第34話 恭子34
しばらくして検査を終えた理玖くんが加わった。
桔梗さんは理玖くんからも丁寧に話を聞いた。大まかなところは私と似たような内容になったが、細かなところ、例えば私が裏口へと続く部屋で扉ごと吹き飛ばされ、床に転がっている間のことなど、私が知らない事柄が含まれていた。
私たちの話が終わったあとで、あのとき救急車で運ばれていった男性のことを聞いた。すると、桔梗さんは躊躇いがちに、病院で亡くなったことを教えてくれた。
復讐とはその男性を殺すことだったのだろうか。
サークルはこの復讐のために作られたのだろうか。
大掛かりだと感じた。何年もかけて。しかも目的の男性が確実に来るかもわからない。手間はかかっているけれど、確実性のない復讐計画だ。
ただ、あの男性が警察関係なのだとしたら、誘き出すためにはこれくらいのことをしなければならなかったのかもしれない。
まだ何もわかっていない状態のようだった。
何もわからないまま、関係者は消えてしまったらしい。
あの廃校には多数の迷子たちも集まってきていた。おそらく私と同じタイミングで吸血鬼になったのだろう。けれど連行されていた人たちの中には、迷子は含まれていなかった。そして、捕まったメンバーは何も知らないと証言しているらしい。
消えた迷子たちが廃校のどこから外へ出たのか桔梗さんに尋ねられたけれど、私も理玖くんもわからなかった。
笑い顔の人は、ツーブロックの人を回収に来たのだと言っていたから、彼がみんなをどこかに連れていたのかもしれない。涼子も。
やはり涼子の想い人は、無愛想な人か笑い顔の人のどちらかで、この計画を手伝ったのだろうか。
彼女は犯罪者になったわけではないが、今後も行方は探すことになると桔梗さんは言った。何らかの事情を知っていると目されているからだ。見つけたら私にも連絡してくれるらしい。
私は昨夜、涼子に会ったことを告げるタイミングは今だとわかっていたけれど、結局、話さなかった。
彼女は本物の吸血鬼になっていた。私を吸血鬼にしたのは涼子だったのだから。もしかしたらそのことで、何かしらの罪に問われるかもしれない。
だから、やっぱり、言わないほうが良いと結論づけた。
それから、私たちの今後の話になった。
理玖くんは近いうちに家に帰るそうだ。迷子から人間に戻れたのだし、喜ばしいことだったけれど、本人は少し不満気だった。きっと森咲さんと離れるのが寂しいのだろう。
その気持ちは私にもわかった。私も寂しいから。理玖くんは小学生なのだから尚更だろう。
その気持ちもだんだんと薄れていくのかもしれない。そうなると、寂しくなるのは、逆に森咲さんなのではないかとそんな想像をした。側から見ても、二人は親子のようだったのだから。
「恭子さんはどうするんですか?」
理玖くんにそう聞かれた。
「私? 私もお家に帰るよ。夏休みの宿題もしなきゃだし」
涼子を探すためにここ数日は机に向かっていない。受験のことを考えると、もうそろそろ勉強にも力を入れなければならないだろう。
そういう当たり前の、他人に話せるような悩みが、今はありがたかった。
「大丈夫なんですか?」
それは普通の生活に戻れるのか? という質問だろう。
「大丈夫だよ。伊織さんとも少し話したんだけど、メイクでうまく誤魔化せば、あと二十年くらいは今の生活を続けていけるんだって」
今すぐどうこうしなくても良いことには、本当にほっとしている。
二十年もあれば、吸血鬼生活というものにも慣れているはずだ。それまで生きられればだけれど。
吸血鬼には敵もいるからと、伊織さんには注意されていた。あまり目立ったことはしないようにと。
「ご家族には?」
「そこなんですよね。もう普通の食事はできないので、一緒に住んでいる母にはすぐにバレてしまいます」
一般的に母とは聡い生き物であるが、その中でも私の母は超能力でも持っているかのような洞察力を発揮するのだ。
「ちょっと反抗期みたいに行動して、一緒に食事をしないようにするとか、考えてみたんですけど……」
今さら反抗期を装うのも恥ずかしい。
「仲は良いんですか?」
「はい。二人暮らしなので」
「二人暮らしか……隠し通すというのは難しそうですね」
「はい。なので、折を見て話そうとは思ってます」
「大丈夫ですかね」
娘からいきなり吸血鬼になったと告白を受けたら、通常の家族なら信じないだろう。笑い飛ばされる。もしくは場合によっては怒られる。
うちのお母さんならどうするだろうか。確実に証拠を要求してくるはずだ。
「平気です。たぶん。私の母はホラー作家なので」
面白がる可能性すらある。
行方知れずの私 秋月カナリア @AM_KANALia
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