第2話 ジンチョウゲ
「みしろは店長から色々と聞いているんだよね?うち人手不足だったから若い子が入ってきて嬉しいよ~」
「それは、ありがとうございます・・・けれどどうしてファミレスでご飯を食べているのでしょうか」
『彼女にこの街を案内したい!』なんて言い残して店番もせずに勢いのままお店を出てしまった。正直、仕事をさぼりたくて出ていったわけではない。ただ、常連さんが来るには遅すぎるしこの後の時間に来店するとしたら酒飲み客か本部から出向いてきたエージェントぐらいだ。
私は、ともかくエージェントの連中が嫌いで自分たちも良い腕があるわけなのに自分たちは腕を汚したくないがために頼んでくる。こちらは命を張っているのにもかかわらずなのに不公平ではないだろうか。
「そんなに嫌いなんですね・・・でも大半の依頼って上からの指示じゃないですか。普段、どうしているんです?」
どんなに嫌いであっても依頼は依頼、きちんと報酬は発生するし普段のカフェの営業よりも単価はずっと良い。本業はそっちなのだから優先して副業がてらカフェをやればいいなんて思っていた時期もあったが店長のひと言がキッカケだった。
「割に合わない…人を殺す事に報酬を発生させるなんて馬鹿げてるしそもそも札束で買える命なんて何処にもないはず…私も最初はビックリしたんだけどさ、よくよく考えてみればその通りだなぁって」
もしお金で買える命なんてあればいくらだろうか。犯罪者、詐欺師、国会議員、どこかの国の王様…そして私たち一般人。
皆等しく同じ命で、一個の心臓を休む間も無く動かして生きている。
無機質な紙から送られる人殺しの依頼に弱50ほどの店長はいつの日か心を病んだのだろう。自分が現役を退く事になり、代わりに働く事になった彼はその重さを知ってからこそ人殺しの依頼は受けないようになったのだ。
「私には分からないです…不知火さんの伝えたい言葉には、それ以上にご自身が経験された事も加味された上なのでしょうから」
「私だって完全に把握はしていないよ〜、まだ18だよ?けれど普通に考えたらこんな子供がやるべき事じゃないからね。だからこそ、あの人の優しさに甘えようよ」
そう言うとみしろは口を閉ざして頼んだオレンジジュースに口を付ける。互いが頼んだ料理はいくらか冷めているようだ。完全に冷め切る前に頂こうとフォークを伸ばした瞬間、一通のメールが届いた。宛名は不知火…きっと依頼だろう
「ん、みしろ〜依頼が入ったよ。なになに…『飼い猫が逃げ出してしまった夜になる前に見つけてほしい』だって」
「普段からこうゆう依頼を受けているんですか…?なんか何でも屋みたいな」
「うちは何でも屋だよ〜?それに言ったじゃん、店長はアレを好まない。だから、何でも屋のような依頼になるんだよ」
「それより行くよ!みしろの初任務、ばっちり成功させなくちゃ!」
「…張り切りすぎですってば」
⭐︎⭐︎⭐︎
「猫ってあんなにすばしこったんですね。初めて知りました…」
「網を何度も空振りさせるの可愛かったよ〜」
「もういいでしょう!やめてくださいよ…」
「まあまあ~一件落着ということでいいじゃないの~みしろの初のお仕事を祝して店長に何かおごってもらおう!」
「あの、私其処までお腹すいていなんですけど、、、ちょっ⁉引っ張らないでください!」
こうして初のお仕事は無事に終えることができた。活発おてんば女子と冷静沈着な女の子のコンビは、気が付けばいがみ合うほどに相性が良くない。けれど互いにまんざらでもなく手をつなぐ二人は笑顔を見せていた。
テリアテラス Rod-ルーズ @BFTsinon
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