第58話 S・サイド

 重厚で鋭く、戦いの幅が大いに広がる合体剣を担ぎ、私は慣れない戦いに身を投じていた。それに合体剣をよく見ると、剣1本1本に名前が書いてある。


 基盤になってる大きな両刃の剣が『エンド』、その刃の片側を覆うように付いてる片刃の剣が『ペイン』、タフの中腹あたりまでの刃渡りで、ペインと反対側に2対で付いている双剣は『フィアー』と刻まれていた。


(この剣達を分解して状況に応じて使い分ければ少しは戦えるかな)


 私はまず合体剣を地面に突き刺し、扱いが簡単そうな片刃の剣、ペインを取り外して上位人の群れを見た。

 まるで波のように襲いかかってくる彼らには意思がなく、ただ誰かに操られているかのように感じた。そうなれば、尚更私は彼らを殺すことは出来ない。


(追ってこられるの後々邪魔になるし、かと言って気絶させるのは素人の私には無理だ。だったら……)


 私はペインを振りかざし、近づいてきた1人目の上位人の足を両断した。


 人体を切断するという、現実世界ではまず有り得ない状況に私は足がすくんだ。

 人の肉は食材と同じような切り心地で、骨にまで刃が達するのは一瞬だった。普通包丁で骨は切らないが、人間を斬るための刃物ではそれが出来てしまう。


 ぶにっとした肉とスパッと切れる骨は私の手に残り、罪悪感と吐き気が私を襲う。


(レックスの時とは全然違う……。でも、私はスノウなんだ、これぐらいどうって事ない)


 頭ではそう考えていても、平和な日本で、殺人が身近に感じにくい環境にいたため直ぐには割り切れなかった。



 それでも私は込み上げたものを飲み込み、ペインを振るう。群れで来る上位人の足や腕を切断し、殺さない事を最優先にした抗い方を示す。


「邪魔だあぁ!!」


 斬る、斬る、斬る。ペインは振るう事に軽くなり、段々と私は群れで来る上位人への戦い方に慣れてきた。


(次はこれ――!)


 ペインをその場で地面に突き刺し、大きな両刃のエンドに付いている2対の双剣へ手を伸ばした。


 刃はさほど分厚くないが、それを補うようなとても鋭利なエッジが特徴なフィアー。ペインよりも軽く、またよく手に馴染む。


「こいッ!」


 腕を前に突き出し、本当にゾンビのように襲ってくる上位人を、私はフィアーで二太刀入れる。


 ズチャ―――


 驚く程エッジが鋭く、押し当てただけで上位人の足は綺麗に切断された。


「オェッ――、んグッ。」


 溢れそうなものを必死に押し込め、それでも私はスパスパと邪魔な群れを戦闘不能に導いた。




「なぁ、お前ほんとにスノウか?」




 ゾクッ――――!!


 フィアーを振り回していると、背後から謎の声が聞こえた。

 声の方へ振り返ると、金髪に青色のメッシュが入った男が立っていた。


(こ、こいつは間違いない! イヌだ!)


 気配を感じさせない隠密性能、視認すれば抵抗が無駄に感じるような圧倒的強者のオーラ、短い刃渡りから幾人もの命の悲鳴を感じさせるアーミーナイフ。間違いなくこの男が、五天の中で1番強いイヌだ。


「質問に答えてくれよ、お前は、本当に、スノウなのか?」


 イヌのアーミーナイフが私を見た。

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