第4話 悦ばしき知識

 村人Aが群衆に取り囲まれ、どこかに連れて行かれた。


 その光景をベルリは呆然と見送っている。

 やばい、ベルリが放心状態だ。


「く、くそぉ、罪のない人を殺しかけるなんて!!」


 俺の言葉にベルリはハッとして振り返り、ニヤリと笑う。


「そ、そうだ、お前も黒焦げにしてやる!」

 

 ベルリはセクサソールを抜くと反対の手で禁術を使おうとする。

 肩の血が止まらない。

 くらくらめまいがしてくる。

 聖剣のダメージのせいで抗うことが出来ない。

 

 誰か、誰か、助けてくれないのか?

 周囲を見回すが、みなが冷たい目で俺を見下ろしている。

 そんな、だって、俺はみんなを守るために戦ってきたじゃないか。


 そうだラピスなら!

 悲し気な表情を浮かべるラピスに目で助けを求める。

 ラピスとは魔王を倒す前日のキャンプで愛を告白したんだ。

 終わったあとに、二人で郊外に家を建ててポーション屋を開くと。

 だから、俺はまだ死ねない!


「ラピス! ヒールをお願いだ! 一緒にここから逃げよう!!」


 名誉も栄光も仲間も、いらない、二人で一緒に暮らせるなら。

 

 ――そんな俺の淡い望みを打ち砕くように、ベルリがニンマリと笑うのが目の端で見えた。

ラピスは俯くと、こちらに向かって歩いて来たがベルリの下へ行き……


「ベルリさん!! 見損ないました!! アナタは魔王に魂を奪われています!! さぁ。アラン様、回復いたし」

「はい、ストップ」


 世界の時が止まる。


「ミカさーん」

「おお、そのような御戯れで呼ばれますと恐縮いたします」

「皮肉ってわかる?」

「神のみぞ知」

「いや、もういいから! そのセリフ!! ラピスどうしたラピス!? この娘はNTRですよ? ベルリに夜這いかけられて、アへ顔ダブルピースなキャラだよ? そこに最大の絶望を俺が感じて、最上級のザマァへ向けて話が走り出すんじゃないか!?」

「おお、我が神よ。姦淫することなかれと説かれた故に、神の御威光にこの娘もひれ伏し、世界の理を超えたと私は解釈いたしました。偉大なる我が主」


 慇懃無礼してえうだよ、このミカさんはよぉ。

 つまり、我が悪いと言っているんだろ? 

 設定が甘いからこうなったと。

 我は神ですよ、神。

 キミも63個の世界も創りあげた万能の創造主たる神なんです!!


「で、ラピスはどうなのヤってるの?」

「待ってください……虫眼鏡をこうして」

 

 だから、そんな設定ないから。


「やってるか、やってないか、で言えばぁ」

「言えばぁ?」

「やー……ってない!」

「んー、どうしてぇ? この娘は神官だけど淫乱でNTR大好き設定入れたよ」

 

 ミカエルは押し黙ったまま、天を仰ぐ。

 まるで神に答えを求めるかのように空を見つめる。

 いや。隣にいるから、神は。


「分かりました。謎が」

「ほぉ、興味深い。謎があるのか? 我が知らない謎が?」

「ええ、僭越ながら、村人Aもこの娘も、神ご自身が設定したように思えます」

「……なんだと?」


 我が設定しただと?

 我は綿密にザマァを堪能するために物語の構築は抜かりなく設定した。

 モブはランダムにしたとは言え、物語をくじくようなランダム化は今まで遭遇したことはない。

 たまたまが重なったなら、分かるがそもそも、我がこんな台無しになるような設定するとは到底思えない。


「62回目の世界で我が神は前任者のルシフェルに『ヌルい』と仰ったとの記録がございます」

「……確かに、そんなことを言ったような気がする」


 売り言葉に買い言葉でキサマの進行はヌルいんだよ! と確かに言った。

 52回からずっとアイツが世界の裏ボスみたいな明けの明星、とか、反逆の堕天使とか、最後のシ者とか、いつも展開一緒だから。

 バレバレの展開を終わりにしたいから、ミカエルに進行を代えたわけだが。


「まさか、ルシフェルが何かしていたか?」

「ええ、そのまさかでございまして、どうもこの世界は『ヘルモード』だそうです」

「へるもーど……それって我に内緒で異世界設定を勝手にルシフェル流に組み込んだってこと?」

「そのようです」

「絶対、アイツがラスボスじゃん!! まーった、父上の愛を欲しかった!! とか言うヤツだろ!? うわ、もういいわ、創生する。この世界は破棄で」

「……そのようにも考えたのですが、どうも、身体がうごきま」

 

 ヒュンっという音と共に静止した世界からミカエルが消えた。

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63回目の異世界創造でザマァを楽しんでいたのに、マッチョな村人と天然ヒーラー娘がバグって台無しにしてくるんだが MC sinq-c @iroha0607

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