エピローグ 何はともあれ世界は続く

 ムルは去った。

 しかし、人の時間というのは動き続けてしまうものだ。

 いつものように海上都市ノアを運営しなければならないし、それに伴って島の調査も進めている。


「殿下、調査の中間報告ですわ」


 いつものようにノアクルは、ローズと部屋で二人っきりだ。

 再び地獄の座学が始まるのかと思いきや、紙の束を持って来ていた。


「調査の中間報告……ローズだけば見ればいいのではないか?」

「ダメです。いくら私が方向性を定めようと、最終判断は殿下なのですから。せめて軽くでも目を通しておいてくださいませ」

「わかった、わかった……。なになに……闇属性らしき特殊な黒い鉱石がありそうな鉱脈が発見されたのか……。ドワーフたちが喜びそうだな。俺もあとで少しもらうか」


 ローズの気遣いにより、最初にわかりやすく興味を惹きそうなものがまとめられていた。

 それらを楽しみながら読み進めていくが、ノアクルは後悔し始めた。

 地味な報告が続き、数字の羅列が現れてきたのだ。

 言うなれば、このローズがまとめた中間報告は最初に甘い砂糖のコーティングがされているようなもので、それが剥がれれば苦い薬が入っているようなものだ。

 今すぐに逃げ出したい。

 ――と、そこへ神の助けがやって来た。


「よう、兄弟。いるかぁ~?」

「トラキア!!」


 ドアを入ってきたのは酒瓶を片手に持ったトラキアだった。

 息が酒臭いので飲んでいるらしい。


「お、いたいた。せっかくの宴に主役がいないんじゃ盛り上がらねぇ。早く来いよ」

「宴か!」


 ノアクルは逃げ出す絶好のチャンスを得たが、ローズが鬼のような視線を向けてきている。


「う……ローズ……いや、ローズ宰相閣下……。大きなことを成し遂げたあとなので、民草を労うのも俺の役目かな~って……」


 まるでお菓子を買うためにご機嫌伺いをする子供のようにチラチラと見ていたら、ローズが深いため息を吐いた。


「わかりましたわ……。たしかに船での生活では息抜きも必要ですし、予定より日数もかからなかったので積み込んだ食料などが余っていますわ」

「さっすがローズ隊長! 話がわかる~!」

「さっきから何のノリですの……。まぁ、わたくしも慣れてきたということですわ。その代わり、宴が終わったらきちんと殿下のお仕事を――あっ!! もういない!!」




 ノアクルが甲板に出ると、昼間から盛大な宴が行われていた。

 飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎになっていて、まさしくダメな大人たちの集まりだ。

 仲間とのそれは、意外と賑やかでいいのかもしれないと思い始めてきた頃だ。


「さて、俺は飲むのより食い物だな」


 野外で豪快に料理をしているダイギンジョーのところへ向かうと、いつもの面々が集まっていた。


「ノアクル、やってきた。肉、うまいぞ」

「豪快に食べてるな」


 スパルタクスは大きな骨付き肉にかぶりついて、次から次へと平らげていっている。

 あの筋肉量なのだから、それだけよく食べるのだ。

 幸せそうな表情をしているので作る側も腕が鳴るようだ。


「おっ、ノアクルお前さんも食べるかい? 島には生物がいなかったが、海の方は不思議と魚の脂も乗っていてオススメですぜ」

「ああ、頼む」


 ダイギンジョーは良い食材に出会えたのが嬉しいのか、いつもより饒舌だ。

 包丁捌きも冴えていて、巨大な魚を一気におろしている。


「うぅ……ひっく……ノアクルさん様、お暇ができたら壊れちゃった古代兵器を直してくださいですますぅ~……」

「あ~……。アレは下手に合体させた俺も悪かった。なるべく元通りにしておく」


 ピュグは泣きながら酒を飲んでいる。

 泣き上戸というより、ノアクルが対トレジャン海賊団で強引に使った古代兵器のぶっ壊れ具合が悲しいのだろう。

 二基のゴッドスレイヤーも大破しているし、これからも苦労をかけることだろう。


 ノアクルはダイギンジョーから一メートルくらいはありそうな巨大焼き魚を受け取り、人のいない壁際に座り込んだ。


「豪快すぎだろ……ダイギンジョーのやつ……」


 そこへ少し元気の無さそうなジーニャスがやってきた。


「ノアクル様、隣いいですかにゃ?」

「ああ、いいぞ。ついでにこの巨大焼き魚を半分食べてくれると助かる」

「にゃはは……」


 ジーニャスが隣に座ってきた。

 距離が近いので焼き魚目当てで来たのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。


「……あ、あの……っ!!」


 頑張って出しているとわかる声を、ノアクルは巨大焼き魚を食べながら聞く。


「私……色々聞いて……。トレジャンが死んだお母さんと会って、お父さんが生きてアルケイン王国にいるかもしれないことだったり、ムルさんが裏切ったり……」

「うるさい、良いから食え」

「むぐっ」


 ジーニャスの口の中に巨大焼き魚を突っ込んでやった。

 猫舌には熱かったらしくハフハフしている。


「正直、俺もまだ混乱している。こういうのには切り替えが必要だ」

「ひゃ、ひゃい」

「だから、宴を楽しんで、そのあとで考えよう。なぁに、本当にすぐ考えなければいけないのならローズが叱ってくるさ」

「そ、そうですにゃ……。その通りですにゃ……」

「神だとか、王国だとか、裏切りだとか、そういうのが色々あっても……何はともあれ世界は続く。一時の休息も必要なことだ」

「うんうん……たしかにノアクル様にシリアスな顔は似合いませんにゃ」

「王子に向かって酷い言い草だな。罰として熱々の焼き魚の刑だ」

「にゃー!! 美味しいけど、食べさせてくるのは恥ずかしいですにゃー!!」

「ふはははは!!」


 たぶん、一番心労が溜まっているのがジーニャスだろう。

 ノアクルなりに不器用な励まし方をしながら、海上都市ノアの時間はいつも通りに進んでいく。

 棄てられ王子の宝物たちを乗せて。





――――――



あとがき

ここまでお読みいただきありがとうございます!

再びの一区切りです!

また反響などがあったら続きを書くと思います(書籍化して続きが必要になれば確実に書きますが! コンテスト受賞してくれー!)。


今後の執筆予定については、並行して連載している『現実世界でアバターまとって無双します』と、しばらくしたら異世界ファンタジーな新連載を投稿したいかなと考えています。


ではでは、またいつかノアクルの旅があることを祈って……!






第九回カクヨムコンに出してみました!!

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お前はゴミだとイカダで海に追放されたので、無駄スキル【リサイクル】を使ってゴミ扱いされたモノたちで海上都市を築きます ~棄てられ王子の最強イカダ国家~ タック @tak

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