第3話 死神とゲームで対戦
「死神として何してるんだ?」
第二夜目、また昨日のように街灯が彼女の横顔を一定のリズムで照らしていた。時刻は二十五時過ぎ、彼女は二十五時になったとき、どこからともなく現れた。
その問いに対して一瞬の間があった。
「死者の魂の選別と、死ぬ運命にある人間を死に招く仕事の二つがある。だいたい二十五時過ぎにやっているのが後者の仕事だな。現世に介入しやすいから」
「寝たりとかしないのか?」
「死神サマに睡眠など不要だよ」
こつこつ、と、二つの足音だけが聴覚を支配する。
「僕と一緒にいて大丈夫なのか? 仕事しなくて」
「う~ん」
返答に困ったように、明らかな作り笑いを浮かべて取り繕いながら答えた。
「わりと簡単な仕事だからさ、この後にやればなんとかなるんだよ」
「ふ~ん、そういうもんか」
まったく目的も見えなければ本性も見えない。ただ不思議と彼女に心を許してしまっている自分もいる。
「なんで僕を助けてくれるんだ?」
「……困ってる人がいたら助けたくなるだろ? そういうことだ」
胸を張って答えたが、何か無理をしている気配は感じられた。別に僕のことを嫌っているわけではないことは当然わかるが、どうしてそこで返答に詰まるのかはまったく予想がつかない。死神について踏み込んだことを訊くとすべてはぐらかされてしまうようだった。
それよりも、今日はあまり精神的な調子が良くなかった。
「だめだ、今日調子が悪い。外歩くの無理かも」
「お? 大丈夫か?」
何やら少し焦った様子でこちらの顔を覗き込んでくる。
「あ、じゃあうちでも来るか?」
「え? 人間界に家あるの?」
「ああ、仮住まいみたいな部屋を借りている。いざ招いて差し上げようじゃあないか!」
少し郊外に行った住宅街に彼女のアパートはあった。知らない人の家に上がるという緊張感があった。今更になって、この死神を自称する人物が怪しく思えてきたが、後には引けない。招かれるまま玄関に入った。
「殺風景な部屋だな」
「まあほとんどビジネスホテルみたいな使い方しかしないからさ、基本家具はないんだよ」
六畳ほどの部屋に、布団が敷かれているのとゲーム機とモニターが床に置かれているだけだった。
「なあ、ヨル、一緒にゲームやろうぜ! 普段一人でしかやらないからさ」
「友達いないの?」
「うるさいわい」
二人でゲームをやることにわくわくした表情から一変して不機嫌そうにそっぽを向いた。
「体が、重い、ゲームやる気力ないかも」
完全に今日は何をする気力もなかった。すると、露骨に死神が「え~」と残念そうな顔をするから、「仕方ないなあ、ちょっとだけやるか」と答えるとすぐに表情は明るくなった。
「ス〇ブラがあるからやろうぜ」
「ス〇ブラか、それならやったことある」
ゲーム機の電源を入れ、そのゲームを起動した。
「へっへっへ、死神は人間よりも長く生きるもの、ゲーム歴は当然貴様より長いだろう」
「そりゃずるいな」
死神は自信満々にキャラを選択し、対戦が始まった。
「はいバースト一回目」
「即死コンボ⁉ なんで⁉」
早速死神の使うキャラが撃墜された。
「はいまた決まった。二回目。次で最後だな」
「えっえっ」
「はいバースト」
「えっえっえっ」
画面にゲームセットの文字が表示された。
「ヨル、お前強すぎないか?」
「学校に行けない時に、虚無感を埋めるためにずっとやってたんだ。メンタル終わってる時何かに集中するってのはいいぞ」
「た、たかが人間ごときのプレイ時間で? 私が負ける?」
ショックを受けたようでしばらく硬直していた死神は、再び我に帰ると「もう一戦だ! 私が勝つまでやめない!」といってコントローラーを握りなおした。
しかし何度やっても結果は同じだった。
「くっ、もうやめだやめだ! 別のゲームをしよう!」
コントローラーを手放した。
二十五時の死神 夏目一馬 @Natsume_Kazuma
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