第四百二十二話 種族の輪 《サークル》

「……馬鹿じゃないのクソ親父」

「なぁそのクソ親父というのはやめてくれないか? 地味じみに傷つくんだが」

「あんたなんかクソ親父で十分よ」

「……ひどい言われようだ」

「で、どうするのよ、これ」


 人型を取ったシュインがそう言い俺は周りを見る。

 ……。正直やり過ぎたと思う。

 まさかあそこから更に変態するとは思わなかったもの。


 周囲一帯いったいかさんとばかりの体積膨張ぼうちょう

 凶悪きょうあくな精神攻撃。

 そこにある物を全て喰らいくすほどの食欲。

 それを精霊魔法で太陽のような火球を何百も落とし、隕石いんせきのような岩を何千も落とし相手のキャパシティーをえる物量で攻撃してやっと弱体化。

 そこからレイとシュインを使いながら倒したのだが、正直倒せた気がしない。


 あた一面いちめん巨大な岩に亀裂きれつの入った空間。

 神々が俺と魔王をこっちに寄越よこした理由が良くわかる。

 これを経験したらそう考えるよな!


「ねぇ熱いんだけど」

「脱ぐなよ? 」

「……変態」

「って、なにレイは脱ごうとしているんだ?! 」

「お、お姉ちゃんそれはまずいって! ここに生きる犯罪者がいるのよ?! 」

「誰が犯罪者だ! 」


 服に手を当てるレイに俺とシュインが止めにはいる。

 すかさず水の精霊魔法で周囲に水をき温度を下げた。


「にしてもこれからどうすんのよ、クソ親父」

「……一応神様になってるんだけど? 」

「クソ親父はクソ親父で十分よ。で本当にどうすんの? 」

「おう! 上手うま昇神しょうしんしたみたいじゃねぇか! 」


 後ろから聞き覚えのある声がした。

 振り向くとそこには大剣を持った狼獣人——ロイ様がいた。


「……お前ここに来てもハーレムを作る気か? 」

「誰がハーレムですか」

「ちょっ! そんな気持ちの悪い事言わないで! うげぇ……」

「パパ? ハーレム? 」

「ち、違うからな。俺はお前達をそんな目で見てないからな! 」

「否定するのが怪しいぜ。まさか娘に手を出すとは」

「ひぃ! 」

「……分かって言ってますよね? 」


 はは、と上を向き少し笑いこちらを見た。


「で、本題なんだが実はな。この世界、早く脱出しねぇとやべぇんだわ」

「「はぁ? 」」


 ロイ様がそう言った瞬間世界が――れた。


「流石の俺達もドン引きの猛攻もうこうをしたんだ。世界自体が壊れても不思議じゃねぇだろ? 」

「いやいやいや、少なくとも神様達が創った世界でしょ?! 」

「俺達は八人がかりでやっと簡単な世界を一つ創ったんだ。クレア―テ様のように完璧に、じゃねぇ。実際いざという時はこの世界ごと壊そうという意見もあったんだがな」

「なら魔王だけを転移させろよ!!! 」

「いや倒さねぇと、まんぶんいちの確率だったか? 本格的に相手がこの世界を食らいくして神格化し邪神系統の亜神にりかねなかったんだ。わりぃとは思うが、まぁけに勝ったんだ。素直に喜ぼうぜ! 」


 喜べるか!!!


「うぉ! 」

「きゃ! 」

「パパァ!!! 」


 再度、れた。

 シュインをささえ、レイがしがみつく。


「おっとすまん」

「……ありがとう」

「なにラブコメやってんだ。早く出るぞ」

「……どうやって」

昇神しょうしんしたんだ。一先ず境界きょうかいまでは移動できるはずだ。力に名前はねぇ。ただ、移動するだけ。上に行く感覚でな」

「感覚って……」

「あと嬢ちゃん達はきちんと元の姿に戻ってな。バラバラになりたくなかったな」


 ロイ様がそう言うと「ひぃ」という声を上げてシュインがすぐに短剣に戻った。

 レイは何が何だかわからない様子だがシュインを見て自分も剣に戻った。


「よし行くぞ! 」


 その掛け声とともに見覚えのある場所へと移動した。


 ★


「あちらの準備も整ったようです」


 大聖堂の神像前。

 そこには教皇オラクル二十七世と六人の種族の輪サークルのメンバーがそろっていた。

 オラクルは神像の前で手を組み状況を説明。

 メンバー達はどこか期待にちた顔で腕輪を見ていた。


「全く何してるんだって感じだよね」

「倒したはいいものの帰れないって、あきれてものが言えませんわ」

「ハハハ! やはりオレの力が必要ということだな! 」

「その通りじゃ」

「ったくお前達は呑気のんきでいいよな」


 思い思いに口にする彼女達にスミナがポツリと呟いた。


「では始めます」


 祈る姿のまま振り向かずそう言い用意するようにうながした。

 事前に言われたとおりに六人がそれぞれ対面になるように位置に着く。

 まるで魔法陣をえがくように。

 そして――となえる。

 

「「「縁者招来コール」」」


 その瞬間大聖堂に蒼い光がちる。

 六人に収束しゅうそくし、彼女達の下にえがかかれた魔法陣が起動する。

 そして……。


「成功した! 」

「お、帰ってこれた」


 ゴファ!!!


 アンデリックは大きく殴り飛ばされた。


 ★


 全くひどい話である。

 魔王を倒したと思えばセレスに殴られ吹き飛ばされ。

 その後も何かと責め続けられて――今俺は書類にもれていた。


「……多くない? 」

爵位しゃくいも上がったのです。多くて当然」

「それにシリル公爵とお父様が元シレン辺境伯領と元ブラッフィ伯獣位領をまとめて新しい国にしないか考えてるみたいだよ? 」

「やめてくれぇぇぇぇぇぇ!!! 俺はそんなことしたくない! 」


 王都セグ伯爵家てい

 そこでは俺に対する嫌がらせともとれる言葉が並べられていた。


「おいデリク! オレの新しい歌を聴いてくれ! 」

「同胞と作った讃美歌さんびかじゃ。心して聞くがよい」

「止めろぉ! 俺をまた瀕死ひんし状態するつもりか! 」


 この前のエルベルの歌はひどかった、

 歌唱力が無い訳じゃない。しかしどこか人を不安にさせ精神を壊されるような歌だった。

 もうあんな思いは御免ごめんだ。


「おい。ちょっとワタシは父ちゃんの所に行ってくるからよ。転移しても良いか? 」

「あ、あぁ……。それならば」


 そう言いスミナが出ていった。

 もうじきバジルも完全復興ふっこうだ。

 その仕上げだろう。


「パパ! お稽古けいこ

「おねぇちゃん。あの変態に近付くのは止めた方が」

「変態違うもん! パパはパパだもん! 」

「そ、それはそうだけど」


 シュインは俺にはきついがレイには頭が上がらないようだ。 

 何故? と思うがまぁいい姉妹しまい関係なのだろう。


 奇しくも農民から冒険者になった少年は色々な仲間と出会い、貴族になり、ドタバタしながら変人・変態・奇人達が集まったさわがしい日々を送るのであった。


 <完>


 ———

 後書き


 最後まで読んでいただきありがとうございました!!!


 いかがでしたでしょうか。


 面白く感じていただければ書いた者として嬉しく思います。


 また面白ければ最後に目次下部にある「★評価」をポチッと、よろしくお願いします。


 今後とも作品共々よろしくお願いします。

 ではこれで。

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種族の輪 《サークル》 ~精霊術師は今日も巻き込まれる~ 蒼田 @souda0011

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