ほっぺの指先 🐥

上月くるを

ほっぺの指先 🐥





 抱き上げると、驚いたように目を開ける人形。👰‍♀️

 ちょうどそんな感じでした、その患者さんは。🎠


 ちょっと、お顔をきれいにさせていただきますね。

 温タオルで頬を拭ってさしあげたときのことです。


 パッと大きく見開かれた目から、パラパラとあられのようなものが飛び散り……。

 青白かった頬を心なし薔薇色に上記させ、子どものように泣いていらっしゃって。


 どうかなさいました?( @_@; )

 いえ……すみません。(´ω`*)



 

      🛏️




 あまりおしゃべり好きなタイプではないのか、しばらく黙っていらした患者さんがふたたび口を開かれたのは、首や背中を拭き終え、手指を清拭しているときでした。

 


 ――人の指って、こんなにあたたかかったんですね~。(´;ω;`)ウゥゥ



 そう言いながら、またしても大粒の透明なしずくを、小さな顔に降らせています。

 そのひと言で、救急外来担当の看護師であるわたくしは、すべてを了解しました。


 


      🪟




 とつぜんの腹痛で夜間救急外来に運びこまれた患者さんは88歳のひとり暮らし。

 遠くに住む子どもたちの負担にならないよう、何でも自分でやって来たそうです。


 ことのほか健康に気をつかって来たことは、鍛えられた腹筋や大腿筋で一目瞭然。

 それでも生身の人間ですから、加齢に従って病気の頻度が増すことはやむを得ず。


 少し前からお腹が痛かったそうですが、我慢に我慢を重ね、ついにということに。

 激痛に堪えながら、医療関係者ごとに「すみません」を繰り返す律義な患者さん。


 でも、気丈にふるまっている方こそ、本当はさびしがりやで怖がりやであること、いつの間にかベテランと言われる年齢になったわたくしには手に取るように分かり。




      🍏




 折からのコロナ禍でもあり、もう長いこと人肌に触れることがなかったので、職業としてお世話しているわたくしたちの指にも感覚が激しく反応なさったのでしょう。


 そう思うと、手術を控えた救急患者でありながら、小柄な心身に緊張感を漂わせてベッドに固まっている女性が愛しくてならず、わたくしは笑って申しておりました。



 ――大丈夫、なにも心配はいりませんよ。ヾ(@⌒ー⌒@)ノ

   うちの先生方は名医ぞろいですから。(^。^)y-.。o○o



 そのとたん、三度目の透明なしずくが西洋人形のように大きな目から弾けました。

 でも、今度のなみだはわたくしたちプロを信頼してくださる安心のなみだでした。





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