テリアテラス

Rod-ルーズ

第1話 イカリソウ

これはどこにでもあるふつうの飲食店。常連さんやぶらりと立ち寄るお客さんなど変わりない喫茶店。

そんなお店に一本の電話が鳴る。その内容はお店の予約とかではない、『本来の仕事』が入ったのだ。


「店長~電話だよー!代わって~」


今回の依頼は暗殺か要人の護衛か。それとも掃除のお手伝いか、、、


このお店はカフェテリア『Terrace In』

東京都葛飾区にある小さなカフェで、朝から夜にかけて店を開いているけどお客さんはそれほど多くない。

表向きの顔は一般的なカフェだけど、実際の顔は暗殺からお掃除までする何でも屋なお店

これはそんなお店で働く女の子の話



『今日はそのままテラスに向かうね~』


店長である不知火錦次(きんじ)に連絡を入れる。

少し前から連絡手段をチャットに変更したものの未だに使い慣れず今でもきっと一人、スマホを眺めながら頭を搔いているのだろう。

今年で55歳を迎え老眼が酷いと話していたのにもかかわらず、無理やり始めてしまうのは今思い返すと少し悪いことをしただろうか。

けれど、今の時代に電話連絡をメインにしているのはどうしても受け止めきれなかった。


「ねぇ!葵も今日、一緒に買い物でも行かない?昨日、調べてたらお洒落なお店見つけたんだけど」


「ごめ~ん、今日はバイト入っているんだ!みんなで行って来てよ」


「え~またなの??もしかして葵、彼氏でもできた感じ?」


「そんなことないよ~、あ!ほんとごめん!急いでいるからまた今度ねー!」


鞄を手に取り、足早に教室を出ていく。

私自身、彼女たちと遊ぶことは嫌いじゃないし何なら大好きだ。

けれど平穏な暮らしをを送っている彼女達とは一生、分かり合う事ができないのも事実で心が苦しくなる。

靴を履き替えて正門を出た後再度、スマホを確認する。店長から通知が来ていないか確認するためだった。


『了解した。それと今日から新しい奴が入ることになっているから色々と教えてあげてくれ。年下だから優しくするんだよ』


(まじか!この文面だと絶対に女の子だ!くぅ~~~堪らない!!)


喫茶店で働く人は50代の店長と28歳フリーターの自堕落女、そして今をときめく18歳の女の子である私しかいないのだ

少しでも職場に若さの花が欲しいところだったので、急いで向かっていった。



「ごめーん!遅れました!電車が遅延しちゃって・・・」


「いらっしゃいませ」


勢いよく扉を開ける、店長も渚もいない。

店長は裏にいるのだろうか、渚はきっと買い物だろう。しかし、ここにいるのは誰だろうか。

ここのお店から支給されている制服はパンツスタイルのバーテンダー的な服装とメイド服に似たタイプの2種類なのだが、こちらにいる彼女はメイド服タイプを着ている。

ここの制服なのは間違いない、だが見覚えのない子なのだ。


「あのどちら様で、しょうか……」


「?」


彼女の方が少し困惑しているようだ。私より背の低い毛先が青みがかった髪を揺らしながら店の奥を見つめる。

それから数分経つと奥から180を超えた大男が現れ、50代とは思えないような出立ちのおじさんが現れた。その男こそ不知火錦司である。


「コイツが今日から働く琴吹みしろ、だ。学年は中学2年生、数え年でいうと14歳だな。葵の4つ下にあたる。あまり世の中の事を知らない。だから少しづつでいいから教えてやってくれ」


「はぁ…あのウチの事って知っているんですか?」


「それは勿論。うちが普通なアルバイトを雇うと思うか?」


それはそうか、普通のアルバイトなんて雇うほどホワイトなお店じゃない。結構、グレーなところがあるわけなのだから。


(とりあえず挨拶でもしないとな…うん、緊張させちゃったわけだし)


「みしろちゃん?でいいかな、私の七色葵って言います!ウチのことは店長から聞いているとどうしてうちに?」


そう聞くと彼女は苦虫を噛んだような表情を浮かべた。何か不快な気持ちでもさせてしまったのだろうか。確かにこの年齢で抜擢させられるくらいの腕なのだ、きっと都会から離れたこの街に飛ばされたのが癪だったのだろう


「あぁ!ごめんね!言いたくない事があれば無理して言わなくて…」


「左遷です…」


「たらいまわしでいろいろな現場を見てきました。けれど、どこにでもなじめず・・・」


なるほど、そういった経緯でここに流れ着いたのか。


「けれど腕はたつ子だよ。経歴だって10歳から始めているから、葵より経験もある」


店長がすかさずフォローを入れるように話し始めた。耳を疑いたくなるような内容が羅列する。

10歳から?それって小学生の頃からじゃん!

その若さでこの道に足を踏み入れなければならない経緯も考えものだが、まずは彼女に色々と説明しなきゃいけない。

この年齢で左遷なんぞ分からないことも多いだろうし


「そっかぁ、、、それじゃあこのお姉さんがこのお店に慣れるように丁寧に教えてあげよう!ついてきたまえ!」


そういって彼女の手を握り。歩き出す。

何も知らない子と過去を清算したい子、5月の陽気は二人を照らし出していた。

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