フトゥーロスパランノトラール

フトゥーロスパランノトラール =神業

この世には神業なんて言葉がある。意味としては神の力でしかできないような奇跡、所業、とでもしておくか。

人々は神を夢想した。その時に神に近づけるようになんて考える奴が当然のように生まれる。中にはそれをも、おこがましいなんて言って否定するものだっている。

そして、神に近づける能力、特技を人々は褒める言葉として神業と呼ぶ。

最終派ってゆーやつらは神業を作ろうと暇を潰してる。(私から見たらな)

そんな奴らが作り出した非人道的な兵器がある。それがルシール・マルティネスという小さな女の子だ。あまりにも可哀想なもんだから、私が体内に取り付けられた爆弾を取り除く作業をしている。

「しっかし、わかんねーな。」

ただ、引っこ抜くのでは話が違う。代わりの物を詰めないといけない。しかも、取り出したものも危険なため、その後の処理はもちろん、直後のことだって重要だ。何も策なしでは取りかかれないのだ。

「ほら、また散らかして。はぁ。」

ここ2日でこの部屋に移ってきた。わけとしては、この前のホテル滞在の時に部屋を壊したわけじゃないが、毒ガスを入れられたもんで、逃げてきたのだ。まったく追いかけられるってのも厄介なものだ。

で、ルシールは最近本を読むようになった。私が図書館に行って資料を集めた時に「これも。」なんてゆー物だから私としても断る理由も見つからずに借りてきた。

「でも、おねーちゃん。」

「ん?」

何か物申したそうじゃないか。

「あのさ、本は散らかってるよ?でもさ、この本、僕のじゃない。」

そうだな。

「これは私の読んでたものだね。でもこの本の正式な所有者は、図書館であり、まぁ、市である。」

「でも散らかしたのは、おねーちゃんだよ?」

「そうだな。ちらかされて困る人が片付ければいーんじゃね?」

「うー。心が狭いよう。」

「ぐぅ。」

これは刺さる。圧倒的なまでの年下に心の狭さがバレてしまうなんて。それも、指摘を受けるなんて、これは私の精神にくるよ。

「わーったよ。片付けとく。その前にどっか外でね?」

「ドライブ?」

「いいねー。」

相も変わらず、下品なまでに派手な赤い車に乗る私。これでも自分でカッコいーなんて思ってる。

そして車に乗り込もうと、外に出た時、私は出会った。圧倒的なまでに溶けてるあいつと。

「ビビッと来ちったよ〜。」

悟ったよ。こいつが人の道外れたやつだってね。

「こいつがかの伝説さんかぁ〜。ちびっちまうよ〜。」

「誰だお前。」

「お〜っふ。伝説自覚ありですかぁ〜?」

いつの間にか恥ずかしい事しちまってたのかよ。

「だぁれだってきいてんだよ?てめ〜に人の話を聞く耳はねーってのか?」

「う〜ん。もうたまんないよ?」

「用がないならいくぜ?」

「その車、下品ですね。」

「は?てめー何言ってんだ?」

「おねーちゃん、車。」

「ん?」

そこにあったのは私の想像してた真っ赤な車じゃねー。真っ白な車だった。

「ビビッとくる、赤でもい〜んだけどなぁ〜。やっぱり、伝説はうるさい。」

こいつ、何してくる?こんなのが刺客?

「めんどくせー。ボコるぞ?」

間合いに入るのは一歩で十分だ。右手でこいつの顔面をぶち抜く。死なねーでくれよな。

「うーん。」

間合いに踏み出せていない?どーゆーことだ?

「もっとジャストなパンチを待ってんのよ?」

こいつの力がわかんねー。

「こんなもんか伝説。」

奴のパンチが飛んでくる。クロスカウンターでも決めるか。だが、攻撃はすり抜けた。

「な、」

「殺すのは、ルシール・マルティネス。てめーだぁ。」

「させるか。」

「触らせねー。よ。」

こいつより、ルシールの元に速く着く自信はある。

「チッ。」

こいつ、わからねー。また体がすり抜ける。

「地面と分かれる。」

あいつは地面に消えていった。

「今のうちだ。逃げるぞ。」

ルシールを抱え私は走った。

ったく、なんなんだよあいつ。

「あいつの名前は、宇賀神雨結。」

「で、あいつの力どうなってるんだ?」

「わかんない。」

カンニングペーパーが役に立たない。そんなことあるか?

「でも、アイツの通り名は<最終思考>。」

「なんでたってそんな名前なんだ?」

「最終ってのは曖昧を表す言葉。曖昧な思考。って意味。」

こりゃ、わかっても、能力まではわかんねーよ。

「アドバイスカードには、『落とし込め』って書いてあった。」

「なんだそりゃ。」

「んーと。素質があるなと思われた人には、専用のカリキュラムを受けることになるんだけど。その時にアドバイスカードってやつをもらうの。そこに書かれてることは今後どうしていったらいいか、なの。それを実行するかしないかは、その人次第なんだけどね。」

「それって、逆算したら。」

「そう、内容がわかるかも知れない。」

でもわかんねーもんはわからんわけで、

「温泉入ろーぜ。」

なんて現実逃避を始めている。あいつ男子だし、わざわざ、女風呂に入ってくることもないだろう。

「おい、九十九未来。」

「うえっ!」

「こんなところにいないで早く出てきてくれないか?」

「いや、汗かいたし。」

「えー。」

姿は見えない。どうやって隠れているのだろうか。確かにそばに入る。だけど、見えやしない。これも能力ってかよ。ったく、めーわくなやろーだぜ。

「そーいやぁさ、私の体は見ていーんだけどよぉ、ルシールのはみんなよ?」

「んな、ガキの体に興味はないと言いたいのだが、」

「そーとも行かずに、ロリコンだと。」

「アホか。」

いや、けっこう真面目に答えてたんだけどなー。

「あの子を誘拐しないといけねーんだわぁ。」

「はぁ、でも裸はためらいがあると。」

「あぁ。」

なんじゃそりゃ。悪役が吐くセリフじゃねっつーの。

お前がいい奴すぎて私の優しさが消えてくじゃねーかよ。てゆーか、なんならお前が正義の味方側に見えるじゃねーかよ。

なんで、悪の秘密結社からか弱い女の子を守ってるつーのに、私だと、悪いやつに様変わりしちまうんだ?

あーなんでだろ。いいやつに生まれていたらきっと今頃、こんな事していなかったんだろうな。

いや、待てよ?もし、この性格じゃなけりゃあ、人なんて殺せずに殺されてたんじゃねーかなぁ。

あ、私サイコーじゃん。

「じゃ、ずっとこのままでいるわ。そーすりゃあ、誰も死なねんだろ?」

「いや、俺じゃなかったら、殺せんじゃねーのか?」

ふーん、他に刺客はいるってのか。

狙って質問をしたんじゃない。棚からぼた餅だ。

ま、かんけーねぇんだけどさ。

「いーけど帰ってくんね?私も洗えるものが洗えんてゆーの?」

「チッ。」

しっかしほっておくと大変なことをしてしまいそうな能力だこと。

てゆーかした事あんじゃね?

女の敵だよ。もはや、私たちだけじゃなくっていろんな人を敵にしてしまってんじゃん。

で、流石に出てきてやった。

「じゃあ、教えましょう。」

交換条件があってな。

どんなことができるのか教えてもらえると言うことを条件に。

「よろ。」

「なんかちょろいんだね。」

べつにちょろかねーよ。

だって、教えてもらったところで勝てるのが決まったわけじゃないんだろうしな。

「場所変えません?」

「ん〜、あり。」

ということで我々は温まった体でヒンヤリとしたジュースを嗜むとした。

「私はラプラスの愛人です。」

「あー、そういうタイプね。」

とってもさっき命を張って、戦ってた奴らとは思えない3人のその会話に周りの人は誰も不審感を覚えないだろう。

そりゃ、喫茶店でくつろいでいるんだもん。

「誤解しないでいただきたいですねぇ。」

「誤解も六階もあるか、私たちの目に映ればただの頭のイカれたやつだぜ。いかれたメンバー紹介されちゃってるぞ。」

「いや、ごめん。僕の目にはそんな風に映らなかったよ。」

まじ?

そのあとボソッと、いかれたメンバーってなんだというのだった。

受け流せよ。それくらい。

「そりゃ、ラプラスなんてキラキラなネームの人なんてこの世にまず、いないでしょ。」

「決めつけるのは早計だぜ。」

あり得なくもないだろ?

だってこの世界にはKINGなんて名前の奴もいるんだぜ?

ラプラスくらいいたってなんら不思議じゃないさ。

「なんでこの人がわざわざ恋人発表を私たちにするっていうの。」

「他の人に行って信憑性をあげようとしてるのかと思って。」

「どんな変態かっていうの。今までしてきた事が透けたね。」

変態って私のことを罵るな。

なんか変な青壁が開花しそうで怖いだろ。

「してない。」

「信じられないですねぇ。」

テメェは口出ししてくんじゃねぇ。

なんか腹立ったから意地悪してやろうと思う。

「気ぃ合うな、お前ら。」

「嬉しくない。」

うん。めっちゃ嫌そうな顔してる。

眉間に皺寄せちゃって、わろてまう。

「嫌でもないと。」

「嫌だわ。」

はや、ツッコミの才能あるよ。

ただこれは煽りなんだろうな。

それと同時になんかホッとしてる自分がいた。

「よかったぁ。」

我慢するつもりの声がついつい出てしまった。

方向転換。

「どういう意味なん?それ。」

「ラプラスの悪魔をご存じですかぁ。」

「知ってる。」

「知らなぁい。」

カラカラと音を鳴らしルシールは、ジュースを飲んでいた。

知識の量は少ないんだな、こいつ。

まぁ、子供っぽいし。

「で、それがどうしたん?」

「ラプラスの悪魔とは、主に近世・近代の物理学分野でぇ、因果律に基づいてぇ未来の決定性を論じる時に仮想された超越的存在のぉ概念ですねぇ。つまり、「ある時点において作用している全ての力学的・物理的な状態を完全に把握・解析する能力を持つがゆえにぃ、未来を含む宇宙の全運動までも確定的に知りえる」とゆー超人間的知性のことでぇす。」

「『つまり』が役割を果たすことなく消えてったよ。」

ルシール的には、つまり、「意味が理解できない。」だろうね。

「でそれがどう関係してるって?」

「うるせぇ、小娘。俺は伝説を殺したいからきた。お前はついでなんだ。今は殺してぇ気分じゃねぇんだ。黙っててくんねぇか。」

「ねぇ、おねーちゃんなんか言ってやってよ。」

「こいつの言う通り、お前、邪魔。」

「ふんっ、もういいもんね。勝手に殺しあってなよ。」

あいつ、怒ってどっか行きやがった。まぁ、どうせそこらほっつき歩いてんだろうな。

「邪魔者は省いた。と言うより、避難させたと言う認識でよろしいですかね。

「うーん、別に。お前が死んだら、あんま見せられるもんじゃなくなるじゃん。」

「豪語しますね。」

「お互い様だろ。」

普通に守るってむずいし。あいつ何しだすかわかんないもん。

「では、ラプラスの悪魔がどうやって否定されたかご存知ですか?」

「現在科学じゃあ、『ラプラスの悪魔』の存在は確か量子力学の登場によって、否定されてるな。ハイゼンベルクの不確定性原理で、素粒子の正確な位置と速度を同時に決定する事は不可能で、確率的な挙動をするためだっけ?まぁ、つまり、「ラプラスの悪魔」もこれを正確に予測する事は出来ないとされてるんだっけ。」

「おー。」

これに関しては覚えてる自分の方が驚いているよ。

「ちょっとした確率、というか、アインシュタインを始め現在でも量子力学が示す世界観に異を唱え、決定論的世界観を支持する学者もいるには居るんですよね。」

「ほーん。」

「ではでは、最終派が、このことをどう受け止めてるかわかりますか?」

要するに、最終派ならアルベルト・アインシュタインになるのか、ラプラスの悪魔発見の親であるピエール=シモン・ラプラスになるのかって問題だろ?

どっちでもいいわ。

「知らん。」

「どちらもだぁ。」

逆張りっていうのか、なんというのか。

「そりゃ面白い答えじゃないな。AorBって聞かれてCって答えてんだろ?無理ゲーだって。」

「いいえ、この場合A+B÷2なんですけどね。」

なんだっていいよ。

「内容としましては、不確定でバラバラになっていると前提とされた素粒子を、どうにも運動しないようにガシッと固定させるんです。そうすれば体もものを通り向けることもあるでしょう。」

「ごめん、聞いてない。というかもう最初の方で予想当たってるなってことで諦めた。」

「まぁ、殺させて下さい。」

「私の説明はいる?」

相手に色々語らせるだけじゃダメだろうと思ってきいいてやった。

だけど、

「調べてきてるんですよね。」

「ん。じゃいくか。」

まずつくるは機関銃。豆鉄砲みたいな感覚だ。

理由としては相手の話した内容でいくと、自分とぶつかるものの素粒子をぶつからせない用にするということだった。

だがそれは、早いものに対応できるのかという疑問点が生まれる。

それを検証するためだ。

「ちっ。」

結果でいうと失敗だ。なんていうか擦りもしねぇ。いや、触りもしないか。

次は、不意打ちだ。

足元に爆弾を作り爆破してやった。

だめだ。

効いてる様子もない。

オートにでもなってんのか?

爆風はまだしも、爆熱は大丈夫だったのか?

「じゃあ、私の番といくかぁー。」

上等だ。応戦してやる。

筋肉増強。

拳は空を切るなんてレベルじゃねぇ。

巻き込んでぶつけてやる。

「うおぉぉらっ。」

左手を出してやがる。それも一緒に壊してやる。

だが、結果を言うと、それはできなかった。

手ごと消えてしまったのだから。

「素粒子を吹き飛ばしたんだよなぁ〜。」

次には奴の右手のロシアンフックが飛んできている。

次の実験だ。

攻撃の当たる直前のこちら側の攻撃は当たるのか?

成功だ。

右手でバランスを崩したのを利用して、身で隠して作り上げたのは拳銃だ。

それを左手で発砲する。

衝撃で打った私も吹き飛ばされてしまってすぐに結果を確認できなかったが、後で見てみると奴の左脇腹から出血が確認された。

しかし、まだ条件がわからない。

攻撃で意識が向いていると当たるって言うのか?

「ははははーははははっははあはっはははははっははははーははははっハハハハハはははははははあっはははーははっはははーーはははははっははははっはははは。」

「気持ち悪いなお前。」

「まじで興奮するわぁ〜。さすが伝説。」

「私も感謝するぜ?久々に考えて相手と戦っている。爆発させりゃあ終わりってわけじゃねぇのが最高だよ。」

図太い柱でも落としてやった。

だが、これはすり抜けてるようだ。

「おいおい、伝説さんよぉびびってんのか?」

格下にここまで言われるとはな、九十九ブランドも落ちたもんだな。

「ハハハ、舐めてんじゃねぇよクソガキが。」

「でしゃばるんじゃねぇ。時代は過ぎてんだ。伝説は終わってんだよ。」

先手必勝。勝つのは私だ。

ミサイル、爆弾なんでもぶつけてやった。でも当たんない。なんでなのか。

この世にもういないのではと思ってしまう。

「まだまだですね。」

「お前もしかしてこの世にいないんじゃねーの?」

シンプルに思ったことだった。

「んなわけないでしょう。じゃあ、私はなんであなたの目にとどいているのですか?」

「光の反射。」

「ですね、いなくて、物がぶつからないならなんで光ならぶつかるのか、私には全く理解できないけどなぁ。」

まったく相手の能力が把握できない。

どんなことをすればこんなにも都合よく消えることが出来るものなのか。

「さぁ、きたらどうですか?私は今更逃げも隠れもしませんがぁ?それとも負けを認めますか?」

「ガキがやけに口達者だなぁ、テメェ、やっぱり殺されてぇようだな。」

「説得力が欠けんだよ、エセ伝説さんやぁ。」

ぶん殴る、これがやっぱり私に向いてるや。

何もかんがえずに目の前のものをただただ壊していく。

こうすると、神経が研ぎ澄まされるんだ。

どこをどう殴ったら崩れていくんだろうって。

顔面を殴る。

左拳が、頬にやっと当たった。

これなんだ。これだ、私がこの戦いの末に求めていたものが。

あぁ、どれほど待ち侘びたものか。拳に纏わりつく人間の肉体。

握り締められた拳がもう、止まらないぜ。

「あはあはははっはっははあっはははあははははははーはっはははははははあははっはははあっっはっはっははははーははあははははははーははあはっっはっはっっはっはっははっ」

止まらない、堪らない。これだけじゃ、私の渇望は満たされない。

怒涛の連打。強者の蹂躙。

あー、スッキリするなぁ。

顎が砕けたか?弱く殴ってたつもりなのにな。

「がはっ、」

血を吐いたらしい。歯も折れてんな。

「これくらい。」

あら、元通りじゃねぇか。これならよぉ、殺し放題ってもんだな。

どうやって殺してやろうか。

どうやっても死なねぇってきたもんだから、煮るなり焼くなり、100回殺すなり、好きにしちゃってもいいんだろ?

もう、滅多滅多にまで追い詰めてやる。

「もう一枚、変わってやる。」

何言ってんのかわかんねーや。

ありゃ、日本語か?おい。

私が聞き取れてない時点でそれは言語としての本来の意味を無くしてるというか、とにかく、私は今、何にも考えちゃいねぇ。

強いて言うなら、どう、ぶっ殺してやろうと言うことなんだろう。

でも、そんなこと頭では考えてない。

おそらく腹でも考えてないだろうな。

考えてるとしたら、腕の一番端っこさ。

「スカッ、」

「ふっ、九十九、まぐれみたいだな。」

もう、いいや、ぶん殴る。

「バキィ、」

「あ、入った。」

「理屈じゃ、どうにもならねぇって言うのかよ。」

「伝説ならこうでねぇといけねぇ。って言うマニュアルがあったらどれだけ楽なんだろうな。」

「あ?てめーは生まれついての伝説なんだろぉ?」

「あー、いいや、そうかなぁ、うーん、知らないというか、わかってるんだよ?でも、それはニュアンスって言うのかなぁ。まぁ、殺戮かぁ?」

「何言ってんだ、テメェよぉ。」

「あー、understand。」

ハイになってるな。

「降参は?しないよねぇ。惨殺、虐殺、皆殺し、殺戮、なぶり殺し、ジェノサイド、猟奇殺人、鏖殺、ホロコースト、うーん、いいねぇ。覚醒、覚める、寝覚める、起きる、あー、幻滅だぁ。」

「けひっ、」

「あっははっはっはあははははーーーーーーー。『鏖』。」

あれ、寝てたんかなぁ。

その一言の後から記憶がない。

記憶喪失。

うーん、そんなおお逸れたものじゃ、ないと思うんだけどな。

アルコール飲んで、酔に酔いまくり、朝起きたら、知らない天井、知らない、道路。みたいな感じだろう。

仮にそうだったとしても、酒も飲んでないっていうのに、酔っ払っちゃって、且つ、記憶も失くすって、記憶喪失よりなんか大変なことになってる。

「おい。伝説さんよぉ。」

あぁ、宇賀神 雨結だっけ?

この時、初めて気付いた。

辺り一面、瓦礫の山だった。

私は一体何やってたんだろう。こんなに、散らかしちゃってさぁ。片付ける身にもなってくれよっていうんだ、過去の九十九たん。

「生きてたんだ。」

私がこんなに、暴れても生きてたやつって、アレッシア以来だったりして。

「お前が手を抜いたからな。それに、死んだ数なんざ、覚えてねーよ。」

ちなみに、私もあんた殺した数なんざ覚えちゃいないんだ。奇遇だな、おそろっちじゃんか。

まぁ、いい歳の女が言う言葉でもないんだろうけどさ。

「初めてだよ。5億枚も使ったのは。」

「なんの話だ?」

「理解してないのかよ、ほんっと出鱈目だな。」

そりゃ、褒め言葉として私は受け取らせてもらうぜ?

しかし、5億枚ってなんか天文学的な数だな。

5億年ボタンとか、途方もない数に使うやつだろ?それくらい死んでるってことなのか?

『命のカード』みたいなのがあったりするの?

カードゲー目でも、私たちしてたっていうのか?

だとしたら、私はカードを即興で作るんだろうな。

『絶対勝つカード』とか『ジョーカーもどき』なんか作って(そういえばトランプもカードゲームだったな)勝つんだろうさ。

でも、手を抜いたって言ってたな。

じゃあ、『絶対動けないカード』とか作って、詰みを作るかなぁ。

まったく、妄想が捗るぜ。

「まだ、戦うんか?」

「いぃや、降参するさぁ。それでもお前が殺そうっていうなら、殺しに北って構わないさぁ。私は抵抗しねぇわ。」

「んな、ことはしないさ。運も実力のうちだぜ?」

「まぁ、運なんて信じたことないですけどね。」

実にお前らしいよ。

「それにしてもお前は、ルシールを殺せないで、帰れるのか?」

「私の目的は、ルシールの殺害とか、誘拐とかぁなんですが、本来の目的は伝説外どれほどなものかという事だったので、このまま帰ってもいいのですが、機関の方は許してはくれないでしょうね。」

「だろうな。え、何、お前は、雇われてんの?」

「傭兵では、ないんですけど、あの機関にお世話になってるんで、」

「成り行きって感じか。」

こいつはきっと精神的にも強いんだろうな。

「親を裏切るっていうのには抵抗ないのか?」

「ふんっ、ないですねぇ。親って言っても、こき使われてる感じなんで、このまま逃げて、老後ですかね。それか敵対勢力で、傭兵ですかね。」

こいつならできるだろうな。できないことがないって感じだもん。

「まぁ、達者でな。」

「お世話になりました。そちらこそ、いえ、必要ありませんね。」

ということであいつは、砂の被った、服から、砂を取り除いた。

これがまた、早く、なんというか、もう消えて言ったという謎の感覚に見舞われた。

「これも、砂を、って、気付かれてはいますかね。」

「あぁ、飽くまでそれではないってことだけだがな。」

「まぁ、伝説には、縁もないような、ピンとくるものもないような、中途半端な、能力ですよ。私からしてみれば、伝説のその能力、『日月星辰』の限界の方が気になりますよ。」

「ないってことは分かるぜ?」

我ながら洒落がきいてんな。

「はい、はい。」

そう言って退屈そうにしながら彼は帰って行った。家がないというのに、どこに向かって帰ったのだろう。

そんなことは今の私からしてみればどうでもいい話であり、私に今残った重要な話と言えば、ルシールの保護である。

私はここで思い出した。

もしかしたら私がこうしてる間にも、彼女は敵対組織にさらわれていたりして、なんて、妄想が膨らむ。

しかし、そんなことはなく、彼女は、事件現場傍のショッピングモールにいたのだった。

「おい、ルシール、終わったぞ。」

何やら服に見惚れているらしかった。

案外女の子っぽいことにも気を使ったりするもんだなと思うのだった。

男性っていうのは、本来はおしゃれをしない生き物なのだ。

理由としては、する必要がないから。異性からの興味を惹くために、下心からおしゃれっていうのをする。

その点、いやらしい性別だよな。

でも女性っていうのは、自己満足からくるおしゃれらしい。

どっちも好きになれないのが私視点での感想だ。

「ん?欲しいのか?買ってやろうか?」

それでもルシールは服を見ているようだった。

シカトか?何故か無視するのだった。

この私をシカトなんかいい度胸してるじゃねーか。

「おい、こっちも暇じゃねんだよ。買うなら買うって言え。」

「あー、そういう態度をとるんだ。いいんだか。」

めんどくせぇ奴もいたものだ。

「貸せ、買ってくる。」

「お客様、」

「ん?」

「失礼ですが、あまり他のお客様の迷惑にならないように、していただけると、」

「あー。すんません。」

まったく日本人っていうのはやけに律儀だったりするよな。

最後まで言わないあたり、私だからってこともあるんだろうけど、怒らせないようにっていう姿勢がほんっと腹たつ。

私なら、こんな客ぶん殴ってたっていうの。

私が他にいなくてよかった。

「会計は、23000円になります。お支払い方法は、」

なんかずらずら話してるけどよぉ、ルシールがなんで怒ってるのか、まったくわかんねぇ。

悪いけど、店員の話が頭に入ってこない。

「買ったぞ、いくぞ。」

またシカトかよ。こんなことされるのは初めてか?喧嘩売られてるみたいで腹が立つ。

「なんだ?黙ってしまって、怒ってんのか?」

「・・・・。」

ったく。

「てゆーか、あの、なんだっけ?宇賀神雨結だっけ?あいつ帰ってたよ?」

「・・・・。」

「元々、なんかあいつ私と戦うつもりだったんらしいんだよ。」

「・・・・。」

「だから私がつえぇってことわかると、帰りやがってよぉ。」

「・・・・。」

ほんっと黙ったままだなぁ。ここまでこの私をコケにするっていうのはほんっとに。

調子乗んなよ。

「飯食っていこうぜ?」

「・・・・。」

「何食う?」

「・・・・。」

「じゃあ、私適当にクレープでも買ってくるから、席とっててくれや。」

マジで一言も喋らんやん。

あー、クソ。流石に腹立ってきた。なんでここまで世話してるっていうのに、こんな扱いされなあかんの?

買って来たバナナクレープを渡すと、いきなり天を仰いで話し出した。

「疲れたなぁ。こんなに待たされたんだもんなぁ。」

「ん?」

どうした、いきなり話し出して。

「癒しが欲しいなぁ、とか?」

急にだな。

「とか?」

上目遣いに変えて私を見てくる。

「それはつまり?」

「だから、つまり、」

すると、

「はぁ、」

こいつ私の目の前で大きなため息をつきやがった。人の顔伺って何してるんだ。

「っていうか、わかってるよねぇ。絶対、意図してることを理解していってるって。」

まぁ、わかってるっていうかなんというか。

「わかってるのに言わせようとしてるとしたら、変態。」

幼女から変態などと言われてしまった。悪くない。

「悪かったな。じゃあ、家帰って、セックスでもするか?」

「ほんっと変態。なんで僕が九十九とセッ、」

言えなかったようだ。照れているのか顔を赤くしている。

「とにかく、九十九は馬鹿だってことがわかったんだよ!」

何、怒ってんだ?

違ったなら、ん?

結局、何にもわからなかった。

なんで怒ってるのかや、何をして欲しかったのか、あと、なんで仲直りができたのか。

しかし、この私に向かって、馬鹿はないだろう。まぁ、仲直りできたなら、別にいいんだけどな。

その後、発覚したことなのだが、

「この服、ルシールが着るには少しサイズが大きいんじゃないのか?」

「九十九が着るには、ちょうどいいんじゃないのかな。」

あぁ、そういうこと。

気づいた人もいるかもしれないが、こいつの呼び方が、つくもになっている。

仲が縮まったと考えるのが妥当か、それともなめられていると考えるのが妥当か、まぁ、これに関しては後々考えていくとしよう。

本当にこいつのことがわからない。

でも守りたいって気持ちに変化がないっていうのは収穫だったな。

「よぉ〜し、この調子で、ぶっ飛ばしていくぞ。」

まだ続くっていうのは、嬉しいんだけど、長くは続かないでほしい。

願うばかりで、先が見えなかった。

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