僕にしかない空
青斗 輝竜
第1話
今日も曇り空だ。
いつからだろう。空を雲が覆い尽くし太陽の光が見えなくなったのは。
はっきりと思い出せるのは大切な人が離れていったということだろうか。
それがいつだったのかを思い出す術はなくなった。
この太陽の見えない、薄暗くて気持ちが沈んでしまう空の中で僕は無気力のまま動けない。動きたくない。
それでも足掻き続けた。あの人に会うために。明るくて眩しくて、それでいて優しいあの光を僕はもう一度見たい。そのためならどんな事だってどんな所にだって行く。
だってそこにあの人はいるから。
「約束」
どこからともなく呟いた。
そうだ、僕らは約束した。例え、離れ離れになってもまた会おうって。
だから何年も何年も曇り空の中で僕は晴れを探して努力してきた。
そして僕は、やっとのことで見つけた雲間を洩れる日の光に誘われるようにしてそれを追いかけた。
何年会っていなかろうが間違えない。
「あの――」
僕は声をかけた。後ろ姿の凛々しいあの人。
少しばかり雰囲気は変わったかもしれないけど、それは晴れだ。
僕に気づいたその人はゆっくりと、後ろを向く。
――ああ、やっぱり。
二人同時に反応したんだと思う。
彼女は驚いた後、顔を明るくさせると僕の方に走ってきて思い切り胸の中に飛び込んで来た。
留学から帰ってきた彼女が僕の胸の中にいる。
何年ぶりだろうか。たった数年だというのに嬉しくて堪らない。
彼女は晴れだ。もう曇りに怯えることはない。
僕の心の空から寂しいという感情の曇り空が消えた瞬間だった。
僕にしかない空 青斗 輝竜 @KiryuuAoto
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