ターミナル
真原 結花
第1話
高校から帰ってまっすぐにパントリーからお母さんが買ってきたであろうクッキーをこっそり取り出す。家には誰の気配もないからきっと出かけたんだろうなとぼんやり考える。
鼻歌交じりに階段をのぼると、弟の真の部屋からアレクサのようないかにも機械が話している声が聞こえた。うちにアレクサなんていたっけ?
何をしているんだろう。ふと思ったのだが、私は真の部屋に入ったことがない。
なんだか気になってきた。こみ上げてくる好奇心に従ってみることにした。
ゆっくりと忍び足で真の部屋に近づき、ゆっくりと扉を開いて覗き込む。部屋の感じは思っていたよりもシンプルでいかにも真面目な人の部屋という見た目だ。ぐるりと部屋を見渡してつまらないなと思いながら思い切り扉を開く。
「えぇ!?」
な、なんだこれは。そこには腹部をぱかっと開き、沢山のコードとつながってパタンと眠りについている弟がいた。お腹の中は、映画で見るようなロボットのような機械が埋め込まれている。チカチカと点滅する真の体はだれが見たってロボットだった。
驚きのあまり落としてしまったクッキーはひび割れてしまった。
それをぐしゃりと踏みつぶして真のもとに近づく。
横たわっている真の体に触れる
いつもは温かい真の体は死んでしまったかのように冷たくシリコンのようにブヨブヨしていた。
頭の中が疑問でいっぱいだった。
混乱しながらも真の体をベタベタと触っては、自分の体を触り比べる。何度触っても真は人間とは思えない感触をしていて酷く恐ろしく私の中の何かがゾクゾクとこみ上げてきていた。
その時、ガチャリと玄関の扉を開く音がした。
やばい。どうしよう。私の体はがくがくと震えて力が入らない。
ただただ息だけが上がって汗が噴き出す。うまく瞬きができなくてじわじわと涙があふれてくる。
ひゅるひゅると私の肺が悲鳴を上げ始めて、扉の所からバタバタとたくさんのものを落とす音が聞こえた。
振り向きたいのに私にはできない。
怖い。ただこわい。
「すず?、」
耳覚えのある声がうわずっているのがわかる。
「お、か、さん」
ぷるぷると震える唇はいつも呼ぶお母さんという言葉さえうまく発せずにいた。
お母さんも私と同じようにパクパクと口を動かして瞳だけが私と真をはっきりと映し出している。いつもどんなことがあっても顔色を変えないお母さんがここまで驚いているは初めてで、なんというか少し面白い気がしてきた。
次の更新予定
毎週 日曜日 16:00 予定は変更される可能性があります
ターミナル 真原 結花 @mayu1130
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ターミナルの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます