インターンシップ『磯山さん』(またお笑いネタかいな)

岩田へいきち

第1話インターンシップ『磯山さん』(またお笑いネタかいな)



「お前、『インターンシップ』って知ってるか?」


「なんや、その競馬みたいな名前、『ゴールドシップ』の兄弟か?」


「何が競馬やねん。お金ない俺たちには関係ないやろ」


「そやな、ああ、ボタン押して、『こんにちは』とか『もしもし〜』って言うやつな」


「いや、それはインターホーンやろ」


「ああ、悪い悪い」


「お前、わざと外してるやろ? いい相方持ったわ、俺」


「ああ、お正月とかお盆明けに渋滞するやつな? もうすぐお盆やしな」


「それは『Uターンラッシュ』や。あんな、お前は芸人やし、サラリーマンの経験ないから知らんやろうけどな、あんねん。『インターンシップ』という制度がな。企業がどんなことやってんのやろな? とか外から見とっても分からんからな、中に入って行くねん。高校生とか大学生が実際に企業の中に入って働いてみるねん。そしたらな、学生の方もこの会社じゃ、こんな仕事するんやなとか、これ興味あるし、やっていけそうや思うたり、なんやこの仕事、私には無理や思うて、就職するのやめとこうと判断することも出来るしな。

 企業側としては、自分ところの仕事は、こんなもんやと分かってもらった上で、気に入った子を選べるし、採用した後で『こんなところと思わへんかったわ〜』言うて途中で辞める子が減って助かるし、何より優秀な人材を見つけ易くなるというメリットがあるわな、逆にこの子は雇わんとこって様な子を避けることも出来るしな」


「ああ、雇っても役に立ちそうにない子を見分けることも出来るってことな。なんや、マッチングアプリみたいな制度やな?」


「えっ? ちゃう思うけど・・・・・・言うてみればそうとも言えんことないな」


「やろ? 俺この手の話、詳しいんや。サラリーマンはやったことないけどな」


「なんか怪しいことに使ってるんちゃうやろな? まあ、ええわ、その『マッチングアプリ』な、いやちゃう、『インターンシップ』な、うちんとこの会社、中小企業なんやけどな、やってんねん」


「ほう、『マッチングアプリ』やってんのや」


「ちゃうて、『インターンシップ』。社会にも貢献してんのやで。そんでな、うちの会社、ちぃとも儲かってへんでな、そんなん受け入れる余裕あらへんのに毎年、何人か受け入れてるんやな。そんな余裕あるんやったら俺の給料上げたれ思うんやけどな、俺の給料は、上がらへんねん」


「へぇ、お前、給料上がらへんの? 岸田総理があんだけ、『給料上げぇ、上げぇ』言って言うてるのに上がらへんの? 非国民な会社やなあ」


「そうなんよ。そのうち、最低賃金に俺追い越されるんちやうかと俺も会社もヒヤヒヤしてんのや」


「そうか、そら、難儀やな。そんな会社早よ辞めて、いっぺん俺と漫才のコンビ、組んでみんか? ああ、組んどるんやったな。『今月の給料待ってくれ』と事務所の社長が言うとったど」


「またかいな。まあ、ここは最初から最低賃金なんて適用されてへんから、やりたい放題やな。なんや、前置きが長うなってしもうたけど、インターンシップに戻るで」


「ああ、来たか、待ってたで〜」


「ほんまかいな? 来たんやがな、可愛い女の子」


「おお、さすが、国推奨の『マッチングアプリ』やな」


「ちゃうて、『インターンシップ』 普通はな、大学3年生が来るんやけどな。この子は、大学2年生。夏休みを利用して来るから2年生でも参加できるんやな。歳で言うたら20歳ぐらいや。

『磯山さん』っていうてな、磯山さやかみたいにふんわかしてて、可愛いんや。磯山さやかには、悪いけど、それをもうちょっとシュッと細くした感じの子なんや。


「でもな、だいたい他の子も含めて、部長が担当するんや」


「ああ、要領いいから出世もするし、美味しいところ取るんやな?」


「まあ、俺たち雑魚は、忙しいからな、お暇な部長がどうぞやってくださいと思うてるんやけどな、この磯山さんは、可愛いからな、ちょっとは、教えてみたい思うてたん。そしたらな、部長が居ない日があってな、俺に、品質試験や設計のこと教えとってくれへんかて頼まれたんよ」


「おお、ついにお前が20歳の磯山さやか似の磯山さんになんか難しいこと教えるんやな?」


「そうなんや、ついに俺に来たんや。思わず、『神様ありがとう』言うてしもとったわ」


「そんな大袈裟やな、そんなに可愛いかったんかいな、磯山さん」


「フワフワっとしてな、可愛いかったわ。あんまりフワフワしてるからな、会議室で習ったことノートにまとめながらな、ちょくちょく寝てるところ見かけてたんやわ」


「寝てたんかいな、わざわざ、実習させてもらってるのにダメやないか、企業としては、雇いたくないタイプやな」


「まあ、ええやないかい。お前だって、若い頃は眠かったやろ? 彼女らはな、昔とちごうて、帰ってからもバイトしとるんやで。朝早くから電車乗ってな、こんな田舎の中小企業までわざわざ来てくれてな、眠いんや。しかも可愛いんやで」


「まあ、最近の子はバイトしおるからな。しょうがないところあるな。お前、懐深いなあ、さすが俺の兼業相方やわ。サラリーマンと俺の相方、兼業でやっとるからな」


「まあ、そやな、まちごうてへんわ。それでな、いよいよ、教えたんやがな」


「おお」


「お前には難しいから理解せんでええで。機械的強度試験や電気的試験の話とかな、それを満足させるための設計の仕方とかな、説明しとってん。机を挟んで1対1でな。今とちごうて、マスク無しでな。可愛いんやわ。フワフワ、寝てんねん。」


「また、寝てたんかいな、1対1なんとちゃうんかい?」


「そうや、俺もびっくりしてな、顔、すうっと近づけてみてん。そんでも寝てるからな、もっと近づけてな、もうキスできそうくらい近いん。どんだけ俺に気許してるん? 俺こと好きなんかいなと思うたわ」


「危ないな。ヘビに睨まれたカエルやな。お前よう我慢したな。それにしてもダメやな。お前んとこの厳しい中小企業で居眠りばっかりしとったら使いもんにならへんな。目の前で寝てるんやで」


「いや、あるて、磯山さんが可愛いからかばっとる訳やのうてな、俺もあるんや」


「あるんかいな」


「若い頃な、専務とな、常務とな、3人で、ちぃちゃい会議室で打合せしとったん。俺、寝てたわ」


「お前も寝てたんかいな。俺、分かったわ。お前がそんな失礼こと、重役の前でやってたこと反省せいって神様が磯山さんを眠らせとったんや」


「そうやろか? そうかもしれんな。そんでな、その後な、俺から習ったことまた会議室でノートパソコン出して、まとめとってん。寝てへんがな。本当は真面目な子やったんやなとな、どんなこと書いてるんかなと見に行ったらな、


『すみません、他の会社のインターンシップのレポート、今日までなんです。書かせて下さい』


と言うねん」


「なんやそりゃ? お前の講義の内容まとめとったんじゃのうて、他の会社の分のレポート書いとったんかいな? そんでお前なんて言うたん?」


「部長もおらへんし、いいで、言うてしもうたわ」


「いい、言うてしもうたんかいな」


「まあ、俺が厳しくしてもしょうがないしな。企業は印象が大事やからな。嫌われたくなかったんよ」


「いいんかいな? そんなんで、絶対,雇いたくないタイプやな」


「給料払ってへんし、いいんやて。そんでな、そのインターンシップでな、うちの会社入った子、これまで、1人しかおらへんねん。それは俺のせいやないし、これまで担当しとった人の印象のせいや思うねん。ここ2年ゼロやわ。技術部、人材不足やねん。そんで、言いたいことあるんやけどな」


「なんやねん?」


「磯山さん、会社入ってくれ、待ってるわ」


「雇うんかいな。もうええわ」


「「ありがとうございました」」



終わり


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

インターンシップ『磯山さん』(またお笑いネタかいな) 岩田へいきち @iwatahei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ