深海〜崩壊都市〜

やまぶき

深海

人間がどれだけこの世を愛そうが、神は慈悲など与えはしない。

人はいつか滅びるだろうが生命はこの地球に残り続けるだろう。

生命の源である、海からまた生命は生まれるだろう。







「システムプログラムに異常発生」

「ヌーム全体に防衛シーケンスを発令」

「自動防衛システムを起動開始」


あたりから聞こえてくる音に慌てて目を覚ます。

メガホンから聞こえてくる音が辺りの金属に反射に脳に直接響いてくる。

音から分かる通り、どうやらまずい状況らしい。

ここがどこなのかもわからない。ましてや自分が何者なのかも定かではない。

「とりあえずここから出なくてはならない」そう心の中で呟いた。


30分程度歩いてわかったが、どうやらここはとてつもない規模で設計された建物の中らしい。

そんな目を覚めれば誰でも分かるほどのことしか情報はない。

そんな自分への語りをしている最中、目の前にとてつもなく大きなガラスが現れた。

どうやらガラスの向こう側からシャッターのような鉄の壁で外の景色を遮断されているようだ。

するとまたあの時とは違う、野太い男の声でアナウンスが放送された。



「人はなにかに縛られながら生きていくしか道はない」


「誰かの目を気にして、怯えながら生きていくことを産まれた時から強制される」


「そんな世界に繁栄や進歩はない」


「ここはあらゆる頭脳や才能が集結し、倫理や検閲に縛られない理想的な楽園(オアシス)だ」


「この楽園を紹介しよう」


「神が創造した新たなる繁栄の都市」



     「海底都市、ヌームを」








そのアナウンスの後、目の前のシャッターが勢いよく上がり、壁に隔たれていた景色が露わになった。

深淵に呑まれたかのように暗い空間を当たり一体に広がったビル群の光が照らしている。


しかし、ただのビル群ではない。

その全てが眩暈がするほどの水で覆われていたのだ。

私は瞬時に理解した。ここは海なのだと。

そして同時に、ここは深海の底に建てられた都市なのだと。


その時、すぐ後ろの椅子から振動が聞こえた。よくみてみるとトランシーバーである。

私はすぐにトランシーバーを手に取り、信号を受け取った。


「やぁ。聞こえているか?」

トランシーバーから男の声が聞こえた。


「聞こえているとも」

私は答えた。


「よかった。大展望のシャッターが思いっきり上がったから誰か来たのかと思ってな」


「君は一体なんなんだ?」

私はその声の主にそう答えた。


「あぁ失礼。僕はこの都市の住人のアンドリューだ。以後よろしく頼む。」

「君の名前を聞いてもいいかな?」


「そうしたいことは山々なんだが、あいにく私は自分の名前を忘れてしまっている。」


「そうだったのか…」

「ならアルファだ。これからはそう呼ぼう。」


「アルファか。わかった。そうしよう」

私は突然語りかけてきた男を害だとは見做さなかった。

名前を決めてもらった礼は態度で返そうと思った。


「突然だが、そこから離れた方がいい」

唐突にアンドリューはそう警告してきた。


「さっき発令された自動防衛システムがさっきのアナウンスを聞き付けてやってくるだろう」


その警告がすんで数秒もたたないうちにすぐ近くにあった鉄製の扉から大きな打撃音が聞こえた。


「あぁまずいぞ!すぐに隠れるんだ。」

その焦ったようなアンドリューの言葉を聞き、私は近くにあったロッカーのようなものに隠れ込んだ。



先ほどから続いてきた打撃が数発続いた後、思いっきり扉がこちら側に飛んできた。

飛ばされた鉄の扉があった場所の奥から何か歪な形をした人影が見えた。


ソレの形は確かに人だった。だが、その姿は人とは似ても似つかないものだった。


体は鉄で形作られており、体のあちこちにパイプのような鉄の管が飛び出ており、そこからは白いような黒いような訳の分からない煙が排出されている。


管だけではない。

顔の中心あたりに、赤く発光している目のようなパーツを確認できた。

口のような部分からは荒く、重いような呼吸を繰り返している。


あれは人間には勝てない。

そう本能が警告した。


私はこの都市で生き残れるのだろうか。


不安と先の見えない闇が心を支配していた。

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深海〜崩壊都市〜 やまぶき @deruta2121

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