セツナノイチガン

先にこの戦いの結果を言わせてもらうと、我々人類は異星人の撃退に成功した。

では、自ら死を望んだ「自然派」を除く生き残った人々の、それぞれの戦いの結果を始めから今に至るまでまとめていこう。

まず動いたのは「科学派」。彼らは自分たちが持てる最高の技術をもって強力な兵器を次々と開発し投入したが、やはり異星人の技術力には及ばず、たったの2週間で全てが撃墜されてしまった。

その後3年ほど経ち、打つ手の無くなった「科学派」と入れ替わるように現れたのが、「野性派」と呼ばれる勢力に属する人類…

いや、「かつて我々と同じ姿をしていた存在」であった。


遥か大昔、この惑星の生物は「進化」により姿を変え、厳しい自然に適応していった。

それは人類も例外でなく、四足歩行から二足歩行へと歩き方が変わったり、火を使ったり、道具を作ったり、文字を書いたり…

進化していくにつれ、人類は弱肉強食の自然の世界から逸脱していった。

それがやがて生物の種の存亡を操作できるほどになっていき、事実我々の影響で絶滅した種は数多く存在する。

それに人類同士の争いに巻き込まれて命を奪われる動植物だっている。


…少し話が逸れたが、本題に移ろう。

「科学派」が敗北して3年後。ある日突然現れたヒト型の生物は、身長は平均2mほどで、筋骨隆々な体格をしており、歯は牙と言った方がいいほどに鋭く、また全身を覆う真っ黒な体毛が皮膚に鎧のごとく一体化している、という身体的特徴を持っていた。

突然異星人の前に姿をあらわしたその生物は、凄まじい跳躍から繰り出された飛び蹴り一発で我々の作った兵器をいくら打ち込んでも傷ひとつつかなかった「巨大な塊」をひん曲げてしまった。

その後、今が好機と言わんばかりに無数の彼(?)の同族が姿を現し、「巨大な塊」を攻撃し続けた。だが、無論異星人側もやられっぱなしというわけにはいかない。強力なバリアーを張り巡らせ、凄まじい威力の光線を雷のごとく地上に放った。

…「科学派」の者たちは、二つの勢力のぶつかり合いを、ただ偵察用ナノドローンのカメラ越しに見守ることしか出来なかった。


そんな中、「科学派」の中で名の知れた生物学者である「シルダーガ」氏が、「同じ星に住む者として、彼らと協力し、異星人を撃退する!それが我々が進むべき道だ!」と声を上げた。

彼は助手と共に「突然現れた謎の生物」の研究を瞬く間に進め、彼らがかつて自分たちと同じ人間でありかつて「野性派」と呼ばれる勢力に属していた者たちであったこと、このままでは水分や栄養が不足することにより生命維持に限界が訪れてしまい、いずれ絶滅してしまうことなどを突き止めた。

そして次のステップとして、彼らを人類から進化した生物...「イクサビト」と名付けたのだった。


このことを現存する全てのシェルターの人々に発表した後、シルダーガ氏は多くの技術者の力を借り、イクサビトの生命維持を大幅に助長するための機械を作りあげた。

簡潔に言うと、この機械はいわゆる「点滴」の際に使用する液体のようなものを作り出し、そしてそれを花火のように放出する...といったものである。ちなみにもしその液体が気化してもイクサビトであれば吸収が可能であるということは機械の完成前に判明しており、その辺りは抜かりない。


そうしてテストを終え、機械を本格的に起動。

『生命維持が困難』と言うイクサビトの大きな弱点が消えたことにより、拮抗していた勢力図がじわじわと変わっていき、イクサビトたちは次々と異星人の軍勢を圧倒した。

かつて苦しめられていたバリアーや光線による攻撃を、彼らはだんだんと余裕をもって避けられるようになっていき、そしていつしか直撃しても全く効かないようにまでなっていった。

その後ふた月ほど経ち、かつて空を覆っていた「巨大な塊」が多くのイクサビトの攻撃によって墜落。

ついに我々は、この惑星を破壊してきた異星人の撃退に成功したのだった_。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る