたのでその視線から逃れるようにして顔を逸らすと体を動かそうとしたが思った以上にダメージが残っているせいか動かすことができないので諦めて体の力を抜くとそのまま仰向けになって寝転ぶことにした。するとそれを確認した彼女が声をかけてきたので視線を向けると申し訳なさそうな表情で見つめてきたが、その姿を見ているとなぜか急に愛おしく思えてきて無意識に彼女を抱きしめていた。いきなり抱きしめられたことに驚いていたようだが抵抗することなく受け入れてくれたことに感謝しつつ優しく頭を撫でていると嬉しそうな表情を浮かべる彼女を見つめながら呟いた。
(それにしても、よくできた夢だよな……まあ実際にあんなことがあったら嬉しいけどさすがにここまでのことはできねえし……となるとやっぱこれ全部夢なんだろうな……だけどそれならそれでも良いか……どうせ目が覚めた時には忘れるんだから……それなら思う存分楽しんだ方が良いもんな?)そこでニヤリと笑うと再び彼女のことを見つめた後で問いかけるように言った。「なあ、キスしてもいいか?」するとその言葉を聞いた彼女は少し恥ずかしそうな表情を浮かべながらも小さく頷いたのを見て満足気に微笑むとそっと顔を近づけていったのだった……それからしばらくの間は幸せな時間を過ごせることになったが、いつまでもそうしているわけにはいかないので起き上がるとアリアと一緒に辺りを見渡してみたがどこもかしこも見覚えのない光景ばかりだったことでここがどこだか見当もつかなかった。
とりあえず今はこの場所から出ることを最優先に考えなければならないと思った私は一緒に行動していたアルスさんの手を掴むと言った。「早くここから出ないと!」それを聞いた彼は頷いてから返事をすると同時に歩き始めた……だがその直後、私達の体は突然現れた謎の魔法陣の中へと吸い込まれていくことになるのだった。
「……どうやら成功したようね」その様子を少し離れた場所から見ていた少女は笑みを浮かべていたのだがやがて興味を失ったかのようにその場から歩き去ると姿を消したのだった……その後、私達は気づいたら全く知らない場所に来ていた。見渡す限り一面に広がる草原の上には雲一つなく青空が広がり遠くに見える山々には木々が生い茂っていた……そんな場所にポツンと存在する大きな岩の上に置かれていた鞄の中から一枚の地図を取り出して現在地を確認しようとしたところで、私の耳に何やら楽しそうな声が聞こえてくることに気づくと不思議に思ってその声がする方向へと向かった。するとそこにいたのは楽しそうに走り回る子供達とそれを笑顔で見守っている女性がいた……それを見てホッとした私が近づくと女性の方から声をかけてきた。「あらあら……どちら様でしょうか?」微笑みながら首を傾げている女性のことをジッと見つめた後で頭を下げると言った。「初めまして!冒険者をやっているアリーシャと申します!よろしくお願いします!」それを聞いた女性は笑顔のまま頷くと私を見つめ返しながら言った。「まあまあ!ご丁寧にありがとうございます!私のことはどうかお婆ちゃんとお呼びくださいな!それとですね……」そう言いながら私のことを頭から足まで観察するように見てきた後に言った。「なるほど……どうやらあなたは魔法使いなのですね!でしたらこれから私と魔法の特訓をしませんか!?」その言葉を聞いた時、驚いてしまった。何故ならそれは本来ではありえない言葉だったからだ……
それからしばらくして落ち着いた頃を見計らって気になっていたことを尋ねてみることにしてみた。するとそれを聞いた彼女は一瞬首を傾げたものの何かを思い出したようにして頷くと言った。「そうですねえ……まず、何から話せばいいのでしょうか……?」それを聞いて私は改めて質問することにした。「じゃあまずはあなたの名前は何ですか?あと年齢はいくつですか?あ、ちなみに私は15歳です!」そう言って笑顔を浮かべながら手を差し出すと彼女も握り返してきながら自己紹介をしてくれた。
彼女の名前はマリアさんというらしい。なんでもこの村にある孤児院の先生をしているらしいのだが他にも色々な仕事をしているらしく詳しいことは教えてくれなかった。だが仕事の関係で各地を転々としており、この近くに寄ったついでに子供達の様子を見てくれることになったようで今日から一週間ほど滞在することになったらしいのだ。
そして次に一番気になっていることでもある魔力に関して聞いてみると教えてくれた。それによると魔法というのは体内にある魔力をイメージとして具現化させることで発動することができるのだという……なのでイメージをしっかりと固めることや明確な意志を持ち続けること、さらには練習を重ねていけば誰でも使うことができるとのことだった。
それを聞いた私は目を輝かせると彼女にお礼を言った後ですぐに試すことにした。
それから数時間が経過し、日も落ちてきたため一度宿屋に戻ることにしたので村の入口で待っていると彼女が戻ってきたので声をかけると共にあることに気づいたので早速試してみることにした。その結果、無事に成功することに成功したのだが同時に新しいことも知ることができたので良かったと思う。というのも魔法を使うには自らの体の中にある魔力を活性化させて、それを使って様々な現象を引き起こすことで発動することが可能となるらしいのだがその時に大切なことがあるということを教えてもらったからだ。それはイメージを明確にするために心の中で詠唱を唱える必要があるということだった……そのことを聞いた時、思わず固まってしまったが、せっかくなので教えてもらうことにして頭の中で詠唱を唱えてみた。すると頭の中に浮かんできた呪文を口にした瞬間、体に違和感を感じて慌てていると目の前で見ていたはずのマリアさんが突然いなくなったのでさらに驚いていると声が聞こえてきた。
「……もう大丈夫ですよ」その言葉を聞いて恐る恐る目を開くと目の前に立っている彼女の姿があった。そのことに驚きつつも慌てて謝ると微笑んで許してくれた。だがその様子を見た私は違和感を覚えていた……なぜなら目の前にいる彼女はどこか雰囲気が違っていたからだった。まるで初めて会った時とは違った印象を受けて戸惑いを覚えていたのだがその時、先程教えた魔法を使えるようになったかどうか尋ねられたので試してみることにした。すると無事に使えたので成功したことを告げると彼女は満足そうに微笑んだ後で言った。
「よくできましたね!これで魔法に関しては完璧ですので後は実践あるのみですよ!」それを聞いた私は大きく頷くと感謝の言葉を述べてから宿に戻ろうとした時、背後から呼び止められたので振り返ると真剣な表情で見つめてきたので首を傾げると口を開いた。「先程の話を聞いた時からずっと考えていたのですが、あなたには才能があるように思います……なので、よろしければここで子供達の相手をしてくれないでしょうか……?もちろん報酬は出しますし望むのなら王都への旅費も負担させていただきますのでお願いできませんか?」そう言われた時にはどうしようか悩んでいたが、しばらく悩んだ末に答えを出した私は彼女を真っ直ぐに見つめると言った。「わかりました!私にできることなら喜んで引き受けます!」それを聞いた彼女はとても嬉しそうな表情を浮かべていた。
そしてそれからしばらくの間、私は子供たちと一緒に遊んだり話をしたりして過ごしていた。最初は上手くやれるのか不安だったけれど実際にやってみると思っていた以上に楽しく過ごすことができたので来て良かったと思えた……ただ気になることが一つだけあった……それはここに来る途中で出会ったあの男性のことだった。あの人との出会いによって色々と大変な思いをすることになってしまったが今となってはいい思い出になっていた。だからこそ、できることならばもう一度だけ会ってみたかったのだが、残念なことにどこにいるのか分からない上にそもそもこの世界にいるのかさえ分からない以上、探すことは不可能に近い……そこで諦めることにした。
(でもまたいつかどこかで会えたらいいな……その時はもっといろんなことを話してみたいな……っていけないけない!そんなこと考えちゃ駄目だよね……!)そう思った後、軽く頬を叩いて気合いを入れ直した私は立ち上がると子供達に声をかけた。「さあ、今日はそろそろ終わりにしようか?」そう言うと元気な声で返事をした子供達は嬉しそうにしながら走って行く姿を見つめながら笑みを浮かべるのだった……それから少ししてから村の出入り口に向かうとそこにはアリア様が待っていてくれた。「お疲れ様です!アリーシャさん!」そう声をかけられた私は笑顔で頷きながら返事を返した後で尋ねた。「はい!ありがとうございます!」そう言った後、一緒に宿屋に戻ると部屋に戻り荷物を置いたところで食堂へ向かうとちょうど夕飯の時間だったので食事をすることにした……ちなみにメニューは肉団子のスープとパンだった。それを美味しくいただいた後で自分の部屋に戻った私はそのままベッドへ飛び込むと目を閉じてからゆっくりと息を吐いた。
(はあ……やっぱりここの料理は美味しいなあ……何だか食べたら眠くなってきたし今日はもうこのまま寝ちゃおうかな……明日も早いしね……)そう考えたところで大きな欠伸を一つした後で目を閉じた。
翌朝、目が覚めた私がベッドから起き上がって着替えを終えると部屋を出てロビーへと向かった。そこに行くと椅子に座っていたアルスさんとライアスが話をしているのが見えたので近づくと挨拶をした。すると二人とも笑みを浮かべながらも挨拶をしてくれた。その後で昨日のことを報告し合った後で今後のことについて話し合うことにした。
話し合った結果、この村に長居する必要もないと考えた私達は早々に旅立つことに決めたのだが問題はどこに行けばいいかということだった……だが、これについては私が知っていたためにその情報を話すと二人は納得がいったような表情を浮かべた後で出発の準備を済ませてから宿を後にしたのだった……
アリーシャ達が立ち去った後の食堂には女将さんのミレーユだけが残っており、何やら険しい表情を浮かべていたのだがふと我に返ると首を振ってから呟いた。
「……まさかね……」そう言って苦笑いを浮かべる彼女の脳裏には昨晩見た奇妙な光景が浮かんでいた……それは深夜遅くに突然、何者かの気配を感じ取った彼女が慌てて外へ出た時のものだった。辺りを見渡してみると少し離れた場所に人影が見えたのだが月明かりに照らされた姿は間違いなく人のようだった……そのため、警戒していた彼女だったのだが、その姿を見た瞬間に驚愕の表情を浮かべることになった。なぜなら、そこにいた人物というのが数日前に森の中で会ったあの少年だったからだ。
驚いた彼女が思わず声をかけてしまうと彼は微笑みながら手を振ってきた。それを見た彼女は一瞬躊躇った後に意を決して近づいてみたところ、その少年は笑みを浮かべたまま何も言わずに彼女のことを見つめてくるだけで他には何もしようとはしない様子に疑問を感じていたがしばらくすると少年が尋ねてきた。
「……お姉さんはこの近くに住んでいる人なんですか?」その言葉を聞いて少しだけ警戒心を緩めながらも頷いた。すると彼が笑顔のまま話を続けた。
「それなら一つ聞きたいんだけどこの村で変わったことはなかったですか?何でもいいんだけど何かないかなあって思ってさ」そんなことを聞いてきたので首を傾げていると急に彼の様子がおかしくなったことに気づいた彼女が驚いていると、いつの間にか目の前から姿を消してしまっていたので再び呆然としてしまうのだった……
やがて我に返った彼女が急いで家の中に戻るとベッドに飛び込んで頭から毛布を被るなり小さな声で呟くように言った。
「もしかして……神様が私のことを助けてくれたのかしら……?」
そう言って微笑むとすぐに眠りにつくことにしたのだが、その夜の出来事を不思議に思いながらも心の底では嬉しく思っている自分がいることに気づいたのだった……そしてそれは翌日の昼頃に起きたある出来事がきっかけで確信へと変わることになるのだが今の彼女には知る由もなかった……それは一人の女性がこの村にやってきたことによるものだったのだがこの時は誰も予想だにしていなかったのだった……
私達を乗せた馬車はゆっくりとした速度で街道を駆け抜けている最中なのだが外の様子を確認した後で隣に座っているアリア様に尋ねてみることにしてみた。「それでこの後はどこへ向かうつもりなんですか?」私の質問に一瞬首を傾げた後でハッとしたような表情になった彼女は微笑みながら言った。「ごめんなさいね……ついつい忘れていたわ……」そう言って謝ってきたので気にしてはいないことを伝えると安心した様子で息を吐いていた。その様子を見ていた私は心の中で(可愛いなぁ……こんな一面もあるんだ……)と思って見ていると、そんな視線に気づいた彼女が首を傾げてきたので誤魔化すようにして話を戻した。
「えっとですね……とりあえずこのまま街道沿いに進みつつ王都を目指すつもりなのですが……その前に一度村に寄っていこうかと思ってるんですがどうでしょうか?」それを聞いた私は少し考え込む仕草を見せた後で答えた。「そうね……それじゃあまずはそこで一泊しましょう」その言葉を聞いて大きく頷くと改めて予定を確認すると村までの移動時間を考慮して明日のお昼頃に到着するように出発することにしてこの日は早めに休むことになった。それからしばらくして寝る準備を済ませてベッドに潜り込んだ私は横になりながら考えるのだった。「明日は一体どうなるんだろうか……」と、そんなことを考えながら目を閉じるとあっという間に眠りに落ちていったのだった……
翌日、目を覚ました私は窓の外を見るなり小さくため息を吐くと部屋の中を振り返ってみた。するとそこにはベッドの上でぐっすりと眠っているアリア様の姿があったのでそっと近寄ってみると静かに寝息をたてている姿が確認できた。どうやら疲れていたようで起きる気配のないその様子を見て苦笑いを浮かべていた時だった……外から聞こえてきた足音に気づいた私は扉に近づくと耳を澄ませてみた。
しばらく様子を伺っていた私は、扉が開かれる前に隙間から覗くと見覚えのある姿を目にした瞬間に心臓が大きく跳ね上がるのがわかった。
(嘘でしょ!?なんでここにいるのよ!早く隠れないと……っ!)心の中で慌てふためきつつもなんとか身を隠すことができた私はホッと胸を撫で下ろしていた。
(でも、どうしてこの場所がわかったんだろう……もしかしたら誰かに聞いたとか?ううん、それはないか……きっと偶然見つけたんだろうな……うん!絶対そうだと思うよ!だって、そうじゃないと困るもの!!だから今は気づかれないうちに逃げないと……!)そう思って窓から離れた私は足音を立てないように気をつけながら部屋を飛び出したのだが運悪く、足元に落ちていた物を踏んでしまい大きな音を立ててしまったことに驚き慌てた私が大慌てでその場を立ち去る様子を窓から見下ろしていた少女の姿に気づかずにいた……
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「……ふう〜危なかったぁ……それにしてもびっくりしたよ!いきなりドアが開くんだもん……でも本当に見つかってなくて良かったあ……!」安堵した後で安堵のため息を漏らした私は今、とある建物の屋根の上で休んでいた。実はあれから必死で逃げているうちに道に迷ってしまってこの付近までやってきたというわけなのだ。そこでたまたま見かけたのがこの宿屋だったので一晩だけ泊めてもらうことにしたというわけだ。ちなみにアリア様は私の部屋を使ってもらうことにして自分は別の部屋で休ませてもらった。たださすがに屋根裏にいるとは思いもしなかったけど、とにかく今日はここで夜を明かすことにするのだった……翌朝になって朝食を済ませた私達は予定通り王都へ向けて出発することにした。その道中で昨日立ち寄った村のことについて聞いてみたのだがあまり良い思い出がなかったらしく苦々しい表情を浮かべながら教えてくれた。その内容を聞いた私は思わず苦笑いしてしまったのだが、それが顔に出てしまったのかムッとした表情に変わった彼女に睨まれてしまいすぐに謝ることになったのだった……
〜〜〜〜〜〜 その頃、森の中では三人の少女が周囲を気にしつつ歩いているところだった。
その三人組のうちの一人である少女は辺りを警戒しながら進んでいると後ろからついてくる二人の仲間に向かって話しかけた。
「みんな、気をつけてください……もしかしたらこの辺りに潜んでいる可能性もありますから……特にあの男の噂は聞いていますから十分に注意するんですよ……」
そう言って先頭を歩く金髪の少女がそう言うと後ろの二人が大きく頷いた後で口を開いた。
「わかっているって!もし見つかったら命はないっていうんだろ?そんなのわかってるからさ!」
「まあ、油断しなければ問題ないんじゃない?というかさ、あんた達だけで勝手に突っ込んでいかないでよね?危ないと思ったら私も加勢するからね」
「うぐぐ……!お、お前なあ……もう少し言葉をオブラートに包めないのかよ!?」
「うるさいわね……本当のことを言ってるだけでしょ?それよりも、あんたは自分の心配をしてなさいな。怪我しても助けてあげないから」
「なんだと!?そんなこと言うならお前が助けろよ!」
「はあ……二人ともいい加減にしてください!そんなことをしている余裕はないですよ!いいから先を急ぎますよ!」
そんなやり取りをしながら歩いていた少女達はやがて大きな屋敷のような場所を発見するとそこへと向かって歩き始めた……
一方、その建物の一室で一人の少年が目を覚ますことになった……少年はまだ眠い目を擦りながらも起き上がるとベッドから抜け出して背伸びをした後で窓の外に広がる風景を眺めることにした。
しばらくの間そうして眺めていた彼だったがふと何かを思い出したような表情を浮かべた後で呟いた。
「そろそろ出発の時間か……準備しないとな……」そう言って部屋を出たところで待っていたかのように声をかけられたことで驚いてしまうも声の主であるメイド服を着た女性に対して返事を返した。
「もうそんな時間だったのね……じゃあ急いで着替えてくるから待っててくれるかしら?」そうお願いされた女性は笑顔で頷いてくれたのでお礼を言った後に向かった部屋は自分の部屋だったために中にいたメイドさん達に挨拶を済ませると急いで着替えを済ませることにした。それから数分後、準備が整ったところで部屋を出て食堂へと向かった私は中に入ったところですでに座っていた人達が視界に入ってきたので会釈をしてから席に着くと手を合わせた後に挨拶をして食べ始めたのだった……食事を終えた俺は先に食堂を出ていった皆の後を追いかけるようにして外に出ると見送りに来ていたミレーユさんに挨拶をするとそのまま門から出ようとした時のことだった……不意に誰かの視線を感じた俺が咄嗟に振り返ったのだがそこには誰もいないことがわかった。
(気のせいか……?いや、やっぱりおかしいよな……確かに感じたんだが一体何者なんだ?それに、さっきの女の子達のことといい気になることばかりだな……とりあえず今は考え込んでる場合じゃないし後で考えることにするか……)そんなことを思いつつ頭を切り替えた後で再び歩き出した俺だったのだが、この時の行動が俺の運命を大きく変えることになるなど知る由もなかった……
〜エルスティア王国 辺境の地 アリーシャ視点〜 アルスくん達が村を出た後で私は村長さんの家でこれからのことを決める話し合いをすることになりました。
もちろん内容は例の魔物の件についてなのですがこの村の周辺で被害が出ている以上このまま放置しておくわけにはいきません。そこで王都にいるギルド本部に連絡を取ることにしたのですが問題がいくつか発生してしまいそれを解決しないことには連絡を取ることすらできませんでした。なのでまずは村人達に避難を促すための説得を行うことにしてその後で村を離れてもらい王都まで行ってもらうことにしました。幸いというべきかこの村に来るまでの間の道はあまり整備されていない上に途中でいくつか枝分かれしているので迷いやすいこともあってそう簡単に辿り着けることはないでしょう。それから私はアリアちゃんと共に残った村人達を全員集めて説明を行いました。当然最初は戸惑いを見せたのですが私が責任を持って皆さんのことを守らせていただきますと告げると渋々ながらも納得してくれたので、それを確認した私はひとまず村を離れさせることに専念したのでした。しかしそれでも不安が完全に拭えたわけではありませんでしたが、これ以上ここに留まっていては他の村人にも危険が及ぶ恐れがあったのでこうするしかないと自分を納得させるしかなかったのです。
(とりあえず、今は信じて進むしかありませんね……)心の中でそう呟くと決意を新たに前を向くのだった……そしてそれから数日後、ようやく森を抜けることができた私は一度休憩を取ることに決めましたがその時になって気づいたことがありましたね。というのもそれは食料についての問題だったのですが私達はここまでたどり着くことだけを考えていましたのでそこまで考えが回らなかったというわけなんですね。そこで考えた末に出した結論は、まず水の確保が先だということだったので近くの川へと向かうことにしたんです。幸いにしてその場所についてはすぐに見つけることができました。
早速向かうことにした私達は川の側に来ると辺りを見回して綺麗な水が流れている場所を探すことにしたのですがちょうど良さそうな場所をすぐに発見することができたので水を汲み取ることにしたのですが、その時に私はあることに気づいたのでした。それは私達が使っていた桶が一つだけしかなくこのままではアリアちゃんの分まで用意することができなかったのでどうしようかと考え込んだ後でいい案を思いついたことで実行に移すことにしたんですよね。
というわけで一旦川から離れた後で周囲に誰も見ていないことを確認した私は服を脱ぐと下着だけの姿になりました。するとそれを見たアリアちゃんが顔を真っ赤にして慌てていたのがわかりましたが今はそんなことはどうでも良かったので、彼女の目の前で服を脱ぎ捨ててから下着すらも取り払って生まれたままの姿になった私が再度彼女に声をかけたところ今度は固まって動かなくなってしまったようですね。
まあ、それも無理はないことかもしれません。なにせ今までずっと男装していたはずの私の胸が大きくなっていることに加えて体つきまで変わっているわけですから驚かない方がおかしいですよね。そんなことを考えながら改めて自分の姿を確認してみた私ですがこれは本当に凄いことになってしまったものだと思いました。何せ元々あった胸は豊満なものになっており体のスタイルもかなり良くなったのですから正直自分でもかなり驚いたりしていますからね。ただやはり気恥ずかしさというものもありなるべくなら他の人に見せないようにしたいとは思っています。なぜなら今の私は誰がどう見ても女性にしか見えない姿だからです。しかもそれが自分自身なのだから尚更だというのが正直な感想でしたね。とはいえいつまでもこんなことをしているわけにもいかず気持ちを切り替えた私は先程見つけた泉に足を向けた後でそちらに向かいました。そしてそこで喉を潤したあとで私達はすぐに移動を開始することにしました。その理由は一つで、いつまたあの怪物が襲ってくるのかわからないからですね。現にこの数日間の間、一度も現れることがなかったことから考えるとこの辺りにはいないということが推測できます。
ですからその間に準備を整えるためには少しでも進んでおきたいというわけなんです。そんなわけで川沿いに沿って森の中を進んでいくことにした私達は周囲を警戒しながら進んでいたんですが、途中にある村にたどり着いた時には驚きを隠すことができませんでした。というのもそこは私達が目指している場所からはかなり離れていたためだったからです。その村の村長さんは最初こそ警戒していましたが事情を説明すると協力してもらえることになり私達は感謝しつつお礼を述べると必要な物を分けてもらうために話を進めることにしたんです。その結果として必要な物資を調達することができた私とアリアちゃんは次の目的地に向かうことを決めたのですがその前にやらなければならないことがあったので先にそちらを片付けることに決めたんです。
そのやることとは言うまでもなく魔法を使うことでしたが問題は何を使うのかということですよね。さすがに今の姿であれと戦うというのはどう考えても無謀だと思うし勝てる見込みはほぼ皆無でしょう。となると必然的に使う魔法は決まっているわけで私はその魔法を詠唱すると同時に解き放ったんです……
〜エルスティア王国王都 城内にある執務室にて〜 その日、王城では普段とは異なる慌ただしい雰囲気に包まれていた。理由は言わずもがな、隣国で起こった事件のことである……そんな折に部屋のドアをノックする者がおり中に入ってきた者を見て顔を顰めたのは執務中の国王であった。そこにやってきた人物というのが他ならぬ勇者であることが判明したからだ。彼は入ってくるなり挨拶を済ませたところで報告を始めた。それを聞いた二人は互いに顔を見合わせると頷き合ってから口を開いた。その内容を聞いて驚くとともに呆れ返ることになったのだがそれは仕方のないことだった。何故なら彼らは知っていたからである……勇者の本当の力を、そしてその力の危険性についても全て把握しているつもりであったがゆえに今回のことはあまりにも衝撃的な事実だったからだ。しかしその一方で、なぜそのような事態に陥ったのかと問われても答えることができないという疑問も抱えることとなったわけだがこればかりはすぐにどうにかできるものではないと判断し、ひとまず勇者達にはこの件に関しては口外しないように命じた上で調査のために人を派遣することに決めるとその場を後にしたのだった……そしてそれから数日後のこと……再び緊急会議を開くことになった王は集まった者達に対して説明をした……今回起きた出来事についての報告を受けて一同は再び驚愕することになるのだった……
〜エルスティア王国王都付近に存在する森の中にて〜 あれからしばらくして、目的の場所に到着した私達は早速調査を行うことにしたのですが……
(うーん……今のところ特に異常はないみたいですね……ということは別の場所に向かったと考えるべきでしょうか?)そう考えていた私は念のためもう一度周辺を探してみることにしたのですが、やはり何も見つからないままでした。なので一旦戻ることにしようかと考えたところでアリアちゃんの方から声がかかったので私はそちらの方へ向かうと彼女に声をかけた。すると彼女は何かを見つけたらしくそれを確認するために来たらしい。
「これって……足跡だよね?」彼女がそう言って指差したところを確認した私は、間違いないと答えるとこれからの行動について話し合いをすることになったのですがここで私はふとあることを思いつきました。
(そういえばあの時……アリアちゃんの身体を借りていた時に感じたのってまさかこの子の体の記憶だったんじゃ……だとしたらもしかしてアリアちゃん自身が持っている能力を使えば手がかりを見つけることができるかも!)
そう思った私は早速彼女にお願いしてみたんですが……結果は残念ながら駄目だったみたいでしたが諦めずに再度お願いしてみるとなんと一つだけ可能性があるという答えを聞くことができたんです。というわけで詳しく聞いてみるとどうやら彼女は自身の固有技能である【未来視】の能力を使ったらしいのです。ただ、それはあくまでも可能性の一つとして頭の中に思い浮かんだだけだったらしく確定的ではないということだったんですね。
そこで、彼女の言葉を聞いた私はとりあえず試してみることにしたのですがその結果、なんとか成功させることができて安堵の息を吐いていると、その様子を見ていた彼女が不思議そうに声をかけてきたので説明することにしたんです。
それから数分後、全ての作業を終えた私達は休憩を取ることにしたのですがその際にアリアちゃんの身体を使ってあることを試すことにしたんですよ。
というのも実は私が使えるようになったもう一つの力について確認する必要があったのでそれを実行するために使ったんです。というのもその力というのは以前アリアちゃんが使っていたと思われる能力のことだったのですが私はこれについて色々と気になっていたので思い切って聞いてみたんです。
「えっと……どうして私の身体にいるのかということと、それにどうして私に使えているのかってことだったよね? まあ簡単に説明するなら私がエルくんのことを気に入ったというか憧れちゃったって感じなんだよね……あ、もちろんそういう意味じゃないよ?……でも私が今使っている力っていうのは元はといえば元々私が持っていたものだったんだよね……」
彼女の言葉を聞いて私は思わず絶句してしましたが、さらに続けて言われた言葉で私は衝撃を受けることになる。というのも彼女の口から語られた内容というのが、私が以前にアリアちゃんと戦っていた際に使用した能力とそっくりだったからなんです。
というわけでアリアちゃんの話を聞いた後、試しに使用してみるとあっさりと成功したのでした。
「……つまり、こういうことですか? 私が使っていた力は本来あなたが所持していたものであり、それを使用したから今の私がこうして存在できているということですか?」
半信半疑になりながらそう尋ねた私でしたがアリアちゃんは頷くことで肯定してくれたのですが、それと同時に気になる点があるとも言っていました。何でも私と戦っている時よりも前の記憶がないことに不思議に思っていたようでそれについて質問を受けたんですが私自身もよくわからなかったので首を横に振って答えるしかありませんでした。
ただ、何となくではありますがその時の状況については思い出せそうな気がしていたので後日、時間のある時に改めて挑戦してみようと思っていると不意にお腹が鳴ったので慌てて腹部を押さえつつ顔を赤らめているとアリアちゃんがクスクス笑いながらご飯にしようと言ってきたので、私も笑顔で返すと一緒に食事の準備を始めることにしたのでした。ちなみにその際、私達の会話は念話を使って話していたんだけどその方法を教えてもらうことはできなかったけど今度機会があったら教えてもらえることになりましたよ。そして食事が終わった後は寝る準備をして眠りについた私達は明日に備えて眠ることにしたのですがこの時はまだ気づいていませんでした……いえ、そもそも気づくことすらできないような状況になっていたわけなんですけどね……
翌日、目が覚めた私達が最初に見たのは見知らぬ部屋に置かれた大きなベッドであり、その上には私を含めた二人分の荷物が散乱している状態でしたね。
それを見た瞬間、昨夜の状況を思い出して嫌な予感を感じた私達はすぐに行動を開始したわけですが……結論から言えば遅かったですね……何故なら部屋の中には既に何者かの気配があり逃げることができなかったからです。それでも最後の抵抗として攻撃しようとした矢先に背後から手が伸びてきたかと思うと口元に布のようなものを押し付けられてそのまま意識が遠くなっていくのを感じた私達はそのまま意識を失ってしまうのだった……
〜数時間後〜目を覚ました私達ですが相変わらず身体は拘束されていました。しかもどういうわけか魔法も使うことができなくなっているうえに力が入らずにいることに気がついてしまいましたね。おそらくこれは何らかの方法で封じているせいだと思われますがそれが一体何なのかまではわからないままでした。するとその時、部屋の扉が開いて誰かが入ってきたのですがそこにいたのはあの黒いフードを被った男性の姿でした。それを見てしまった私とアリアちゃんは恐怖のあまり声を出すことすらできずにいると男性は不気味な笑みを浮かべて口を開いた。
「ようこそ我が主がおわす場所へ……さて、それでは始めるとしよう……君達にはここで大人しくしてもらうことになるが……命を奪うことは決してない、それだけは安心してもらって構わない」
そう言った男は懐から何かの薬が入った注射器を取り出すと私達の腕を掴むと針を突き立てると中に入っている液体を流し込み始めましたね。
最初は何の痛みも感じませんでしたが、時間が経つにつれて身体が熱くなり頭がぼーっとしてきたかと思えば強烈な睡魔に襲われてしまい、まともに考えることもできなくなってきました。
そうして意識を手放しそうになったところで男の持つ剣で斬りつけられてしまった私達は、薄れていく意識の中でアリアちゃんが必死に叫ぶ声を聞きながら深い眠りにつくことになった……その後のことは何も覚えていないし気づいたら既に朝になっていてベッドに寝かされていました。そして目覚めた瞬間、昨日の出来事を思い出しながら起き上がろうとしたところ……今度は激しい頭痛に見舞われてしまいました。
まるで頭の中に異物を詰め込まれているかのような感覚を感じながら悶えていたのですがしばらくして痛みが治まると同時に今度は別の感覚が湧き上がってきたため見てみると、いつの間にか両手両足がなくなっていたことに気づきました。そのことに驚いていると今度はどこからともなく声が聞こえてきたのです。
『ああーテステス……聞こえるかな?聞こえますか〜?』
それはどこかで聞いたことのある声でした。一体誰の声だったのかを思い出そうとしていると突然視界が明るくなりました。突然のことに驚きつつも声の正体を確認しようと顔を上げたところで私は言葉を失いました。なぜならそこには私のよく知る人物がいたからです……いや正確にはその人を模した何かがそこにいたと言った方が正しいでしょうね……
「やあ、久しぶりだねエルスティア君。元気にしてたかい?」
そんなことを言って挨拶してきた人物に対し私は恐る恐る声をかけようとしたのですが、それよりも先にその人物が再び口を開いたので思わず黙り込んでしまいました。というのも彼がとんでもないことを言い出したからなんです。
「実は僕としてはこのままでもいいと思っていたんだけどね……君がどうしてもと言うものだから仕方がなくやってあげることにしたんだよ。まあもっとも僕はこの後も色々とやることがあったからね。だからあまり時間はかけられないんだ。というわけで、さっそくだけど君をここから脱出させることにしようか? でも一つだけ忠告をしておくと、次に目を開けた時にはそこはもう森の中じゃないから気をつけるんだよ?」
そう話す男性の言葉に混乱しながらもどうにか理解できたことと言えばこの男性が何者なのかということと、なぜ私をここに閉じ込めたのかということについてだった。しかしそれを尋ねようとしたところで再び強烈な睡魔に襲われて意識を失ってしまったため、それ以降は何も覚えておらず気がついた時にはいつものベッドで寝ていたのだがその日から私は変わってしまったのかもしれない。というのも今まで普通に使えていたはずの固有技能や特殊技能などが使えなくなっており、さらには新たに習得することも出来なくなったからである。ただしこれらの症状については徐々に回復してきているみたいで現在はほとんど問題なく使用できるようになっているもののいつまた元の状態に戻ってしまうのか正直わからないので油断はできない状況である……ただ、以前とは比較にならないほど強力になっていることからもしかすると完全に元の状態に戻れる日が来るかもしれない……
そんなことを考えながら俺は自分の中に潜んでいるものについて考えを巡らせるのであった……
第2章:終 あれからしばらくした後、私はエルくんの身体を借りることにしたんだけど……
(それにしてもこの子の身体って本当にすごいよね……だってこれだけの人数の人達を一瞬にして殺めるなんて普通はできないもん……まあ、私はそれを望んでたから別にいいんだけど……でも、まさかここまで簡単に殺してしまうなんて思ってもみなかったな……やっぱりこの子は特別ってことなのかな?……だとしたらこの子の力をうまく引き出せたら他の子達にも勝てるかもだよね!うん、決めた!!)
そう考えた私はとりあえずこの場所から出るために色々と調べてみることにするのだった。ちなみにその間もずっと彼女の記憶を探ってみたんだけど、どうにも曖昧な感じでハッキリとした情報が手に入らなかったのはちょっと残念だけど仕方ないかと思い諦めることにした……というのも今はそんなことに時間を割いている場合じゃないからね。それに早くここを抜け出してあの子に会わないとだし、もし会うことができたなら今度こそ決着をつけたいと考えていたんだけどそのためにはまだまだ準備不足な感じがするんだよね。
だからこそもっと力を手に入れないと話にならないと思うわけで何かいい方法はないかと考えていると急に頭の中に情報が流れ込んできたので驚いた私は咄嗟に頭を押さえてその場に蹲ってしまった。どうやらそれはアリアちゃんも同じだったようで、二人とも苦しそうに呻きながらもどうにかしてその痛みに耐えていると今度は頭の中で直接声が響いてきた。
『大丈夫、落ち着いてください。これから貴方達に力を授けたいと思います……ですので少しだけ眠っていてもらえますか?……大丈夫です、痛いことなんてしませんから』
(いきなりこんなこと言われても信じられないかもしれないけど今は信じて欲しいな……え、何これ!?もしかして私の頭に話しかけて来てるの!?そんなわけないよね……って、ちょっと待ってってば!?まだ心の準備ができていないのに勝手に話を進めないでもらえるかしら?)
(あれ?おかしいな?ちゃんと話が通じていると思ったんだけど、どうも勘違いしてしまったみたいだね……でもまあとにかくそういうわけだから今から君達の身体に新たな能力を発現させるね?もちろん拒否権なんてないからよろしくね〜……あ、ちなみに能力の内容については目覚めてから確認してね……それじゃあそろそろお別れの時間みたいだからバイバ〜イ!頑張って強くなってね〜)
(ちょっと待ってよ〜!!まだ私、貴方に聞きたいことがいっぱいあるんだからね!!……ごめんね、私も本当なら色々お話ししたかったんだけど今回は時間がないみたい……でもきっといつか必ず会えると思うからその時にゆっくりとお話ししましょうね?その時はたくさんお話してお互いのことを理解しようね……じゃあそういうことだから次に会う時まで楽しみにしてるわね〜♡……チュッ♡)
(ええ〜〜〜〜!い、今何をされたの!?というか最後キスされたよね!?何で私にこんなことをするのよ!!全く意味が分からないわよ〜〜!!!…………あ〜、やっと頭の中の痛みが引いてくれたみたいね。それにしてもさっきの声は一体誰だったのかしら……?まあそれはさておき、さっきの子が最後に言ってた言葉を考えるともしかしたら私達にも能力が使えるようになるのかもしれないわね。だったら試さない手はないわ……早速やってみましょうか……)
そう思った私達はさっそくやってみることにしたのだけれどこれがなかなか難しいのよね。何せどんな能力なのかもわからないしイメージの仕方だって人それぞれだから自分に合うような能力を見つけるだけでも一苦労だものね……それでも私達は何とかして能力を手に入れることに成功したので後は試してみるだけなんだけど、その前にどうやってここから脱出するかを考えないといけないのよね。まあ、その辺のことはあの子に任せればいいと思うから心配はいらないでしょうけどね……何しろあの子は私が知る限り最高の頭脳の持ち主だと思うからね……まあそれもこれも全てはあの子のおかげだけどね……
こうして私達は新しい能力を手に入れた後、すぐに行動を起こすことにしていた。そしてまずは外に出るための手段を考えることになったのだけれどもこれには少し困ったことが起きたためどうしようかと思っていたところ助け舟を出してくれたのが意外にもアルスくんだったことに驚いてしまった。というのもこれまでほとんど口を挟んでくることはなかっただけに、彼が何を考えているのかわからなかったため困惑していたところで、不意に口を開いたかと思うと「俺に任せてくれ」と言い出したことに驚いていた。そして、その言葉を信用することにした私達は彼に全てを任せることにした。その結果、あっさりと脱出することができた私達はひとまず安全な場所へ避難するために移動を始めた。
目的地まではかなり距離があるためしばらくは野宿することになってしまいそうなのだが今の私達にはそんなことはどうでもよかった。なぜならようやく待ち望んだ瞬間が訪れたのだから……というのもこの時のために色々と準備を進めてきたわけだがいよいよ本番を迎えることになるため、みんなかなり緊張している様子が見られたがそれと同じくらいやる気に満ち溢れているように見えるのは私の気のせいなのだろうか……
〜とある屋敷の一室〜 そこに一人の少女が座っていた。彼女は虚ろな目でどこか遠くを見つめているように見えていたのだが突然、何かに気が付いたのかハッとすると慌てて部屋を後にした。
その後、少女は誰にも気づかれないようにしながら廊下を進み目的の場所へと向かうことにしたのだがその途中で偶然、話し声が聞こえてきたので足を止めて耳を澄ませてみることにした。
「……なるほど、やはりあの噂は本当だったようだな……」
「ああ、そのようだな。それで今後はどうするつもりなのだ?」
「……わかっているとは思うが我々の計画が明るみに出てしまえばこれまでの努力が全て水の泡になってしまうからな……それだけは何としてでも避けなければならない。それに奴の力は強大すぎる故に下手に手を出せば返り討ちに遭う恐れがあるからな……だからこそ、ここで一気に始末してしまう必要があるだろう……」
そこまで話を聞いたところで、この話を盗み聞きするのはここまでにしようと思い立ち去ろうとした少女だったがふと気になったことがあったので振り返ってもう一度彼らの話を聞いてみることにした。何故なら彼らが話している内容というのが以前にエルスティアと話をしていた時のことだったからだ。
(そういえば、あの時の話は一体何だったんだろう?気になるけど今更聞いたところで答えてもらえないような気がするしなぁ……でもまあ、一応確認しておくくらいはした方がいいかな?もしかしたら何かの役に立つかもしれないしね……よしっ!そうと決まれば早速行動に移すとしますか!!)
そう決意した少女は改めて振り返ると彼らに気づかれないよう慎重に歩みを進めて行きながら話を聞くために耳をそばだてるのであった。
それからしばらくしてようやく目的の部屋に到着した私は、音を立てずに静かにドアを開けるとそのまま忍び込むように部屋の中へと入った。そしてそこで初めて一息つくことができたのだがその時だった……
「……誰だ!」
という声が聞こえ思わず身構えてしまった私に対して彼は続けてこう告げたのだった。
「まさかお前が来るとは思っていなかったぞ?……ということはあいつに頼まれて来たというわけだな?……ならば丁度いい機会だからお前にも話しておこうではないか。我々の正体を……!!」
(えっ!?もしかしてもう正体がバレたのかな!?どうしよう……まだ心の準備ができてないんだけど!?とりあえずここは冷静にならないとだよね!うん、そうだよね!!…………あれ?何も起きないんだけど……これってどういうことなんだろう??)
そんな疑問を抱きつつも今は彼の話に集中するべきだと判断した私は再び彼の方へと向き直って真剣な表情で話に耳を傾けるのだった……
私は現在、エルくんの身体を借りているわけなんだけどその状態になってからは色々なことがあってすっかり忘れていたんだけど、実はもう一つ大切なことがあることを思い出したの。そう、それは私自身のことについてである。そもそも私はなぜ自分がこのような姿になってしまったのかその理由が知りたかったのでその方法について色々と考えていたのだけど結局のところ答えにたどり着くことはできなかったのだ。まあ、別にそんなことしなくても問題は無いといえば問題ないんだけれどせっかくだしできる範囲で調べてみようかなって思っていたんだけどちょうどタイミング良くあの子がやってきたからこれ幸いと思いお願いすることにした。ただそれが本当に正解だったのかどうかについてはまだわからないんだよね……というのも私が彼女に伝えたことはあくまでも彼女が持っている固有技能の中に【記憶操作】があるということを伝えただけで詳しい内容は伝えていないし、実際に彼女の記憶を覗いたわけでもなかったので実際のところどうなるのかはまだわからないからね……でも、私の予想では多分うまくいくんじゃないかと思っているんだよ?だって彼女って結構優秀だからね。それに何より私のことを心から信頼してくれてるし、さらに言うなら彼女自身が自分の能力に気づいていない節があるのでそれをうまく利用すれば簡単に操ることが出来るのではないかと思ったわけで……まあ、要するに何が言いたいのかというと彼女を上手く誘導することで何かしらの変化が見られるかもしれないってことなんだよ!!
(というわけで後は頑張ってもらうだけなんだよね……さてと、これでどうなるかが楽しみだよ!)
そんなことを考えながら期待に満ちた表情を浮かべている彼女に対し、エルくんは淡々と話を進めていく。
「今から俺が話すことは全て事実であり本当のことであるということをよく理解した上で聞いて欲しい。まずはそうだな……お前はある人物からとある依頼を受けていた……そしてその依頼とはお前自身に関することであってその人物こそがお前の父親に当たる存在だということだ……つまりお前のことを育てたのはその相手ということになるな。しかも、お前を本当の意味で自由にさせるためだけに多額の金を使ってあらゆる準備をしていたようだしな……」
その言葉を聞いた彼女はとても驚いた顔をしていたがそれも無理はなかった。なぜなら目の前にいる人物が自分の父親であるという話を聞かされたからである。当然驚きはしたもののそれよりももっと驚くべきことがあったのでそれどころではなかったというのが本音であった……何故かというと先ほどから気になっていたのだが、彼が話している内容のほとんどが自分自身のことでしかなく全く身に覚えがないことばかりだったからだった。
「ちょ、ちょっと待ってちょうだい!!さっきから貴方が言っていることは一体何なの!?私が貴方に育てられて貴方の父親の子供になったとか色々と意味のわからないことばかり言うものだから頭の中が混乱しているの!!わかるかしら!?……っていうかそんなことよりもまずは私の質問に答えなさいよね!?」
「ん?俺の言っている意味がわからなかったか……?まあ、それも仕方が無いことかもしれんな……なんせお前の記憶には残っていないことなのだからな……いや違うな……正確には思い出せないといった方が正しいのかも知れんな……?」
「そ、そんなわけないでしょ!!確かに覚えていないことの方がほとんどかもしれないけど、だからと言って記憶がないだなんてそんな話信じられるわけないでしょう!!それに貴方だって私のこと知ってる風な感じなのにどうしてそんなことを言えるのよ!?何か証拠でも見せてくれないと信じられないわ!!」
「そうか、ならば仕方ないな……それならば少しだけ昔話を聞かせてやろうじゃないか……だがその前に一つ聞きたいのだが構わないか?」
「何よ急に改まって気持ち悪いわね……!それで、聞きたいことっていうのは一体なんなのかしら……?」
「なに、大した事じゃないさ……ただこれから話す内容はあくまで俺の主観によるものなのでそれが正しいかどうかの判断はお前達に任せるしかないがそれでもいいなら聞いてくれても構わないぞ……」
「……はあ、相変わらず回りくどい言い方をするわよね……でもまあいいわ、聞くだけならタダですものね……」
「そう言ってもらえると助かるよ……それじゃあ始めるとするかな……っとその前に言っておくことがいくつかあったんだがまずは俺達の目的についてだったな……まあ、これは単純で至って単純なことでだな、世界をあるべき姿に戻してやるために活動してきた結果といったところだろうか……次に、何故こんなことをするのかについてなのだがこれには幾つか理由があってな、まず第一にこの大陸には数多くの国が点在しておりその数は数百を超えるほどまでに膨れ上がっているのは知っていると思うが、それらをまとめるためには力が必要だとは思わないか?」
「ま、まあ、確かにその可能性は高いでしょうね……だからこそこの国もこれまで大きな争いもなく比較的平和を保っていられたわけですし、それに他国よりも抜きんでているのは事実ですからね」
「そうだろう?だから我々は国として成り立つ為に必要なもの全てを用意したというわけだよ……例えばそれは軍事力であったり、経済力であったりするわけだがそれらを全て揃えたうえで一つの大国となるように導いてきたのだよ……まあ、結果的にそうなるのはもう少し先になるとは思うがね……しかし、このまま順調にいけばそう遠くないうちに全ての準備を整えることが出来そうで安心しているところなんだ……」
(嘘っ!!そんなの聞いてないんですけど!?ってかこの話をどこまで信じていいのかすら私にはわからないしどうしたら良いのかしら?……ってそうだ!そういえば前にあの子から聞いた気がするけど……)
「えっと……それってアルスさんのことを言ってるのよね??」
「ん、あいつを知っているのか?なるほど、それで納得したよ……何せお前が今ここに存在している時点で既に計画は破綻しているのだからな……まあ、今となってはそんなことはどうでも良いことだがな……問題はこれから先のことだからな……」
「ねえ、一つだけ質問してもいい?」
「ああ、構わんぞ。何でも言ってみるがいい……」
「だったら聞くんだけど……貴方達は何者なの?さっき貴方は自分のことを私達と言ったわよね?つまりは他にも仲間がいるってことじゃないの?もしかしてその人たちって全員が同じような見た目だったりするのかしら……?」
それを聞いたエルくんは小さく息を吐くと呆れたような表情をしてこう言ってきた。
「やはり気づくか……流石は俺の娘だな……だが惜しいが少しだけ違うな……ここにいるのは俺一人で他には誰も居ないのだから……そう、俺一人なのだよ。そして俺達は皆同じ姿をしていて尚且つ同じように歳を取ることはないというわけだな……」
それを聞いた瞬間、私は思わず目を見開いてしまったがすぐに我に返ると彼に詰め寄るような勢いで問いかけた。
「ま、まさか貴方も不死の存在だというの!?だとしたらおかしいわよ!確か聞いた話によると魔族にも寿命があるんじゃなかったかしら??だから貴方は他の者達とは違い長生きをしているということよね??なのになんで一人だけ不老のままなのよ!?」
「……それは簡単なことだ。そもそも俺は奴らとは違う存在だからな……その差が生み出した答えということだ……それにお前が気にするべきなのはそこではないはずじゃないのか?」
「……あっ、そういうことなのね?でも、それなら何で私をこんなところに連れてきたわけ?別にそんなことしなくても話くらいは出来るんじゃないの?それなのにわざわざこんなところまで連れて来るなんてどう考えてもおかしくないかしら?……やっぱり怪しいわね……」
彼女は訝しげな視線をエルくんに向けるとさらに問い詰めていくことにした。
(さてと、ようやく本題に入ることができるみたいだね!!)
それからしばらく経った頃だった。それまで黙って二人のやり取りを眺めていた私はいよいよ行動を開始することにしてまずは最初にするべきことを彼女に指示するのだった。
(さあ、そろそろ始めちゃっても良いかな……?でも、まだ早い気もするんだよね……)
そんな風に躊躇していると彼が再び私に話しかけてきた。どうやらもうこれ以上は黙っていられないらしいのである。
(うーん、どうしようかな……まあ、ここで悩んでいても仕方が無いしひとまず彼女のことは彼に任せてみるとしよう……多分その方が良さそうだからね!!うん!!とりあえず彼の話を聞いてみることにした私だったのだがその直後のことである。彼からとんでもない話を聞かされることになり私の脳内は一瞬にしてフリーズすることになった……というか普通に考えてもありえないことだよね……だってそんなことを言われてしまったらもう信じるしかないと思うからね……ただそれだと色々とまずいので何とか上手く誤魔化しつつ話を続けていこうと思ったのだが、そのタイミングでエルくんが突然立ち上がり私の方へと近づいてくるといきなり抱きついてきたものだから私は驚きのあまり何も言えなくなってしまったのだ……するとそれを見た彼女がすかさず声をかけてくるのだがそれに対して彼が返した言葉は意外なものであった……というのもなんと彼は私に向かってこう言ったからだった。
「悪いがアリアを連れて行くわけにはいかないんだ。お前にはもう帰る場所があるだろう?家族や友人達の待つ家に帰りたいとは思わないのか?もしそう思っているのであればお前はここではなく自分のいた世界へと戻るべきだと思うのだがどうだ?」
そんな彼の言葉を聞いた私は動揺してしまい頭が真っ白になってしまうと返す言葉が見つからないまま立ち尽くしてしまった……そんな私の姿を見た彼はそのまま言葉を続けるのだがそれを聞いている内にだんだんと落ち着きを取り戻していきなんとか平静を保つことが出来たのでホッと胸をなでおろすことになったのだが、それと同時にどうしてそのような結論に至ったのかその理由を知りたくなった私は恐る恐る問いかけることにするとそれに対する返答はあまりにも予想外すぎるもので驚きを通り越して呆然としてしまったもののいつまでもこうしていては話が先に進まないと判断した私は一度深く息を吸い込むと気持ちを落ち着かせると今度は冷静に話をするように努めたところで早速その内容を聞いていくことにした。
「……なるほどね。貴方の話はよくわかったわ。だけどそれとこれとはまた話が別だと思うのよ?私がこの世界にやってきた理由を考えれば貴方に協力したいと思わない方が不自然だと思わない?」
「いや、思わないね。何故ならお前の本当の目的は元の世界に戻ることだろうからな。だからこそ俺は言ったんだよ、お前の居た世界に戻れば今まで通り平穏無事に暮らすことが出来るのだとな……もちろん俺の目的が達成された後の話になるのだが、そうなれば必然的に俺達と一緒に行動するしかなくなるだろうしな……まあ、簡単に言ってしまえば俺の仲間になればいいということなのだよ」
「そ、そんなことを急に言われても困るわ!!だいたい、どうして貴方がそこまでしてくれるのかわからないじゃない!?だって、いくら自分の娘の為とはいえ、そのためには多くの人を殺めなければいけないんでしょう?それって、どう考えても普通じゃないわよね?それとも何……?貴方、本当はただの悪人で大量殺人をすることで快楽を得る異常者か何かだったりするのかしら?」
それを聞いた彼が途端に怒り出したので慌てて謝るとどうにかその場を収めることに成功し、今度こそ話を続けることにしたのだが結局その後も平行線を辿ってしまい話し合いは難航してしまうと時間だけがどんどん過ぎてしまう結果となり最終的には明日改めて話をするということでその日はお開きとなったのだったが、その時には既に辺り一面暗くなっていたので私達は仕方なく近くにあった宿を借りることすることにした……ただ問題が一つあったのだが、それは資金の問題であった。というのも私達は一文無しだったのである……そんなわけで途方に暮れていた私だったがふとあることを思い出すと急いで鞄の中を漁り始めるとその中身をベッドの上に並べ始めた……そう、実は財布の中にお金が入っていることを思い出したからである。そこでさっそく中身を確認してみたのだが幸いなことにちゃんと日本円が入っていたため少しだけ安心した私は取り急ぎ当面の生活費だけでもと思いお金を下ろしておくことにした……というわけで、早速近くの銀行へ向かうために部屋を出ることにした私は、彼にそのことを伝えた上で少し出掛けてくると言い残すと足早に外へと向かった。そして到着すると素早く手続きを済ませてすぐに帰ろうとしたのだが、その時ちょうどATMから出てきた男性客と目が合ったので軽く会釈したのだが次の瞬間なぜか呼び止められてしまい思わず警戒してしまったものの、それが相手にとっては気に食わなかったらしくさらに睨みつけてきたのでこれは良くないと思った私がすぐに謝ろうとした時だった……
「お前、さっきから随分と舐めた真似してくれてるけどさぁ……一体何様のつもりなわけぇ??こっちは金下ろすのにどんだけ苦労してると思ってんだよっ!!あぁんっ!?どう落とし前つけてくれんのかなあ?ああんっ!?」
(うわっ!この人めんどくさいタイプだよ……)
私は面倒事になる前に逃げ出そうと試みたが相手がそうさせてはくれなかった……というのも腕を掴まれてしまったせいで身動きが取れなくなってしまっていたからなのだが、それでも必死に抵抗を続けた結果相手の顔面を思いっきり殴りつけることになったのだが、その瞬間拳に痛みを感じたことでようやく冷静さを取り戻すとすぐに状況を理解した私はその場から逃げ出すことにしたのだった……ところが、どうやら相手は諦めが悪いタイプの人間だったようでしつこく追いかけてくると私のことを罵ってきた挙句、ついに腕を掴んで強引に連れ出そうとすると人目も気にせず殴りかかってきたのだ……そのせいで私は反射的に手が出た後で後悔する羽目になり激しく落ち込んでいたのだがその隙を突いて男が私に掴みかかろうとしてきたので慌てて身を躱すと逆にこちらから胸ぐらを掴み上げた上で睨み返してやったのである……そしてその後のことはあまり覚えていないのだが、気がついた時には既に地面に倒れ伏していた男のことを見下ろしていた自分がそこに居たので不思議に思っていたところ誰かが私の名前を呼んでいるような気がして振り返るとそこには心配そうな顔をしたエルくんが立っていたのに気がついた私は、ようやく安堵の息を吐くとそこで初めて意識を取り戻したのであった……
(あれ?一体どうしてこんなところにいるのかな?もしかしてこれって全部夢だったのかな?それなら納得がいく気がするし何よりあの後のことを全然思い出せないからそうなんだろうと思うんだけど、やっぱり記憶が曖昧な感じがするんだよね。だから一応彼に聞いてみようかなって思っているんだけどどうかな??)
(そうだね!確かに私も気になることがあるからついでに聞いてみても良いと思うよ!!それにどうせだし色々と話し合っちゃおうよ♪)
「さて、そろそろ本題に入るとするか……」
彼は私に向かってそう言うと真剣な表情をして私のことを見つめた……それからしばらくの間お互いに見つめ合っていたのだけれど、やがて彼がゆっくりと立ち上がるとこちらへと向かって歩いてくるではないか……それを見て何を思ったのか、エルくんのことをジッと見つめていた彼女だったけれど突然私の名前を呼ぶと話しかけてきたのである。
「ねえ、一つ質問してもいいかしら……?」
「なんだ……?俺が答えられることであればなんでも答えてやるぞ?」そんな彼の言葉に彼女は頷いてみせるとそのまま言葉を続けた。
「さっき貴方から聞いた情報についてなのだけど……その話が真実だと信じるのであれば貴方達には私と同じ姿をしている仲間が居るということになるのよね?ということはもしかしたら他にも私のような存在がいる可能性もあるということなのかしら??」
そんな彼女の言葉を聞いて彼は大きく頷いた後で答えるのだった。
「もちろんその通りだ。というかむしろお前の方が少数派だろうな……なにせ俺達の仲間は普通の人間よりも寿命が長いことから成長速度もかなり遅いのだ……しかしそれも当然と言えば当然のことだろう。なぜなら俺達はこの世界において最強の生物と言っても過言ではないからだ。だが、それだけではない。そもそもお前達の世界に存在する者達よりも遥かに強い魔力を持っているからこそ最強であり続けているわけなんだがな……まあつまり何が言いたいのかといえばだな、たとえどんなに長寿であろうと結局はいつかは死を迎えることになるということだ。それが早ければ早いほど、すなわち老衰ではなく事故死などであればなおさら良いとされているくらいだしな……だからこそ俺としてはお前の仲間達のことが気がかりなわけだが何か情報は入っていないのか?」
(うーん、それなんだけどねぇ……)彼は私の問いかけに頭を悩ませると黙り込んでしまった……その様子を見ていた彼女も何やら言いづらそうな雰囲気を漂わせていることからあまりいい話ではなさそうな気がしてならなかった。そしてそんなことを考えているうちに彼の方から先に話を切り出したのである。
「そうか、なら仕方がないな……それならばとりあえずこれからやるべきことだけを話すとしよう。まずはお前にこの手紙を渡しておくことにするよ。きっと役に立つはずだ。それでここからが重要になってくるのだが、おそらく近い内にこの国にいる勇者達と合流することになるだろうからな……その時はくれぐれも余計なことを口走らないように気をつけることだな。まあ、お前のことだ……その辺のことはしっかりと理解しているだろうとは思うのだが念のため言っておくとするよ」そう言って手渡された封筒の中身を確認した後、その内容に目を通した彼女は小さく溜め息をつくと改めて目の前にいる少年の姿を見つめていた……とはいえ別に見惚れていたわけではなく単に考え事をしていただけなのでそのことを彼に告げると話の続きをするようにお願いするのだった。すると彼が再び話し始めたのだが、それはまさに驚くべき内容だったのだ……というのも実は私達の故郷を滅ぼそうと企んでいるのは彼らだけではなく魔族もまた同じだということである……しかも厄介なことに彼らの目的は世界征服などというものではなくあくまでも自分達の種族が繁栄することだけを目的としていたのである……ただしその理由についてはまだわかってはいない。何しろ今まではお互いに不可侵条約を結び不干渉の立場を貫いてきていたはずだったのだが、最近になって状況が変わってきたのだという……というのも魔族の中でも特に好戦的な連中によるクーデターが起こり彼らはあっさりと国のトップに立つことに成功すると自分達こそが新たな王に相応しい存在だと主張し始めたことで、他の国々の魔王達からも一目置かれる存在となり今に至っているのだとか……
(なるほどねぇ……それにしてもまさかそこまで大規模な事態にまで発展してしまうだなんて思いもしなかったわね。だけどこれでハッキリしたこともあるわ。それはこの世界にやって来た時に感じた違和感の正体がわかったということよ。何故なら本来ならあるはずのものがどこにも見当たらないのだから間違いようがないもの……)そう、だからこそ疑問を抱いたのだ……なぜこの世界には魔法が存在しないのだろうかということに……
(確かにね!私もずっとそれが気になっていたんだよ!だって考えてみてほしいんだけど、魔法があれば何でも出来ちゃうわけだし何よりも争いなんて起こらないよね?でも実際はそうじゃないでしょ??じゃあ一体どういうことなんだろうね??)彼女が口にした疑問に対して私が返答しようとしたその時だった……不意に部屋の明かりが消えたのと同時に外から悲鳴が聞こえてきたことで二人は慌てて部屋から飛び出すと周囲を見渡したのだが、その直後のことである……突如として目の前に現れた人影を見た私達は即座に武器を手に取ると臨戦態勢に入ることになったのだがその相手が誰であるかを理解した瞬間私は驚きのあまりその場に固まってしまうのだった……
するとそれを見た彼女はすぐに彼のことを呼びつけると二人で協力するようにと告げた上で指示を出した……それに対して最初は戸惑った様子ではあったが渋々頷くと言われた通り行動を開始した彼を横目に見ながら私は相手の様子を窺っていた。するとそこで意外な人物の名前を口にしたことで思わず驚いてしまうこととなった……そう、彼女の口から出たのはかつてアルストロメリアが暮らしていた集落を滅ぼした犯人の名前であったからだ……そのことに気がつくとすぐに私は相手に問いかけた。
「お前は一体何者だ!!どうしてお前があの人達のことを知っているんだ!!」それを聞いた相手は笑みを浮かべた後で答えるのだった……
(どうやら私のことは知っているみたいね?ならば話は早いのだけど貴方は私の敵ってことで間違いないのよね??だったら遠慮する必要はないわよね!さあ、かかってきなさい!!そしてどちらが真の英雄なのかを決めることにしましょう!!)
その声を聞いた私はすぐさま彼女の元に駆けつけようとしたのだがそれを阻むように立ち塞がった人物がいたことで一瞬戸惑ってしまった……
(どうして君がそこにいるんだい?もしかして私の邪魔をしようというつもりなのかな??だとしたら悪い子だね?これはちょっとばかりお仕置きが必要みたいだね??)私は相手の目を見つめながらニッコリと微笑むとその顔面に思い切り拳を叩きつけることにした。しかし残念ながらその攻撃が当たることはなく寸前のところで躱されてしまったことで怒りが込み上げてきた私は再び攻撃を仕掛けようと試みるもことごとく避けられてしまうのだった……
そうこうしているうちに今度は私の背後に回り込むと手刀を繰り出してこようとするものだから堪らずその場から離れることに決めると大きく後ろに飛んで距離を取ると、それからすぐに体勢を立て直すことに成功した私は再度攻撃をしかけようとしたのだがここで突然体が動かなくなってしまったせいで動揺している間にあっという間に距離を詰められてしまうのだった……
(くそっ!油断した!!こいつ一体何をしたっていうんだ!?いや、今はそんなこと考えている場合じゃないな……とりあえず何とかしないと本当にまずいことになりそうだしここは素直に負けを認めるしかないみたいだな……)そう思った私は彼女に向かって一言だけ謝罪の言葉を述べると後は全て任せることにしたのだった……
そうして全ての戦いが終わった頃には私はもうボロボロになっていて立っているのがやっとの状態だったので彼女にもたれかかるとそこで意識を失ってしまったのだった……
一方その頃、ミネットの方に向かった彼はと言うと未だに相手からの攻撃を受け続けていたので苦戦を強いられていた。しかも彼女は戦いの最中に余裕を見せながらも常に隙を突いてくるようなことを繰り返してくるためなかなか攻勢に転じることができないまま攻めあぐねていたのである。
(くそぉー!この女さっきからニヤニヤ笑いながら僕のことを見てくるだけで何もしてこないくせにやたらと強いじゃないか……こんなの勝てるわけないぞ!だいたい何でこんなことになっているんだよ?確か僕達の目的は手紙を渡すだけだったはずなんだけどなぁ……?なのになんでこんな目に遭わなくちゃいけないんだろう??そもそも僕はただ巻き込まれてしまっただけなのに理不尽すぎるよ!!)そんな風に頭の中で色々と考えながら戦っていた彼は、突然背後に殺気のようなものを感じたことによって瞬時にその場から飛び退くと先程まで居た場所のすぐ隣に巨大な何かが突き刺さったかと思えば地面が大きく陥没してしまったではないか……その様子を見ながら唖然としていた彼はやがて我に返ると急いで後退してから再び彼女と対峙することになったのだが、そこでふと気がついたことがあることに気がついた。
(あれ?そういえばいつの間に元の姿に戻ったんだろうか??)そう思って自分の手や体を確認するために触ってみた結果、いつもとは違う感覚があることに気づいた。
(あっ、そっか!さっきまでドラゴンの姿になっていたんだっけか……だから上手く動かせなかったんだな!うん、これでようやく本来の力が出せそうだ!!よしっ!それじゃあ改めてあいつを倒すとしようかな!!)そう思った彼は早速攻撃を仕掛けることにしたのだがまたしても邪魔をされてしまうことになった。何故ならそれは背後から伸びてきた何者かの手によって口元を押さえられてしまったことが原因だった……突然のことに驚いた彼はどうにかその手から逃れようと試みたものの力の差がありすぎて全く振りほどくことができないばかりか段々と息苦しくなってきてしまったことから焦りを感じ始めたその時である……急に視界がぼやけたと思った直後にそのまま倒れ込んでしまったのだ……そんな状況を見ていた彼女が私に話しかけてきた。
「おい、そこのお前……よくやったぞ!おかげで手間が省けたからな……それにしてもこんな小さな子供を始末するだけの簡単な任務をわざわざ俺なんかに依頼するとかあいつはどうかしているとしか思えないんだが……だがまあ仕方がないか。何せ今の俺にはこれしか残されていないんだからな……」そう言った後で倒れたままの少年の首をはねることに決めた彼女は、ゆっくりと剣を振り上げてから勢いよく振り下ろそうとしたところで何故か動きが止まってしまった……それはどういうわけか自分の体が全く言うことを聞いてくれないからである……一体何故このようなことになってしまったのか理解できなかった彼女は次第にパニック状態に陥りそうになったが、なんとか冷静さを取り戻すと先程から聞こえてくる声の方に視線を向けてみてそこで初めて驚愕の事実を知ることになったのである……なぜならそこにいたのはなんとアルストロメリア自身であったからだ……その事実を知った時、彼女は激しく混乱していたものの目の前にいる少女が間違いなく本物だと確信した上で必死に呼びかけてみたのだが、それに対して返事が返ってこなかったことでさらにショックを受けた彼女は遂に泣き崩れてしまったのだった……
その後で何やら慌てた様子の少年が彼女のことを慰めようとしていたのを見ているうちに徐々に落ち着きを取り戻していくと、同時に先程の自身の行動について後悔し始めた彼女は目の前で蹲っている彼女に優しく声をかけると恐る恐るといった様子でこちらを見上げてきた彼女を抱きしめた後、これまでの経緯を全て話して聞かせた上で今後どうするかを考えるように促した……その結果としてまずはアリア達と合流しようと考えた二人は共に行動をすることに決めたわけだがその際に彼女は一つだけ条件を出したのだ……それは少年のことを守るのは自分であり決して手を出さないことというものであったがそれを聞いた少年は少しだけ悩んだ末に頷いたのだった……こうして新たに二人の仲間が加わったことにより当初の目的を達成した彼女達はそのまま街まで戻ることにしたのだったが、そこで問題が起こった……それは同行していた少女の様子がおかしかったことだ……具体的に言うと彼女は一言も喋らないまま黙々と歩き続けるようになった上に明らかに元気がないように見えたことから何かあったのではないかと心配した彼女が声をかけようとするも無視されてしまいどうすることもできなくなったことでどうしたものかと考え込んでいたのだが、しばらくして考え事をしているうちにいつの間にか目的地に到着してしまっていたようで仕方なく宿を探しに行こうとしていたその時のことである……
突如街の外から爆発音が聞こえてきたので驚いて外を確認してみると、そこには巨大な黒い物体がいたことで慌てて確認のために外に出てみたところその正体はドラゴンであることを理解すると同時にこの街が危ないということに気づいて大急ぎで皆を呼び集めることにしたのだった……
するとその数分後、アルストロメリアは仲間達を引き連れて外に出るとそこに広がっている光景を目にしたことで愕然としながら思わず言葉を漏らしたのだった……
「おいおい、一体どうなっているんだ??これは一体何が起きているっていうんだよ??」そんな彼女の疑問に答えたのは彼の方であった……
「ああ、この事態については僕の方から説明するよ。実は君が眠っている間にこの街が襲われたみたいでね、今現在もまだ被害が広がっていっているみたいなんだよね。そしてその原因となった人物というのがあそこにいるやつなんだ……そいつの名はドラニアと言って昔あの集落を襲った張本人なのさ!」
その言葉を聞いた瞬間にミネット達は驚きを隠せずにいたのだが、中でも一番驚いていたのは他でもない本人でもあった……というのもその名は彼女にとって忘れたくても忘れられないものであったからだ……
しかしその一方で疑問を抱く者もいた……
(おかしいわね……私の記憶ではあの魔物は確かに滅ぼしたはずなのだけどまさか生き残りがいたとでもいうのかしら??それに仮にそうだとしたらなぜこんなところに現れたのかしら??何か別の目的があっての行動なのか、それとも偶然通りかかっただけに過ぎないのか……どちらにしても放っておくわけにはいかないでしょうし何とかしないといけないのだけどどうすればいいかしら?)そんな風に頭を悩ませていた彼女であったがここで不意にあることに気づくことになるのだった……
(ん?ちょっと待って!そういえばさっきこいつが自分のことを僕の名前ではなく僕の姉の名前を使っていなかったっけ??もしその推測が正しいのであればこれは利用できるのではないかしら??だってそうよね?そもそもの話、私と彼が姉弟関係であれば私が彼と一緒にいたいと言えばそれを止められるはずがないのだから……よしっ!そうと決まれば早速実行してみようじゃない!!)そう思った彼女が行動を起こそうと考えたところでふとあることを思い出して再び思案顔に戻るとそれについてどう対処しようかを考え始めた……
ちなみにその間に彼はというと、先程まで自分がいた場所に戻ってきていたりする……何故ならその場所ならいざという時に隠れることができるからだ。またミネット達も既に戻ってきている。
(う〜ん、どうしようかな??やっぱり姉さんに頼るしかないよなぁ……でもできればあいつの力を借りずに一人で倒したいんだよなぁ……そうだ!こういう時こそあれを使うべきだよな!!)彼は心の中でこう思うと徐にそれを取り出してみた……それは例の笛でありこれを吹くといつでも自分の意思で自由に出入りができる代物である……ただこれには欠点がありそれが発動するにはかなりの時間がかかるということと自分以外に使うことができないという点があった……なので実際に使用したことがなければ当然使い方なんて知るわけもなく困ってしまっていた彼は、どうにかしてこれの使い方を知る方法はないものかと悩みながら笛を弄っていた……
そうしてしばらくの間弄り続けていた彼であったが、ついにはその使い道がわかったような気がした彼はすぐに笛を吹こうとしたのだがここで一つ問題があることに気がついた。それはその吹き方がわからなかったのである……
そのため試しに吹いてみた彼は何も起こらなかったことに落胆していたその時だった……突然背後に誰かが出現したのだ。彼はすぐさま振り向いて確認するとそこに立っていた人物はなんと彼の姉であるルリナだったのだ!それを見た彼は内心で安堵すると次の瞬間には喜びを感じていた。何故なら久しぶりに姉の姿を見ることができたからだ。しかしそれと同時にこれまで何をしていたのか?そもそもここはどこなのかについて色々と聞いてみたくなったため話しかけようとした瞬間、彼女から思わぬことを告げられることになった……それはこの場所が自分の知っている場所ではないということだった。しかもそれだけではなくこの世界すらも全く別のものであるらしいことが判明したのだ……その事実に驚くことしかできずどうしていいのかわからなくなってしまい呆然としてしまった彼は、これからどうしたら良いのかわからず不安に駆られながらもふと周りを見渡してみるとそこでようやくここがどこなのかを知ることになったのだ。
それは一見何の変哲もないただの草原にしか見えなかったが、実際には違った。何故ならここは先程まで彼らがいたはずの街であったからだ。どうやら何らかの要因によって別の場所へと移動させられてしまったようである。そのことに戸惑いを隠しきれないでいた彼はさらに衝撃的な事実を知ることとなった……それは姉の口から発せられた言葉が原因である……なんと姉が言うには今の自分達の体は魂だけが具現化されたものであり、本体はこの近くにある森の中にあるのだという。そしてそこに辿り着くためには様々な障害を乗り越えなければならないのだと教えられたのだが、それを聞いた彼は素直に頷くことができずにいた。何故ならその森があまりにも広大すぎるうえに目印となるようなものがほとんどなかったからだ。
だからこそ本当にそのような場所が存在するのかどうか疑わしく思っていたわけだがそこでふと先程手に入れた笛のことを思い出した彼は、もしかしたらこれで行くことが出来るのではないかと考えて試して見ることにしたのだが結果からいうと失敗だった……何故なら音が鳴らなかったからである。ならばと思って何度も繰り返して吹いてみたりしていた彼であったがそれでも反応がないため仕方なく諦めかけていたその時のことだった。なんと今までうんともすんとも言わなかったはずの笛が突如として鳴り始めたのだ!その音は耳を塞ぎたくなるほどの大きな音だったため驚いた彼らは慌ててその場にしゃがみ込んだのだか特に何かが起きたような様子はなくホッと一安心して胸を撫で下ろしていたのだがそれも束の間の出来事であった……
「ちょっと待ってくれ、どういうことだ!?なんでお前がここにいるんだよ??」唐突に背後から聞こえたその声に全員が一斉に振り返った。そこには予想通りと言うべきか先程の黒いドラゴンが立っていたのだが、その様子は明らかにおかしいかった……それは何故かというと本来の姿が全く違うものに変わっていたからだ。そこでアルストロメリアは改めて目の前の存在に対して問いかけた……
「お前は一体誰だ?一体何者だというのだ?」すると相手はこう答えたのだ……
「何を言っているんだい?僕は君のよく知る人物じゃないか?まさか忘れたわけじゃないだろうね??それに君達の方も久しぶりだね……」それを聞いた瞬間に彼女は戦慄することとなった。何故なら相手が言ったことは紛れもない事実であったからである。その事実を理解した彼女は必死に考えを巡らせながら目の前にいる人物が誰なのかについて考えた末に一つの答えを出すことに成功したのだ。だがそうなると今度は疑問が生じたことで頭を悩ませることになっていた……なぜなら相手のことを知っているということはつまり自分自身のことも知られているということになると思ったからである。そしてさらに厄介なことにその相手こそが自分とは比べ物にならないくらいの強者であったということが何よりも厄介であった。何せ今の自分が敵うような相手ではないのだからだ……かといって諦めるつもりなど毛頭ない彼女ではあったが、どうにかこの状況を打破する術はないかと考えていたところ更なる追い打ちをかけるかのように続けて言葉を投げかけてきた。
「そんなに難しい顔をしないでよ?別に何もしないからさ……だからそろそろ機嫌を直してくれないかな??ねっ??」その言葉を聞いた瞬間彼女は思わず怒りの声を上げてしまったもののよくよく考えてみるとそこまで怒るようなことでもないことに気づいた彼女はなんとか冷静になろうと試みたのだが、その前に相手がこんなことを言ってきたので思わず固まってしまったのだ……
「まあ、君が何を言いたいのかわかるけどね……でももう少しだけ付き合ってもらうよ!!」そう言った後間髪入れずに攻撃を仕掛けた黒いドラゴンの攻撃によりまたしても意識を失いかけることになってしまった彼女だったが、間一髪のところでアルストロメリア達が彼女を守ってくれたことで命拾いすることになったのだけれどもだからといって安心できたわけではない。なにしろ敵はすぐ近くまで迫ってきていたのだから当然である……
しかしここで予想外の出来事が起こった。敵が突如攻撃を止めたかと思うと今度は信じられない言葉を口にしたのだ。というのも奴は彼女達のことを見逃してやると言った上で代わりに自分に付いてきて欲しいと言ってきたのだ。流石にそんなことを言われたのは初めてだったのでどうすべきか悩んでいたらある人物に肩を叩かれるとこう告げられたのだ……
「行ってきなさい」その瞬間彼女の中で何かが弾けた気がした。それは恐らく最後の最後に姉が自分の背中を押してくれたということなのであろう……そのことを理解した瞬間に彼女の中にあった迷いは綺麗になくなっていたのだ……だからこそ決意した!!たとえどんなことをしようともこの少年と共に生きていくと心に決めた彼女はそのまま黙って頷きを返すと仲間達とともに少年の手を引いて歩き出したのだった……そう、これは彼女が本当の意味で新たな一歩を踏み出した日となった……この日を境に彼女と彼の運命は大きく変わることになるとはこの時の彼らはまだ知らなかったのだ……
そうして彼ら一行が旅立ってから約2ヶ月の時が経過した頃、彼らのいる場所に異変が起こっていた。それは突如として現れた謎の魔物によって襲撃を受けていたからである。しかもその場所というのが今現在彼らが滞在している場所であり、今まさに壊滅の危機に瀕していたのだ! しかしだからと言って大人しくやられるつもりなどない彼らは、それぞれの持ちうる力を最大限に活かしながら戦っていたのだが、如何せん敵の数が多すぎたために徐々に押されてしまい次第に劣勢を強いられてしまうようになったところで一人の少女がとうとう限界を迎えたらしく地面に片膝をついてしまった。それを見た彼はすぐに駆け寄ると声をかけてみた。すると、何とか返事を返すことは出来たのだが既に満身創痍で戦える状態ではないことだけは確かだった……そんな様子を見た彼は彼女にこの場から離れるように告げた。このままでは全員の命が危なくなるとわかっていたからこその行動だったのだがここで少女は意外なことを口にした。
「いいえ!私も最後まで戦うわ!!だって私が貴方を守るって約束したんだから!」しかしそれに対して彼が反論するとこう続けた。
「確かに約束はしたさ!でもこんなボロボロの状態じゃ無理だよ。だったらせめて一緒に戦わせてくれ!!足手まといにはならないからさ!!」それを聞いた彼女は渋々納得してくれたようで、二人で連携しながら戦うことを承諾してくれたおかげで再び戦闘に集中することが出来た彼はこのチャンスを無駄にしないよう懸命に剣を振り続けていた……
それからどれくらい経ったのだろうか?ようやく終わりが見えたことで安心したせいもあって緊張の糸が切れたことにより疲労感に襲われてしまっていた彼に対して少女の方はまだ余力がありそうな雰囲気であったため心配になった彼が大丈夫か確認してみると案の定無理をしていたらしくかなり辛そうな表情を浮かべていた。それを目にした彼はすぐに彼女に駆け寄って声をかけることにしたのだがここで突然巨大な地震が発生したせいで足元が崩れてしまい体勢を崩してしまった彼はそのまま真っ逆さまに落ちてしまったのだ。幸いにも落下地点には地面があったため大事には至らなかったのだがその隙に敵が逃げ出そうとしていたので慌てて追いかけてみたもののあと少しのところで取り逃がしてしまい、悔しさのあまり地団駄を踏んでいるといつの間にか背後に立っていた何者かによって声をかけられたため振り返ってみることにするとそこには見知った人物が立っていたため彼は安堵した。そして同時に先程までの自分の失態について謝罪してから何があったのか尋ねたのだがその返答として先程自分が目撃したことを教えられることになった。それを聞いた彼は驚愕したがその一方でようやく納得したような表情を見せるのだった。なぜならその人物こそ先程自分が戦っていた相手であったからである。何故ならばその見た目が完全に別人のものへと変わっていたからだ……どうやらあの場所で遭遇したのが奴の本体であり本来の姿ではなかったらしい。そのことに驚きながらもさらに詳しく話を聞いた結果とんでもないことが判明した。なんとその体の持ち主はなんと自分達の家族だったのだ! それを聞いた途端に彼は衝撃を受けてしまった。何故なら自分達の家族がそんなことになっているなんて知りもしなかったからだ。するとその時になってある疑問が生まれたのでそれについて尋ねてみると答えは意外なものであった……それは奴がどうしてそんなことをしたのかという理由であった。それは今から少し前の出来事であった……当時まだ生きていた母親から自分達が暮らしていた家がある方角にある森へ行けと言われた彼は言われるままにその場所へと向かって行ったのだ。
するとそこに辿り着いたと同時に黒いドラゴンが姿を現したかと思えば、いきなり襲いかかってきたので慌てて回避しようとしたのだがその際に足を滑らせて崖から転落してしまい、そこで気を失ってしまったのだ。その後気がつくと森の中で寝転がっていたのだがそこには黒い龍人の姿はなかったそうだ。その代わりに別の人物がいたことからそれが母親の妹であるアネットだということを知ったのだという。そこで話を切り上げた彼は今度は逆にこちらから質問をすることにしたのだ。その結果わかったのは今現在の状況についての経緯だった……
それを聞いた瞬間に全てを悟った彼は愕然とする他なかった……何故ならそのことが真実だとすれば自分達の親は間違いなくこの世にいないということになってしまうからである。それを確信した瞬間思わず涙がこぼれ落ちてしまった彼であったがその直後のことだった……不意に体が光り出したのである。突然のことに動揺を隠しきれないでいたが、しばらくして光がおさまった後で自分の体を確認しようと試みると何と驚くべき事実が発覚したのである!なんと今までずっと消えていた右腕が元に戻っていただけでなく、さらに左眼も見えるようになっていたのだ。それを見て喜んだ彼が思わず声を上げるとその様子を見ていた彼女もまた喜びの声を上げた……こうして無事に元の姿に戻ることに成功した彼であったけれどこの時すでに嫌な予感がして仕方がなかった……
そしてこの後さらなる悲劇が彼を待ち受けていることになるのだが、今の彼にはまだ知るよしもなかったのである……
とある日の夜遅くのこと、いつも通りに眠りについたはずだったのだが目が覚めてみるとそこは見知らぬ土地で目を覚ましたので混乱していた俺ことクジョウリュウヤは、とにかくここがどこなのかを把握するために行動を開始した……だがしばらく歩いたところで気づいたことがある。というのもさっきから歩いているのだが景色が一向に変わらないのだ……いくら歩いても進んでる気がせずむしろ同じ場所をぐるぐる回っているような気さえするほどだった……そこで仕方なく一旦引き返すことにした俺は引き返そうと思ったのだがここで新たな問題が発生することに……そう、来た道を戻ろうと思って振り返るとそこは行き止まりになっていたのだ……その事実を目の当たりにした途端、流石におかしいと思った俺はこの場所について考えてみたのだが……どう考えても普通じゃないことは確かなのだがその理由まではわからなかった。それでも何とかしなければと思い色々と試してみることにしたのだが……残念ながら何一つ良い方法が思い浮かばなかったのでここは一度諦めることにしようと思う……ということで気持ちを切り替えた俺はこれからどうするかを考えることにした……というのも、いつまでもここにいても仕方がないと思えたのでどうにかして移動する必要があると考えたわけだ。ただ問題はどこへ行けば良いのかということなんだけど、正直なところ見当すらつかなかったのでひとまず歩くことに専念することに決めてみることにした。それで歩き続けること数分経過した頃だろうか……俺の視界に何やら建物らしき姿が映ったことでそちらの方へと近づいてみると、何やら門のようなものがあった。とりあえず入ってみようと考えた俺は、恐る恐る中へと足を踏み入れることにしたのだがその瞬間、誰かに見られているような感覚に陥った。とはいえ、周囲には誰もいないため恐らく気のせいだろうと思っていたのだけれども何故か視線を感じ続けていたために気になってしょうがなかった俺が辺りを見渡すとふとあることに気がついてしまった。そう、それは今自分が見ている光景に見覚えがあることに気づいたのだ。最初はまさかと思いつつもその考えを否定出来ずにいた俺が、次に目に映ったものを見て確信してしまうことになったのだ……何故ならそこに見えたものとはかつて住んでいた家にそっくりな風景だったからだ!! そう思った次の瞬間、俺は居ても立っても居られなくなってしまってその場から駆け出していた。そうして家の中に入ってみたのだが、やはり思った通り懐かしい思い出の場所と全く同じ造りだったので思わず涙が出そうになったがここで泣いてしまったら負けだと思った俺は、どうにか堪えることに成功することが出来たのだがそうなると余計に好奇心を掻き立てられてしまうことになり結局探検することになってしまったのだった……それから暫く探索を続けてみたものの特に何か発見することは出来なかったのだが一つだけ気になる部屋を見つけたために立ち寄ってみると、そこには一つの絵が飾られていた。その描かれている人物というのがどう見ても俺自身にしか見えなかったために困惑してしまったがそれと同時にどこか既視感のようなものを覚えた気がした俺は、その正体を突き止めるべくじっくりと眺めてみてようやく思い出すことができたのだ。なぜならその絵画に描かれた人物は今の俺とは真逆の外見をしていたからである!!具体的に言うのであれば黒髪黒眼で色白の肌をしているといった感じなのだ。それを見たことでようやく自分の中にある記憶が正しいものだったのだと理解できた。すると、今度はどんな人間だったのか気になったので早速調べてみることにした。幸いというべきかこの絵に関する記録が残っているはずなのでそれを見ればわかるかもしれないと考えたからである。
しかし結論から言うと残念な結果に終わることになった……理由は単純明快であり名前や年齢などは一切記載されていなかったからだ。そのため誰なのかを知るためには当時の資料を調べる必要があると考え、片っ端から探してみることに決めたのだがそう簡単には見つからずに困っていたところに運良く書斎を見つけることが出来たのでそこなら何かあるかもと期待しながら調べ始めたのだがこれが正解だったようで次々と見つかったことから最終的に全ての記録を調べ上げることに成功し、その内容に目を通してみるとそこにはこう記されていたのだった……『この少年は将来偉大な人物になるだろう……』その文字を見た瞬間、自分のことながらそこまで褒められているのかということに驚きを感じてしまった。何しろ自分の記憶にない過去の自分のことを他人が書いた文章なのだから信じることが出来ないのも無理はない……だが、同時に嬉しく思う気持ちの方が大きかった。だってそれだけ自分は期待されているということを意味しているのだから……
というわけでここからが本番となるわけなのだが実は先程見つけた記録は全体のほんの一部に過ぎず他にもいくつか存在するらしいことがわかったのでさらに探してみることにしたのだがここで一つ問題があった……それは探すにしてもどこにあるのかわからないということである。さすがにここまでくるとお手上げ状態だったわけだがここで諦めてしまえばそれまでだと自分に言い聞かせることでやる気を取り戻した俺は、再び探し始めることにしたのだった。そしてそれから数時間後、ようやく目当てのものを発見することに成功した!しかもそこには他のものとは違ってしっかりと写真まで残されていたためこれで間違いないだろうと確信した俺は改めてその人物の名前を見てみることにする。その結果出てきたのは……『クジョウリュウヤ』その名前を目にした瞬間またしても驚いたと同時に納得してしまっていた……何せ髪の色以外は俺と全く一緒だったからだ!!どうやら昔の自分は髪を染めていたわけではなく元々こんな色だったようだがなぜそのような奇抜な色に染めたのかは今となっては誰にもわからないようだ……ただ、これだけは言えるだろう。間違いなくこれは俺なのだと……!!そう思うと嬉しさが込み上げてきてしまった。だからというわけではないが俺は決意することにした。例えどれだけ時間がかかっても必ずこの人に辿り着いて見せると!!そう心に決めた俺はさっそく準備を始めることにしたのだった……
そんな出来事があってからさらに数年が経過したある日のことだった……いつものように朝食を終えた後で散歩をしている最中のことだ、ふとある気配を感じたのでそちらの方へ向かってみるとそこにいたのはかつて俺達が住んでいた家の前で泣いている女の子だった。どうしてこんなところにいるのかと思っていると彼女はこちらに気づいたらしくそのまま駆け寄ってきたかと思うと泣きながら抱きつかれてしまった。突然のことだったこともあって困惑したがまずは落ち着かせなければと思った俺は彼女が泣き止むまでの間ずっと抱きしめ続けるのだった。
そしてしばらく時間が経った頃になってようやく落ち着きを取り戻した彼女だったがそれでもまだ完全に泣き止んだわけではなかったようで、俺にしがみついて離れようとしなかった。そんな彼女の頭を撫でながら事情を聞いて見ると彼女の両親が交通事故で亡くなったということを聞かされた。それを聞いて気の毒に思ってしまった俺であったがここで一つ気になったことがあったのでそれについて尋ねてみることにした。
それは事故が起きた原因についてである。何故なら仮にも一国の王女が外出するということ自体あまり褒められたものではない上にその場所というのが人気のない森での出来事であったので何かあったのではないかと思ったのである……まあ、あくまで予想でしかないんだけどもね。とはいえ実際に聞いて見ないことにはわからないことだらけだったため思い切って彼女に問いかけてみることにした……すると予想通りと言うべきか、案の定というべきか詳しい内容までは聞かされていなかったために何があったのかまではわからないということだった。そこで続けて聞いてみると何でも両親は結婚記念日を祝いたいということで出かけるつもりだったようなのだが、その前に親戚と話し合いの場を設けなければならずそちらを優先した結果こんなことが起きてしまったとのことであった……何とも悲しい話ではないかと思った俺はどうにかして力になれないかと考えた末に両親の代わりに自分が両親の分まで生きてやろうと思い直すよう言い聞かせると少しだけ落ち着いた様子だった。
それでもまだまだ元気がない様子の彼女を元気づけるためにある場所へと向かうことにした俺達は道中では他愛もない会話をしながら向かった先はとある山の頂上だった。ここに来る前に予め連絡しておいたおかげもありすんなりと中へ入ることができた俺達は目的地を目指して進み続けた……やがて到着した先にあったのはとても美しい湖だったのだがここを訪れるのは初めてではなかったので特に驚くことはなかったのだが問題はこれからどうするかということだ……とはいえ、答えはもう決まっていたのだがね。何故なら彼女には内緒にしていたのだがここへ来た目的はまさにこれだったのだから!!そう、この場所こそ俺の本当の両親達が眠る墓なのだ!! というのも、生前の父と母はよく言っていたのだ……自分達が死んだとしても決して悲しむことなくどうか自分達の分まで幸せに生きて欲しい……それが彼らの最期の言葉となったのだ……そのことを今でも鮮明に覚えているからこそここに来たかったのだ……とはいえ正直、そんな簡単なことではないことくらいわかっていたさ……だって死んだはずの人間が生きていただなんて普通ならあり得ないことだしそもそも俺自身のことでもあるからな……でもだからと言ってこのまま見過ごすことなんて出来なかった。だからこそ彼らとの約束を果たすためにも精一杯生きることに決めたというわけだ!! そんな思いを胸に秘めつつ早速行動を開始することにした俺はまず初めに持ってきた花を湖の近くに手向けてからしばらくの間合掌していた。そうして心の中で語りかけるように感謝の言葉を述べるのだった……今まで育ててくれてありがとう!!貴方達のおかげでとても充実した毎日を送れました!!と、そんなことを思っているうちに不意に眠気を感じたのでそれに抗うことはせず意識を手放すことにしてから眠りにつくと夢を見たような気がしたのだがその内容については思い出せなかった。
その後、目を覚ました俺が目を覚ますと目の前にいたはずの女の子の姿が消えていたのだ!!まさか一人で先に行ってしまったのかと思いながら周囲を見渡しているとすぐに見つけることができたのだがその姿はまるで何かに祈りを捧げているかのような光景に見えたので思わず見とれてしまっていたのだがしばらくして我に返るなり慌てて声をかけようとしたもののそれよりも先に彼女がこちらに振り向いてきた。その表情を見た俺は思わず言葉を失ってしまったが無理もないだろう……なぜならその目には涙が浮かんでいたからだ……だがしかしそれも無理はないだろうと思うのだった。なんせ両親を亡くしたばかりなのだから無理もない話だ……そう思って暫くそっとしておこうかと思ったところで声をかけられたため返事をしようとしたところ、どういうわけか声が出ないことに気がつくと同時に体も動かせないことに気がついた。しかし、その理由についてはすぐに判明した……なんと彼女の手が俺の顔に触れてきたかと思えば優しく撫でられていたのだ!!その行為に対して戸惑いを覚えずにはいられなかった俺であったが次第に心地良くなってきたこともあり抵抗する気は失せてしまったのだった……それからどれくらいの時間が経過しただろうか?その間、ひたすら俺を慰め続けてくれた彼女は最後に再び頭を撫でることで別れを告げてくるとその場から去っていった……その際に「さようなら」という言葉が耳に聞こえてきたので俺もそれに応えるべく手を振り返すのだった。
その直後、意識が途切れたと思ったら今度は見知らぬ場所で目覚めたというわけなのだが一体ここはどこなのだろうかと考えていると隣の方から何やら話し声が聞こえてきたので視線を向けてみるとそこには二人の人物が立っていた。一人は眼鏡をかけていて優しそうな雰囲気の男性、もう一人はショートカットの女性といった感じでありどちらも若く見え年齢としては二十台半ばと言ったところだろうと思われたが何故かそれ以上の若さにも感じ取れた気がした。そんなことを考えていると不意に眼鏡の男性が俺を見ながら声をかけてきた。
「……どうやら目が覚めたみたいだね。おはよう、そして初めましてだね。僕はアルス・フォーティーン、隣にいるのはルミエと言って君の担当になる予定の人物だよ。よろしくね!!」
その言葉に続くように女性が挨拶をした……その声を耳にした瞬間、俺の中に不思議な感情が芽生え始めていた。どうしてだかわからないがどこか懐かしい感じがするのだ。もしかしたら過去に彼女と会ったことがあるのだろうかと考えていると今度はその彼女から話しかけてきた。
「どうやら体の調子は大丈夫そうだね。これなら明日から問題なく動けそうだ……さてと、それじゃ早速で悪いんだけど君がここにいる理由とか諸々の説明をさせてもらうね……っと、そうだった。その前に何か食べるものを用意しておかないといけないな……」
そう言って立ち上がると台所の方へと向かっていく彼女を見ていると隣の男性も立ち上がると同じようにそちらへと向かっていったので恐らく二人して料理を始めようとしているのだと推測することが出来た。そしてしばらくすると美味しそうな匂いと共に食欲を誘う香りが部屋の中に漂い始めたかと思うとテーブルの上に食事が並べられていったので、その様子を見ていた俺達はお腹が鳴り始めると同時に空腹であることを訴えかけようとしていたためほぼ同時に両手を動かしていた。そしてそれから間もなく食べ終えた後になって気づいたのだがどうやら二人は俺のことを待っていたらしく俺が食事をしている間はずっと黙って座っていたままだったがようやく落ち着いてきたので説明を再開してくれたのはいいのだが、その時にはもう夜になってしまっていたのでその日は休むことになったのだがその際に二人にどこで寝るのかと聞かれてしまった。
その問いかけに答えたのは俺ではなく彼女だった。そして彼女が口にした言葉に耳を疑った俺は驚きのあまり大声を出してしまったせいで再び眠ろうとしていた二人の目が覚めてしまうという結果になった……その結果として再び寝ることになったわけだがこの時、初めて気がついたことがあった……実は俺の隣に寝ていたのがルミエという少女だったのだが、これまで見てきた誰よりも美しく見えるのだ……もちろん顔立ちが整っているのはもちろんのことだが一番の魅力となっているのはその瞳である。まるで吸い込まれそうな綺麗な青い瞳をしていて見つめているだけで虜になってしまいそうなほどに魅力的なものだった……そんな彼女の瞳を見た瞬間、なぜか懐かしく思えた理由はわからないままだが俺は彼女に対して好意を抱き始めていることに気づきながらも明日になればこの気持ちが変わるかもしれないと思いつつ眠りにつくことにしたのだった……
というわけで、次回からいよいよ始まります! それではまた次章にてお会いしましょう~ノシ 翌日、目を覚ました俺はいつものように目を覚まし背伸びをしたところで昨日のことを思い出したのだがどうしてか思い出せないことが多すぎて混乱してしまう結果となりどうしたものかと悩んでしまうこととなったのだがそこにタイミングよく入ってきたアルスが声をかけてきてくれたおかげで多少落ち着きを取り戻すことに成功したので彼に尋ねてみたのだがやはりというべきか答えは返ってこなかった。ただ、彼が口にした言葉で一つわかったことがある……それは俺が記憶を失っているということである。というのも俺は自分自身のことはおろかこれまでの記憶が一切なく自分が誰なのかすらわからない状態であったために途方に暮れていたのだがそれでもこうして無事に生きながらえているということは誰かのおかげに違いないと考えていたその時だった。部屋の扉を叩く音が聞こえてきたのである……最初はアルスのノックかとも思ったのだがそれにしては音が違うことから別人だろうと結論づけて扉を開けようとした時だった。
(あ、いけない……!!)
そう呟いた俺は反射的に手を引っ込めると急いで布団の中へと潜った……するとその直後、扉を激しく叩く音と共に女性のものと思われる声が聞こえてきた。
「アドル様!!まだ寝ているのですか?早く起きて下さい!!今日こそは絶対に仕事をやってもらいますからね!!さあ、諦めて起きなさい!!いつまで布団の中にいるつもりなのですか!?私はずっと待っていましたよ!!それなのに全く姿を見せないどころか部屋にまで引き籠ってしまうだなんて酷いです……こうなったら力づくでも連れて行きますからね!!」
そう言うと同時に勢いよく扉が開かれると誰かが入ってくる足音が聞こえて来た。そうして足音が近づいてきた次の瞬間、突然誰かに抱きしめられる感触を覚えた俺は思わず悲鳴をあげそうになったがすぐに聞き覚えのある声が耳元で囁いてきた。
「もう大丈夫ですよ……私がついていますから何も心配する必要はありません……ですからどうか安心してください……」その言葉が聞こえた途端に俺は冷静さを取り戻していた。何故ならそれが誰の声なのかはすぐに思い出すことができたからである……というのもつい先日の出来事によって嫌というほど聞かされた声であったので忘れるはずがないからだ。だからこそ目の前にいる相手が何者なのかということもわかっていたのでゆっくりと目を開けて顔を上げるとそこには優しく微笑む女性の姿があった……それを見て安心したせいか無意識に手を伸ばして抱きしめようとしたところでハッと我に返った俺が改めて確認してみたところ間違いなく夢だと思っていた人物と同一人物であることに気づいたことで嬉しさが込み上げてきた俺は感極まったこともあって再び抱きしめてしまった……そうして再び眠りにつくのだった。
「……あれ?そういえば俺ってなんであんな夢を見たんだ?確かに昔から好きだったけどあれは現実ではなかったはずなんだけど……」
そう思いながらも疑問は解消されなかったが今はとりあえず気にしないようにしながら起き上がることにしてから顔を洗いに行った後で食堂に顔を出すなり椅子に座っている二人に声をかけたところでふと違和感を抱いた。というのも二人が揃って俺の顔を見て固まっているように見えたため思わず声をかけてしまったというわけだ。
「あの……二人ともどうかしたのか?何かあったのなら俺に話してほしいんだが?」
それを聞いた二人は慌てて首を横に振って否定の意思を示してきたので一先ず安心すると同時に朝食を頂くことにした。ちなみにメニューは昨日とほぼ同じものとなっていたのであっという間に平らげた後は自室に戻って着替えを済ませることにした。そして身支度を整えてから一階へと向かうと既にルミエの姿があり彼女はこちらに気がつくと駆け寄ってきてこう尋ねてきた。
「今日はちゃんと起きてこれたんだね!よかった、本当に心配したんだから!!」
そんな彼女の様子がなんだか可笑しくてクスクス笑っていると不満げに頬を膨らませるものだから更に笑ってしまった。
「ごめん、ちょっと思い出しちゃってさ……それよりもルミエさん、昨日はありがとうございました。それとごめんなさい、急に抱きついたりして……」
それに対して気にしないでほしいと言われたので素直に頷いて返したところで今度は彼女が声をかけてきた。
「それにしても君は物知りなんだな。俺のことを知っていたみたいだし一体どうしてなのかな?」と尋ねるとルミエは笑いながら答えてくれた。
「あはは、別にそこまで驚くようなことじゃないと思うけど……だって、君の名前を知っているのも君のことを知っていて当たり前な存在なんだからね。むしろ、覚えていなくて当然だと思うんだけどなあ……何せ、彼は君のご両親だから当然だよね!」そう言われた瞬間、頭の中が真っ白になりかけた俺だがなんとか持ち直すことに成功したことでどうにか冷静になれたのだがここでさらなる事実を知ることになるとは思ってもいなかったので驚きのあまり暫くの間、硬直状態となってしまった……そんな時、玄関の扉が開く音が聞こえてきたので視線を向けるとそこには一人の青年が立っていた。その人物は俺達がいることに気付くなり笑みを浮かべて話しかけてきたのだ。
「やあ、初めましてだね。僕がこの城の主で君たちの父親のアドル・フォーティーンだ。これからよろしくね」
その声を聞いた瞬間、先程まで感じていた不安や緊張が全て吹き飛んだだけでなくこれまで以上の愛おしさが溢れてきて我慢することができずに抱きついてしまった俺を見たアルスは苦笑いを浮かべながらもどこか羨ましそうに眺めているのだった……そしてそれを見たルミエも同じくして抱きつきたいと言い出したため、二人共仲良く一緒に抱きつくこととなった。その光景を見ていた父親が苦笑していたのは言うまでもないだろう……ただ、そこで新たな事実を知ることになったわけだがどうやら父親は俺と同年代の女性と再婚したらしいのだがそれはつまり、俺の義理の母親にあたる人ということなのだろう……そう考えると不思議とドキドキしてしまう自分に気づいたのだがこれはどういうことなのかと不思議に思っていたところに背後から声をかけられた為に振り返ってみるとそこにいたのは先程の男性であり、名前をルインと名乗ったのだそうだ。そして彼が父親と一緒に暮らしている相手だと聞かされることになるのだった。
こうして、新たな出会いを果たしたことによって俺達は本格的に動き始めていくことになり最終的には全てを救うことができるという結末を迎えることになったのだがそれに至る過程で様々な出来事が起こったことをここに記すことにする……
それから約二ヶ月が経過したある日のこと、遂に俺は記憶を取り戻すことに成功すると同時にこの世界に関する真実を知り絶望する羽目になるのだがこの時はまだ知る由もないことだった。
ということでようやく第二章へと突入しましたがこれからも不定期連載となりますのでどうぞよろしくお願いします~
それではまた次章にてお会いしましょうノシ あの出来事以来、俺は記憶を取り戻したわけだがそれによって生まれた一つの問題に悩まされることになっていた。それというのは未だに家族のことに関する記憶を取り戻すことができないということだ。というのも母親に関しては名前だけは覚えているのだがそれ以外はさっぱりわからないという状況なのでどうしようもなかったりする……とはいえ記憶を失っていることは幸いだったと言えるのかもしれないと思っているのも事実だ。何故ならもし記憶を失っていたら今頃どういった生活をしていたのかわからないからだからだ……まあ、それ以前に自分の本当の両親について知ることができただけ十分すぎるほどの進歩ではあるのであまり気に病む必要などないと考えていた。それに何よりも今現在こうして生きているということは何らかの理由があって命を救ってくれたのではないかと考えたからだ。
(だけど何故、俺だけ生き残ったんだろうな……その理由がどうしてもわからない……まさかとは思うが両親は死んでしまったのだろうか……?)などと色々と考えているうちに眠気がやってきたので俺は眠ることにした。すると夢の中で両親の姿を見た気がしたのだがすぐに目が覚めたために見間違いかと思っていたのだが俺の隣で寝ているはずのルミエがいないことに気付いた俺は嫌な予感を覚えたのでそのまま起き上がると部屋を出ていくことにした。そうして廊下を歩いていると階段の前に来た辺りで何やら話し声が聞こえてくるのがわかった俺はゆっくりと階段を登っていくとその途中で誰かとぶつかりそうになるとすぐに謝罪の言葉が飛んできたのでこちらも頭を下げてから通り過ぎようとしたところで突然腕を掴まれてしまった。
「あの……なんでしょうか……?」と尋ねる俺に相手は真剣な眼差しを向けてきたので何か重要なことなのだろうかと思いながら見つめ返すことにしたのだが……次の瞬間、思いもしない言葉を聞く羽目になった。
「アデル、よく聞いてくれ……実はな、君には今すぐにここから出ていってもらうことになっているんだ……」
突然告げられたその言葉に呆然としていた俺は聞き間違いではないのかと思い確認してみたところ同じ答えが返ってきたので余計に混乱することになった……するとそれを察したのかこう告げてきた。
「突然のことで混乱するのも無理もないだろうがどうかわかってくれないだろうか……そもそも今回の一件も君がいなければ起きなかったことだからな……」そう口にする父親だったが俺には何がなんだかわからなかったのでもう一度尋ねてみたところ、その内容というのがあまりにも信じられないものだったので一瞬頭が真っ白になってしまったのだがそれでも落ち着いてから話を聞いてみると俺がいなくなってからのことを語ってくれた。なんでもあの日、俺を森へと連れて行った後、何者かに襲われて意識を失ってしまったのだという。そうして次に目を覚ました時には俺の姿は何処にもなく代わりに謎の集団がいて俺を連れ去ったのだと説明されたのだそうだ。その後のことは俺もある程度は知っているし、そのことについてはもう気にしていないことも伝えたうえで最後に一言、こう告げたのである。「アデル、もうここへ戻ってくるんじゃないぞ?わかったならさっさと荷物をまとめてここを出ていけ!」
そう言われて部屋を追い出されてしまった俺は仕方なく荷造りを始めることにしてからふと窓の外を見ると雨が降っていることに気がついていた……それも大雨である為、外に出ることもできないと判断するなり部屋にあった書物を何冊か持ち出した俺は一階へと降りていき食堂で本を読んでいるとそこへ一人の女性が入ってきたかと思えばこんなことを言われたのである。
「あらあらアドル様ではありませんか、こんなところで何をされているのですか?もしかして一人でいるのが寂しいとかそういった事情でしょうか?」などと言ってきたのだ。そこで改めて相手の顔を確認してみたところどうやら夢だと思っていた少女のようだと気がついた俺は咄嗟に挨拶することにした。
「えっと、おはようございます。今日からお世話になることになりましたアデルと申します。それであなたは……」
それを聞いた少女は笑顔でこう答えたのだ。
「そうでしたか、貴方が例の少年なのですね!私の名前はルーナ・フォリアです、どうぞよろしくお願いしますね!」そう言うと手を差し出してきたため握り返しながら挨拶をしてから再び尋ねた。「ところで他の方たちはどこにいらっしゃるのでしょうか?」すると少女の口から驚くべき答えが返ってきたのだった。
「皆さんでしたらお買い物に出かけられたはずですよ。それと私の他にあと二人ほどいるのですがそのうちの一人は今この場にいませんけど後で紹介することになりますのでその時にでも紹介させていただきますね!」それを聞いて納得するなり気になっていたことを尋ねてみることにした。「そういえば、この家ってかなり広い気がするんですけど一体、どれくらいの部屋があるんですか?」その問いかけに微笑みながら答えると教えてくれた。「そうですね……正確な数はわかりませんが軽く一万以上はあると思いますよ」それを聞いた俺は開いた口が塞がらないどころかあまりの衝撃の大きさのせいで気絶しそうになってしまったのでどうにか耐えきるなり改めて考えてみるのだった。というのもこれだけの規模の屋敷をたった三人で維持するのはどう考えても無理があったはずだと考えるに至ったからだ。その為、思い切って尋ねてみることにしたのだが……そこで返って来た言葉はまたしてもとんでもないものだった。「それなら問題ありませんよ。何せ、ここにはメイドや執事などの使用人しかいませんからね!」とのことだったがそうなると気になるのは残りの二人が誰なのかということである……そのことを質問してみると少し困ったような表情で答えてくれたのだった。
「すみません、それについては今はまだ秘密にしておきましょうかねえ……いずれわかることになると思いますからその時まで楽しみにしておいて下さいね♪」
結局、詳しい話は聞けなかったわけだがそれよりもこれからの生活についてのことを考える方が大切だと思った俺はとりあえず部屋の片づけに専念することにした。それから約一時間後、片付けが一段落したところで休憩することに決めた俺は食堂に向かうとそこには何故かルミエの姿があって一緒に食事をすることになったのだがその際に彼女の過去について話を聞くことになったのだがそれはまた別の話にしようと思う……そして翌日、いよいよこの屋敷で働くにあたっての仕事内容を聞かされることになったのだがその内容がなんと住み込みによる屋敷の掃除と家事全般というものだった為に驚いたのだった。何故なら普通ならば通いのはずだろうと思っていたらそれを察していたらしくその理由についても語ってくれた。というのも元々は通いを希望していたということが判明したからである。だがしかし、ここで問題が発生することとなり急遽その話はなしになったということなのだそうだ……というのも屋敷の規模が大き過ぎるせいで掃除が行き届いていない部分がいくつも存在するらしいのだ。そのため、そこに住み込むことになるということは即ち、それらの仕事もすることになるということを意味するのだった。それを聞いた俺は内心、勘弁してくれよと思いつつルミエに視線を向けると既にやる気満々といった表情を浮かべていたこともあって諦めることになったのだがそれから更に聞かされた内容はあまりにも酷かったので思わず絶句してしまったのだった……というのも俺の仕事はまず、一番汚れているであろう場所を探し出しそこから始めるようにということになったので早速探し始めたまでは良かったのだがいくら探してみても見つからない為におかしいなと思ったところで不意に声をかけられた。
それは先程から見かけていなかったもう一人の女性だったのだがその容姿からして間違いなくルミエと同年代であることは明白だったので恐らく、双子のどちらかなのだろうと考えていたら自己紹介してきたのである。「初めましてですね、アデル君!私は姉のフィオナといいます。以後、よろしくお願い致しますわね」そう言いながら丁寧にお辞儀をしてくる姿を見て双子といってもやはり違いというものはあるものなのだなと感じたところで彼女からも話を振られたので自己紹介をしたのだがそこで気になる単語を耳にしたことによって思わず聞き返したのだが……
「あら、どうしましたか?そんなに驚くようなことではありませんでしょう?」などと不思議そうに首を傾げてくるので俺としては不思議を通り越して不安になってきていたのだが、それからというものの話の内容は酷いものばかりであった……例えば、料理が不味すぎて吐きそうになっただとか洗濯をすれば衣服が破けてボロボロになってしまうだとかそういう内容ばかりで聞くに堪えないというかなんというか、とにかくそういったものばかりだった。正直、このまま聞いていても仕方がないと判断したところで今度はこちらから聞いてみることにしたのだがその前に一応確認しておこうと思い尋ねてみた。
「あの、どうして皆さんはこの仕事を引き受けられたのでしょうか……?他にも色々な仕事はあったはずですよね……?」
それに対して二人は同時にこう返してきた。
「確かに色々と仕事はありましたけれど、それらよりもここが一番待遇も良かったですし何より条件がいいのですよ……」などと言ってきたので気になったので詳しく聞いてみることにした。するとどうやらここに勤めるには幾つかの条件を満たさなければならなかったのだということを知った。そしてその一つが「家事が一通りできること」なのだそうだ。ちなみにもう一つは「男性であること」でありそのことから俺は最初から除外されていたというわけである……こうして全ての話を聞いた上で俺はこの仕事を受けることを決め二人に改めて挨拶を済ませてから早速働くこととなったのである。そうして働き始めて数日が経過してようやく慣れたところでそろそろ夕食の時間となりルミエと共に食事を取るべく食堂へと向かっていると何やら揉めているような声が聞こえて来るのがわかった。しかもそれが一人分ではなく複数の人間によるものだということがわかったので一体何があったのかと思いながら進んでいくうちにその原因となっている者達の姿を目視で確認したのだがそれを見て思わず目を見開いてしまうほどの衝撃を受けることになった……というのもそこにいたのは全員、メイド服を身に纏った女性達だったからだ。
(え、嘘だろ!?なんでここにいるんだ?っていうかまさかとは思うがこれがさっき言っていた理由ってやつなのか!?)
そんなことを思っている間にもその者達のうちの一人が俺に気がついて声をかけてきたのだ。
「あらあら?貴方はもしかして新入りのアデル様ではございませんか?」そう言われて驚きつつも頷くことしかできなかった俺に対し笑みを浮かべながらこう口にしたのだ。「やっぱりそうですわね、お会いできて光栄ですわ!」
そう言って近づいてきたかと思うとそのまま俺の手を握りしめながら話しかけてきたのだ。するとそれを見た他の者も同じように近づいてきて挨拶してくれたことで緊張しながらもなんとか挨拶をすると途端に笑顔になり喜び出したかと思えば一斉に喋りだした為、何が何だかわからなくなってしまったのだがそんな中でふと隣に目を向けると何故か頬を膨らませている者がいたことに気がつきどうしたのかと尋ねてみるとこんな返事が返って来たのだった。「別に……何でもないです……」明らかに不機嫌になっていたことを感じ取った俺は慌てて謝ろうとしたその時、突然、背後から話しかけられて思わず驚いてしまった俺はすぐさま振り返ったのだがそこにいたのはメイド服を着た少女が立っていたのだがよく見ると見覚えがある人物だったのですぐに名前を口にすることにしたのだ。
すると相手は笑顔を浮かべながら挨拶してきたのでそれに答える形で返すとこんなことを言われたのだった。「改めましてお久しぶりですね、アデル様♪元気にされていましたでしょうか?」それを聞いた俺は頷きながらも返事をすると続けてこう言った。「そうですか!それなら良かったですよ!」それを聞いて安心しているのを見ていると改めてお礼を言わなければと思った俺は深々と頭を下げると感謝の言葉を口にしたのだった。「あの時、助けていただいて本当にありがとうございました……それであの……失礼かもしれませんがお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」俺がそう言うと少女は頷いてから答えたのだった。「そうでしたね、まだお互いに名乗っていませんでしたね……それではまずは私の方から名乗らせていただきますね。私はリリーナと申します、以後、よろしくお願いしますね!」彼女がそう口にすると次は自分を指さしてから自己紹介を始めてくれたのだがそこで俺はあることに気がついた。彼女の名前は知っているどころか以前に聞いたことのあるものであったのだ。しかし何故、ここでその名前を聞くことになったのかを考えていたところである結論に行き着いた……それは以前、夢の中で出会った少女が同じ名前をしていたことを思い出したからだ。その為、もう一度確認するために問いかけてみると彼女は笑みを浮かべて肯定した。
それから少しして互いに落ち着きを取り戻した頃を見計らったかのようにルミエが話しかけてきたので返事をしつつ食堂に向かいながらこれまで起きたことについて話していったのだがその際に気になる話が出てきたことでその内容について聞いてみた。それは彼女達の容姿があまりにも似ているということである。
最初は姉妹だと思っていたのだがそうではないということがわかり、それなら何か特別な関係なのではないかと思って聞いてみたら案の定、その通りだったのである。
実は彼女、この屋敷の主人とは血縁関係ではないということが判明したのである。というのもこの屋敷の当主は元々孤児であった彼女を養子として迎え入れたらしいのだがその理由はただ一つしかなく血の繋がった存在ではなかったからという理由だけでしかないらしくそれ故に家族という実感が全くと言っていいほど湧かなかった為に距離を置いていたのだということを知った時には驚いたのだがそれでも今はそれなりに仲良くやっているのだと話してくれたので安堵した俺はその後、無事に夕食を終えた後で入浴しに向かったのだがその時には既にルミエの姿がなく、そのことに疑問を抱きつつ自室へと戻って就寝しようとしたその時だった……突然、何者かに声をかけられてしまい動揺しつつも振り返るとそこには先程までいなかったはずのフィオナさんの姿があった為に警戒しているとそんな俺の姿を見たフィオナさんは笑みを浮かべたままこちらに近づいて来て言った。
「大丈夫ですよ、私は何もしないですから安心して下さい」その言葉を聞きとりあえず安心したところで再び彼女に視線を向けたところであることに気がついた……それは彼女の容姿についてなのだがルミエと同じく瓜二つといっていいほどに似ていたのである。それを認識した途端、あることを思い出していたのだがその考えを一旦、振り払っていたところにフィオナさんが不意に口を開いたことで現実に引き戻されることになった。
「そういえば私、ルミエさんのことを聞いていませんでしたね……一体、彼女は何者なのですか?どうして貴方が彼女と一緒にいるのか気になってしまってしょうがないのですけれど……?」そんなことを聞いてきたことに対してどう答えようか迷っていると先にフィオナさんが口を開いてきた。「ああ、いえ、特にどうしても知りたいというわけではありませんので無理に教えて頂かなくても構いませんよ?ですが、もしも教えて頂けるというのなら聞かせてもらいたいものですねぇ」そんなことを口にしながらこちらに向けて不敵な笑みを浮かべる姿を見てこれ以上、黙っているわけにもいかなくなってしまった為、素直に話すことを決意した俺は全て正直に話すことにした……勿論、夢の世界のことは省くつもりだがそれでもある程度の長さになったところで区切りをつけた俺はそれからしばらく間を空けてからこう問いかけた。「ところでフィオナさんって双子の姉妹とかいます?」その問いかけに一瞬、首を傾げた後に頷いたのを見た俺は更に続けることにした……というのも、先程、リリーナさんから聞いた内容によると双子は同じ時期に産まれてくることが多いということがわかった上に名前についても全く同じである確率が高いということも聞いていたのでそのことを聞いてみることにしたのだ。その結果、予想通りというかなんというか、どうやら二人揃ってそっくりだということらしいことがわかったのだがそのことはあまり気にすることなく続きを促した。すると……「え、どうしてわかったのですか!?」などと驚かれてしまったために「いや、なんとなく……」としか言えず黙り込んでしまった俺を見てそれ以上は何も言うつもりはないと判断したのか、あるいは言いたくないということを察したのかそれ以上の追求をしてくることはなく大人しく部屋に戻ってくれたのだった……その際、「いつかお話してくださる時を楽しみにしておりますね」と言われてしまったことで余計にハードルが上がったような気がするのだがそこは気にせずにいることにした。
そして翌朝、食堂でいつものように朝食を食べていた時にリリーナさんから声を掛けられたのだ。ちなみに他の人達は既に食べ終えていたのか俺以外の姿は見当たらなかった。そのため必然的に彼女と二人きりの状態となってしまい気まずい雰囲気になっていたところ彼女は微笑みながらこう言ってきた。
「今日は私と二人だけになってしまいましたが、大丈夫でしたか?」それに対して首を縦に振ることで返事をすると安堵した様子でこう続けてきた。「それなら良かったです!もし何かあったら遠慮せずに私に言ってくださいね?出来る限り力になりますから♪」それを聞いた瞬間、胸が高鳴るのを感じてしまったのだが何とか冷静を保ちつつ礼を言うだけにとどめておいた俺は急いで食事を終えて部屋に戻ろうとしたその時だった……何故かリリーナさんもついてきていることに気づいて思わず声をかけようとしたのだが、その時、いきなり彼女がこう口にしたのである。「ごめんなさい……実はあなたにお渡ししたいものがありまして、こうして一緒についてきたのですよ……」そう言いながら申し訳なさそうに頭を下げるとそのまま俺の手を掴んできたかと思うと次の瞬間、そのまま引っ張って歩き始めた。「ちょっ、何を……!」俺がそう言おうとした直後に何故か意識が朦朧とし始めてその場で倒れそうになってしまったがどうにか堪えることに成功して一安心していたのだがすぐに異変が起きたのだ。
「な、なんだこれ……?体が……熱いっ!」突然の事態に対応できなかった俺は困惑していたのだが、そんな彼女は笑みを浮かべながらこちらを見つめていることに気づいた俺はすぐにその場から立ち去ろうとするのだが体に力が入らず思うように動くことが出来なかったのだ。しかもそれだけではなく体の火照りまで出てきてしまっており、それに気づいた彼女が近づいてきて俺の体に触れてきたのだ。するとそれだけでも反応してしまい思わず声が出てしまったのだが、それに反応した彼女が笑みを浮かべてきたかと思うと耳元でこんなことを呟いてきた。「ふふ……我慢しなくても良いんですよ?さあ、貴方の欲望を解き放ってください……」その言葉を耳にした俺は頭がクラクラとしながらも無意識のうちに彼女に抱き着いてしまったのだ。
そんな俺に対し、彼女も抱きしめてきたのでそれが嬉しくなった俺はつい甘えるようにして頬ずりをしてしまうとその行為を喜んだのか抱きしめながら撫でてくれたのを感じて興奮を覚えてしまうと同時にもっとして欲しいと思うようになり彼女のことを押し倒していた。だがそんなことなど気にする余裕もない程に思考が鈍ってしまっている俺はただただ彼女のことが欲しくてたまらなかったのだ。だからこそ行動に移そうと服を脱がせようとしたところで急に頭の中に声が響き始めたのだったがそれにすら気づくことはなかった。『もう十分楽しんだだろう?早くそこから離れるんだ!』そんな言葉が聞こえた直後のことだった、突然目の前に現れた人物を見た俺が咄嗟に距離を置くとその人物は笑みを浮かべてこう話しかけてきた。
「おやおや、その様子だとまだ完全には正気を失っているわけではないみたいですね?」そう言われてようやく目の前にいるのが誰なのか認識した俺は呆然としたままその姿を眺めていたのだが、ここでふと気がついたことがあった。それは……彼女からは魔力を一切感じることができなかったのである……ということは人間ではないということが確定してしまったわけであり、それはつまりあの魔物と同類であることを示していたので警戒を強めていると今度は彼女が話しかけて来たことで意識を向けざるを得なくなった。「まあ、そう身構えなくても大丈夫ですよ、私は貴方に対して危害を加えるつもりはありませんからね♪ただし、貴方が今していることについては別ですがね……」そんなことを言われてようやく今の自分の行動を思い出し、すぐさまその場から離れようとするのだが既に遅かったらしくいつの間にか後ろに回っていた彼女が抱きついてくることによって逃げられなくなってしまっていた。それだけでなく耳元に息を吹きかけられたことでゾクッとした感覚が襲ってきたため、このままではまずいと考えた俺はどうにかしてこの状況を打開しなければと考え始めると、そこで彼女の口からこんな言葉が聞こえてきた。「別に私はこのままでもいいんですよ?……だってそうすれば貴方は一生、私のものになるのですからねぇ……フフフ」その声を聞いた途端に背筋が凍るような感じがしたので思わず離れようともがいてみるものの、それを許さないと言わんばかりに更に強く抱き締められたことで完全に身動きが取れなくなってしまうことに絶望するしかなかったのだが、それでも諦めることなく脱出を試みようとしていたところで更なる衝撃が走ることになった……それは、なんと、彼女に唇を奪われてしまったことだったからである。
「んっ……ちゅっ……ちゅるっ……ぷはぁ……!フフフ、どうでしたか?気持ち良かったですかぁ?」彼女のその問いかけに対して何も返すことが出来なかった俺は恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にして俯いてしまうがそんな俺のことを見つめていた彼女は嬉しそうに笑いながら続けてこう言ってきた。「どうやら満足していただけたようですね……それでは改めて言わせてもらいますね?私はアルスの事が大好きなのです……ですからこれからは私のことをお姉ちゃんと呼んでくれると嬉しいです」そう言って微笑む彼女の顔を見ながら俺は、あることを考え始めていた……それは、これからどうやって生きていけば良いのかということだが、それを口にする前に彼女はこう答えてくれたのである。「ああ、それと……もしもここから逃げようと考えているのなら無駄ですのでそのつもりでいてくださいねぇ?もし、逃げるようなことがあればその時はお仕置きとして私の言うことに従ってもらいますからね?」そんなことを言いながら顔を近づけてきたので思わず目を閉じてしまった俺が再び目を開けるとそこに先程までいた筈の彼女の姿はなくその代わりに別の人物が立っていることに気づくと驚いた表情になりながらこう呟くのだった……「ま、まさか君は……いや、貴女様は……!」そしてそれからしばらくの間、俺と彼女による追いかけっこが始まったことで屋敷の中が大パニックになってしまうのだがそんなことは今の俺達にとってはどうでも良いことだったのだ……なぜなら今はただ、お互いに求め合っているだけなのだから……
その後、二人は毎日のように屋敷を抜け出しては二人で過ごしていくことになるのだがその様子を見ていた者達は皆、揃ってこう言うようになった……「あの二人には関わらない方が良い……」と……
※ 次回からは第3章に入りますがその前に登場人物紹介やキャラデザ等を公開していきたいと思いますので興味のある方はそちらの方も是非ご覧下さい。
ルミエ
種族:吸血鬼族
性別:女
年齢:15歳(物語開始時)
身長:147cm
体重:38kg
3サイズ:B83/W57/H80
髪色:金
(本来の色は黒)
目の色:赤
髪型:ストレートヘアーで長さは腰くらいまである。前髪あり、左サイド編み込みのハーフアップスタイルで毛先は内巻きになっており髪飾りをつけていることが多い。また、ポニーテールとしても使える。
顔のイメージ:少しツリ目気味でキリっとした顔つきをしているが可愛らしい感じの顔をしている。瞳の色は赤。服装は主にゴスロリ系が多いが、それ以外にも可愛い服を着ていることが多く、特に女の子っぽいデザインを好む傾向がある。
好きなもの:可愛いもの全般、甘いもの、小動物、子供、お人形遊び、お風呂嫌いなもの:辛い食べ物、苦い飲み物、騒がしい場所
性格:普段は大人しくて控えめだが好きな物や興味があるものには人が変わったかのように積極的かつ情熱的になる一面もある。また、かなりの人見知りな性格なので初対面の相手にはまず挨拶から始めるタイプであり会話が続くようになるまでかなり時間が掛かってしまうこともしばしば見受けられることから友人を作るまでにかなりの時間を要する。基本的には大人しい少女なのだが自分の中に秘めた想いの強さに関しては並外れているため一度暴走すると誰も手がつけられなくなることもあるようだ……因みに極度の負けず嫌いでもある。ちなみに異性に対しては免疫が全くなく耐性も皆無な為、まともに話すことさえ出来なくなってしまうという弱点も存在する……ただしこれは彼女が元々持っていたものではないらしい。
特徴:容姿端麗に加えて誰にでも優しいことや丁寧な言葉遣いをすることなどから誰からも好かれやすく人気者になっているのだが本人に自覚がないため周りからチヤホヤされても困惑するだけである。加えてその優しさに付け込もうとした不埒な輩が現れることも少なくないためいつも気を張り詰めて生活しているようである。実は過去に両親を魔物に襲われてしまっている為に目の前で人が殺される場面を目撃している過去があり、それ以降、親しい人や仲間を傷つけようとする相手に対してはかなり容赦がなくなる模様。なお、その際に負った心の傷はまだ癒えておらず当時のことを夢で見ることもあって悪夢を見る度にうなされることも多いらしい。現在は当時よりも精神的に強くなってはいるがやはりまだ立ち直れてはいないようである。
趣味:お菓子作り、ぬいぐるみ集め、お絵描き、着せ替え、可愛いもの収集、散歩、日向ぼっこ、ガーデニング
その他備考:アルスとリリーナとは幼馴染の関係にあり、昔から何かと一緒に行動することの多い間柄であったのだが成長するに連れて徐々に距離が離れていってしまったことが彼女にとっての唯一の後悔となってしまっている。しかし本人にとって二人が側にいてくれるだけで十分だと思っている節があるため今更離れようとは考えてはいない様子であり、それが二人にとっても安心できる理由の一つにもなっているようだが当の本人がその事に気付く日が来ることは当分先になりそうだ……そんな彼女の趣味はと言うと基本的に甘い物ばかりを食べておりその中でもチョコレートを使ったスイーツは特に好みの味のようだ。他にも猫とか犬などの動物も好きで屋敷に迷い込んだ野良猫と戯れているところをよく目撃されているらしい……本人はバレていないと思っているみたいだが、残念ながら隠しきれていない模様。あと意外と涙脆いところもあるようだ。
ルリナ
種族:人魚族
性別:女
年齢:20歳(物語開始時)
身長:165cm
体重:50kg
3サイズ:B88/W60/H86
髪色:青
目の色:水色
髪型:ウェーブの入ったロングヘアーで後ろで纏めてる。普段はポニーテールか三つ編みにする事が多いが気分によっては下ろしてることもある。前髪はなし。
顔のイメージ:ややツリ目で鼻筋の通った美人顔の持ち主。右目の下にある泣きぼくろが特徴的で妖艶な雰囲気を醸し出している。瞳の色は濃いめの青色。服は基本的にドレスを着用しているが動きにくいという理由であまり好まないようだ……その為、街中などで歩いている時はあまり注目を浴びないで済むような服装にすることが多いのだが、それでも周囲からの視線が途絶えることは無いのである意味諦めの境地に至っているらしい。また、その見た目からか男好きしそうな女性に見られることもあるそうだが実際のところはそこまで経験豊富ではないらしい……?そもそも彼女自身も男性と接すること自体が苦手としているために恋愛経験どころか交際経験すら一度もないという……そのためそういった話が苦手としておりその手の話になるとすぐに逃げ出してしまうことがあるほどなのだそうだ。とはいえ知識自体は豊富なようでそっち系の漫画を読んだりゲームをしたりすることも多いらしい。
性格:一見すると落ち着いた大人の女性のように見えて実際に話すとかなりおっとりした口調の女性なのだが内面はかなりの甘えん坊で構ってちゃん気質があるせいか気に入った相手には常にベッタリしたいという気持ちが強いようである。そして、自分が認めた相手にだけしか本心を見せることはなくそれ故に今まで友達と呼べる存在が一人も出来なかったらしく唯一、本音をぶつけられる相手がアルスだったのだが今はその彼がいないため心に大きな穴が空いてしまい寂しく感じているところはあるようである……しかしながら、それを周りに悟らせないように振舞っているせいで心配されることも少なくはないのだが本人にとってはその方が都合が良いと思っておりむしろ好都合だと思っていたりもするらしい……だがその一方で、心の奥底では常に誰かと一緒にいたいという気持ちもあるのでそんな時は誰か一人でもいいから自分のことを受け入れてくれる人を探しているとのこと。一応ではあるが恋人募集中らしい……そして最後に付け加えておくと彼女はかなりの面食いであるということがわかっており綺麗な女性が好みだと語っている。ただ、あくまでも顔が良いという条件付きではあるらしいのだがこればっかりは自分の意思ではどうしようもない事なので致し方ないと半ば諦めているところがあるそうな……
ルミエのことをどう思っているのかについては未だに不明な部分も多くはあるものの彼女のことを大切に想ってはいるようで、彼女と一緒にいると心が落ち着くらしい……まあ、要するに一目惚れのようなものなのだろう。ただ、この気持ちを彼女に知られてしまうと恥ずかしいからと言って逃げられそうなので今はまだ内緒にしておきたい気持ちの方が強いとのことで告白するつもりは全くないようだ。それに下手に動いて関係がギクシャクしてしまうことだけは避けたいと望んでいるらしい……どうやら彼女との関係はなるべく良好な状態で保ちたいと考えているようだ。因みに他の仲間達に対しては全員好意を抱いていて、中でもアリアのことは尊敬していていつかあんな風になりたいとも思ってもいるようである。そしてルウナには特別な感情を持っているのだがこれが恋心なのかそれとも別のものなのかはまだ分かっていない。ちなみに現在のルミエはというと相変わらず人見知りが治らないままでアルスが居なくなったショックがまだ癒えてないことからか、最近は屋敷の中でも自分の部屋に引き籠ることが増えてしまっているのである……また、彼女が部屋から出てこなくなってからというもの使用人達も心配して声を掛けてみたりもしたみたいなのだが結局、部屋から出ることなく一日が終わってしまったためみんな困っているようである……一体、何が彼女をそうさせているのか全く分からない状態が続いている為、屋敷の中は重苦しい空気に包まれているのだという……
※ここから下は新たに登場した登場人物達になります。※
『勇者』ユウキ・サトウ
種族:人間族性別:男 16歳
(物語開始時)
身長:169cm
体重:55kg
3サイズ:B82/W57/H81
髪色:黒
目の色:黒色
髪型:ストレートショートヘア
顔のイメージ:中性的な顔立ちでパッと見ではどちらか分かりにくい印象があるもののよくよく見ると美形であることがよくわかる感じである
特徴:基本的に穏やかな性格をしており人付き合いも得意なのでどんな相手にでも気さくに話しかけることが出来る。ただ、正義感が強く曲がった事が嫌いなところもあってたまに無茶をし過ぎることもあるのでその点だけは注意が必要なようだ。しかし決して悪人ではなく、困っている人を見かけたら必ず助けるような優しさを兼ね備えている上に仲間想いな一面もあることから誰からも好かれやすい人柄をしていると言えるだろう。因みに戦闘に関しては天才的な才能を持ってはいるがその反面、魔力量があまりにも少ない為に魔法はほとんど使えない模様……その代わりに剣術の才能に特化しており、近接戦なら無類の強さを誇るのだがその代わり体力が無いのが玉に瑕と言った具合だろうか?さらに言えば彼は回復魔法を習得出来ない体質のようでいくら怪我を負っても自己治癒能力で治すことが出来ないのだそうでその為、回復薬を大量に持ち歩く必要があるらしい……ただし彼自身、薬を飲むことに慣れていないせいもありあまり美味しく感じられずに飲むことが嫌いであるためか余程のことがなければ飲まないようにしているそうである。
使用武器は剣や槍など一般的な武具がメインとなっているようだが状況によって使い分けている他、稀にだけど弓を使うこともあるがそれは遠距離攻撃をする際のみであって接近戦では使いたがらない傾向があるため攻撃方法は基本、物理系である……また、防御に関しても素手による攻撃のみで殆どしない。しかし素手での戦い方はかなり上手なようであり特に相手の攻撃を防ぐことに関してはずば抜けていると言ってもいいほど優れているようだ……というのも彼の持つスキルが理由なのだが詳細はここでは伏せさせてもらうことにするとしよう。
ちなみに彼の特徴として特徴的な点としては見た目に反してかなりの負けず嫌いなところが挙げられており一度負けた相手に対しては必ずリベンジするといった執念深い一面を持ち合わせているということが挙げられる。とは言え、その強さはまだまだ発展途上段階にあるようでまだ完全体になった訳ではないようだ……とは言っても成長スピード自体が凄まじいことになっているらしく既に並の人間レベルではないことは確かであるらしい。なお、現在確認されている全てのスキルを習得してはいるがその中でもとりわけ厄介なものとして《???》というものがあるそうだ……これは今のところ誰もその正体を知らない正体不明の力なのだそうだが、もしかしたら今後何かしらの形で登場する可能性があったりなかったりするかもしれないとのこと。また、彼には秘密があるようなのだが果たしてその内容とはいったい……?そして最後に一つだけ語らせてもらうとするならば彼はある事件がきっかけで自分の人生が大きく変わってしまったということである。しかもそれが結果的に魔王復活へと繋がってしまう原因にもなってしまったため今では後悔してもしきれない気持ちに苛まれているようだ。
『聖光剣士』セフィリア・アークヴァルド
種族:人族性別:女 16歳(物語開始時)
身長:167cm
体重:51kg
3サイズ:B88/W59/H87
髪色:銀白色
目の色:青み掛かった銀色
髪型:腰まで届くストレートロングヘアー
顔のイメージ:ややツリ目気味の目とキリッとした目つきが特徴の女性でかなり凛々しい見た目をしている
特徴:正義感がとても強く、困っている人がいたら見捨てないような優しさを持ち合わせる心優しい性格をしているため周囲からはとても信頼されており、そのおかげで多くの人たちから愛されている存在でもあるらしい……その為、彼女自身が望んでいなくとも勝手に周囲が騒ぎ始めてしまい、気が付いた時には王女のような扱いを受けていたこともあったそうだ。そんな彼女の性格も相まってか、いつしか国を守る立場になりたいと考えるようになり騎士養成学校に通い始めたのだという……しかし、その道の途中で思わぬ事故に遭ってしまい右半身のほとんどを失うという重傷を負ってしまったのであるだがそれでも彼女は諦めることなく必死に努力をし続けた結果、無事卒業を果たしその後は王宮に仕えるようになったのだそうだがそれから数年経った今でもリハビリを続けているようで現在も以前と変わらぬ姿で元気に暮らしているようだ。ただやはり傷跡が完全には消えてはいないため、どうしても周囲の視線を集めてしまうせいで嫌な思いをすることが多々あったみたいであまり好きではなかったとのこと……
使用武器は聖剣と呼ばれる神剣の一つなのだそうだが実はこれにはとある呪いのようなものが掛かってしまっているらしく、これを使用している限りは決して本来の力が引き出せないようになっているらしいのだ……つまりは今の彼女では満足に戦うことすら出来ないので普段は部屋に保管したままにしているみたいだが何かあれば使う覚悟はあると言っているみたいである。
ちなみに彼女は幼少期の頃から剣の道を極める為に修行を重ねてきた過去がありその結果、王国内でも屈指の実力を持つ剣士にまで登り詰めた人物の一人だったりする。そしてそんな彼女は過去に一度だけではあるが王都にて魔物の軍勢を相手に一人で立ち向かったことがあったのだがその時の戦いで負ってしまった傷が今も体に残ってしまっているのだそうだ……とはいえ今は後遺症になるような大怪我をした訳でもなく日常生活にはなんら支障はない程度のものなので心配する必要は無いとのこと。しかし、だからと言ってそのまま放置しておくといざという時に危険を伴う恐れもあるので治療師の元で定期的に診察を受けにいくことをオススメしているのだとか……
※ここから下は新たに登場したサブキャラクターになります。※ アリア・フロイライン 16歳
(物語開始時)
153cm
3サイズ:79-54-71(Fカップ)
髪の色:金色で少しウェーブのかかった長髪(ポニーテール姿が多い)
瞳の色:緑色
身長:155cm
3サイズ:84-60-86(Dカップ)
スリーサイズの数値はアモンから聞き出した情報を参考にして記載させてもらっております。※
(以下年齢に関するネタバレを含む内容となります……苦手な方はこのまま読み飛ばすことを推奨します。尚、当作の内容に関する苦情は一切受け付けませんので予めご了承ください。)
名前:ルミア・フロイライン
種族:人族性別:女
20歳 身長:178cm
3サイズ:82-58-80(Gカップ)
髪型:金髪で肩甲骨付近までのストレートロングヘア
顔のイメージ:お姉さんタイプの女性で誰にでも優しく接する穏やかな性格をしておりその見た目も相まって非常に魅力的な雰囲気を醸し出しているのが特徴だと言われている。
特徴:彼女の特徴の一つとして真っ先に目に付くであろうものが胸の大きさであるのは間違いないだろうがそれ以外にも色々と変わったところがあるらしい。具体的に述べるとするなら例えば、常に笑顔を浮かべていることが多く何を考えているのかよく分からないところがあるだとか、その容姿が20代前半とは思えないほど若いままなのに加えて老いるどころか全く変わらないままでいられる秘訣を教えて欲しいなどといったものが挙げられているようだ。さらに付け加えるなら彼女の年齢はおよそ500年以上生きているとされているがこれについて本人は頑なに口を割ろうとはしていないらしく詳しいことは分かっていないようだ……しかし、一つだけハッキリと言えることがあるとすれば間違いなく普通の人間では無いということだろうか?その理由については単純明快であり、まず一つ目は彼女が持っている【能力】が原因なのだと思われる。何故なら、それは本来、人間が使える筈のないものであり、もし仮に使えたとしても代償が必要となるようなものばかりで決して良いことばかりではないのだから。次に二つ目は寿命の長さである……そもそも人間以外の知的生命体は基本的に長生き出来るように出来ている為、それが原因ですぐに死んでしまうようなことは滅多にないらしいのだが彼女の場合は別格で、何年経っても一切変化がないのである……ちなみになぜそうなっているのかと言えばそれは【転生者】だからということに他ならないだろう。そう、彼女の正体はこことは違う世界からやってきた転生者の内の一人なのだということが判明したのだ……それも元々はただの一般人だったという話もあるようだから驚きである。しかしながら彼女はそれを誰かに打ち明けるような真似はせず今に至るまでひっそりと暮らし続けていたのであった……ただし、その身に余る力を制御できずに周囲に大きな被害を与えてしまったこともあるが故に今ではもう誰にも知られないように人里離れた場所で静かに暮らしているという訳である。
最後に三つ目となるのだが、どうやら彼女の家系にはかつて初代国王に仕えていたと言われる伝説の【十二天将】の一人である白虎がいたようでその人物は歴代の王達の影武者を務める役割を担っていたようでそのせいか現在の女王は彼女と似たような特徴を持って生まれて来ており、その影響からか彼女も同じように同じような力を手にしてしまったみたいなのだ……その為、他の姉妹達とは違って魔力量が非常に少ないという欠点を抱えつつも今まで普通に暮らすことが出来ていたのだがある日突然、不慮の事故で瀕死の状態に陥りその際に死を悟ったことから全てを諦めてしまったのだそうだ。ところがそんな状況にも関わらず彼女は最後の力を振り絞って何とか自身の体を回復させたことで一命を取り留めたものの残念ながら左半身を失ってしまったせいでもう二度と以前と同じように生活することは叶わなくなってしまったのだそうでそれが原因となって自暴自棄に陥ってしまうようになってしまったんだとか……それでも諦めきれず、必死に足掻き続けてなんとかここまでやって来たというのが彼女の半生であり人生なのだという……ちなみにどうしてそこまで頑張れたのかと言うと彼女にはたった一つだけ心残りがあったからだと言われていてそれは『聖龍』と呼ばれる存在に会うことだったらしくその理由は彼が魔王を倒すための手がかりを知っている可能性があるからであるとのこと……ただ、肝心の居場所に関してはまだ誰も知らないとのことだった。
アルス・ラディアン 17歳 男性種族:人族性別:男
身長:170cm
3サイズ:B90/W62/H86
髪型:白髪の短髪
顔のイメージ:キリッとした顔立ちが特徴で全体的に爽やかな感じの男で、その見た目通りにかなり好青年的な性格の持ち主らしい。特徴:彼の正体は先代国王であるゼクスの実の息子であり現王政を廃止するために反乱を起こした張本人でもあるのだそうだ。ただ、反乱とは言っても別に国の転覆を狙ったり政権交代させるといったようなものではないためどちらかと言えば革命に近いものだと考えている。とは言えど国民からすればそのような区別をつけることはほぼ不可能に近く結果的に暴動やクーデターなどと同じ扱いを受けてしまうことに違いはないのかもしれない。実際問題、彼はそれに納得しておらずむしろ憤りすら感じている節があるというのだから何とも可哀想な話だなと感じる。また、そんな彼が掲げていた目標というのはあくまで国民の気持ちを一つにする為のものに過ぎず本来は争いごとを好んでいない平和主義者なのである……だからこそなのか国民からの評判もかなり良く慕われているような印象を受けることが多いのだという。
そんな彼なのだが実はついこの間まで王国騎士団に所属する兵士の一人として過ごしていた過去があるのだがそこで起きたある事件を機に自分の理想を追い求めることを決意し単身この王国を出て旅をする決意を固めたという……そしてそれからしばらくして偶然立ち寄った村にて彼と出会い意気投合したことで仲間として加わる運びとなったのだと言う。それからはしばらくの間、彼と行動を共にすることになってからはその実力を目の当たりにすることとなったようで今ではとても頼りにしている存在になっているとのこと。また、その一方で時々だが何か別のことに気を取られているかのように見える瞬間があるとのことでもしかしたら何かあるのではないかと勘繰っているのだが果たしてどうなのだろうか……?
使用武器:大剣(普段は腰に装備している鞘に収められている)
※ 名前の由来となっているものは実在する生き物の名前であり、その意味としては“勇気のある者”を意味します。
(以下ネタバレを含む情報が含まれますのでご注意下さい。)
名称:バハムート・ヴィシュヴェレーク
16世竜族性別:♂種族レベル:507体力:230000魔力:34080筋力:160000敏捷:136000会心:145000物理耐性:127000魔法耐性:12000スキル:《逆鱗》《飛行VIII》《暗視II》
固有技能:なし備考
:古代竜と呼ばれる魔物の一種でドラゴン種の最高位に立つ存在であると同時に最強の一角を担う存在ともされる。かつては魔界の奥深くに潜んでいたとされているのだが現在はそこから解き放たれ人間界のどこかにいるらしいということが伝えられているようだ。尚、その正体については一部の者達しか知る者はいないとされ詳細は不明のままではあるが実際にその姿を目撃した者は少なからずいるという噂も立っている。そしてもう一つ重要なことがあるとしたら、どうやらその種族の中で頂点に立ち得る存在になれると言われているらしい……というのも過去に一度だけではあったが国一つを滅ぼしかけたことがあったようなのである。ただ、それはあくまでも言い伝えでしかないようなのだが少なくとも当時から生きていられた者がいるらしいので恐らく本当なのだろうと思う。しかし、それを成した原因は今も分からないままでいるのだそうだ。
そんな最強の存在であるバハムートであるが、そもそも彼には2つの姿が存在すると言われており片方の姿は翼が生えた人型の姿をしており、もう片方の本来の姿を形容する言葉が存在しない為に総称して「不明」と称されているとのこと。ただし、後者の形態については文献によって多少の差はあるものの基本的に同じ形態をとっていることからおそらく前者の姿が本当の姿ではないかと予想されているようだ。では、一体何故、わざわざそのようなことをしているのかという疑問点も出てくるかもしれないがこれには理由があるみたいでなんでも当時の勇者の手によって封印されたことで本来の姿に戻ることが出来なくなった結果このような形になったとされているようである。ちなみにこれは後に判明したことなのだが彼が元居た場所にはかつて魔王と呼ばれた者がいたのだがその力は強大にして凶悪なものであり並大抵の実力では手も足も出ない相手だったらしいのだがそれでも最終的には彼の前に敗北を喫してしまったことにより深い傷を負ってしまい、さらには肉体にも相当なダメージを負ってしまった影響から動くことすらままならなくなってしまいそのまま眠りにつく羽目となってしまったという。つまりその戦いの傷跡こそがバハムート・ヴィシュヴェレークの正体であると言うことが出来るだろう……尤も、本人はそのことに気付いてはいないのだが。
※ ちなみに、なぜ彼にそのような力があるのかというと理由はただ一つ、先代国王が残した遺言書に記載されていた内容を鵜呑みにしたに過ぎないからである。その内容というのが「もし万が一のことが起こった場合はバハムートと共に世界を守ってくれ」という何とも曖昧過ぎる内容だったためそのことが気になったこともあって調査を進めていけばとある場所で隠されていた資料を発見したのだが、そこに書かれていた内容の殆どが文字化けしていた為に解読不可能だったのだがその中に一つだけ読めるものがあったのでそこに目を通していくとそこには信じられない事実が記されていたのだとか……そのことからもしかすると本当に存在したのではないかと思われるようになる一方で仮に実在した場合、どのような手段を使ってでも手に入れなければならないと考えるようになったそうだ。そして同時にこう思うようになったのだそうで“もしもそんな奴を相手にしたら果たして自分は勝てるのだろうか?”……と。
しかしながら今はそんなことよりもその行方を追うことが何よりも先決だと自分に言い聞かせることで何とか冷静さを保ちつつ気を引き締め直してから仲間達を率いて王都へ向かうことにしたのだった……そう、それが今現在の彼にとって唯一出来ることだから。その為にはどんな障害であっても乗り越えてみせると心に誓っているとそこでアルスが唐突に口を開いてきたのだ。
「……そう言えばさっき言ってたアリスさんって人、凄く美人だよな?それに胸もかなり大きいしスタイルも良いみたいだからな〜是非とも一度、お会いしたいもんだ!」
「はぁ、お前は何を言い出すかと思えばそんなことかよ……ったく仕方ねぇ奴だな!良いぜ、俺がお前の願いを叶えてやるよ。その代わり絶対にヘマはすんじゃねぇぞ!!」
そう言って俺はニヤリと笑みを浮かべた後、すぐにアルスにある提案をした。
すると彼は嬉しそうに頷いてみせた後で早速行動に移してくれたようで俺もそれを確認してから後を追う形で一緒に行くことにしたのであった。その後、王城へ到着した俺達は正門で見張りをしていた兵士の一人に話しかけると案の定というべきか最初は怪しまれる形になってしまったものの俺達の顔を見てようやく気付いたのかハッとした表情を見せた後で急いで門を開けてくれた。ちなみにこの時は予め身分を明かしておくことを条件にしていたのですんなり入ることが出来たが、本来ならばこれに加えて国王からの直筆サインが入った手紙が必要となるのだそうだ。その理由としては例えどんなに小さな町や村であろうとそこは立派な一つの国の敷地内となる為、他国の間者などが入り込む可能性が高く少しでも怪しい人物がいた場合には容赦なく捕縛するように指示がなされているのだという。そのおかげで今ではそういった者達はいなくなったそうだがそれでも中には賄賂を贈って見逃してもらう者もいたらしくその為、こうした決まりが設けられたという経緯があるのだそうだ。
まぁ何にしてもこうして無事に入城を果たした後は、ひとまず謁見の間の前まで案内されることになったのでそこまでやって来た俺達は到着早々中に通されると玉座の前には既にアリア様が座って待機していた状態になっていたのでそこで立ち止まるように言われた俺達は素直に従って足を止めた後でその場で片膝をつくと頭を下げながら待つことにした。それからしばらくすると誰かがこちらに向かって歩いてくる足音が聞こえてくると近くで止まる気配がしたので思わず身構えているとここで声が掛けられたので顔を上げてみるとそこにいたのは紛れもなくこの国の王様だった。
『よく来てくれた、アルス・ラディアン……そしてルミウスにリネアよ。この度の任務ご苦労であったな。』
「はッ、有り難きお言葉です……」
そう言ってアルスは代表して挨拶を交わした後で軽く頭を下げると今度は後ろに控えていた俺ともう一人の仲間を順に紹介してから一通りの話を済ませた後でこれからの方針についての話し合いを始めた。そこでまず初めに確認すべきこととして、現状の詳しい状況を教えて欲しいとのことでそれについてはまず、王国軍についての話をしていくことにした。
その話によると現在、各地で発生している異変のせいで兵士達の多くは各地に散らばっていてまともに機能していないということと加えて王都にいる戦力だけでも魔王軍に対してどこまで戦えるか正直分からないとのことだった。なので当面の間は様子を見守りつつも可能な限り情報を集めておこうと考えているのだという。ただ、それと同時に気になる点もあったためそれを聞いてみることにしてみた。
『ところでそなた達の方はどうしていたのだ?』
その問いかけにまずは最初に口を開いたのはアルスで、その答えとしては俺達の方も特にこれといって成果らしいものは得られなかったという内容を伝えた。それを聞いた国王は何か考え込んでいる様子だったが、やがて小さく頷くと再び話を切り出した。
それからは特に進展のない状態が続いたまま1日、2日、3日と経過していったのだがそんな中、ついに変化が起きたのである。それも最悪のタイミングで起きてしまった為に事態はさらに深刻なものと化してしまうことになった……なんと突然、魔王軍の襲撃を受けてしまったのだというのだ。
その数は今まで戦ってきたどの魔物達よりも遥かに多く既に王都を守る壁の一部では大きな被害が出ているとの報告を受けた国王が緊急対策会議を開くことが決まったところで一旦解散する流れとなった。そこで改めて俺達は互いに別れることになった後でそれぞれの目的を果たす為に別行動をすることにした。ちなみに俺の場合は他の仲間たちと共に魔王軍が侵攻してくるであろう場所へと向かうことにしたので早速、準備を始めるとすぐに目的地に向かって移動し始めた……すると程なくして目的の場所へ到着したのだがそこには既に数多くの兵士達の姿があったので俺は彼等に気付かれないように慎重に近づいて様子を窺うことにした。すると何やら言い争っているような雰囲気だったので一体、どうしたんだろうと思って耳を澄ましてみるとその原因が判明することになった。というのもその内容とはどうやら魔王軍によって多くの同胞達が殺されてしまったことでそのことについて話し合っているようだったのだがそれに対して不満を持っている人達もそれなりに多かったようなのである。その結果、このまま魔王軍を迎え撃つかどうかについて口論になっていき次第にエスカレートしていったことで殴り合いにまで発展してしまいそうになるがその時、一人の兵士が間に入って止めることで事なきを得たようだ。そのことによって落ち着きを取り戻した彼らは大人しくなると同時にその場を後にしたのだがその際に聞こえてきた言葉が衝撃的過ぎた為に一瞬ではあるが頭が真っ白になりかけることになってしまったが何とか踏みとどまった後でふと、我に帰るといつの間にかその場に立ち止まっていたことに気付いた。
「……なぁ、リネア。今の話を聞いた上でどう思う?」
そう尋ねた俺に対し彼女は首を横に振ってから答える。
「さぁ、私には分かりませんね。ですが少なくともあの方達の気持ちも分からなくはないですね……何せ私達は実際に魔王と戦って勝ったのですから、だからこそ魔王を倒すという強い使命感を抱いていてもおかしくはありませんから」
「……だな、確かにそう言われると一理あるよな。だが、それでも一つだけ言わせてくれ……俺は絶対に負けたくないんだよ。それはお前達も同じだろう?だからその為にも必ず勝ってみせるぞ!!分かったな!?」
その問いかけに対して彼女だけでなく仲間達全員が頷き返すと一斉に走り出して魔王軍がいると思われる場所へと向かった……それから間もなく到着するとすぐさま攻撃を開始することになり魔法を使って遠距離から攻撃を繰り出したり武器を使ったりして応戦し始めるのだが思った以上に敵が多く苦戦してしまった結果、思うように攻め込むことができずにいた。そこで俺が考えたことは、いっそのこと全員を一箇所に集めて一気に倒す作戦に出たことで仲間達と手分けをして敵を引き付けていった後、タイミングを見計らって強力な魔法を発動するとそれでほとんどの敵が一掃されることに成功したので残った敵は俺が相手をしてやることにした。
こうして戦い続けること数時間、ついに敵の数が最初の時よりも減ってきた頃になるといよいよ大詰めになってきたということで最後の力を振り絞って攻勢に出ようとした直後、急に視界が眩むと同時に意識を失いかける程の頭痛に見舞われてしまう。そんな異常事態の中、辛うじて踏ん張りながら辺りを見渡してみるが特に変わった様子はなかったことから俺はすぐに治まることを祈ってしばらく耐えることにしたのだが一向に収まる気配を見せないまま時間が経ち続けていくうちにとうとう立っていられなくなったせいで片膝をついてしまいそうになってしまうが、ここで誰かに抱き留められたことにより倒れずに済むことができた。一体何だと思い見てみるとそこにはリネアの姿が目に写ったのでどうかしたのかと尋ねると彼女が心配そうな表情を浮かべながら答えた。
「大丈夫ですか?アルス様、随分と苦しそうですけどどこか具合でも悪いのですか……?」
その言葉に対して大丈夫だと伝えようとしたがその直後、さらに酷い症状に襲われたことで喋ることさえ困難になってしまった俺は仕方なく首を横に振った後で彼女にお願いをすることにした。
「頼むから……俺のことは放っておいて先に進んでくれないか?……もう、そろそろ限界が近いんだ。だからせめてお前だけは……」とそこまで言いかけたところで彼女の手がそっと俺の口を塞いでしまったのでそれ以上、言葉を続けることが出来なくなってしまった。
「……すみません、あなたの言いたいことは分かりますよ。私も出来ることならそうした方が良いのかもしれませんがそれは出来ません。だってあなたがいなかったら私達だけでは何もできないですからね……だから、もしもあなたに何かあった時には今度は私があなたを救ってみせます!そして二人で力を合わせてこの危機を乗り越えましょう!!」
そんな彼女の励ましの言葉に励まされたことでようやく調子が戻り始めたので大きく深呼吸した後で静かに頷くと再び立ち上がった後でそのまま前進を始めることにした。それから程なくして俺達はなんとか魔王軍に勝利することが出来たが、ここで予想外の事態が起きてしまった。なんと勝利後の高揚感に酔いしれている最中で俺達の前に姿を現した魔王本人と対面した途端、これまでの戦いによるダメージや疲労などが蓄積されてしまい遂に力尽きてしまったのだ。それにより薄れゆく意識の中で最後に見た光景はアリア様が魔王の目の前で両手を広げながら庇おうとする場面だった為、どうにかしなければと思ったもののそこで意識が途切れてしまう……
その後、目が覚めると見覚えのある天井が視界に映ったのだがそれがどこなのかすぐに思い出すことが出来ずにいると隣の方から誰かが覗き込んできたので視線を動かすとそこにはアリア様の姿があって思わず驚きの声を上げそうになるが、それを察した彼女が慌てて人差し指を口に当てた後で静かにするように言ってきたことで俺は素直に頷くのだった。その様子を見た彼女は安心したのかホッと胸を撫で下ろすと小さく息を吐いた後で話しかけてきた。
「どうやらお加減の方は問題なさそうですね……良かったです」そう言って微笑む姿に見惚れてしまっていた俺に今度は申し訳なさそうに頭を下げてきた。いきなりのことで驚いた俺は何がどうなっているのかと思ったが話を聞くところによるとここは王城内にある医務室のような場所で俺は魔王との戦いの後、倒れてここに運ばれたのだと教えてくれた。そして、その時に治療に当たってくれた医師の話によるとあともう少し遅かった場合は手遅れになっていたかもしれないと聞かされていたので助けてくれたことには感謝したいところだと思いながら改めてお礼を述べると今度は何故か怒られてしまった。その理由というのが魔王と戦う時に俺が無茶をしたことに腹を立てていたようでそのせいで寿命を縮ませてしまってはいけないという理由で暫くの間は安静にしておくように言われてしまったからである。それから再び眠りについたところで次に目を覚ました時は夕方近くになっていて体を起こすことができるまでに回復していたことに気付いた俺はベッドから降りると部屋の外へ出ることにした……といっても今は真夜中であるために当然と言えば当然だが、しんと静まり返っていたこともあり少し不気味さを感じてしまうほどだったがそんなことよりも早く戻ることにしようと考え直して部屋から出ると長い廊下を歩いていく。すると途中で偶然、国王の姿を見かけて声を掛けようとしたのだがすぐに物陰に隠れることにした……というのも彼の表情がとても険しいものだったので声をかけることが躊躇われてしまったのだ。
(……あんな表情、初めて見たぞ。というか本当に何があったっていうんだよ……)そんなことを思いながら国王の様子を見ていると彼は何かを思い詰めたような表情のままゆっくりと歩き出すのだがその際に独り言で『アリア』という名を口にしたような気がして気になった俺は悪いとは思いつつも後を追うことにした。しかし当然ながら気付かれる訳にはいかない為になるべく音を立てずに歩いて行くと辿り着いた場所はどうやら謁見の間らしく入口の前で足を止めると中へ入っていったのだが中には誰もおらず国王一人だけしかいない状況だった。そこで俺は更に近付いていき様子を窺うことにしたところ中から話し声が聞こえてきたので耳を澄ましてみるとその内容というのは信じられないもので、どうやら国王はこの王都から離れた場所に存在する洞窟の最深部にいるとされる魔物達についての話をしているらしいことが分かったのだが、その話の内容がどうにも信じ難いものばかりだったので自分の中で整理する意味も込めて詳しく聞いてみることにする。その結果、判明した内容というのが以下のようなものだった……
まず最深部に存在しているとされている魔物の正体だがそれは数百年前にこの世界に君臨した魔王であり、その存在は未だに封印されている状態だということまでが判明しているようだ。そしてその話をなぜ今更になってしているのかというと、どうやら今から少し前のこと……つまり俺が転生してくる以前にも国王はその話を聞いていたのだそうだ。その時は半信半疑の状態だったが後に俺の存在が明るみに出てから確信を持つに至り今回こそは必ず倒さなくてはならないと心に決めた矢先にまたしても魔王が現れてしまい今回のようなことになってしまったのだという。その為に非常に残念に思っていることや仮にまた現れたとしても果たして勝てるのかどうかなど色々と悩んでいることを聞かされた上で今後はどうするつもりなのかということも尋ねてみたのだが答えは分からないとのことだった。
それから今後のことについて話し合った後で解散することになったのだがその際に、これからどうするのか尋ねられたのだが正直なところまだ何も考えていないことを伝えた上で申し訳ないが少しだけ考える時間をもらいたいとお願いすると快く受け入れてくれたので一先ず安堵してからその場を後にしたのだがその際、気になることを耳にしたので振り返るとそこには先程まで誰もいなかった場所に突然、一人の少年が現れたことで驚いていると少年は微笑みながらお辞儀をすると国王に対して話し掛けたのである。
「……こんばんは、王様。ご機嫌はいかがですか?」そう尋ねた少年だったがそれに対して国王は少し不機嫌そうにしながらも答えようとはしないので代わりに俺が代弁して答えた。
「見ての通りあまり良いとは言えないみたいだよ……何せ今、話した内容が衝撃的だったから仕方ないのかもしれないな」
その一言を聞いた途端に少年は嬉しそうに頷いていたかと思うと次の瞬間には国王に対してこんな提案を持ち掛けた。
「それなら、こうしませんか?このまま僕についてきてくれるのなら王様が抱えている問題を解決してあげますよ……それに今の僕には魔王を倒す力もありますから、どう転んでも損をすることはありませんからね!」そんな発言を受けたことで困惑気味になる国王だったのだがしばらくして考えを改めたのか首を縦に振るとそのままついていこうとする姿を見て俺も彼についていこうと考えた結果、一緒についていくことにした。そして二人して玉座の間を後にすると城内を抜けて城門を出るとそこで待っていた馬車に乗ってとある場所を目指すことになる。
そうして辿り着いたのは森の中にある一軒家で中に入るとそこには少年が一人、椅子に座って待っていた。そしてこちらの姿を確認するなり椅子から立ち上がって挨拶を交わしてくると改めて名を名乗った後で俺達にも名乗ってきた。
「はじめまして……ではないけれどこうしてちゃんと顔を合わせるのは初めてだから一応、自己紹介しておくよ。僕はレイス・オルタナティブ……そしてこっちが……」
そこで一度言葉を区切ると隣にいる国王を指差してから再び話し始める。
「僕が連れてきた、この人が現国王であるアルフェルドだ。まぁ名前については特に言う必要はないと思うけど、とりあえず僕達の素性はこんな感じってことで理解してもらえたかな?」
その言葉に俺は無言で頷き返すことで答えることにした。それを見届けたレイスは満足そうに笑みを浮かべると早速、話の続きを始めた。
「さて、それじゃあ時間も惜しいしそろそろ本題に入るとしよう……王様、単刀直入に聞きますけど僕の力を信用することができますか?それも今すぐこの場で決めてほしいです」
唐突な質問を受けて困惑する様子の国王だったが、ここで答えを渋っても話が前に進まないと判断したのか小さく息を吐くと共に頷いた後で答えた。
「……あぁ、分かった。君が何者であろうと私にはそれを受け入れる覚悟がある。だから遠慮することなく教えてくれ」そう伝えると彼は笑みを浮かべながら感謝してきた後で改めて俺のことを見るとこんなことを言ってきた。
「それでは僕からの条件を言いますね……先程言ったようにこの力であなたをお助けしましょう……ですがその前に一つだけ約束してほしいことがあります」それを聞いた瞬間、国王の表情が強張った。おそらく何か良くないことが起きるのではないのかと思ったようだが実際に彼から言われたのはそこまで大したものではなかった。それは彼が魔王を倒してくれた後は今後、一切の関わりを持たないということである。ただしその代わりに倒した後には魔王の魂を封じた剣を譲ってほしいと言われてしまう……これについては俺の口から説明する訳にもいかない為に黙っていることしか出来なかったのだが結果的に承諾することになってしまうと俺は複雑な気持ちになりながら二人の様子を見守ることしかできなかった……というのも実はこの時に俺は一つの思惑を持っていたからだ。
(こいつの狙いが俺の予想通りなら恐らくだが、あの剣を手に入れようとする筈だからな……ならば上手く利用させてもらおうか)
そんなことを考えながら見ている中で話は続き、無事に条件が決まったところで遂に動き出すことになったのだがこの時はまだ知る由もなかった……まさか、あんなことになるとは思いもしなかったのでこの後の展開を想像すらしていなかったのである。
第4章 魔を統べる王 1 魔王軍の幹部である魔族達と激しい戦闘を繰り広げた末に辛くも勝利を掴んだ俺達はその後でようやく休息をとることが出来たのだがその間、魔王軍との戦いについての振り返りをしていたことで新たに得た情報などを纏めていくとこれまで謎に包まれていた点が多くあったことが判明した。まず一番最初に気になったのは魔王の圧倒的な強さに関してなのだがその理由に関してはこれまでの経験や記憶を基に推測した結果として、ある一つの結論に辿り着くことができた。その方法というのは【勇者の剣】の力である。確かに奴の強さは桁違いではあったがそれでもここまで苦戦させられる程、凄まじいものとは思えなかった。しかし、そう考えると必然的に導き出せるのは唯一無二の存在である聖剣を所有する者に与えられる特典の一つ……つまりスキルの存在であった。そのおかげでこれまでの不可解な現象にも辻褄が合うことになり一気に真相へ近付くことが出来てスッキリした気分になっていた。
(なるほどな、そういうことだったのか……)そう一人で納得した後では次に魔王が持つ能力についての検証を行っていくことにするが、これに関してもこれまでに判明していることを元にして考える限りだと間違いなく何らかの特殊な能力を秘めていると思われることから迂闊に手を出すことができなくなると同時に魔王を倒した後のことを考えなければならないという結論に至るのだがそれはあくまで俺達の予想であって実際のところは魔王自身、自らの能力をどこまで把握しているのかという点も考慮しなければならないという厄介な問題を抱えることになったのだ。
「それで、これからどうするんだ……?」そんな中で仲間達と今後の方針を決める為に話し合っていると突然、アルスが話しかけてきた。なので、その問いかけに正直に答えることにすると暫くの間だけ考える時間がほしいと頼んでみたところ意外にもあっさり納得してくれたようでそれ以上は何も言わないままで立ち去っていった。それから仲間達が各自の部屋へ戻っていく中、最後に残された俺であったが先程の会話の中で気になることがあったので頭の中で考えていた内容を思い返していたのだがそこに一人の人物が声をかけてきたことで一旦、思考を中断させることにした。
「ちょっといいかしら、話があるのだけれど……」そう言って現れたのはアリア様だった。どうやら俺に用事があるみたいなのだが果たして何の話なのか見当もつかないでいたので彼女の様子を見る限りでは深刻な話をする訳ではないのだろうと判断して頷くと彼女はゆっくりと歩きながら話を始めてきた。
「……あなたに聞きたいことがあったのだけど答えてもらってもいいかしら?」彼女がそう尋ねてきたのですぐに頷いてみせた後で話を聞くことにした。するとその内容というのが、今回の戦いにおける最後の一撃のことで疑問に感じたことがあるらしくそれについて質問をされたのだ。そこで俺が答えた内容というのはあの時に発動させた技のことだったのだがこれは俺が持っている固有能力によって生み出されるものであり詳しい説明はできないことを事前に伝えることにして話をすることにしたのだが、その途中で思わぬ人物達の登場によって話が中断させられてしまったので思わず身構えてしまったのだがそこにいたのは意外なことにエルシアだったのだ。これには彼女も驚いた様子だったが、とりあえず今は事情を説明することにした。
そうして話し終えるとエルシアはすぐに何かを考え込むようにして黙り込むがアリア様は違った。
「なるほどね……あなたってそういう力を持っているわけか……でもそれなら、まだ完全に力を使いこなせていないということになるのよね?」突然、そんなことを言い出したことで戸惑ってしまう俺だったのだがそんな彼女に対して冷静に言葉を投げかけたのは今まで静かに話を聞いていただけだったティアナであり、その言葉を受けてようやく落ち着きを取り戻した彼女は再び話し始めた。「……実は、私がここに来たのはあることを伝えたかったからなのよ」そして聞かされた内容は驚くようなものであった為、思わず聞き返してしまうのだがそれに対して返ってきた言葉が予想外のもので驚きを隠すことができなかった……なぜなら彼女によれば現在、この世界において起きている異変について知っているらしいという話を聞いたことでさらに混乱してしまうことになってしまったからである。しかもそれに加えてとんでもないことも告げられる形となり頭の中が混乱する一方でどうにかしなければと考えていたのだが結局、良い考えなど何も思いつかなかったので彼女達の話を聞いてみることにした……
それからしばらくしてようやく落ち着いてきたので一度、深呼吸してから気持ちを落ち着かせてから話を再開するとまずは先程、彼女が言っていたことについて聞いてみることにした。それというのもあまりにも突拍子のない話で正直、信じられないという思いの方が強かったのだが……それでも話を聞いているうちにそれが事実であると受け入れるしかなくなってしまった。何しろ俺自身が目の当たりにした出来事なのだから信じないわけにはいかないと思っての判断でもある……ただ正直なところ未だに信じきれない部分があるのも事実なのだがひとまず最後まで聞くことにしようと決めてから話の続きに耳を傾けることにした。
2「さて、それでは本題に入るとするかな……まずは私達の目的から説明するとしよう……といってもそれほど難しい話ではないし簡潔に済ませるから安心するといい」そう言ってレイスは一息ついた後で改めて自分達の目的を伝えると共に俺達のことについても確認してきた。それを聞いた俺は頷きながら肯定してみせた後に自分の素性とこれまで起きたことを掻い摘んで説明した後で改めて魔王のことを尋ねようとしたのだがその前に彼からこう言われた。
「魔王の力が異常であることはもう気づいているだろうし……それに君達のレベル上げに関してもおかしいと思わなかったかい?あれだけの数を倒しておいてほとんどレベルアップしていないのはどう考えても普通ではないからね」確かに彼の指摘通りで俺達が戦ってきた相手は皆、高レベルのモンスターばかりだった為に普通ならありえないことなのだが、その理由は単純でこの城に攻め入った時から今に至るまでずっと結界が貼られていて外敵の侵入を防ぐ役割を担っていたからなのである。それ故に経験値は得られなかった……というか入ることすら出来なかったという訳だ。そこまで考えた上で彼が言いたいのは魔王の能力によるものだと考えた俺達は揃って視線を向けるとそのまま黙って聞いていたのだが彼は笑いながらこんなことを言ってきた。「魔王の能力は簡単に言ってしまえば時間を巻き戻す能力だと言えるね……ただし、制限があって一日のうち24時間は使えないみたいなんだよ……つまり夜の間に何かを仕掛けようとしていることは間違いなさそうだろう……だからこそ僕達は朝になるまで待つことにしたんだよ」それを聞いた俺達は一斉に黙り込んでしまった……というのも、その理由は魔王の特殊能力にはもう一つ恐ろしい能力があったからに他ならない。それは【強制進化】と呼ばれておりその名の通りに相手の魂に直接ダメージを与えるという恐ろしいものであることが判明したからだ。その効果は対象となった生物の全てを書き換えることで本来の姿に戻すことができるというものであるが、これに適応できるのは一部の魔族と魔王のみであり魔王に至っては自分と同等以上の力を持つ者にしか通用しない為に滅多に使用することはなかったそうだ。しかし、もしもそれを使いこなせる者が相手となれば間違いなく窮地に追い込まれることになるのは間違いないだろうと判断した俺達は話し合いの結果、明日まで様子を見ることにしたのだ……しかし、この時に俺はある重要なことを忘れていたことに気づいていなかった……その事については翌朝に明らかになるのだった。
第5章 真実を知る勇者 翌日、俺達は予定通りに行動する為に早朝に行動を開始すると城内の様子を確認して回った後で魔王のいる場所へ向かうことにした……すると道中で出会ったのはアルスと見知らぬ青年の二人であった。最初は敵かと思って身構えてしまったのだが彼等は戦う意思はないらしく武器を手に持っていないことから無害な存在なのだということが分かって一安心したところで簡単な自己紹介をすると共に何故ここにやって来たのかを聞いてみた。するとどうやら二人は元々、魔王の部下だったらしいのだが現在は俺達に協力しているということらしい。そこで俺は思い切って、どうしてそうなったのかという理由を聞くことにしたのだがそれに関しては彼等も詳しくは分からないという返事しかなかった為に結局は分からずじまいとなってしまった……そんな訳で少し落胆しながらも先へ進むことにするとようやく玉座の間へ辿り着いた俺達はゆっくりとした足取りで中へと入っていくことにした。それからしばらくすると奥から歩いてくる人影が見えると同時に声をかけられた。「……よくぞ来た、勇敢なる勇者よ……」その言葉を聞いた瞬間、俺の中では緊張が高まると同時に確信に近いものを得ることができたので自然と笑みが溢れてきた。
(やはりそうか、こいつが全ての元凶だったんだな!)そう思った直後に仲間達に指示を出して戦闘態勢に入った後では奴の動きを注視することにした……ちなみに、これまでの流れについてだがまず先にアリア様達が到着してから間もなくして俺がやってくることになるのだがその際に【未来予知】で見た内容通りに進んでいたことが気になっていたこともあって実際に目にして確認するまでは安心できないでいたのだが、こうして無事であることを知れたことで肩の力を抜くことが出来たお陰で冷静さを取り戻すことができたのは本当に幸運だったと思っている。そしてここから先は仲間達と協力しての戦いとなる為、より一層気を引き締めると気合いを入れ直すのだった。
いよいよ始まる戦いを前に誰もが真剣な表情のまま身構えた状態のままで待機していると、やがて目の前に姿を現した魔王に警戒しながら様子を窺うことになったのだがここで最初に動きを見せたのはアルスの方であった。
「……おい、お前等、一体何をやってるんだ!」突然、声を張り上げながら話しかけてきたことに反応するようにして視線を向けるとそこには怒りに満ちた表情を浮かべながら睨み付けるかのような鋭い眼差しを向けていたかと思えば更にこう言ってきた。
「お前は一体、何をやっているんだと聞いているんだよ!これはどういうことなんだ!?」その問いかけに戸惑いを隠せないでいるとエルシアも続けて言葉をかけてきたので、すぐに反論しようとしたのだがそれよりも先に別の人物が口を開いてきたことでタイミングを失ってしまった……その人物とは言うまでもなくレイスのものであり、彼の言葉を聞いて初めて今の状況を理解したのだがそれと同時に自分の判断が誤りであったことを思い知らされることになったのである。
(そういえば忘れていた……ここは、あいつの支配する世界だったな……クソッ、やってくれたな!魔王め!!)心の中で舌打ちをした後で苦虫を噛み潰したような表情になりながらも、これからどうしたものかと考えている内に更なる衝撃が走ることとなった。何故なら、そうこうしている間に事態は最悪ともいえる状況へと悪化してしまったからである……なんと突然、魔王が苦しみ出したかと思ったら呻き声のようなものを上げながら地面に倒れ込んでしまったではないか。その光景を目にした俺達は驚きのあまり何も言えずに立ち尽くしてしまうことしかできなかった……いや、正確には俺とアリア様とアルスともう一人の女性だけは違ったのだが……そして他の仲間達が動揺している中で俺だけは冷静になりつつ思考を巡らせていると一つだけ思い当たる節があったことを思い出したので、それについて確かめるべく慌てて話しかけることにした。
「もしかして……あなたは魔王なのか?」俺の言葉に対して魔王と思われる男性は驚いた様子ながらも頷いてみせたことで確信するに至った俺はすぐさまレイスの方へと視線を向けてみると彼の方は予想通りといった感じで笑っていた。それを見て確信した俺は即座に仲間のみんなにも声をかけて注意を促すことにしたが魔王はそれを邪魔するようにして攻撃を仕掛けようとしてきた為、咄嗟に結界を張って攻撃を防ぐことに成功するのだった。「貴様、何をしている!?我の言うことが聞けないのか!?」そんなことを言い出した魔王に対して思わずため息が出そうになったが今は相手をしている余裕がないので我慢しつつ説得を試みた結果、何とか落ち着いてもらえたようだ……ただその代わりに「ならば、仕方ない……こうなれば最後の手段に出るしかないようだな」という捨て台詞を残してから姿を消したかと思うと俺達の目の前から完全に姿を消してしまった。そのことに驚いて周囲を見渡してみるものの姿は見当たらず困惑していた所で背後から何者かの気配を感じた直後、いきなり声をかけられることになった……「やれやれ……困ったものです……まさか魔王の力を暴走させるとは思わなかったもので本当に申し訳ありませんでした」そんな言葉と共に現れたのはレイスが呼んだという神族の者達であり、彼等の話によれば今回の一件は全てが仕組まれたものだったらしい……というのも全てはこの城の仕掛けによるもので魔王の力を利用して世界の崩壊を防ぐという役目を担っていたらしい。そしてそれができなくなった以上、次の段階へ移行する必要があるとのことなのだが……その内容については全くと言っていい程に教えてくれなかったのだがそれでも大まかな内容は理解することが出来たのであった。つまりは俺達の頑張り次第で世界が救われたりする場合もあるかもしれないということのようだが具体的なことに関しては自分達の口からは話すことが出来ないと言われたことから考えても相当に重要度の高いものであるということは理解できた……ただ問題としては肝心のその方法については分からないままだったので非常にもどかしい思いをすることになってしまったのだが、それは仕方のないことであると思った方が良さそうだと判断する他はなかった……だがここで疑問が生じた……それは魔王の能力により強制的にレベル上げが行われた後に強制進化を行った場合の影響に関してのことだった。もし、その答えが分かれば今後の対応の仕方も変わってくるだろうと思い尋ねてみると、どうやら既に答えは出ているらしくそれも魔王本人が教えてくれたようだ。
それを聞いた時、俺だけでなく仲間達全員が納得してしまっていた。なぜなら【強制進化】という能力が発動した後でも元の姿に戻ることが出来るのであれば特に問題はないと思えたからだ。何せ時間が巻き戻されたことによって本来の姿に戻るのだから記憶についても問題ないだろうし、それに万が一、記憶が消えてしまったとしてもレベルやステータスなどに変化が生じることはないから日常生活においても困るようなことはない筈だと確信することができたのだ。またこれに関しては本人である魔王も同じ意見だったようで俺の話を聞いてホッとした表情を浮かべた上で何度も感謝の言葉を述べてきた上に謝罪までしてきたものだから拍子抜けしてしまったものの無事に全てが解決したかのように見えたのだったが……その直後に新たな脅威が訪れたことで状況が一変することとなったのだった。
第6章 真の敵が現れる 魔王を無事に倒すことに成功した俺達は遂にこの城からの脱出を図ろうとしたのだがそこで予想外の出来事が起きてしまった。何と倒した筈の魔王が起き上がってきたのだ……それを見た俺達はすぐに警戒を強めて武器を構えると臨戦態勢を取ったのだがそんな中でも一人だけ様子が違っていた者がいた。その者というのが魔王その人なのであるが何故か戦う気が無いらしく、そのまま大人しくしているとアルスによって拘束されてしまった……これには俺達だけでなく魔王も驚いた様子を見せていたが、その理由を聞いて納得した様子だった。
どうやら魔王はこうなることを知っていたみたいで、その為に必要な力を集める為にわざと俺達と行動を共にしていたのだという。その証拠に拘束される直前に何かを取り出した後でそれを地面に叩き付けると同時に光輝く魔法陣のようなものが浮かび上がると共に眩いばかりの光が発せられた直後に現れたのは一人の人間であった……ただし、見た目だけで言うならば俺達と同じぐらいか下手したら年下に見える女の子だったのだが彼女は現れた途端、不敵な笑みを浮かべながらこんなことを言い始めた。「久しぶりね、お兄ちゃん……こうして会うのは一年ぶりになるかしら?随分と立派になったみたいだけど相変わらず私のことなんか覚えていないのかしら?」その言葉に反応した俺は改めて少女を観察してみたところ何となく見覚えがあるような気がしたので念のために確認することにしたのだが返ってきた答えは「悪いけど全然覚えてないわね……あなたみたいな子なんて見たこともないわよ!」と、はっきりと答えることになった。それを聞いた少女が一瞬だけ悲しそうな顔を見せたのだが次の瞬間には表情を一変させてニヤリと笑いながらこんな言葉を口にした。「そう……それならそれで別に構わないわ……どうせ私のことを忘れてしまうのなら思い出させればいいだけの話なんだから!」そう言って彼女が手を挙げたと同時に地面から黒い靄のようなものが現れて次第に形を成していくと共に魔物のような姿に変化したかと思えば襲いかかってきた……それを見た俺達は即座に行動に移ることにした。
その結果、俺とアリア様以外のメンバーは武器を用いて迎撃に当たったので俺は彼女の相手を務める為に前に出ると剣を抜いて構えるのだった。それに対して少女は不敵に笑うばかりで動こうとしないばかりか余裕さえ感じられる態度を見せているので内心ではかなり動揺していたが悟られないように気を付けつつ攻撃を開始することにした。
こうして始まった戦闘ではあったが思った以上に厄介な戦いとなっていた……というのも少女の力が予想以上に強かったからである。確かに魔王に比べれば大したものではないかもしれないが今の俺にとっては強敵と呼べる程の実力を有していた為、攻めきれずにいる内に体力が削られていった結果で徐々に押され始めていたのだが……その一方で少女の方もまだ本気ではないようだったのでこのままだとジリ貧になってしまうと感じた俺は少し賭けに出ようと思った。
(仕方ない、アレをやるか!)そう思った直後に大きく距離を取った後で詠唱を行い始めると周囲の空気が変化していったのを感じた少女は焦った表情を見せた後で止めさせようと試みようとしたみたいだが遅かったらしく完成した魔法を発動する準備を終えた俺はこう口にした。「これで終わりだ!くらえ!大魔法・ヘルブラスト!!」俺がそう叫んだ瞬間、巨大な竜巻が発生して少女へと向かっていったが当の少女は避けようとしないどころかその場から動くことすらせずにその場に佇んだままだった。その様子を見て誰もが勝負あったと思ったが次の瞬間、あり得ない光景を目にすることとなった……なんと少女の前に壁のようなものが現れたかと思ったら一瞬にして消滅してしまい竜巻は呆気なく防がれてしまったのだ。しかし驚くのはまだ早かった……何故なら、それを成し遂げた人物は先程の戦いで力尽きて倒れていた筈の少女でありしかもその姿は最初に出会った時よりも幼く見えるようになっていたのだ。そんな姿を見た俺は驚きながらも冷静に観察してみたところあることに気付くのだった……実は少女の背格好が最初よりも縮んでいるだけではなく顔つきまでも幼くなっていることに気付いたのである。だが何故、そうなったのかという理由が全く分からずに混乱してしまうばかりだったが、それ以上に気になる点が一つありそのことを尋ねることにした。それは少女の手に握られていた杖のことなので一体、何なのだろうかと考えていたところで少女が口を開いたことでその答えを知ることとなる。
「もう……そんなに見つめないでくれないかしら……いくら私のことが好きだからって照れちゃうじゃない♪」そんなことを言われた瞬間に思わずイラッとしてしまったのだが今は抑えておき話の続きを聞くことにした……すると少女からとんでもないことを告げられることになった。その内容というのが自分が魔族であり魔王の妹であり今回の騒動を引き起こした張本人だということだったのだが、その話を信じることができなかったので否定してみると驚くべき事実が発覚したことに驚愕するのだった。
それは目の前にいる少女が元々は魔王ではなく先代魔王の娘として誕生した存在で父親が亡くなってしまったことで次の後継者になるべくして生まれながらに魔力量が膨大なことから次期魔王に決定したのだが、それと同時に魔族達からも絶大な人気があったこともあって誰も反対する者がいなくなってしまったことが問題となった。そしてそのことに頭を悩ませていると父親である先代魔王は自らの存在を抹消することで娘を守っていこうと考えて自分の能力の一つである時間逆行の力を使って娘に己の全ての力を託すことに成功した結果、幼い姿になってしまったということだった。ちなみに現在の容姿はその時の状態のままで固定されているらしく元に戻ることはできないし、たとえ戻すことが出来たとしても今度は別の問題が浮上してくることになってしまったらしい。その問題というのは力を失ったことで魔王の座が空席になり、やがて再び戦争が起こる可能性が出てきてしまったということだ……これについては俺も全く同じことを懸念していたし、何よりも今現在、目の前で起こったばかりなのだから間違いないことだろうと思い知ったのだった。
そうした様々な情報を得たことで改めて考えてみると納得できる点がいくつもあったので嘘ではないと判断した俺は彼女に全てを話して協力してもらうべく話をすることにしたのだった。それは今後のことについてのことだったのだが俺達の目的を達成する為には神族の助力を得る必要があると判断し、彼等との交渉をお願いしようと考えたのだ。その為にもまずは仲間達と共に城から出る必要が出てきたということで彼女との話を中断した後に急いで戻ると先程の話をみんなに聞かせるのだった。すると予想通りというかなんというか全員がすぐに了承してくれたことで話が纏まったことで俺達はすぐさま城を脱出する為に行動を起こすことになったのだが、その際に一つだけ問題があった……それは城の内部の構造を知らない俺達では出口を探すことができないということである……そこで俺達はアリア様の案内に従って進んでいくことになり無事に外に出ることに成功すると街に出てから宿を取り休むことにするのだった。
第671話 思わぬ形で目的を達した俺達はその後で一旦、宿を取ると休む為に部屋で寛いでいたのだがそこに予想外の人物が姿を現した。それは先程まで俺達と戦いを繰り広げていた魔王本人であった。彼女は部屋に入るなりいきなり頭を下げてきたことからも分かる通り謝罪しに来たようで、どうしてそんなことをしたのかと言えば魔王という立場でありながら戦うことしか出来なかった為に妹である彼女を死なせてしまっただけでなく仲間まで失ってしまったことを気にしている様子だった。
その為、彼女は今後一切俺達とは関わらずに生きていくことを決意していたようだが、ここで彼女を見捨てるような真似をした場合はアルスを始めとした他の仲間達に責められる羽目になるのは間違いないし最悪な場合は俺や他のメンバーも命を狙われる可能性もあり得る為にそんなことが許されるはずがなかった。それに俺自身、彼女のことを憎めないと思っていることも大きかった為、結局、話し合いの末、これからも同行させることに決めたのだがこれには本人が一番驚いていたものの、同時に嬉しそうに笑みを浮かべていたので問題はなさそうだった。ただ一つだけ気になる点があったとすれば、どうやって城の内部にいたのかという点について尋ねてみたところどうやらあの場に残っていた残留思念のような存在が彼女の元になったものみたいで、それにより自由に出入りできるようになったらしい……またその際の記憶についても引き継いでいるそうで、それ故に俺達と戦った記憶があるそうだ……とはいえ当時の彼女はまだ幼かったこともあってかほとんど記憶に無いらしく断片的な記憶でしかないそうなので問題はないだろうという話だった。それを聞いて少しだけ安心した俺はそこで詳しい事情を話すことになった。というのも彼女がこれからどうするのかということを相談されたからだ。さすがに彼女の処遇に関しては考えていなかった為にどうしようかと考えていると俺の判断に任せると言ってきたのでどうしたものかと考えていたらラガス帝国に戻るという提案を受けたことで俺達はそのまま行くことにした。もちろん、彼女も連れて行こうとしたが拒否されてしまい仕方なく一人で帰すことに決まり、それを見届けた後で俺達は転移魔法を発動させて無事に帰還すると王城へと向かうことにした。
王城へ到着した俺達は真っ先に皇帝の元へと向かった。というのも彼女の処遇について指示をもらう為にやってきたのだが、その時に意外な話を聞くことになった。なんと彼女はまだ正式には魔王の後継者と認められていないので現在はただの王女であり、今回の事件については一部の者しか知らないことであるので表向きには死んだ扱いとなっているそうだ。ただし、これはあくまでも王国内の事情であって他国に対しては普通に通達される為、もしもの場合に備えて後継者が決まるまでは護衛をつけて生活させることが決まった。
それを知った上で俺が出した結論としては、しばらくは様子を見てから判断することにして、とりあえず彼女には普通の生活を送るように伝えた後、今後は俺達と一緒に行動することで話が纏まるのだった。
そうして色々と予定外のこともあったりはしたが無事に帰ってきたことを喜ぶ一方で俺はアリア様達にあることを伝えることにした。それは神族への連絡役を務めて欲しいということだった。それについての理由は一つしかない。そもそも神族は勇者召喚を行った人物でもあるため何かしら知っていることがあるかもしれないと考えた為だ。それに加え、アリア様に頼めば必ず会えると思ったのも一つの理由だが何よりも重要なのが神器の存在が大きい。というのも実は以前、彼女が所持していた神器は既に破壊されており二度と手に入れることができないような状態だったのだ。その為、代わりの神器を用意しようと思えばかなりの時間がかかる可能性があることから急ぐ必要があり早急に取り掛かる必要があると判断すれば無理を通してでもお願いするしかないと思ったのだった。
(この話は早めに済ませたいしな……)そう考えていたのだがここで思いがけない情報が舞い込んできた。何と既に皇帝の方で動いており準備をしてくれていることが分かったのである。なんでも以前に話をした際に俺が言った内容を覚えていていつでも渡せるようにと準備を進めてくれていたとのことだったので、さすがとしか言いようがないくらいに感謝の気持ちしかなかった。ちなみにどういうものなのかと尋ねた所、それは聖剣だと教えられたことで期待しながら待っていることにしたのだった。
そんなことがあって数日が経過したある日のこと俺達はついに神界へ向かうこととなったのだが、その前にやっておかなければならないことがあったので全員の準備が整うのを待ってから行動を開始した。それが何かといえば、今回の一件についての経緯の報告と謝罪の為だった。本来ならば事前に手紙などを送っておくべきだったのだろうが事が大きくなってしまったことで直接会って話をする以外に方法が無かったので、そのことを申し訳なく思いながら謝罪の言葉を口にした。それに対して相手からは「気にしなくていいよ」とだけ返ってきたのだが、それで終わりにするわけにはいかなかったので更に言葉を続けてこれまでの経緯を説明し、その上で今回の責任を取る意味で暫くの間、活動を停止する旨を伝えた。するとそれを聞いた相手は何故か驚いた表情を浮かべていたのだがその理由については教えてもらえず「とにかく気にしなくて大丈夫だから、これからも頑張って!」という言葉を最後に通信が途絶えてしまった。その為、俺達としてもこれ以上は何も伝えることができなかったために仕方なく引き上げることになってしまった……とはいえ報告できたことで少しはスッキリしたので良かったと思っておこうと思う。こうして一連の騒動に関してようやく片が付いたのだった(まぁ、正確には全く終わっていないとも言えるけど……少なくとも今は考えても仕方がないから忘れておくとしよう)
第672話 ひとまずの区切りをつけることができた俺達はその後も特にこれといった問題が起こることもなく、ゆっくりと休養をとることができていた。それは言うまでもなく仲間達にも言えることで全員が万全な状態で戦いに臨めるだけのコンディションを整えることに成功しており、いざとなればいつでも動ける状態にまで回復していた。ちなみに今回、向かうことになる場所は神界ではなく魔界にあると言われている『大迷宮』と呼ばれる場所になるらしい……何でも魔族達が住む大陸の中央にそびえ立つ塔のような建物らしく内部構造は不明とのことだったがその頂上で神界の神々からの許しを得た際に渡されると聞いている聖杖が存在していると言われていた為に是非とも手に入れておきたかったのだ。そしてそこまで辿り着いた時こそが本当の目的を果たす為に必要になると予想していることもあって何としてでも辿り着きたかったのだ。
ちなみに、その場所までの移動方法は大きく分けて二通り存在しており一つ目は飛行魔法で飛んでいく方法でもう一つは飛空艇に乗っていくことだった。どちらもメリット・デメリットは存在してはいるが基本的に後者の方が楽ではあるのは間違いない。しかし今回は仲間達からの意見も取り入れた結果、前者の方法での移動に決まることになったので早速、出発の準備を進めていくことにした。幸いにも移動に関しては俺の魔力量なら問題ないということで任せてもらったので、遠慮なく使わせて貰うことにした。
その後は必要な物を揃える作業に取り掛かり始めることにしたのだが、その際に一つだけ気がかりになっていることがあった……というのも俺達のことを監視していた連中のことである。てっきり今回の件に関わっていそうだとは思っていたが実際のところはよく分からないでいたのだ。なにしろ情報がほとんどない上に気配を完全に絶つことが出来るという厄介な存在なので居場所を特定することすら難しいのだから手の出しようがないと言える。その為、このまま放置していても問題はないかもしれないが念のために警戒だけはしておこうと考えていた。それに奴らは俺達の実力を知る為に刺客を送り込んできたと考えられるが、それとは別に別の狙いがある可能性も否定できない状況である以上、こちらも最大限の警戒をするべきだろうと思っていたのだった。
そんなこんなで準備を整えてから出発するまでに二日の時間を要してしまったのだがそれでも問題なく到着することができたので一安心しつつ俺達はいよいよ神界へと足を踏み入れることになった。そこに到着するまでの間には特に大きな問題は起こらなかったこともあってか拍子抜けした気分になっていたが実際に足を踏み入れてみるとその考えは間違いだということを思い知らされることになった。というのも到着した直後に目に飛び込んできた光景があまりにも予想外過ぎたことで思考が停止してしまったからである。
まず、最初に目に飛び込んできたものは巨大な城のようなもので恐らく、これが話に聞いていた天まで伸びる塔だと思われるが、それにしてはかなり大きい上に上を見上げてみても天井が見えなかったので、どれだけの高さがあるのか想像もつかない状態だった……それに加えて他にも気になる点は多々あるが中でも目を引いたのはその外見だった。何故ならその形状はまるで某有名な映画に出てくるような城そのものだったからだ。ただ単に外観だけを似せているという可能性もあるにはあるが明らかにそうではないように感じられた……というのも見た目こそ似ているのだが細部のデザインが違うだけでなく所々に差異が見られたので本物とは似て非なるものだと判断したのだ。だからこそ疑問を抱いたのは言うまでもなかった。
また同時に思ったことはこの場所に本当に神がいるのかどうかという点だ。いくら神の住まう場所だとは言えど所詮は人間である俺達にとって住み心地が良いかどうかは別問題であるし何よりこの場所がどのような空間なのかについても全く分かっていなかったからだ。もしかすると地上のように人間が暮らすのに適さない環境下にいる可能性もあったが、もしもそうだとしたらそもそも入ることができないはずだった……なぜなら入口らしき物がどこにも存在しないからだ。それなのにどうやって中に入ることができるのかと考えるのは当然のことで、それについて考えていた時だった。不意に誰かが話しかけてきたのである。
『まさかここに訪れる者達が現れるなんて思いもしなかったわ……』
突然、聞こえてきた声に反応するように辺りを見渡すも声の主の姿は見えなかった。そのことに違和感を覚えていると続けて声が聞こえた。
『もしかして私を探しているのかしら?残念ながらそれは出来ないわよ……何故なら私の姿を確認することは出来ないもの……つまり、貴方からは見ることが出来ないようになっているの……これは私が決めたルールだからどうすることも出来ないのよ……ごめんなさいね』
それを聞いてすぐに俺は相手が誰なのかを理解した……というかこの話し方を聞いて思い当たる人物がいたというのが本音だ……それは他でもない神族だった。しかも、その声や話し方を聞いた途端に自然と緊張感が増してきたのと同時に冷や汗が流れ出るほどの寒気を感じたことで間違いないと確信していた。そこで恐る恐る話しかけようとしたその時だった……今度はまた別の声が聞こえてきたのである。
「どうやら無事に到着したようですね」
その言葉を耳にしたことで俺は再び視線を周囲に向けて探しているとようやく見つけることができた。そこには見覚えのある女性がいたのでそちらに近づいて話しかけた。
「お久しぶりです、アリア様……まさかこんなところで再会できるとは思っていませんでしたよ」
「ええ、そうね。それにしても随分と久しぶりじゃない……元気そうでなによりだわ」
「おかげさまで……まぁ、それなりに忙しく過ごしていますが何とかやっています」
「それは何よりです」
「……それで、どうして貴方がここに?」
「ふふっ、簡単なことですよ……ここは私達の領域ですからここにいること自体は不思議ではないでしょう」
「なるほど……そういう理由でしたか……」
彼女の言葉に納得しつつもそれと同時に少し安心したのも事実だった。何故なら彼女達がいるということはここが間違いなく神界だという証拠であり安心して良いと分かったからだ。そんなことを考えていた俺に対して彼女は笑みを浮かべながらこう言って来た。
「それよりも貴方に伝えておかなければならないことがあります」
「えっ!?一体なんですか……それは……」
突然のことに驚きを隠せないでいると彼女から衝撃的なことを聞かされた。それはこれから行う予定のことについてであった。その内容というのは魔族領へ侵入する際に使うゲートの使用禁止というものだった。それを聞いた時は思わず耳を疑ってしまったほどだ。なにせ転移魔法の使える仲間がいたとしても使えないとなれば不便極まりない話になるのだから当然だといえるだろう。とはいえ理由を聞いてみると理由は至って単純かつ当たり前なものだった。というのもこの先に待つ場所は本来、神が暮らしている場所であるので部外者が立ち入ることは一切禁じられているということだった。その話を聞いてようやく納得したわけだが正直、不安もあった。何せ相手は神族なのだから普通の人間とは違う価値観を持っているはずで、そのことを考えると何かされるのではないかと思ったりもしたが今のところは何事もなく過ごせていたので心配しすぎだったのかもしれないと思えた。しかしそれから暫くすると新たな悩みが生まれてしまったことで頭を悩ませることになってしまった……その理由は魔界に住む者のほとんどが魔族で構成されているということを聞かされていたことだ。その為、神界では普通に使えていた能力の一つである念話が使用できないことから意思疎通が上手くいかなくなる可能性が浮上したのだ。
そのことを彼女に伝えると「その点については問題ないと思いますよ」と言って来たが、その根拠を尋ねてみると答えが返ってくるよりも先にその答えは別のところから返ってきた。
『その件については私が説明しようじゃないか、お嬢さん!』
いきなり声がしたかと思えばそこに現れたのはいかにも怪しげな姿をした人物だった。見た感じは人間のように見えるが背中から羽のようなものが生えていることや頭にある二本のツノを見る限りだと人間ではないと判断するしかなかったので正体が気になったものの聞く前に本人から名乗りを上げてくれたので一先ず、安堵することができた。その後、改めて紹介を受けたので彼についての説明を聞いたところ彼は魔族の王であり『ゼパル』という名前らしい。ちなみに彼の部下達も全員同じような格好をしているのだが種族はそれぞれ違うようだ。それに関しては本人に直接、聞いたわけではないが雰囲気がそう物語っていたので恐らくは間違っていないのだろうと思っている。それはさておき、なぜ彼らがここに来たかというと俺とアリアのことが気になったという理由の他にもう一つ、重要なことがあるという。
その目的については簡単に説明すると今後の為にも実力を知っておきたいということだそうだ。それ故に今回、俺達の戦いを見させてもらいたいという話になりこうして観戦する為だけにこの場にやって来たということらしい……というのも彼がわざわざここまで来たのは理由があるらしく魔界は神界と違い魔素の濃度が高くないので力が制限されている状態にあるようで全力を出したくても出せないという状況なのだそうだ。そのせいもあってか俺に戦いを見てもらって力を制御したいという考えを持っていたようだが、それ以上に俺の力に興味を持ったらしいので見学することにしたのだとのこと。その為、断る理由もなかったため了承したことで話は決まったが肝心の勝敗の基準については俺が決めることになった。というのも単純に考えれば神族の王である彼と魔王である彼、どちらが強いのかということに尽きるが流石にそれをこの場で決めるのは難しいと考えた俺は二人に提案してみないかと聞いてみたら両者とも承諾してくれたので話し合いが始まった。そしてその結果はお互いに納得する内容になったため早速ではあるが実行に移すことにした。
そうして始まった試合は意外にも白熱したものとなった……何故なら二人が互いに本気を出して戦うことになったからである。それもただの試合ではなく殺し合いに近いレベルまで達しておりどちらも引けを取らないどころかほぼ互角といっていい勝負を繰り広げていたのだ。そのため途中から俺も思わず熱くなってしまっていた。何故ならここまでの試合を見るのは初めてだったのもあるが純粋に二人の強さには感心していたからだ。特に驚いたのはその強さだけではなく戦い方もそれぞれ違っている点だが何よりも驚かされたのは二人の連携力の高さである。まるで事前に示し合わせていたかのように息のあった動きを見せている上に隙あらば攻撃するというスタイルがとても参考になっており非常に見応えのあるものだったと言える。
また一方で戦っている当人たちもどこか楽しげな雰囲気を醸し出しておりお互いが本気でぶつかり合っているからこそ感じることができる感情だと言えるだろう。そんな風に思っていた俺だったが同時に一つの疑問を抱いていた。それはこの戦いを見ている者達の雰囲気に違和感があったからだ。というのも全員が楽しそうに眺めているのに対し時折、悔しそうな表情を浮かべて睨みつけている者が何人かいたからである。ただその様子だけを見ても単に負けたくないという思いから来るものだと思えるのだがそれ以外にも何かしらの理由があるように思えてしまうのだ……それが一体何なのかは今の俺にはまだ分からなかったがいつか知る機会が訪れるのかもしれないと思いつつも最後までしっかりと目に焼き付けることにしたのだった。
※新章スタートです!楽しんで頂けると幸いです(*^-^*)
あの後も激しい攻防が繰り広げられた後、最終的にはゼパルさんの勝利で終わったがそれでもかなり拮抗した試合ではあった。実際、見ていた俺達もかなり興奮していたのか試合の感想を話し合ったりしていたが最終的に一番盛り上がったのは最後の決着方法だった。実はこの二人の戦いで決着をつけることになった際、どんな方法で勝敗をつけるか話し合うことになった際に真っ先に上がった案の一つがジャンケンだったのだ。なんでも勝った方が相手の首を刎ねることができるというものだがそれを聞いた時には正直、血の気が引いた。というのも、それまでの戦いの様子を見ていたこともあって確実に負けると思ってしまったからだ。
しかし、二人はそんなことなど一切気にする様子もなくあっさりと承諾したので、すぐにでも実行しようと思い立ったところで不意にアリアが口を開いた。
「その前に少し時間をもらえないかしら?」
その言葉に一瞬ではあったが沈黙が生まれた。
アリアの言葉を聞いた俺達はすぐに彼女が何を考えているのかを理解した……何故ならそれは俺達が神界に行くために行おうとしていることと同じだったからだ。
そのことに驚いてしまい言葉を発することができないまま固まっていたが、そんな俺や仲間達に対して彼女は笑みを浮かべてこう言ってきた。
「何も難しいことはないでしょう……貴方達の実力ならば問題ないはずですよ」
それを聞いた俺は驚きつつも冷静に考え始めた。確かにアリアの言う通りで問題がないと言えばないかもしれない、というよりここで負けたらどのみち死ぬことになるわけだからやるしかないと結論付けたことで覚悟を決めることにした。
その後、みんなとも話し合って同意を得た後でゼパルさんに視線を向けると彼も同じ気持ちのようで頷いた後、再び声をかけてきた。
『そういうことでしたら私も手伝わせて頂きましょう、その方が公平性が増すと思いますからね』
そんなありがたい言葉をかけてもらった俺は感謝しつつも頭を下げるといよいよ始めることにして神族のみが使用できる能力の一つである空間魔法を発動させようとした。そこでふと思い出したことがあり慌ててみんなに確認してみると、やはり同じことを考えている人が多かったのか誰も止めるようなことはせずむしろ「早くやってしまえ」と言わんばかりの視線を向けられて苦笑いを浮かべつつ魔法を発動した。次の瞬間、周囲の景色は一瞬で変わっていき気が付いた時には森の中にいたのである……そう、先程まで戦っていた場所が一瞬にして別の場所へと切り替わったというわけだ。しかし驚くのはまだ早かった……なぜならこの場所に来ることは予め決まっていたことであり予定に組み込まれていたことだ……その為、周囲には多くの魔族たちが集まっていたのだった。
その光景を見た瞬間、ようやく理解することができた……何故、彼らがこの場所に来ていたのかということを……しかしそうなると一つだけ疑問が残る。なぜ、この場所を知っている者がいたのかということだ……その答えは一つしか思い浮かばなかった。何故ならここにいる全員が俺の仲間であること以外に考えられなかったからである……つまりは最初から罠に嵌められていたということになる。そう考えた途端、体から嫌な汗が吹き出して来たのがわかった。もし仮に相手が俺一人であったならまだ良かったのかもしれないがここにはアリア達を含め数十名の魔族がいるのだから当然、その中には神族も含まれていると考えるのが普通である……となれば必然的に結果は目に見えているだろう。
「どうしてこんなことを……」
そんな言葉が口から零れ落ちると同時に周囲を取り囲んでいる彼らの視線が一気にこちらへと向けられた。その瞳を見た瞬間、背筋が凍りつくような感覚に陥ったもののこのまま大人しくしているわけにもいかなかったので何とか説得してみようとしたその時だった。突然、後方から声がしてきたことで遮られてしまったので思わず振り返ってみたのだが、そこにいたのは先程とは全く違う装いをした人物が佇んでいた。それを見てすぐに誰だか理解したわけだがどうしてこの場にいるのかという疑念が生まれていたせいで思考が追い付いていない状況が続いたがやがてそのことについて説明される形となった。その理由は簡単であり俺の前に立っている人物こそが今回の騒動を引き起こした張本人であることが判明したからだ。その人物こそ俺が以前、出会ったことがある魔族の女性であり『ネモ』という名の女性であった。しかも話を聞く限りでは既に魔王として君臨しているようだが一体いつの間にそうなったのかと不思議に思った。とはいえ今はそれよりも気になることがあった為、彼女に質問を投げかけてみたところ予想外の回答が返って来た。どうやら彼女を含めた他の者達は全員、俺と関わりのある人達らしい……それというのも彼女の話では以前に会った時にも話したように俺のことを観察していてその強さを認めた上で自分以外の魔王達に認めさせるために行動していたようで今回の件についてもその一環だったようだ……というのも魔界の現状についてある程度把握しておりこのままでは近いうちに滅びるだろうと判断した彼女は魔王達と話し合った結果、協力することに決めたそうで俺が戻って来る日を待ち続けていたのだということだった……そこまで聞いてやっと理解できたのでとりあえず話を続けて行くことにした。ちなみに今、目の前にいるのは本来の姿らしく普段は力を制限した上で人間の姿を取っている為、その姿を見たことがなかったのだが、こうして見てみるとかなりの美人だったこともありつい見とれてしまいそうになるがなんとか耐えることができた。
ただその一方で話を聞いているうちに徐々にではあるが怒りが込み上げてきていた。そもそものきっかけは彼女が俺を試すようなことをしたことにあるが、だからといってこのような手段を使うというのはあまりにも悪趣味だと思えた。さらに言うのであればアリア達も巻き添えを食らったようなものなのでその件について文句を言ってやりたいところだったが今はとにかくこの場を切り抜ける為にどうするかを考えることにした……とは言ってもそう簡単に名案が出るわけもなく困り果てていたその時だった。
突如として大きな爆発音が聞こえてきたかと思えば巨大な竜巻が出現しておりそれを見た瞬間、直感的に不味いと思った。というのも今の今まで気配を完全に消していたのだがあの魔力を感じた時に初めてその存在に気が付いたからだ。おそらくわざと隠していたと思われるがそれにしても厄介なことになったのは間違いなく、これから起こり得る展開を考えて頭を抱えたくなったがもはや逃げることも隠れることもできない以上は覚悟を決めるしかないだろう……そう思って前を向くとそこに立つ者達に向けて話しかけた。
「……そろそろいいんじゃないですか?」
『…………そうですね、もういいでしょう』
すると彼女も俺の言いたいことを理解して返事をしてくれたことでようやく戦闘態勢に入ることができた。そしてそれと同時に俺達は一斉に駆け出したのだった。そうして互いにぶつかり合ったのだがそこからの戦闘は苛烈を極めただけでなく周囲で見守っていた連中も一緒になって戦いに参戦したことで瞬く間に広がっていった。だがそんな中でも俺達と彼らの間では大きな差がありそれが決定打となり勝敗が決まることになったのだ。
『ぐっ、まさかこの私が負けることになるとはな……』
「まぁ俺もギリギリだったんですけどね」
『そうか……ならば仕方あるまい、お前のことを認めてやるとしよう!』
そう言いながら笑みを浮かべていたのでこちらも笑みを浮かべると握手を交わしてから別れることになった。
そうして一段落したところで今度は俺達のことを改めて紹介することになったのだが、その際も様々な反応をされた……具体的には「本当に神族なのか」とか「信じられない」だとか「強いわけだ」などといったものだった。
それに対して仲間達は笑顔で返していたが、特に気にした様子はなく普通に会話していたのを見て俺は安堵した。しかし同時に不安でもあった……何故ならこの後、彼女達とどう付き合っていくべきかと考えていたからである。もちろん今回に関しては事前に連絡を受けていたこともあって覚悟していたが実際に直面してみると予想以上に辛いものがあった。というのも本来ならすぐにでも神界に戻るつもりだったのだがゼパルさんとの戦いを見て興味を持った者達から質問攻めに遭うことになり結局は解放されるまでかなり時間が掛かってしまったのである。その為、翌日からは仲間達と共にのんびりと過ごすことになってしまったのだがアリア達は不満を口にしなかったどころか積極的に話しをしてくれるようになった。そのことに嬉しさを感じていた俺は改めて決意した。例えこの先、どんなことがあっても絶対に守り抜くのだと……
こうして無事に神界に戻ってきた俺達はそのままそれぞれの場所へと向かうことにした。ちなみに俺以外はそれぞれ自分の家があるので一旦解散することになる。その後、俺は自室に戻って寛いでいると扉がノックされたので返事をすると一人の男性が中に入ってきたので慌てて立ち上がると同時に挨拶を交わすと彼は苦笑いを浮かべながらこう口にした。
「相変わらず固いね、そんなんじゃ将来、困ることになるよ?」
「あはは……それはわかってますけど癖みたいなものなんで許してもらえませんか?」
「まったく仕方ないなぁ……ま、そういうとこが君の良いところなんだろうけどね」
そう言った後、再び笑顔を浮かべると近くにあった椅子へ腰掛けた。彼の名前は『アベル・グラン』といい俺の師匠に当たる人だ。元々は勇者だったが魔王と戦う前に敗北して死んだと思われていたそうだが生きていたことが発覚しその後は各地を旅していたらしい。その時に俺を見つけてくれた恩人でもあるが実力的には未だに敵わない存在だと思っている……それでもいつか必ず追い抜いて見せるつもりだ。
そんなことを思いつつ視線を向けていると彼がこんなことを言い出した。
「ところで君に聞きたいんだけどアリア達のことどう思ってるんだい?」
「……どういうことですか?」
急に質問をされて一瞬、動揺したもののそれを悟られないように注意しながら聞き返してみると何故か苦笑いを浮かべたので不思議に思っていたがすぐに理由がわかった……何故ならその表情を見る限りではアリア達を心配していることが伝わって来たからだ。その為、少し迷ったが思い切って話してみることにした。
「正直に言えば不安がないわけじゃないですけど信じてますから」
「へぇ、そうなんだ……それならいいけどさ……」
俺の言葉にどこか納得できないような表情を見せたので思わず首を傾げるがすぐにその理由がわかった。恐らくだが俺と同じことを考えたのではないかと思い慌てて口を開いた。
「大丈夫ですよ!みんなには俺から話しておきますから!」
「そ、そうかい?ならお願いしようかな……」
「任せてください!それでは失礼します!!」
そう言いながら頭を下げると急いで部屋から飛び出した。理由は簡単であり、あのまま話していたらきっと説教されてしまうような気がしたからだ。だからこそ逃げるように立ち去ったというわけである。そして自分の部屋へ戻るとベッドに寝転んでいるといつの間にか眠りについていたのだが、翌朝になって目を覚ましたことですっかり忘れてしまっていたことを後悔する羽目になった。というのも目を覚ますと同時に誰かが扉を叩いたのだ。最初は何事だと思ったもののすぐに嫌な予感を感じ取ると同時に逃げようとしたが時すでに遅く、扉の向こうにいる人物に声を掛けられると同時に扉を開けられてしまったので渋々、そちらへと視線を向けると予想通りの人がいた。その人物というのはアリア達だったのである……しかもそこにはアリアだけではなくネメアやライアスといった面々もいたことから昨日の件が知れ渡っていることだけは間違いなさそうだった。
その結果、何を言われるのかビクビクしていたのだが予想に反して彼女等からの説教はなかったものの代わりにとんでもない発言を聞く羽目になり度肝を抜かれてしまった……なんと全員、俺のことが好きだと言ってきたのだ。さすがにそれを聞いてしまうと驚きを通り越して固まってしまった。何せ今までそういったことに全く縁のなかった身としてはあまりにも唐突すぎて理解が追いつかない状態だったのだ。その為、しばらく何も答えることができなかったがいつまでも黙っていても話が進まない為、何とか気を取り直してから返事をしようとした。ところがここでまたしても予想外の出来事が起こることとなった……何とアリア達が一斉に迫って来たかと思えばそのまま抱きついて来たのだ。それも逃がさないと言わんばかりに両腕を掴んでいるので身動き一つ取れなくなってしまったがそこで我に返るとともに顔を真っ赤にさせながら慌てて叫んだ。
「ちょ、ちょっと待って!!一体何をしようとしてるのかわかってるの!?」
「はい、勿論です」
「え、えぇ、もちろんですとも」
「当然じゃないかい、そんなのはわかっているさ」
「そ、そうだよ……私達、覚悟ができてるから……」
「……だから大丈夫、問題ない」
そう言ってきたのでもはや完全に退路が塞がれたことを悟った。こうなってしまってはもう諦めるしか道はなく、内心はかなり動揺していたもののこれ以上、余計なことを言って場を乱すわけにもいかないので仕方なく受け入れることにする。とはいえいくら何でもいきなりというのはまずいのではないかと思い、まずは段階を踏んでからと言おうとしたのだがその前にネメアが口を開いてきた。
「あの、ご主人様……よろしければ今からでもよろしいですか?」
「っ!?こ、心の準備とかできてないんだけど……」
「あ、それなら大丈夫です……実はもうできているというか準備自体は既に終わっていますのであとはお好きなようにしてもらって構いません」
そう言いながら笑みを浮かべたので思わず息を呑んでしまう。どうやら本気だと判断した瞬間、背筋に悪寒が走ると同時に冷や汗が流れると共にこれから起こるであろうことを想像して気が重くなった。というのも今まで一度も経験したことがなかったのだがまさか今日という日にそれが訪れるとは思っていなかったのだ。もちろん嬉しくないわけがないのだが流石に早すぎると思うのも無理ないだろう。だが同時にここまで覚悟を決めて来ているのだから拒むわけにもいかず大人しく頷くことにした。
「それじゃあお願いします……」
『うん……』
その返事を聞いた瞬間、彼女等は同時に頷くとゆっくりと近づいてきた。その光景はまるでこれから死を迎えるような気分になったのだが覚悟を決めた瞬間、優しく抱きしめられたことによって一気に安心感を覚えた。だが次の瞬間、突然の出来事だったので驚くと共に戸惑いつつも顔を上げてみると彼女達が笑みを浮かべていたのでそれを見て思わずドキッとした。何故ならこれまで見たことがないくらい妖艶な雰囲気を放っていただけでなく普段とは違い、妙に色っぽい仕草をしながら誘ってきていたからでもはや理性を保つのが難しいほどだったのだがここでようやく我に返った俺はこのままではマズイと思い慌てて口を開く。
「あの、ちょっと離れてくれない?」
「何故ですか?」
「い、いや、どうしてかなと思ってさ……」
「別に深い意味はないですよ、ただ単にこうしたかっただけですから気にしないでください」
そう言いながら微笑むアリアに対してますます困惑してしまいどうすれば良いのかわからなくなってしまった。だがそれと同時に彼女の体温を感じていると徐々に頭がボーッとしてくると共に体の奥深くにある欲望が溢れ出てくるのを感じた。するとその様子を見た彼女は再び微笑みながら耳元で囁いてくる。
「我慢しなくていいんですよ、ほら私と一緒に楽しみましょうよ……」
『ううっ……』
「ねぇ、あなた様?」
『わ、わかったよ……』
もう我慢できないと感じ取った俺は遂に屈服し受け入れることにした。その直後、ネメア達が俺の服を脱がし始めたのでされるがままにされるのだった……そしてその後はまさに天国と言える体験をすることができた。というのも俺が彼女達のことを愛して止まなかったということもあったがそれ以上に皆がとても献身的だったことが大きな理由だっただろう。その為、終始、幸せを感じながら至福の時間を過ごすことができたのである。それからというもの時間を忘れて夢中になっていたため気づけば日が高く昇っていたこともあり驚いたもののまだ眠っている皆を起こす気にもなれず、それどころかもう一度だけ味わいたいと思っていた矢先、部屋の外から誰かが入ってくる気配を感じたので視線を向けるとそこにはゼパルさんが立っていた。どうやら様子を見に来たらしく笑顔で話し掛けてきた。
「どうやら楽しんでもらえたようじゃのう、まぁわしとしても喜ばしい限りなんじゃがお主達は本当にそれで良かったのか?せっかく念願かなって会えたというのにこんなことになるとは思ってもなかったのじゃがなぁ……ところで話は変わるんじゃが今、どんな気持ちじゃ?素直に答えてくれてよいぞ?」
その言葉を聞いて少しだけ迷ったもののしっかりと伝えることに決めた。というのもこの機会を作ってくれたことに対しては本当に感謝していたのでその気持ちを伝えたいと思ったからである。なのでこう返事をした後、改めてお礼を伝えた。それを聞いた彼は満足げな表情を浮かべながら頷いていたがその後、少し間を置いてこんなことを言い出した。
「それにしてもお主も物好きな男じゃな……確かにわしの頼みを引き受けた結果、このような状況になっているとはいえ普通であれば断っているはずじゃろう?なのにわざわざ危険を犯すとはな……そこまでしてなぜアリア達の願いを叶えようと思ったんじゃ?」その質問に少し悩んだが正直に答えた。
「正直言って俺にもよくわかりません、それに仮にわかっていたとしてもきっと同じことをしていたでしょうからね」
「……そうか、やはり面白い奴じゃなお主は」
そう言うと何故か急に機嫌が良くなり笑い出した。その姿を見た俺は一体どうしたのかわからず首を傾げていると何かを思い出したかのような表情を浮かべたので尋ねようとしたのだが先に向こうから話をしてきた。
「そういえば言い忘れていたことがあったんでそれを伝えにきたんだったな……とりあえず落ち着いて聞くんじゃ、これはかなり重要な話だからな?良いな?」
「はい、
異世界に転移したので生き残る為に戦わなければならない件 あずま悠紀 @berute00
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