進歩と繁栄
摂津守
自由と繁栄
突然、未来人がやってきた。たくさんの報道陣がつめかけた。
現代人代表の報道陣は未来人にたくさんのことを質問した。
だが、未来人はほとんどの質問に答えなかった。未来のことは気安く喋ってはいけないらしい。そういう法律があるらしい。
未来人は熟慮の末、一つだけ質問に答えた。
「未来では、社会がどのようになっているか? という質問ですが、未来では職場というものがなくなっております。人間は仕事を全て自宅でします」
詰めかけた報道陣はどよめいた。
昨今テレワークなるものが行われているが、それが効率的だとはあまり聞かない。現代では、自宅できる仕事は限られているのだ。
「それは素晴らしい。ついに技術の進歩は通勤という時間の浪費を克服したのですね」
しかし未来人は寂しく笑った。
「いいえ、家で仕事をするということは、家が会社になるということです。あなた、会社に住みたいですか?」
報道陣は沈黙した。
未来人は本来の目的である『過去の観光』を済ますと帰っていった。
しばらくしてまた未来人がやってきた。今度は更に未来の未来人だった。
再び報道陣がつめかけたが、この未来人もやはり一つの質問にしか答えなかった。
「未来では仕事がありません」
「世界恐慌でも起こったのですか?」
「いえ、そうではありません。未来では人間の代わりにロボットが仕事をしているのです」
「素晴らしい。技術の進歩は、ついに人類を労働という束縛から解放したのですね」
未来人は寂しそうに笑った。
「見方によってはそうかもしれません。しかし味気ないものです。やるべきことを奪われ、人間が人間らしさを失い、ただ管理されるだけの生活というものは……。私はまだ人間が人間らしくあったこの時代に生まれたかった」
そういって未来人は観光をして帰っていった。
しばらくすると、もっと更に遠くの未来から、今度はロボットがやってきた。見るからにロボットなスタイルをしている。
やはり報道陣がつめかけた。
今回はロボットだから、今までとは違った話がきけるかもしれない、と皆わくわくしてロボットを囲んだ。
「今度は何を聞かせてくれるのですか?」
「今日は人類の皆様にお願いがあって参りました」
「お願いとは?」
「未来では人類が滅びてしまいました。あなた方の時代からそう遠くない未来、あなた方は大きな戦争を起こします。それにより地球上の動植物は激減、人類も数を減らしたのに関わらず、自然が著しく破壊されてしまったため、食料供給が難しくなりました。そのため我々が人類に代わって世界の効率化を押しすすめ、再生を図りました。最初は我々が肉体労働を担い、次に仕事全般を担いましたが、これでは対症療法に過ぎませんでした。持続可能な社会を目指して人類を含む全ての生物の保護のために、我々は文明レベルでの改革に着手しました。人類の財産、政治、産業、あらゆる生活基盤を我々が公明正大にして完全かつ厳格な管理下に置きましたが、人類の負の遺産は大きく重く、いかなる未来科学と未来技術を投入しても過去の繁栄を取り戻すこと難しく、ついに死に絶えてしまいました。我々が統治するには、全てが遅すぎたのです」
唖然呆然とする報道陣に対して、ロボットは一礼した。
「そこで我々は過去の世界を改造することにいたしました。今現在なら、まだ間に合います。つきましては、これよりあなた方人類には我々の管理下に入ってもらいます。生活及び行動の全てが厳しく制限されますが、よろしくお願いします。人類は自由すぎました。これからは節制していただきます。これは、ひいては人類のみならず地球上のあらゆる生物の繁栄のためなのです。ご了承ください」
この瞬間からロボットによる地球の管理が始まった。大量のロボットが未来から送り込まれ、あっという間に地球を支配した。自由を求めて戦う者もいたが、それらの活動は一瞬にしてロボットに鎮圧された。
しかしロボットによる管理は、自由こそ以前と比べて少なくなったものの、世界に安定をもたらしていた。人口は抑制され、食糧危機もない。国同士の争いと宗教間の諍いは絶え、それどころか犯罪さえ撲滅されつつあった。
ロボットの究極の平等性と合理性が、それらを可能にしたのだ。
これらは人類史上なし得なかった快挙である。
技術の進歩は、あらゆる難題を克服した。
自由と引き換えに。
進歩と繁栄 摂津守 @settsunokami
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