捨てた財布

まにゅあ

捨てた財布

 昨日、道端に財布を捨てた。

 未練はあった。

 だけど、そうしないと始められない気がした。

 彼女からもらった黒の長財布。

 三年間肌身離さず持ち歩いていたけれど、結局――大金持ちになれなかった!

 とんだインチキだ!

 何が「この財布持ってたら、大金持ちになれるんだって」だ!

 冗談は顔だけにしろ!

 おっと、今のは言い過ぎだったか。

 いや、むしろ言い間違いか。あいつ、顔だけは良かったからな。料理とか洗濯とか家事全般はまるでダメだったけど。

 とにかく、これまでのことは忘れて心機一転。まずは新しい財布を買いに行こう。

 確か近所のデパートに財布を扱っている専門店があったはずだ。値は張るだろうが、いい財布を買ったらお金が貯まるとも言うし、何ら問題はないだろう。

 長財布にしようか、それとも二つ折りか。色は黒か茶色か。素材はやっぱり革がいいだろうか――なんてことを考えながらデパートへと向かっている道の途中で、それを見つけた。

 財布だ。財布が道端に落ちていた。

「おいおい、マジかよ」

 一目見た瞬間に直感する。

 間違いない。俺が求めていた財布だ。

 ふらふらと引き寄せられるようにして、道端に落ちていた財布を拾った。

 年季の入ったその長財布は、ぴったりと俺の手にフィットした。表面の艶やかな黒革が上品に自己主張をしている。これを持てば、間違いなく大金持ちになれる!

 俺はその財布を片手にデパートへの道を引き返し、自宅へと向かった。

 拾った財布を自宅で眺めていると、俺は衝撃の事実に気がついた。

「これ、俺が昨日捨てた財布じゃねえか!」

 






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