ワタシハクルース

異星人の軍勢を退けた、という知らせを受け、多くの人類は歓喜した。

圧倒的な科学力をもって世界中の都市から極地に至るまで何もかも破壊し尽くした存在がいなくなったのだから、当然の反応であると言えるだろう。


だが彼らはすぐに気づいた。自分達が今置かれている状況が以前に負けず劣らず危険であることに。

そう、シェルターの外にはその異星人を上回る力を持つ存在である「イクサビト」が無数に存在しているのだ。

置かれている状況はさらに悪化したと言っていい。

喜びも束の間、人類はさらなる絶望に恐怖した。


そしてそこに追い討ちをかけんとばかりに、知らせが回ってきて数日後、事件が起きた。

「イクサビトの研究」という分野において最高権力を持っていると言っていい人材である「シルダーガ」氏が、なんと突如行方不明になってしまったのだ。

今現在この事件について原因などを調査中であるが、あまりにも不自然すぎて調査はうまく進んでいない。

挙句の果てにはそんなことなんかより早急にイクサビトへの対策法を見つけ出せと言われる始末。

彼の行動が無ければ今こうして生きているのかも怪しいと言うのに、全く勝手が過ぎて困るものだ。


と、そういえばまだ私の自己紹介が済んでいなかった。

いつ死ぬかも分からないような状態ゆえ、つい急ぎ足で話を進めてしまった。

軽く見返したが名前すら書いていない。

とはいえ私など別に大した人間ではないので、必要最低限の紹介で済ませようと思う。

私の名前は「クルース」。年齢27歳。性別女性。所属は「科学派」の「イクサビト研究チーム」。このチームは先ほど名前が挙がったシルダーガ氏が作ったもので、私の他にも多くの「科学派」がここに属している。

とまぁ、こんな感じでいいだろうか。


では本題に戻って、これから今の人類が置かれている状況を簡潔にまとめようと思う。

以前の説明だけでは多少情報不足気味になってしまった点もあると思われるので、その辺りも補いつつ行うこととする。

まず居住地について。異星人の侵略から逃れるための地下シェルターは、世界各地にそれぞれ点在する。

無論、シェルターを作る技術がなかったり、食糧や水が枯渇してしまったり、シェルターを作ったはいいが異星人にバレて襲撃されてしまったり…様々な要因によって全滅してしまった地域も少なからずある。

二度と彼らのような犠牲者を出さぬよう、我々は早急な問題の解決をしなくてはならない。


また、シェルター同士は情報ネットワークでつながっており、イクサビトの研究成果やシェルターの現状などの情報を共有している。

その辺りについては、のちに詳しく説明することとしよう。

そして「イクサビト」は世界各地で存在が確認されている。我々人間は彼らにとってただの食い物でしかなく、襲われたが最後、血一滴も残さず捕食されてしまうだろう。


さらに厄介なことに、シルダーガ氏主導で開発された「イクサビトの生命維持を大幅に助長するための機械」_正式名称『H.Y.O.U.R.O.U.』は今もなお起動中。しかも強力なロックが掛けられており、我々のハッキング技術全てを結集させたとしても止めることが非常に困難と呼べるような状態だ。

それに、我々が生きるために必要な水や食糧にも限りがある。

『H.Y.O.U.R.O.U.』のガス欠を待ったとしても、先に我々が滅ぶことは確実だろう。


これらの事実を受け、世界に新たな3つの勢力が生まれた。

それは「イクサビトを全滅させ、この星に都市を作り直す」のを目標とする派閥と、「イクサビトを振り切り、この星から脱出する」のを目標とする派閥、そして自然派の成れの果てのような派閥。

それぞれ「殲滅派」、「脱出派」、「過激自然派」と呼ばれており、前者2つは「科学派」から枝分かれした派閥である。

またどちらを取るにしろイクサビトの情報は必要だと言うことで、この2つは現在「科学派連合」として一時的な協力状態にある。

「過激自然派」は科学派の者たちに「無駄な抵抗をやめ、自然派として我々と共に罰を受けよ!」と主張している派閥で、「共に罰を受ける」ことに重点を置いているがゆえに科学派連合の代表の「そんなに罰を受けたいのなら自分たちで勝手にやっていろ」という主張を聞き入れておらず、一部の科学派連合から「愚者」「穀潰し」などと呼ばれて忌み嫌われている。

また過激でない「自然派」も毎日少しずつ現れており、人知れずイクサビトの糧となっている。


私自身は「科学派連合」に身を置いてはいるが、どちらにつくかはいまだに決まっていない。

このような状況で正しいのはどちらか、なんて答えることはできないし、この件が解決した後に何もかも忘れてのうのうと過ごすのは何か違うとも思う。

ただこの状況のままではいけない、と言う漠然とした心持ちで、私は目の前の課題に取り組んでいる。

...私はいったい、何のために、何と戦っているのだろう。

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戦人-イクサビト- 三刻棒図 @ST079791

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