フトゥーロファルファッラ
この世界には、まだ誰も知られてないような力がある。
と信じてる馬鹿がいる。
私、九十九未来はそれを否定はしない。
なぜかって?
そっちの方が騙せるとき騙しやすいのだ。
まぁ、そんな私の事情はまた別の機会にも話すとして、もっと真面目な、いや、さらに馬鹿げた話をしようと思う。
人が死んでしまいそうなまでに馬鹿で、愚かなお話を。
この話は、そんな力を「神様の御業」なんて詠った愚者と運命を信じる愚者とのすれ違いをただの愚者が笑ったものである。
「みぃ〜くぅ〜。」
「なんだぁ?」
「臭い。」
この生意気なガキは、ルシール・マルティネスなんてなんともまー、おしゃれな名前をもらってる。フランスの方のガキらしい。
「てめ〜、人にくせーってなんだ?」
「ガス臭いってこと。」
「あ?」
敵襲か?なんか身構えるか?それともトムクルーズみたいに窓でも割って外に出るか?(あれ、そんな事してたっけ?)
なぁんかな、そんなことしなくても良さそーなんだけどなぁ。
「もしさ、爆発でもしたらどーするのさ?」
「したら何?って感じじゃね?」
「死んじゃうんだよ?」
「死なねーよ。死んでも私が命でも吹き込んでやるよ。」
私はなんでも作れるのだ。そう、なんでもね。
「日月星辰」って言ってね。まぁ、便利だけどさ、そのせいでこんな廃れた性格と言いますか。
こんな事態に巻き込まれてるの。
「死んだら、爆弾ボーンッ!だよ?」
「あー。」
こいつの体の中には、爆弾があるらしい。
擬音ってゆーか、音が「ボーンッ!」かはわからねーけどな。
そして、そのトリガーってゆーのがこいつの体の生命活動所以の肉体的機能が停止した瞬間。
要するに、死んだ瞬間ってことだよ。
だから、私はこの子を護んねーといけねー。
その理由は、「人類を守るため」ってゆー大層なまでに立派な大義ゆえのものではなくってだなぁ、この娘を死なせたくねーってゆー私情だな。私情主義もいいとこだぜ?まったく。
てか、人を死なせたら、私、犯罪者になんないよね。
法律に詳しくは無いけど容疑をかけられて擁護してくれる人がいないってかなり絶望的な状況下じゃない?
罪に問われないにしろ、なんかあるんじゃね?
前言撤回。
でも、他人がどうだっていいってことは確かだ。
私はスーパーマンじゃねぇしな。普通の人間さ。
普通の人間は、こんな特殊な特技はないけどな。
スーパーマンみたいに世界を一っちょ救ったこともそりゃ、当然あるよ?
ふつーあんのかわかんねーけど、私の周りにはたくさんいたしな。
それも、女の子のためだったけどな。ブチギレて街一つ壊しちまった。
テヘペロって言うからさぁ許してくれよ。
「爆弾、爆発させていーの?」
「死なない程度にな。」
「だから、死んじゃうってゆーの。」
障害ってゆーのが2つばかりあってな。
爆弾と当然、一緒に一生を過ごすわけにもいかないので、解除なるものを当然、しようと試みるのだが、方法はない。
無いのではないな。見つからない。これでどうだ? もう一つが、こいつを殺して爆発させてやろうなんていう物騒な輩もいるっていうことだ。
やってることが、危険を知らない男子中学生なんだよな。
まぁ、あいつらはそんなに頭が悪いんじゃなくって、むしろ良かったりなんかしちまうんだが。
頭が良いなりに、危険を重々理解しちまって、その上殺そうとするんだな。
バカと天才がすることは似てるよな。
バカと天才は紙一重ってか。
そんなバカにも私、1人で立ち向かわなきゃなんねぇの。
友達がいないから。
てゆーか死んだか、幸せにご結婚でもなされたか、でいないわけだ。
勘違いすんなよ。
って言いたいのは山々なんだが、新しく作れないのは、ロスとかそう言うんじゃなくって、性格悪くって嫌われてるからなんだよな。
ったく、どんな縛りプレイですか?って。
しかし、縛りプレイってえっちだ。
とまぁ、猫の手も借りたって仕方ねー状況にこの身おかれてますってことさ。
地獄じゃねーけど、最悪ではある。
人生ハードモードに設定した記憶もないんだよな。
何もしないとハードモードに設定されてるとしたら?
いや、人生イージーモードのやつがそんなのに気づけてるわけもないんだがな。
「スーパーマンだし、死なせねーよ。」
「違うでしょ?」
あぁ、違うね。私はスーパーマンじゃない。
「バットマンだな。」
「それをいうなら、バッドマンでしょ?」
こいつ腹立つとこ言うなぁ。
「花を持たせてよ。バットマンだよ。」
「その花は顔についてる方の鼻でしょ?」
なんでわかるんだよ。こんな問題。知らねー奴の方が多いはずだってゆーのに。
英語じゃねーから。
てかずっと気になってたんだけど、「マン」じゃなくって「ウーマン」じゃね?
私、女だし。
女優も英語で「actor」ってゆあーゆージェンダー平等的なノリか?
じゃなかったら我々、大分、初歩的な間違いしてね?
するとどこからか大きな破裂音が聞こえた。
「昼間に花火かぁ。」
「んな、わけないでしょ。」
案の定、ガス爆発といったところかな。
「どうするの?爆発しちゃったけど。」
「生きてるな?」
「未来は死んだ人と話せないでしょ?」
「既に死んでた人間となら話そうと思ってたんだがね。」
「それは残念な話ね。一途に愛して、来世に期待ね。」
「後悔はあるぜ?」
「私、死なせたらそれよりも大きな後悔になるかもよ?」
冗談がきつすぎる。
「まぁ、敵ならここに来るまで、待ってやるか。」
「大層な心構えですこと。」
何を隠そうこの私、前回の敵を何事もなく(?)退けて調子に乗っているのである。
まぁ、全図が全部こんな感じにうまく進んでいけばいいんだけどさ。
そうも行かないってのがこの私含め、人類の背負う役目な訳で。
「未来。」
「ん?」
「もしかしてさ、もう攻撃始まってたりして。」
「まぁさか。」
「フラグ立てたね。」
私も今、言ってて思ったとこよ。
次に瞬間には攻撃よ。
「待つのみよ。」
そうやって建てられたフラグが回収されたのは、それから2時間がたったあたりだった。
2時間の間、昼飯食ったよ。
そうして訪れた攻撃と疑われた攻撃というのが、階段を崩したというものだった。
「なに今の音。」
「さぁ。」
外に出てから気づいた。
「いててててて、」
「何してるんだい?」
「う〜。助けて欲しいのです。」
「あいつの名前は?」
「えーと、」
「白玖叶都(かなつ)です。それより、」
「最終派なの?」
「うん。一応ね。」
「あのぅ。」
「うるせぇ、お前のために話してんの!お前の生死がかかってるんだぞ。」
「うぅ、」
「悪いやつなのか?」
「もう!」
気づいていた。相手が何をしていたのか。
今回は石を投げていた。それも小石だ。
なんの変哲もないだろうな。地面に落ちていた小石を使ったんだからな。
だけどそれは弾丸として飛んできていた。
変哲もないんだから、
「ひくぞ。ルシール。」
私はルシールを抱き抱えると部屋に入った。
弾丸を相手にする時は斜線を切るのが鉄則だ。
「相手が銃を使うならこちらもだ。」
「待ってよー。」
「未来?」
「んあ?」
「彼女の力はわかるの。」
「なんなんだ?」
カンニングペーパーが役に立った初めての例だった。
「とにかく中に入れてあげて。で、拘束して。」
とんでもないこと言い出しやがったこの女。
「助けて欲しいのですー。」
「何も動くなよ?」
「ふぇ。」
私は縄できつく縛る。
結び方は本結び。なんで結び方を知ってるということは聞かないでくれ。
「え、え、え、え、え、え、え、えーーー。」
うるさいって言ったらありゃしない。
「なななんですか。」
「というわけだけど、」
本題に私は入ろうとした。
「てゆーかなんでこんなにあっさり誘拐が出来るの?」
「え。」
隠そうとしていたことがバレてしまいそうだ。
「そうなのですよ。怖かったのです。」
なんか涙ぐんでたもんな。
なんか気分が削がれて行くようだ。
いちいちリアクションが大きいタイプの人間なんだろうな。
「もしかして、少女誘拐の趣味があったりするの?」
ある訳ねーだろ。
なんて言いたいんだけど、なんて言ったってこのルシール、バレてないだけで川から拾ってきているわけだからな。
誘拐と、保護の間を彷徨ってんだよな。
誘拐が大きいんだろうけどな。
「縛ってプレイとか、」
この叶都とかいう女、人が黙ってれば、
てか、なんでそんなに躊躇いも無くいかがわしいことが言えるんだ?
「お前、食うぞ。てゆーかぶっ殺す。」
「おっかないのです。」
震えてねーじゃんか。
言ってることを信じらんねーんだよ。
「扱いになれてるね。」
なんだその感想。褒められてるんだろうけど全然ホクホクしねーよ。
「お前もカンケー無く殺す。」
こいつらマジでなんなんだ。
「で、お前自分のこと話せるか?」
「はい。」
「話してみろ。」
「はい、」
意外にもすんなりと話してくれそうだ。
もしかして本気でビビってる?
こいつ「はい」しか言わねー。
「私の名前は、白玖叶都。コードネームはK。通り名は<金持ちの桶屋>。別に金持ちってわけじゃないのですけど、<凍り言>は、『羽ばたけ』。これくらいなのです。」
すごい重要そうなことをベラベラ話すんだな。
ちょっとでもこいつのことビビらせたなんて思ってしまった自分が馬鹿らしいな。
それより、気になる言葉があったな。
「ふーん、ところで<凍り言>ってなんだ?」
「え、」
やらかしたな。
するわ。私もやらかしたら同じ反応するわ。
「僕はわかんないな。」
「あのっ、えーと。」
「口滑らしたみてぇだな。はけ。」
「いやなのです。叶都はしゃべりません。」
「叶都ちゃん。悪いことは言わないけど、話したほうがいいよ。」
こいつ人をなんだと思ってやがる。
そんなことは決してない。
たとえ、吐かせようとしたにしろ、この言い方はないんじゃないのかな。
「はい、」
ちょっろ。
てか私ってそんなに怖いのか?
効果は抜群ってとこだったな。
あんまし、喜べない私は、もしかして、変わってるのか?
「要するに対九十九未来戦においての戦い方で、最近作られたものです。」
「ふーん。」
大層なことしてくれんじゃん。
私としてもここまでされるってことはワクワクするし、ここまで有名になったかって嬉しくなるな。
まぁ、話題になってうるさくなるのは嫌だけどさ、巷でみんなが噂してくれるてゆーのは嬉しいぜ。
「で、あんたはどんな、ことを私にしたいんだ?」
「羽ばたくっていうのがわからないのでとにかく来てみたのです。」
「アホか。」
「教えてもらいたいのです。」
なんで、わざわざさっき会ったばかりの奴に、それも敵に塩を送らねーといけないわけ?
冗談じゃねーよ。
「知らねーよ。もうかえれ。で、あいつらに、まともな奴ら寄越してこいって言っておけ。」
「はい。」
「じゃあな。」
そうやって縄を解いて外に出してやって彼女はいった。
「あれ、階段が直ってるのです。」
「そりゃ、私が直したんだもん。」
こいつほんとに何もわかってねーんだな。
敵みたいだけどほんっと何しにきたのかわかんねー奴だったな。
「いてっ、」
こけてるし、ドジってゆうレベルなのか?
きっと、これから生きていくのが大変だろーな。
「未来。」
「ん?」
ビビったぁ〜。すぐ後ろにいたんだね。
にしてもこいつ大分背が低いよな。
「あの子のアドバイスカードきく?」
「んにゃ、そんなことより、お前の年齢だろ?」
「え?」
なんでそんなに動揺してるんだ?え?
「言えないのか?実は、私より年上だったりしてなぁ。」
「内緒ってゆーのはナシ?」
何恥ずかしそうに言ってるんだ?
隠していたかったんだ?
「ナシだ。つーか、たとえ見た目と違くたって任務を放棄する気ないから。」
そう聞くと、ルシールの顔が晴れた気がした。
「わかった。いう勇気がでたよ。」
お、いよいよ発表か?
「14。」
なんかほっとした。
「えへへ〜。騙されたね。」
そう無邪気に笑うルシールには不思議と腹が立たねーもんだ。
なんなら騙されて良かったとまで、思えてくる。
「なんか残念そう。」
んな、わけないとも言いたいけどな。
「まぁな、いかがわしいことができないしな。」
こんなことを30近い大人が14の少女に言うって絵面にはなかなかの迫力があるよな。
「ほんっとに犯罪者予備軍だね。でもね、九十九。」
「ん?」
なんだなんか改まったフリでもしてみたりして。
「寝込みを襲うことなんかできたりなんなら力づくにでもできたりする九十九が今のいままで何もしてきてないってことには信頼してるんだよ?」
それは、遠回しにOKってことなのか?それとも意気地なしと貶しているのか?
「そーゆーあたりお前は危なっかしいというのか、無防備な気がするんだよな。」
「そう易々と、誘拐なんかされないもんね。」
そう笑うルシールもまた、可愛かった。
「で、カンニングペーパーでも使わせてもらおっかな。」
私はそう言って、席についたのだった。
「アドバイスカードはね、ナシ!」
これもまた、カンニングペーパーが役に立たなかったなんて思ったのだが、無いなんていうのはなんか違う気がした。
「これはなんかいつもの無能さとは違うな。」
「別にいつも、無能ってわけじゃないもん。九十九が頑張んないだけだもん。」
そう怒らんでくれ。
「なんか、今日の九十九、僕に意地悪だね。」
「そ、そんなことないかと思うが?」
「ううん、そんなことあるんだよ。だって今日のお昼ご飯、手抜きパスタだったし。」
それはお嬢様生活での慣れだろう。
普段いい物ばかり食べさせすぎたな。
お陰で舌が肥えに肥え、ちょっと手を抜くともう、わがままだ。口にするのは「手抜き料理だ。美味しくない。」だもんな。
嫌になってくる。
「別にカルボナーラは手抜きじゃねーだろ。」
「ううん。手抜きだったもん。まず量からして手抜きだよ?」
ここ数日このルシールと一緒に生活をしてきて気づいたことがある。
それはこのガキ、食べる量が多いのである。
ちなみに寿司食いに行った時30皿は食ってた。
おかげで私が大食いにみられてたんじゃないかと不安になってくる。
「なんでお前動いてねーのに、そんなに飯食うんだ?」
「体の中でなんか悪いやつを抑制してると自然と代謝みたいなのが上昇してくるのです。」
「そんな出鱈目なこと私に通じるか。」
でもそうゆう設定でもないと、この世界の法則的なものが壊れてきてしまいそうになる。
なんか、飯食うだけでもハラハラするって死んでも爆弾だし生きてても爆弾なんだなって。
一生そのものが爆弾ってなんか笑えてくるな。
笑い事じゃないんだろうけど。こうでもしないとやってらんねーよ。
閑話休題。
「ないってゆーのはまたなんなんだい?」
「うーんとね。アドバイスの意味ってわかる?」
そんなこといきなり言われても答えられる問題だし、悩むこともないんだろうけど、こういう時、何か、裏があったりする物なのだが。
「助言とか。なんか助けになる言葉のことをさすんじゃねーの?」
「うーん、なんてゆーか国語辞典的な説明じゃないね。ひねくれてるってわけじゃないけど、聞いてる身からしてみれば、なんかどこか突っかかるところがあるね。」
国語辞典的な説明ってなんだよ。んな言葉初めて聞いたよ。
なんで間違ってもないのにここまでギタギタに言われなくちゃならないの?
「国語辞典的にいうと、『私的な助言』だって。」
だってってなんだよ。
こいつ頭ん中、国語辞典にでもなってんのか?
「ちなみに助言の意味を調べると、『わきから助けになるようなことを言ってやること』だって。」
ここで疑いたくなってくることといえば、他の言葉ならどう答えるのかということだ。
「じゃあさ、『月の桂』の意味教えて。」
「んーとね、『月の中に生えてるというカツラの大木』っだっけ?」
「あってんじゃね?」
私も国語辞典的な答えは知らないけど、そういう意味だったということでは、『正解』である。
ほんっとにこいつの頭の中には国語辞典が入っているようだった。
ちょっと意地悪したけれど答えられるってさすがってなるところだな。
「で、お前は何が言いたいんだ?」
「助けのなるってことはその人が未完成ってことだよね。」
「あぁ、そうだな。」
「でも、助けがないってことはさ、すでに完成してるんだよ。」
「あいつが?」
「そう、誰も知らないあの子の能力があるの。」
「あの子がそこまでの人間なんだな。見た目が全てじゃないっていうのかなんというのか。」
十人十色とでもいうのか、私の周りだけなのかわからないし、ルシールも例外ではないのだが、年齢に反して能力が高いやつが多い。
「でもね、本人も気づいていないの、そして私たちも全てを教えられていない。この子は自分を研究するという段階にすら至っていない。科学者たちがアドバイスカードを求めてくるまでの問題児。」
とんでもない、天才がいたものだ。ルシールのいうところの「問題児」さんか。
「あの子の正体がわかったところで、もう終わりか?」
「さぁ、あいつらがこんなこんなことでめげるとは思えないんだけどね。」
まだ、どこか気になることが残る娘だったが、(いなくても問題児か。)これ以上、ルシールに聞いても何か出てくるとは思えないので、次の行動に移るとしよう。
「今日の夜は手抜きじゃないよね。」
というルシールの悪魔の発言によって、買い物に出かけることになった。
ところでこの話を聞いてるやつは、「いや、日月星辰でなんとかなったりしないの?」なんてもしかしたらずっと疑問だったかもしれないが、このルシールとかいう我儘お嬢様は、「本物をたべたい」とか仰せられるので、泣く泣く買い物に出かけないといけないのです。
「九十九。」
「あ?」
「あれ何?」
目を輝かせやがって、
ガキかっていうんだが、ガキだな。
「そりゃ豆腐って言うんだ。」
「ヨーグルトの日本版?」
「ちゃうわ、」
この娘に以前寒天のことを「日本版ゼリー」と教えたため、全てのスイーツに「日本版がある」と大いに勘違いしているのである。
「豆腐なんてガキが食べて上手いなんていうもんじゃねーよ?」
「ガキじゃないもん。」
ガキだろ。
「へいへい。」
前言撤回するつもりもないんだけど、ルシール曰く14歳はガキじゃないらしいですよ。
ガキと言われる人種がこの世から多く消えた瞬間だった。
「うどん?」
「ジャパニーズワーム。」
「ダウト!」
流石にわかったらしい。
「麺だよ。」
「美味しい?」
おいしいかどうかなんて人によって違うなんて一喝することはできたのだけれども、流石にそれは大人気ないと思って躊躇ってしまった。
「美味いよ。」
「じゃあ食べたい!」
案外いいのかもしれない。安いし、腹に溜まりやすい方だろうし、なんていったって不正をするのが簡単そうだ。
タレで味を誤魔化すの容易そうだし。
「あと、刺身。」
こいつは日本語の記憶力が高いだけじゃないらしく、舌の記憶力もいいらしい。
「これはおやつかなぁ。」
こいつ完全に感覚がバグってやがる。
「あのなルシール、日本人は刺身をおやつとして食べません。」
「Je suis français(私はフランス人です)」
「知ってるよ。でもな日本には『郷に入っては郷に従え』っていう言葉があってな。」
「僕知ってるよ。その言葉。」
「知ってるなら話す手間が省けたってもんだ。」
「でもそれっておもてなし文化に逆らってない?」
一理ある。
「海外もおもてなし文化ががあるわけじゃないだろ?」
つーか普通はよ、おもてなしされるやつは少なくともそんな横柄な態度取らないし、「おもてなしをしろ」なんてことは言わないだ。」
「ふーん、まぁどうでもいいや。次はメロンが食べたいな。」
「何もわかっちゃいねーな。こりゃ。」
そうやって、なんだかんだと私、九十九未来は流れに乗せられていくのだ。
私も随分と丸くなったのだな。
歳を感じると言っても時の流れを感じたまでだ。
だが、この時からすでにカウントダウンを始めていてもおかしなことじゃない。
それは一瞬のことだった。
見て事実に気づくのは一瞬だ。
これは利用者、消費者の言葉である。
ただ私たちは負けている。
守れなかっただけでそれは敗北者だ。
「九十九ぉ。」
「ん?」
帰ると真っ先にルシールは部屋の扉を開けに行った。
「んなわけ、」
いや、ある。
階段が壊れたことはさておいて、このアパートはボロいと言っても何にも過言じゃない。
「立て付け悪いんだな、ここ。」
確かにこりゃ重いかもな。
ルシール1人じゃ無理だ。
部屋を変えることを検討したほうがいいかもな。
「ギィィ………」
扉を開けるので精一杯っていうのは、いざというとき困るってもんだ。
こういうのも考えながら生活しないといけないってのは私からしてみりゃ、不便だ。
だけどそれ以上にルシールは不便だし、それのせいで万が一ルシールのみに何かあったとしたらそっちの方が迷惑だ。
「え、」
驚いた。
我が家は風呂釜にでもなってしまったのか?
いや、そんな馬鹿げた話があってたまるか。
治安が悪いなんてどころの話じゃねーぞ。
上が洪水っていうのか、水槽にでもなってやがる。
水浸しという度のものじゃない。
どうなってやがるんだ?
「仕切ってないのに水の断面が見えるってなんでもありだね。」
ルシールの言葉が終わった瞬間、決壊した。
部屋の穴という穴から雪崩れていった。
「ベッ、水じゃんか。」
ただのってことはないんだろうな。
扉が完全に開かれ、私の後ろにルシールがくっついて入っていった。
「九十九。」
「ん?」
「いい予感はしないよね。」
「ああ。」
とても大事なシーンだというのに、どうもルシールの濡れた服というのを拝みたい。
だが、その私の真剣さは、さらに帯びることになる。
四肢の断割された白玖叶都がそこにはいたのだ。
「つぅくも?」
だめだ、この子には見せてはならない。
あまりにも悲惨すぎる。
「ルシール後ろにっ、」
時すでに遅し。
先程まで笑って生きていたあの白玖叶都は目立った外傷が四肢にしかないとはいえど、印象はもはや変わり果てている白玖叶都に、ルシールは黙っていた。
叫びたいんだろう。
これはただ我慢ができている状況なのではない。
声を出したくても絞り出したくても叫び方すらも忘れてしまっているのだ。
「大丈夫だ。ルシール。こ、これくらい。」
あぁ、涙はあるんじゃなかったのか。
いつの時も、泣けないんだ。
零の時も泣けない。
泣けたのは、透の時だけかよ。
私っていう人間はどこまで冷酷なんだ。
「あぁぁ、」
「ルシール。私のそばにいろ。死ぬことはないっ!」
クッソ、こういう時に何も言葉が出て来ないなんて、どこまで私っていう人間は愚かなんだ。
抱きしめることしかこの子に向けてできることはないなんて。
「私を…助け、る…なぁ、ら…」
そんなになってまでお前は他人のことを気遣うのか。
もう私が触れてきたことの少ない優しさってやつじゃねーかよ。
「そうだな。」
脈はない。
四肢がもげただけで死ぬのか?
大量出血、ショック死この二択に絞られるだろうな。
しかし血が出ていないなんて。
どこにも血痕が見られない。
それより、私の力で死人を生き返らせられるのか?
やらねば、損か。
私の力で人の傷口を塞ぐことはできる。
ただそれは、「大きな命に小さな命」だからである。
私の手のひらで作る命の寿命は短い。
この子は生き返ることができても長くはないだろう。
ただ詳しいことは聞けるかもしれない。
「頼むからよ、生き返ってくれ。」
手に神経を集中させる。
こんなところで死んでいいわけねーだろうがよ。
今までの行いとやらは知らねーけどよ、「罪がないなら死んじゃだめだ。」か「罪があるなら死んで逃げんじゃねー。罪を背負って地獄を生きろ。」どっちも生きてしまうエゴを私の叫んでやる。
「てめー殺した奴ぐらい名前吐いてから逝きやがれ。」
恨みのエゴだよな。
期待に応えるようには正解さ。ただし2つの意味だけどな。
あいつは黄泉の国からの弾丸ツアーを終えて帰ってきた。
「ただし、次は、永住になるんだけどな。」
それも近いうちに。
「何度目なのですか。」
「は?」
「私、死んでもいっつも戻って来ちゃうなのです。」
「九ぅ十九ぉ〜〜〜。」
忘れてた。
そうだった、こいつに感化されて蘇らせたんだった。
「抱きつくな、暑い。」
「ううぅ、本当にありがとね。」
とルシールはとても嬉しそうなのだが、こいつはどうもそうはいかない。
「体質だと思ってたのです。大袈裟にしてしまうってことが。」
「大袈裟っていうと?」
ルシールおまえははまず私の背中から離れろ。
口には出せねーけど、興奮がやばい。
「私ってドジっ子なのです。」
「ドジっ子は自分でドジっ子って言わねーよ。」
「そうなのですか?」
こいつこれを言っちゃってるあたり本物っぽいな。
「大袈裟ってなのは、腰痛のせいで暗殺を逃れられないとかなのです。」
「それはケネディ大統領の話だろ?」
「そうなのです。」
「へ〜、よく知ってるね。」
こいつってなんつーか上から目線なんだよなぁ。
私って人間は上から見下すくせに見下されるってのが癪に触るんだ。
まぁ、見下す人間だからってのもあるんだけどな。
だからこいつにたまに腹立つ事、あるんだよなぁ。
「で、それがどうした?」
「その話、私の話でもあるんです。」
「はぁ。」
「え、九十九、サラッと流してるけどさ、フツーはね、銃で撃たれるってことないよ?」
「いや、私あるけど?」
「はぁ。」
何、大きなため息つきやがって。
おかげでてめーの幸せ逃げたじゃねーか。
命の危機が無駄に増えてしまってんじゃねーかよ。
てめーの一挙手一投足が私と連動してるんだよ。
運命共同体になりつつあるんだよ。
「異常なのよ。九十九は。」
爆弾娘に言われたかねーっつーの。
「私の周りの奴らも打たれたことあるやつ少なくはなかったよ。」
「じゃ、九十九の周りごと異常だったんだね。」
「おまえもその一員だからな。」
「はっ、」
何大変なことに気付かされてショック受けちまってんだよ。
こっちもショックだわ。
「あの、」
忘れてた。
「で、そこで死んだことがあると。」
確かによく考えてみれば私がその場にいないでよく生きていられたものだ。
「話が通じやすくて助かるのです。」
よく言われるよ。
「その時私が目覚めれば、そこは私の知らない天井。そして知らない見舞い客。」
「それに知らない体。」
「はい、感覚も違いましたし、顔も違っていました。確かに同じなのは、名前くらいですかね。」
「私はまだ可愛いもんだったのかな。」
いや、別にどっちもひでぇもんだわ。
わざわざいう必要のあるものでもないんだけどさ、
「ずっと気になってたのです。私はなんで生きかえったのかなって。私って別に誰かの特別な存在ってわけでもなかったのです。なのに、神様は私を生き返らせた。その行為にどれだけの意味があって私を生き返らせることにどんな意味を見出させるつもりでいたのかなってなのです。」
とても切なく話す彼女には、私の目を惹くものがあった。
「なんで神様は私を生かしたのですかね。」
自分のことをよく考えている人間の発する言葉ってのに私って人間はとても惹かれる。
人間はみんなもっと必死になって生きるべきだ。
みんな別に天才ってわけじゃないだろ? 自分を完成させることのできている人間ていうのは少ない。
たとえ完成させている人間がいたとしてもそいつは他の人が完璧じゃない以上他人のために生きなければならないはずだ。
そしてこの白玖叶都という人間は自分の意味を本気になって見出そうとしている。
だが、それは間違っている。
私は、この人間が間違って生きないように、応援しているからこそ、その間違いを正してあげる。
「いいか、おまえを一度でも殺そうとした運命とやらを操れる神ってのは、おまえの敵だ。おまえを生かそうとしたのは紛れもないおまえ自身だ。実際治療したのはどこかの腑抜けたツラの医師かもしれない。だが、今を生きてるその意思はおまえのものだ。間違っても神様なんてものに助けられたなんて勘違いするな。そこに神様のどんな事情があったとしても、おまえを殺そうとした、守ることができなかった。それで十分おまえの敵だ。神なんざ許すな。」
第一、昔から疑問に思ってたことがある。
なんかいいことがあったら、「神様ありがとう。」なんて、いうくせに、悪いことがあったら神様のせいにしないのはなんでだろうな。
人のせいにするのは、気分が晴れることだ。
ただ、された人の気分は曇る。
なら、そこにいるかも分からないような、神様のせいにすればどれほど気分が楽だろうな。
「生きる意味なんていらねぇ。神様に逆らって生きてみろ。怖いもの知らずみたいで、かっこいいだろ?私は、そんな、男に惚れたんだ。」
「え、小学生ってそんなこと考えつくの?」
「なんで前提条件が小学生の男の子なんだよ。」
こいつ、生意気言いやがって。
「え、幼児とかそういうのは。」
「てめ〜調子に乗るなよ。」
ただし、11歳差か。
「そして告げられたのです。お前の体は、蝶々そのものだよって、」
点と点がつながったっていうんだろうな。
つまりこいつの体質、改造された肉体がわかった。
「バタフライエフェクト。」
「そうなのです。」
「何それ。」
まぁ、ルシールだし。
「バタフライエフェクトは、力学系の状態にわずかな変化を与えると、そのわずかな変化が無かった場合とは、その後の系の状態が大きく異なってしまうという現象なのです。」
すげー。
「んー。もっとわかりやすく。」
こいつ人間国語辞典じゃなかったのかよ。
「まぁ、由来としては気象学者であるローレンツによる『ブラジルの一匹の蝶の羽ばたきが、テキサスで起こる竜巻に繋がっていくか?』という問いかけだな。蝶が羽ばたくとバンビがそれに興味を持ち、飛び跳ねる。そして、ライオンがそれに気づき、狙いを定め近づくそれに気づいたバンビ達が大群で逃げ惑うとそれが大きな風を起こす。そうして、海に向かった風が上昇気流をつくり積乱雲が生じさせ、竜巻が発生する。だな。」
「ふーん。じゃあ、叶都ちゃんが生き返ったっていうのも、これなのかもね。」
確かに、認めたくはないけど。
「いいこいいことにつながれば、いいなのです。」
そうだよな。
「で、あいつらは、それで、お前のことを殺したのか。」
「はい。」
つくづく思うよ。
こいつら倫理観どうなってるんだ?
人の命のことを甘くみすぎだ。
「最近分かったことがあって、ルシール。」
「ん?」
「お前のことを作ったのは優雨瓶局じゃないことがわかった。あそこは、テロを実行するための拠点。だからあそこ、壊し放題だ。」
「キャホー‼︎」
「というわけでぶっ壊しいくぞ。」
きっとまだ人生は続いていく。
私らはなかなか死なないだろうな。
他人の人生を壊すような輩の人生壊すのは道義はあるだろうな。
まぁ、そんなことしても何も産まないんだろうし、ただ私のしたいことをしてるってだけなんだと思う。
今夜、ぶっ壊しにいくか。
なんかいけないことをしているようでなんかドキドキしてる。
しているようで、って、確実にこれアウトだろ。
まぁ、バレてないだけでOK。
これが私たちの生き方だ。
というわけで、そのあとどうなったというのは、いう必要もないだろうな。
勝った。
いや、間違ってるよな。
荒らした。
うん、これで十分だ。
その日の夜に優雨瓶局とやらに行った。
やりごたえないっていうの。
そもそも人がたいして残ってなかったんだ。
まして、戦闘員なんざ残っていなかった。
局長さんとやらもどこかに逃げたようで、まぁ、表現としてはもぬけの殻。
まんまと逃げられた。
流石に罪もないような人間をただただ、大量虐殺っていうのもいかないので、みんな避難させた後、研究所を壊してまわった。
もはや私が1人で楽しんでいる絵面であって、みんな、研究員は泣いてたよ。
私ってとことん悪役なんだなって、自分でゴジラになりきってるみたいな?
私の次のあだ名は、
「大怪獣。」
なんの捻りもなくつけられた単純明快までのあだ名。
支持層に低年齢のガキも取り入れるつもりかよ。
こんなんお前1人で十分だ、ルシール。
「で、この子どうするつもりなの?」
「白玖叶都のことか?」
「とって食べるだけはやめて下さいのです。」
人のこと貶してんじゃねーよ。
「いえいえ〜もっと、言ってやれ〜。」
「私は美味しくないのです。」
「あーあ、せっかく引き取ってやろうと思ったのにな。」
「ふえっ?」
「あちゃ〜。」
お前がそういうことを言うな?
「じゃあ、ルシールと仲良く下車しろ。」
「え〜、僕は関係ないでしょ。」
関係ないことはないだろ。
なんでお前だけ助かると思えたんだよ。
めでたい奴だな。
「もう、悪いことは言わないのです。グスッ、ほんとにっ、やめて下さい。」
ほんっと卑怯なやつだ。
「ねぇ、九十九僕は降ろさないよね。」
「なんだその圧は。」
年上ぶってんなよ。
「てゆーかお前、保護者いないの?」
「うーん、いないと思うのです。」
「いたら私、犯罪者なんだけど。」
「今更何言ってるの。器物損壊よ。」
もうそんなレベルじゃないと思うんだけど。
あと過去に、私、国家転覆みたいなことしようとしてるんだけどね。
それもみんな。
「作り直したりしないの?」
「しないね。」
「なんで?」
「どうせ、作り直すさ。健気に。蟻ンコみたいに。」
「うわぁ。」
本気で引くなよ。普通に私が困るだろ。
「でも九十九さんはこんなことをして捕まらないのですか?」
「白玖叶都!」
「はぁい!」
声が裏返ってやんの。
ほんっと、こいつからかい甲斐があるな。
「お前が警察だったとする。」
「はい。」
「街にゴジラが現れたとする。もうわかるな。お前はゴジラを現行犯逮捕するか?」
「でも九十九さんは人間なのです。」
「まぁ、そうさ。」
疑問点はあるけどな。
「根本は同じだろうな。だが、ゴジラだってトカゲの仲間かもしれないぞ?」
「人間にしか法律は通じないのです。」
「そうだな、まぁ、理屈はどうでも言えるさ。なんか逃げてるようですまないけど、捕まんないってことは、もう私を手に負えないってことなんだ。」
「それってもうダメじゃないですか。」
「そうそう、降参しちまってるのよ。だから、私は手を抜いてるんだわ。」
「じゃあもう人類に人類の存続がかかってるなのですね?」
「そそ。」
そんなところで、この白玖叶都との3人で、世にも奇妙な共同生活が始まるのでした。
これに関しては私が疲れるっていうの。
ではまた近いうちに別の物語として出会いましょう。
つくもの「み」 丸井 ハル @kittoiikoto
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