EXSTAGE.Brain

『エキストラステージ ヲ プレイ シマスカ?』


目の前に現れたのはエンドクレジットではなく予想外のテロップだった。そうか、そんなものがあるのか。

僕はちょっと考える。ここまで来たら完全クリアしたい自分と、今までが難しかったからエキストラなんかやってられるかという自分、その両者が同じくらいの説得力を持ってせめぎ合っている。


どうしようか、どうしよう。なかなか決められない。


迷った末僕は、ゲームを始めた時の初心に、ANNRAKUをプレイするに至ったそもそもの顛末にまで遡った。


………………

…………

……


うん。戦おう。せめてこれくらい自分に胸を張れるようやり遂げよう。高々たかだかゲームだけど、誰も褒めやしないだろうけど、自分で自分を認める程度のささやかな気持ちを手に入れる為に。自分で自分を誉める為に。それくらいしたっていい、した方がいいはずだ。


僕はエキストラステージへの挑戦を心に決める。すると『ステージ ヲ コウチクチュウ デス』のテロップが現れて……



 そこは真っ暗な空間だった。そして細長い一本道がある。雑魚敵の姿は何処にも見えないが、右上に一秒ごとに減っていく数字が見えた。

なるほど、最後の弱体化は制限時間付き、というやり方らしい。でもなんか思った以上に長いな。そこまで掛かるような難易度なのかな。


雑魚敵のいない廊下を進む。左右の壁には何やらモニターのようなものがいくつも貼り付けられ、そこに僕の今までの人生の思い出達が映し出される。覚えているものから忘れていたものまで。散々人の思考や思い出を覗き込んでくれたゲームだったが、最後に大放出だな。

変なところがエキストラステージらしいと妙な感慨にふけっている内に、ちょっと開けた所に出た。



『BOSS STAGE』のテロップ。現れた『GOD:K』は、


「まんまだな」


もうスキンヘッドですらない、ただの巨大な脳みそだった。そいつは宙に浮いた状態で、動きもしなきゃ攻撃もしてこない。ただ大量のモニターが浮かぶフロアの中心地点にあるだけだ。


「拍子抜けだな。ま、最後ってこんなもんか」


僕は『GOD:K』に向かってレーザーを放った。奴は回避もしない。ただ、僕が放つ一発一発を甘んじて受け入れている。

しかし流石ANNRAKU、『絶望のシューティングゲーム』。一筋縄では行かないようだ。攻撃を加えるごとに視界が段々とジャミングを受けたようにくる。

くそっ、どんどん見えなくなってくるぞ。このままじゃ奴は倒せてもエンドロールが見えなくなるかも知れないじゃないか。


……いや、最期の最期で悪態をくのはやめよう。僕も目の前のあいつのように、全て甘んじて受け入れよう。

僕はもうほとんど見えない視界の中、淡々とレーザーを放った。






「先生、カシマシンイチさんの脳波が消えました」


薄暗い病院の一室。特に焦る様子も無く看護師の女性が医者に報告する。


「はいはい。じゃあ脳死確認して死亡診断書作るね。先に戻って準備しといて」

「はい」


中年の医者は看護師を行かせると、無精髭を撫でながら欠伸を一つ、軽く伸びをした。



「あー、こりゃ死んでるね。午前二時三十六分、死亡確認」


医者はベッドに横たわる青年に手を合わせる。


「何も若い身空でこんなことしなくてもねぇ」

「人には人の事情がありますから」


看護師は青年の顔に布を被せると、彼の身体中に取り付けられた機械を手際よく外していく。医師はそれをぼんやり見ながら、


「なんだっけ、催眠状態の『プレイヤー』が放射線装置を自分で動かしてるんだっけ」

「脳波でね」

「本人にはシューティングゲームとして映し出されるんだよね」

「そうらしいですね」


医師は頭をボリボリ掻いた。


「……せめてゲームは面白いのかな?」

「試してみますか?」


看護師はニヤリと笑って機械のアタッチメントを医師に向けた。彼はその延長線上から一歩左に避ける。


「遠慮しときたいねぇ、一生」

「私もです。さ、くだらないこと言ってないで、さっさと死亡診断書書いて下さい」


看護師に促されて医師は病室を後にする。彼は廊下に出る瞬間振り返って、もう一度機械を見た。アタッチメントの逆の方の先、つまり機械本体にアルファベットで名前が書き込まれている。


それは、二〇四八年現在世界で二千万人以上がプレイした、その鬼畜さから人をして『絶望のシューティング』と言わしめるゲーム。

その名も、




『ANNRAKU』




なお法律区分上は『自殺』と判断される。

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ANNRAKU 辺理可付加 @chitose1129

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