西陽
檸檬soda
煙草
西陽の差し込む教室の外にある人影を見た。
凛とした顔で遠くの空を眺めているその姿はまるで写真のようで美しい。
「門倉先生…」
その名を呼んだ途端にツンとした独特な香りが刺した。同時に背を向けていたその絵は動きだす。
「佐伯君、こんな時間にどうしたの?」
こちらを見た門倉先生の手元には吸いかけの煙草があった。ただ、表情はさっきの様子とは違って、いつもの優しい笑顔を浮かべていた。
「わ、忘れ物を取りに来ました。」
返答が上手くできたか分からない。目の前に居る先生は、いつもと同じはずなのに全くの別人に見えたから。煙草の匂いが僕の中を満たしていく。耳に煩く蝉の声響いて離れない。徐々に距離を詰める先生から目が離せなくて、胸の鼓動だけが早くなっていく。
「佐伯君、このことは秘密にしてて?」
目前に迫った香り、先程の凛とした目、そして髪を耳に掛けてそう囁く彼女は『大人』という言葉が似合う。僕がそっと頷くと、彼女はまた見知った顔で
「気をつけて帰るんだよ。」
と一言告げて、僕の頭に優しく手を置いて廊下を歩いていく。その後姿を窓辺に写して、また僕の胸の鼓動は乱れる。
「秘密にしてて?」
その言葉だけが僕の心に住み着いてしまった。
西陽 檸檬soda @saayalemon
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