第2話

「じゃあ行ってきまーす!」

「おう行ってこい」

フネさんに見送られ俺はリュックを背負い冒険者試験会場に向かう。

俺には家族はいない。フネさんが言うに道に捨てられていた孤児だったらしい。まぁ今更そんなことどうでもいい、くぅーわくわくが抑えきれない。


「合格出来れば俺もあの雲の上に」

手を天にかざし、空を掴む。よし!絶対合格するぞ!

「おー!」


「にしても平坦だなー」

ここから冒険者試験会場まで連れてってくれる馬車乗り場まではそうかからない。だとしても⋯⋯

「こんな草しかなかったらつまんないよー」

そう周りには草しかなかったのだ。もう本当に冗談抜きで草しかない。


「おーい」

声がした。男特有野太い声だった。目線を下から上へ持っていくと、10数メートル先の視線の先にはガタイの良さそうなスキンヘッドのおじさんがいた。とりあえず、呼んでいたおじさんの元まで小走りで向かう。

「君も冒険者試験受けに行くのかい?」

「そうだよ、おじさんも?」

「あぁ、やっぱ空行ってみてぇよな」

「あはっおじさんも空に興味があるんだね!」

「はっ、当たり前だぜ!俺は空に行って億万長者になりそして女を囲って遊んで暮らすんだ!」

「あはは、じゃあいっぱい冒険しないとね!」

「はんっ、冒険はしねーさ、安心安全に強者の利益だけをつまんで億万長者になるんじゃーい!」

おじさんは拳を突き上げて、天高くそう叫んだ。


「うわぁー、卑怯だねー」

「はっはっはっ!卑怯でもなんでも最後に笑ってたやつだけが勝者なのさ、ところでお前名前はなんて言うんだ?」

「空だよ、ただの空」

「空、うんいい名前だ、俺の名前はドルトン、よろしくな空」

「うん!よろしくドルトン!」

握手した時のドルトンの手はゴテゴテしていて頼もしかった。


しばらくドルトンと会話しながら歩いていると視線の先に冒険者協会・試験会場行きと書かれたカードを持ったシルクハットを深く被ったタキシード姿のおじさんが見えた。


「あそこだね!」

「だな」ドルトンと一緒にそのシルクハットのおじさんの元まで歩いた。

「おじさんが冒険者協会の人?」

「⋯⋯その通り、お前達は冒険者になりたいのか?」

「うん!」

「ふむ、ならば一つ試練を与えよう」

するとシルクハットのおじさんはおもむろに隣に停めてある荷馬車から二つの小袋を取り出した。そしてその二つの小袋を俺達二人の手のひらの上に乗せた。


「開けてみろ」

そう言われ、小袋の紐を引っ張る。見るとその中には黒と青が混ざった紐状の得体の知れない何かが詰まっていた。そんな得体の知れない物体から漂う鼻をつくような刺激臭に少し眉をしかめる。


「うげ、なんだよこのキモイの」

「食え、じゃねぇと乗せてやらねーぞ」

「は!?食えるわけねぇだろこんなの」

何をそんなに騒いでいるのだろうかグルトンは、食えばいいだけなのに。

俺は躊躇わず、その物体を口に運び噛み砕く。


「うげぇ不味い」

なんか口の中でねっとりするような感覚が口の中に広がって、そこから腐卵臭のようなものが俺の鼻を突き抜けた。

「うわ!空、お前まじで食ったのかよ」

「ドルトンも早く食べたら?じゃないと乗れないよ?」

「⋯⋯くっ」

ドルトンは袋の中の物質とにらめっこしてそして⋯⋯その袋を捨て、タキシードのおじさんに隠し持ったナイフを突き出した。


「おいてめぇごら!誰がこんなもん食うか!強いやつが冒険者になるんだ、こんなの食わなくてもいいんだよ!おいジジイ、てめぇさっさっと案内しやがれ!」

「ちょっドルトンそれは⋯⋯」

「黙れガキ!てめぇみたいなガキなんざ試験で利用される価値しかねぇんだ!失せろ!」

えー、そんなこと思ってたの⋯⋯。てかすごいな血管が浮き出てる、スキンヘッドだから余計目立ってる。だいぶ頭に血が昇ってるな。


「⋯⋯なぁそのナイフはもしかしたらわしに向けているのかな?」

「当たり前だろ!お前以外に誰がいんだよ!」

「⋯⋯⋯⋯これを見てもか?」

「ひっ!それは!」

タキシードのおじさんが裏ポケットから取り出したのは手に収まる程の大きさの銃だった。おじさんは銃口をドルトンに向けて口を開いた。


「退け」

「わ、分かりましたーーーー!」

ドルトンは蜘蛛の子散らすようにおじさんに背を向けて遠くに逃げていった。


「たくっ、青二才が」

「おじさん、俺は合格でいいんだよね?」

おじさんが銃を裏ポケットに戻したのを確認してから喋りかける。


「ん?あぁもちろんだ、乗りな」

「やった!」

どうやら連れてってくれるみたいだ!人が5人は入るであろう荷馬車に足をかける。中には特に何もなく。一日分程の食料と寝袋がポツンと置いてあるだけだった。


「ここら辺でいいか」

座る場所をなんとなしに探してたけど、やっぱり角が落ち着くこともあり、荷台の端にある壁に背中を預けた。

「よし、じゃあ出発するぞ」

少し経つとタキシードのおじさんからそう声がかけられ、ついに馬車は進み始めた。

馬車が小石で跳ねるにつれ尻が痛い。これが馬車か⋯⋯いつも自作の飛行機にしか乗ってなかったからなー。


「あ、ねぇねぇおじさん一つ聞いておきたいんだけどなんであんなことを俺たちにさせたの?冒険者になるためには必要なことなの?」

疑問だった。わざわざあんな不味いものを食う必要はあるのかって。


「あるさ、だって冒険者は冒険をするもんだろ?わしはお前達の冒険する覚悟を見極めたかっただけさ」

「⋯⋯⋯⋯」

そう言ってタキシードのおじさんは口角をあげた。多くは語らない、そう言っているような気がした。


そのあとは俺が空を眺めながらおじさんに空について俺が知っている知識を全部喋った。俺が喋れば喋るほど、おじさんは俺のことをバカにしたように笑っていたから少しムカついた。

「だから!空には空飛ぶ魚が⋯⋯!」

「着いたぞ、ここが冒険者試験試験会場、そして冒険者協会本部だ」

空の話をしていると時間が過ぎるのは早いものでその試験会場とやらに着いてしまった。


空についての話が途中で途切れたことを少し不満に思いながらも荷台を降りると目の前には巨大な塔がそびえ立っていた。

果てしなく伸びる塔は下から見る分には空にも届きそうな程高かった。


「たっか」

「はっ、こんな高くする必要ねーのにな」

俺が冒険者協会本部の高さに唖然としているとタバコをふかしたタキシードのおじさんが俺の隣に立った。


「この塔を登れば俺も冒険者に⋯⋯!」

「いやいや、試験会場は地下だぜ上は冒険者協会のお偉いさん達が使う場所だ」

「⋯⋯」

一気にテンションが落ちた。なんっだよもう!上じゃないのかよ!


「ふっ、まぁ頑張ってこい俺は応援してやるよ」

そんな落ち込んでいた俺の背中をタキシードのおじさんはぽんっと優しく叩いた。

「はい!頑張ります」

まぁ冒険者になれば空に行ける、そのためだった下に行くくらいなんでもないさ!












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宇宙へと向かう者 紅の熊 @remontyoko

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