「完。」の貼り紙 🍜
上月くるを
「完。」の貼り紙 🍜
家々の庭の垣根に、朝顔が凛然と咲いている。
紅色、水色、濃紫色……大粒の花ばかり。🌺
やっぱりアレだよね~、朝顔は真夏というよりも晩夏or初秋の風物詩だよね~。
マモル兄さんに連れられた中型ミックス犬ヘッピリチョコザエモンはルンルン。
チョコザの背丈をはるかに越えた稲は重そうに実り、刈取のときを待っていて。
吹く風はひんやり、あんなに勢いよく湧き上がっていた入道雲もくずれ気味で。
⛅
秋なんだなあ……柄にもなくおセンチになったチョコザは、ふと足を止めました。
辻の小さなラーメン店の入り口のガラスに、無骨な手書きの紙が貼られています。
――「完。」🔸🔶 🔷🔹 🔸🔶 🔷🔹 🔸🔶 🔷🔹 🔸🔶 🔷🔹
ただそれだけ、一文字というべきか二文字というべきか、広すぎる余白がイタイ。
気まぐれで、定休日でもないのにとつぜん休むことが珍しくなかったラーメン店。
いままでも「体調不良につき休業」とか「やる気が出ないので休みます。」とか、店主の生の感情をむき出しにした文言が貼られていましたが、さすがに今日は……。
本日のランチは癖があるけど病みつきになるあの店のラーメンにしようと楽しみにしていた農家さんやオフィスビルの人たち、遠くから車で来るお客さん、どうなる?
保健所から保護団体を通してマモル兄さんに引き取られた過去のある中型ミックス犬のヘッピリチョコザエモンは、茶色い被毛に囲まれた八の字眉をさらに八の字に。
🧙
「完」とは物語の終了、さらに一巻の終わりという意味にも深読みできそうです。
潔癖症の店主が一点の曇りもなく磨いたガラス窓がピカピカなのが……かなしい。
やっぱりあれなのかなあ、いつまでも収束の目処が立たない感染症との闘いに疲れちゃったのかなあ、カウンターだけの小店にソーシャルディスタンスは無理だしね。
心の病気を治療しながら、仕入れから仕込み、調理、皿洗いまでひとりで一所懸命にがんばって来た店主さん、ついにこれ以上持ちこたえられなくなったのかな。💦
チョコザエモンは自分のかたわらに立っているマモル兄さんの顔を見上げました。
赤く潤んだその目は「営業中」のプレートがよみがえる日を祈っているようです。
*『気まぐれ店主』の続編です。
https://kakuyomu.jp/works/16817139556673521467
「完。」の貼り紙 🍜 上月くるを @kurutan
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます