第59話 B・バトル①

 ブリッツとタイガの激しい攻防は、チンパンが作った薄緑の特設リングの外にまで響いていた。直剣に盾を装備しているブリッツに、引けを取らず片腕で戦っているタイガは相当な手練だ。

 一方のチンパンは援護に徹している。彼の戦闘は補助がメインで、ブリッツに直接攻撃を加えるような素振りは今のところなかった。


「オラオラオラァ!!」


 タイガの繰り出す拳や脚は音の壁を越え、ブリッツに攻撃をする度に空気の破裂音が聞こえる。


 ブリッツはそんなタイガの攻撃を躱し、受け、弾く。隙を見て直剣で反撃をするが、タイガにはかすり傷が付くばかりだった。


「こんなに強かったのかよ六天って!」


 赤い稲妻を弾かせ、次は自分の番だと言わんばかりにブリッツは直剣を振るう。振りかざした直剣は激しく雷光を散らせ、縦横無尽に太刀筋をシビれさせる。


「『獄駆動ウルドライブ』!」


 ブリッツは直剣をタイガへ振り、当たろうが当たらまいが一撃離脱戦をする。ここは幸いにも、四方が壁に囲まれた密室。離脱先の壁を蹴り自らを加速させ、まるで光のように乱反射を繰り返している。

 赤い残光が薄緑のリングの中で暴れており、中心には反撃すら叶わないタイガがいる。


「タイガ!」


 チンパンはタイガへ薄緑のガラスを張り、ブリッツの乱撃を防いだ。

 タイガはその防護壁に信頼を置いているのか、膝に手を着いて一呼吸置いている。


 タイガへの乱撃を止められたブリッツは特設リングの外にいるチンパンを一瞥いちべつする。安全圏からサポートに徹する彼を見て、ブリッツは怒りと我儘を合わせたような感情を表す。


「ずるいなホントに!」


 ブリッツは激昂しつつも冷静に動きを止めて左手を掲げる。タイガとチンパンは不思議そうな目で見つめるも、直ぐに何かを察知したタイガはブリッツへと殴りかかろうとした。


 パチン――

 

 直後彼女は指を鳴らし、特設リングの中から大きな声でを呼んだ。


「ドレッドノート!!」


 ブリッツはタイガの拳を既のところで受け止め、赤い稲妻の纏う直剣で反撃をした。


「うぐっ……」


 赤い一閃が腹に入ったタイガはブリッツを振り払い、彼女から遠ざかるようにして身を引いた。


 

 バリバリバリイィィィ――ッ!!


 

 ガラスの割れるような綺麗な音がタイガの頭上に響き、空から現れた物体にタイガは押しつぶされてしまった。


「なっ!? 予定よりも3秒も早い到着だと!?」


 チンパンは心底驚いたような声で手元のパネルをパタパタと触る。すると薄緑の特設リングは次々と消えていき、代わりにチンパンの周辺に分厚い薄緑のガラスの層が出現する。


「よくやった、ドレッドノート」


 ブリッツはドレッドノートへ拳を突き出す。ドレッドノートは特に何も動かず、ただ淡々と言葉を並べた。


「ブリッツ様、下の者は消しましょうか」


 ドレッドノートに装備されているありとあらゆる銃火器が動き出し、真下で伸びているであろうタイガにその銃口が向く。


 ブリッツは何も言わずにチンパンの方へ歩いていき、ただ1回だけ、指を鳴らした。




 ブリッツの後ろでは、血とオイルが足元から飛び散るドレッドノートの硝煙と銃声が立ち上った。

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beat down mochi @m0ch1

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