ミステリアスなかぐや姫

紫 李鳥

ミステリアスなかぐや姫

 


 「かぐや姫」に関する説はいくつかございますが、その一つにかぐや姫は宇宙人だったという説はご存じでしょうか? 実は他にも、このような説がございます。――




 むかしむかし、都の近くに“竹取たけとりおきな”と呼ばれるおじいさんが住んでいました。おじいさんは毎日山で竹を取り、ほそぼそと暮らしていました。


 ある日のこと。おじいさんが山で竹を取っていると、一本の竹がピカピカと光り輝いていました。不思議に思い切ってみると、竹の中から三寸 (9センチ)ほどのかわいらしくて小さな女の子が出てきました。


「おお、なんとめんこい子じゃ」


 これは神様からの授かりものに違いないと思い、おじいさんは女の子を家に連れて帰ることにしました。


「まあ、なんと愛らしい子でしょう」


 おばあさんも大喜びです。子供のいなかった二人はその女の子を“かぐや姫”と名付けて大切に育てることにしました。


 それからも不思議なことが続きました。竹の中から小判がザクザク出てきたのです。持ち帰った小判で建てた立派な屋敷で大切に育てられたかぐや姫は、三ヶ月ほどでみるみる大きくなりました。身長は五尺二寸八分 (160センチ)ほど。ちっこくもなく、でっかくもなく、それはそれは美しい女性に成長しました。


 美しいかぐや姫の噂は瞬く間に広まり、結婚したいと言う五人の立派な若者がやって来ました。乗り気はしませんでしたが、追い払うわけにもいかず、とりあえず会うことにしたかぐや姫は、おばあさんから十二単じゅうにひとえを着せられました。


おめえー。早く脱ぎてぇ」


 かぐや姫は、美しいその見た目と違って口が悪かったのです。


「殿方の前でそのような口を利いてはなりませぬぞ」


「分かってるよ、ばあちゃん」


 おばあさんに育てられたかぐや姫は、気を許しているおばあさんの前ではつい地が出てしまうのでした。


「かぐや姫や。開けてもよいかの?」


 透渡殿すきわたどのにいたおじいさんが声をかけました。


「あ、はははい」


 かぐや姫は慌てて品を作りました。おばあさんが御簾みすを上げると、そこには、あでやかな十二単を身にまとった美しいかぐや姫が笑みを浮かべていました。


「おおー……これはなんと美しい」


 おじいさんは感嘆の声を漏らすと、かぐや姫に見とれました。


「殿方がお待ちかねじゃ。さあ、参られよ」


 おじいさんに催促されたかぐや姫は背筋を伸ばしました。おばあさんに手を添えられて正殿に行くと、直衣のうし姿の立派な貴公子が五人並んでいました。


 しかし、最初から結婚する気などなかったかぐや姫は、無理難題を結婚をする条件としたのです。


「私が頼んだものを見つけたら、その人の妻となりましょう」


 まず一人目の石作皇子いしづくりのみこには、


天竺てんじくにあるほとけ御石みいしはちを持ってきてください」


 と言いました。しかし、天竺まではあまりにも遠かったので石作皇子は旅に出た振りをして、近くの寺から古びた石の鉢を持ち帰りました。


「これがお釈迦しゃかさまの石の鉢です」


 しかし、かぐや姫は首を横に振ります。


「いいえ、これは違うものです。お釈迦さまの鉢は光っているのです」


 嘘を見破られた石作皇子はすごすごと帰っていきました。


 二人目の車持皇子くらもちのみこには蓬莱山ほうらいさんにあるという玉の枝を頼みました。しかし、遠い蓬莱山に行ったように見せかけて、職人に偽物を作らせました。


「これが玉の枝です」


 それを見た途端、かぐや姫は困りました。あまりにも綺麗だったので本物だと思い、結婚を断れなかったのです。ところがそこに未払いの請求に職人たちがやって来たのです。嘘がばれた車持皇子はパッと帰っていきました。


 三人目の阿部右大臣あべのうだいじんには唐土もろこしにあるという火鼠ひねずみ皮衣かわごろもを頼みました。阿部右大臣は金持ちなので、唐土へ行く職人にお使いをしてもらい、皮衣を手に入れました。


「こちらが火鼠の皮衣です」


「本物ならば、火にくべても燃えないはずです」


 と言って皮衣を火にくべました。すると、皮衣はめらめらと燃えてしまいました。恥をかいた右大臣はとぼとぼと帰っていきました。


 四人目の大納言大伴御行だいなごんおおとものみゆきには、龍の首にあるという五色に光るたまを頼みました。大納言は自分の力で取りに行こうと船に乗りましたが、嵐がやって来て船は沈みかけてしまいます。大納言は思わず、


「もう、龍の珠を取ろうとしないから許してくれ!」


 と叫びました。命からがら港に帰った大納言は、それきりかぐや姫の元へ向かいませんでした。


 五人目の石上中納言いそのかみちゅうなごんには、燕の巣の中にあるという子安貝こやすがいを頼みました。しかし、中納言は子安貝を取ろうとして高い所から落ち、大怪我おおけがをしてしまいました。


 こうして結局、誰もかぐや姫を嫁にすることはできなかったのです。


 ところが最後に、かぐや姫の噂はみかどにまで届きました。帝は、

「かぐや姫がに仕えるのなら、おじいさんを身分の高い貴族きぞくにしよう」と伝えました。


 かぐや姫は、おじいさんたちのそばを離れたくない、と泣き出してしまいます。おじいさんは、帝の申し出を断りました。


 諦めきれない帝はかぐや姫に会いに行き、その美しさを見て余計に心を奪われ、手紙を出し続けるようになりました。


 かぐや姫は丁寧ていねいに返事を出しますが、こう伝えました。


「私は、実は、この国の者ではないのです。なので、結婚することができません……」



 やがて十五夜が近づくと、かぐや姫は月を見ながら泣いていました。おじいさんとおばあさんが泣いている理由を尋ねると、


「じいちゃん、ばあちゃん、驚かないで聞いてよ。実は、私は月の都の者なの。だから、月に帰らなきゃいけないの。八月の満月の夜に月から迎えがやって来るんだけど、あま羽衣はごろもを着ると人の心が分からなくなるんだって。だから、その前に最後にお礼を言わせて。じいちゃん、ばあちゃん、これまで育ててくれてありがとうございました。……じいちゃんとばあちゃんと別れるのは哀しいよ」


 と泣きながら言いました。かぐや姫と別れたくなかったおじいさんは、月の使者からかぐや姫を守るために、十五夜、かぐや姫を守ってもらうよう帝にお願いをしました。


 そしてその日がやって来ました。屋敷の周りは、帝が用意した兵士へいしで囲まれています。しかし、月から光に包まれた迎えの者が降りてくると、兵士は弓を動かすことすらできません。まぶしい光を放つ使者を退けることはできず、かぐや姫は月に昇っていきました。


 ところが、おじいさんとおばあさんが月を見上げながら見送っていると、かぐや姫が着ていた天の羽衣がヒラヒラと舞い落ちて、次に十二単が一枚、二枚と落ちてきました。


「な、なぜ、脱いでおるのじゃ?」


 おじいさんが驚いていると、おばあさんが耳打ちしました。


「それは、○·○·○だからですよ、おじいさん」


「えーーーッ!」


 理由を知ったおじいさんは目を丸くしました。かぐや姫を育てたおばあさんだけが、かぐや姫の正体を知っていたのです。


「……なるほど。だから、竹の中から赤い着物を着て現れたんじゃな。わしにそう思わせるために」


「ええ。うふふ」


「……道理で誰とも結婚しなかったわけだ」


 おじいさんは納得すると、月を見上げました。そして、かぐや姫が脱いだ天の羽衣と十二単を抱きしめて呟きました。


「もしかしたら、わしらのことを忘れたくなくて天の羽衣を脱いだのかも知れん。なんと心根こころねの優しい子じゃ。……風邪を引かぬようにのぅ」




  了

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ミステリアスなかぐや姫 紫 李鳥 @shiritori

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