お姉さんは殺戮鮫のハンカチをくれた

邪悪シールⅡ改

転んだ私に殺戮鮫のハンカチ

 陽が沈もうとする最中、足下を確認しなかった私が甘かったのだろう。

「あ~あ。転んじゃったねぇ」

 擦りむいた鼻から少量の血を呆然と流していた私に、そのお姉さんは幼い表情で微笑む。

「泣かないの?」

「泣かないね」

 お姉さんの肩を借り立ち上がった私は鼻息一つで強がった。

「あはは、綺麗に真っ赤っか。ほら、私とおんなじだよ~」

 夕陽の色かと思ったら、どうやらお姉さん自身の髪色らしい。

「触って、触って」

「…………」

「健康的だねぇ」

 低い声で笑う彼女は、制服の内ポケットからハンカチを取り出した。

「鮫さんだよ~」

 恐ろしくグロテスクなタッチで描かれた海の殺し屋は、今や柔い布きれと化し私の顔を襲う。

「むしゃむしゃ。やっぱり鮫さんには血が相応しいよね?」

「モガ……」

「ね?」

「……うん」

「あはは」

 既に血は止まっている。

 だが私はハンカチで顔を覆う。

「バイバーイ」

 やがてハンカチを残し、彼女は去って行く。

「それあげるよ~」

「…………」

「あははは」


     〇


 十年後の私は、鮫の絵を描く日々にあった。

 手首にあのハンカチを巻きつけ、より残忍でよりおぞましい形相の鮫を夢想し産み続ける。

 あのお姉さんにはあれ以来会っていない。

 彼女が何者か? 鮫の伝道師かもしれないし、ただの変人かも知れない。

 だがどちらにしろ、私は鮫を描き続けるだろう。

(あははは)

 笑い声は永遠に消えない。

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お姉さんは殺戮鮫のハンカチをくれた 邪悪シールⅡ改 @33jgyujgyugyabb

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