天の川
此糸桜樺
天の川
今日は七夕。
年に一度の、素敵な日。
恋人に会える、特別な日。
鼻歌交じりで化粧を始める。
華やかな服を着て、髪をきれいに結って、とびっきりのくつを履いて。
天の川の真ん中で、白鳥が羽を広げて待っている。
白鳥の渡し橋が、私たちを繋ぎ合わせてくれるのだ。
数多の星と、美麗な星と。
私たちの再会を祝福するかのように。
弾む心を押さえつつ、天の川の中央へ向かった。
白鳥は言った。「今年も来たのか」と。
星屑は言った。「いくら来ても無駄だよ」と。
しかし、私は彼らの声に耳を塞ぐ。「黙っていて」と。
きっと、彼はもうすぐ来るはずだ。
「まだかな」
私はずっと待っていた。
鮮やかに脳裏に浮かぶ、彼との思い出。
楽しいお喋り。優しい声。
ゴツゴツした手。温かな体温。
私はずっと待っていた。
立っているのが疲れてきて、地べたに座った。
どれくらいの時間が経っただろう。
どのくらいの年月が経っただろう。
それでも、私はずっと待っていた。
白鳥は言った。「受け入れろ」と。
星屑は言った。「帰らないのか」と。
しかし、私は彼らの声を退ける。「彼は来るわ」と。
いつまでも、私はずっと待っている。
ボウッという音と共に、星がひとつ死んだ。
足元の星屑が、だんだんと頼りなさげになっていく。
ひとつ、またひとつ、と。
白鳥は何も言わず、そっと私に寄り添った。
貴方に会いたい。
頬が、すうっ、と一筋だけ冷たくなった。
ここにくれば、貴方に会える気がしたの。
会えないとは分かっているわ。
でも、諦められないの。
七夕になるとやっぱりここに来てしまうの。
もう貴方はいない。いないけれど……。
――天の川は私たちにとって思い出の場所だから。
◇◇◇◇
数万年後。
ボウッという美しい光と大きな音が、辺りを包み込んだ。ついに、ベガが死んだのだ。
――彦星様。やっと迎えにきてくれたのね……。
やがて、デネブもベガもアルタイルも、跡形もなく燃え尽きた。
この世界に、もうあの頃の夏の大三角形は存在しない。
天の川 此糸桜樺 @Kabazakura
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