私、パーティー追放されちゃいました

菜花

鬱くしい異世界

 会田沙奈(あいださな)は日本の女子高生だった。ほんの一瞬前までは。

 学校からの帰り道、ひと気のない場所に入ると、数メートル前に大きな穴が開いているのを見た。


 沙奈は数日前に世界で一番黒い塗料のニュースを見たばかりだったからか、近くで工事でもやってて、塗料がここまで飛んだのかと極めて冷静だった。なので危険に思うこともなく、すぐ横を通って帰ろうとする。

 実際は空間に開いた本物の「穴」 で、通り過ぎようとした沙奈はある距離まで近づくと、その重力に捕らえられてしまった。

 ブラックホールだったんだ、と気づいた時には遅かった。踏ん張っても踏ん張っても圧倒的な引力に引きずり込まれていく。こんな強力なら周囲のもの全て飲み込みそうなものなのに、と思ったが、それは人だけを狙った「穴」 なのだということは後から知った。



 目が覚めた時、沙奈は知らない土地に居た。割と都会な土地に住んでいた沙奈からすると一瞬で田舎に来たのかと思うような鬱蒼とした森林ばかりの土地に。

 頭の中でこれまでのことを整理しようとして、すぐ近くから獣の唸り声が聞こえた。

 振り返ってみたのは狼に長い牙と大きなツノをつけたような生き物だった。それが血走った目でこちらを威嚇しながら、ジリジリと距離を詰めてくる。状況を理解できないまま動こうとしない沙奈を見て敵意有りと判断したのか、それは一気に飛びかかろうとしてきた。


 死ぬんだ。

 そう思った沙奈だったが、頭上から「伏せろ!」 と声がして咄嗟に伏せた。

 肉を切り裂く音、獣の恐ろしい断末魔。

「もう大丈夫だ。顔をあげてもいいぞ」

 そう言われて顔をあげると、そこにはそれまでの恐怖も忘れてしまいそうになるくらい美しい、銀髪に赤目の戦士が立っていた。

 その戦士は声を出さない沙奈を見てまだ恐怖に怯えているのかと手を差し出す。

 咄嗟に手を取った沙奈だが、その体温を感じると「あ、これまでのことは夢じゃないんだ」 と実感してしまい、キャパオーバーとなったのかそこで意識が飛んでしまった。



 沙奈が目覚めたのは場末の宿屋の寝台の上だった。あの銀髪の戦士が運んできてくれたらしい。沙奈が目覚めたのを見て戦士はとりあえず、と自己紹介を始めた。


「俺はクレイル。しがないFランクの冒険者さ」

「わ、私は沙奈です」

「サナ? 変わった名前だな。まるで異世界人みたいだ」

「! そ、そうかもしれないです、私の居た世界ではあんな怪物いなかったから」

「マジか!? じゃあ穴からやってきたのか」


 クレイルいわく、この世界には魔力の磁場が極めて不安定な場所がいくつか存在し、そこでは稀に異世界へ続く穴が開いてしまうとのこと。不思議なことに穴には命のある者を吸い込んでから閉じる習性があった。それには規則性も何もなく、たまたま穴の近くにいた人間がやってきてしまうということだった。そして戻る方法は……戻りたくて再び穴に入っていく人間はいるにはいたが、そこが本当に元の世界に続いているのかは誰も知らないということだ。最悪宇宙空間にでも続いていたら沙奈は無駄死にするだけだろう。


 現状に絶望して涙する沙奈を、クレイルは優しく慰めた。

「泣くなよ。体力を奪うだけだ。その、俺でよければお前のこと面倒見てやれるし」

「クレイルさん……」


 その日から沙奈はクレイルのパーティーに世話になることにした。というより、他に行く所がなかったのだ。

 クレイルのパーティーは他に男が三人。前衛役のクレイルを筆頭に魔法が多少使えるエミル、盾役のフェルナン、回復係のレジス。いずれも平均以上の容姿をしているが、この世界ではこれが普通なのだろうかと沙奈は思う。


 彼らと比べて沙奈はこの世界のことを何も知らないし、戦闘においてはずぶの素人。最初に襲ってきた魔獣もコツさえつかめば子供でも倒せるランクのものだったという。それに死にそうになっていた自分は……。客観的に考えても足手まといもいいところだが、彼女は前向きだった。一生懸命やれば人並みにくらいはなれるはず。それから少しずつ拾ってもらった恩を返していこう。幸い言葉も通じる異世界だったし、一年くらいあれば人並みになれるかな?


 その時点では自分を普通の人間だと信じている沙奈の考えは、常識的で健気ともいえるくらいだった。 

 問題は、沙奈の潜在能力が桁違いだったということだった。


「冒険者ギルドです。ではお持ちのスキルと魔法属性を調べますので水晶球に手を……え?」

 美人な受付の女性がそう言うので手をかざした沙奈だが、水晶球が一瞬で割れた。

 寿命か、不良品だったのかと別の球を持ってこられたが、それも壊れる。受付女性が上司と一緒に奥から今までのよりも大きく高級そうな水晶球を持ってきてやっと沙奈の能力が判明した。


「スキル:経験値増加、必中、状態異常無効、常時バフ効果発動、無詠唱、精霊召喚……ひっ、普通の人間なら一つでもあれば豪運と言えるのに」

 女性が引きつった顔でそう言った。上司の男も震える声で持っている魔法属性を読み上げた。

「火、水、土、風、光、闇……ぜ、全属性をお持ちです。私もここに勤めて長いですがこんな方は今まで見たことありません。百年に一度、いや、千年に一度級の人材です」


 それがどういう意味なのか、異世界に来て二日目の沙奈にはまだよく分からなかった。

 だが魔法の訓練を始めた途端にそれが理解できるようになった。

 数分の練習で手から火だの水だの出せたり、数時間の実地訓練でその土地最強の魔獣を倒してしまったのだから。周りがふーんと興味無さそうな反応でもしていたら違ったのだろうが、天才少女だ、神に愛されし聖女だなどと騒ぎ立てるものだから、沙奈にも自分がどういう人間なのか理解できた。



 沙奈は高揚感を抑えられなかった。元の世界では良くも悪くも普通の人間で、特別目立つようなことも無かった。おまけに人見知りな性格で友達もいない。スクールカーストでいえば底辺の人間だった。漫画やアニメの主人公のような特別な存在になってみたい、でも、きっと叶わない願いなんだろうなと沙奈は孤独と諦めの中で生きてきた。

 それがどうだろう。異世界に来てからというものスターのようになった。

 沙奈の働きでクレイルのパーティーはAランクにまで出世し、優秀な沙奈を引き抜きたいとあちこちから誘われ、ギルドの職員には一級の待遇でおもてなしされる。

 聖女を呼ばれるような少女を見たいと各地から人が押し寄せ、強い人間がいるなら事故で死ぬことも少なくなると一般の戦士や傭兵もやってきた。街はかつてない賑わいを見せた。受付の女性はここが世界で一番賑わってる街なんじゃないかと沙奈に笑いながら言った。

 能力と名誉を手に入れて、16の少女が天狗になるのは必然だった。



 その日もクエストの帰りに他のパーティーから引き抜きに誘われた。

「でも、私はクレイルさん達に拾われたので」

 沙奈はいつもそう言って断っている。嫌味でも何でもなく行き場の無かった自分を拾って世話してくれてここまで育てたのはクレイル達なのだから、彼らのとこにいるのが自然だろうとの判断だった。

 けれど、意地の悪い人間は違う受け取り方をする。


「最初に拾われたのが別のパーティーだったら違ったって意味だろ、アレ」

「いつまで恩に着せてサナちゃんを独り占めするのかねえ」

「女一人でもってるパーティとか恥ずかしいよな」


 沙奈には聞こえないように、クレイル達にだけ聞こえるように陰口を叩く人間は多かった。嫉妬とやっかみというのは、異世界でも普通にあるようだ。


 毎日毎日そんなものを聞かされたクレイル達は少しずつ、少しずつ神経をすり減らしていった。その限界が来たのは、沙奈が能天気に発した一言が原因だった。


「もー、まいっちゃいました。私はクレイルさん達といるっていうのに皆に誘われまくるんだもん。モテる女はつらいですー」


 単なる冗談だった。少なくとも沙奈には。けれど神経が参っていたクレイルにはそれが自慢か嫌味のように聞こえてしまった。

 別にお前のところにいなくてもいいんだぞ、本当は出ていきたいけどお前に拾ってもらった立場だから引く手あまたでも居てやってるんだぞ、有能な自分がいて嬉しいだろ? と言っているように聞こえたのだ。


 馬鹿にしやがって。


「サナ……すっかり良い身分だよな」

「え?」

「最近お前うぜーよ。拾ってやったの誰だか忘れてるのか? かよわい女子供だと思ったから保護してやったのに調子に乗りやがって」


 一度口から出た不満は止まらない。むしろ今まで理性で抑えていたぶん、吹き出した怒りは強いものになる。

 訳も分からずいきなり煙たがられた沙奈は慌てて腰を低くした。それも頭に血が上ったクレイルには下手なご機嫌取りに見える。


「あ、あの、私何かしちゃいました? この世界のことまだ分かってなくて、失敗があったなら謝りますから……」

「これだけ人を不快にさせといて分かんないのかよ! もういい、お前といるの苦痛なんだよ。そもそも慈悲でここにいさせてやったんだ。もう十分だろ。お前をこれ以上このパーティーに置いておくわけにはいかない。今すぐ出て行ってくれ」


 沙奈はリーダーのクレイルにそう言われて慌てて他のメンバーを見る。エミルもフェルナンもレジスも、皆そっぽを向くか冷たい目を投げるか憎々し気に見てくるかだった。沙奈の味方はまったくいなかった。

 

 稼ぎには公平だったパーティーメンバー達だった。一番の立役者たる沙奈はもちろんかなりの路銀がある。その時点での稼ぎを持たせ、クレイル達は根城にしていた宿の一室からもパーティーからも沙奈を追放した。


 沙奈は仕方なく別の宿を取って、ひとまずそこに泊まることにした。備え付けの椅子に座ると涙が出てきた。


 いつの間にあんなに嫌われてたんだろう。でもそういえば、天才だ聖女だって言われて、クレイルさん達が今何を思ってるかなんて全然考えてこなかった気がする。

 浮かれててつい偉そうな態度を取ったのも……覚えがある。

 そりゃ同情でパーティーに入れただけの子が自分が中心みたいな態度取ってたら腹立つよね。

 でも気の置けない仲間だと思ってたのに、いきなり厳しいこと言われて追い出されるのって……自分が悪くても堪えるなあ。でもきっと、自分に憤る資格なんてないんだろうな。



 一晩で何とか気持ちの落ち着いた沙奈は、ともかくいくら最強でも一人でいるのは色々大変だから、他のパーティーに入れないかと考えた。この異世界に来てまだ半年。やっと異世界の基本的なことが分かってきたばかりだ。まだまだ知らないことが沢山あるし、教えてくれる人がいないと困る。何より万が一病気になっても保険とかないこの世界じゃあ……やっぱり仲間が必要だった。

 今まで男達の中に女一人のいびつなパーティーで、女に偉そうにされるのが気に障って関係が破たんしたんだとすれば、やっぱり女の子メインのパーティーに入るのが自然だよね。沙奈はそう思って手近な女子パーティーに声をかけた。


 だが、沙奈は知らなかったが沙奈の女子の評判は最悪だった。

 沙奈はこの世界の顔面レベルが高いと思っていたが、クレイル達のパーティーが異常だったのだ。

 ランクこそ低いが皆かっこよくて素敵な人達。彼らを目にしたほとんどの女性がそう感じて目の保養にしていた。そんな中、ある日突然女子が混ざってパーティーの中心面してくるのだ。面白いはずがない。


「ああ……噂のサナ様じゃない? どうする?」

 一人が面倒くさそうに言う。

「今まで男ばっかのメンバーの中で姫やってた人でしょ? 上手くやってく自信ないわ」

 一人が大体は事実であると言えることを嫌味ったらしく言う。

「有能なスキルあって追い出されるってよっぽど性格がアレなんだろうしね」

 一人が馬鹿にしたように言う。

「この会話聞こえてるだろうに、まだどこにもいかないって凄いよね」

 一人が何も言ってこない沙奈を見て調子づいたのか、沙奈が神経図太い人間だと嘲笑うように言う。


 そこまで言われてまだ仲間にしてと言えるほど沙奈も心臓に毛が生えていない。すごすごと離れていった。後ろから女性パーティーがどっと笑う声がした。


 それでも数週間は沙奈も粘った。他の女性のいるパーティーに自分を売り込みに行くが、むかついていた少女を馬鹿に出来るチャンス、とでも言うように揃って彼女達は沙奈をコケにしながら拒絶した。全員が全員そうではなく、あまりにも優秀すぎる沙奈が入ったら自分の立場が危うくなる、と思って拒絶した人もいたのだろうが、それにしても彼女らはついでのように沙奈を馬鹿にした。沙奈の優秀さへの嫉妬やイケメン軍団のところにいたやっかみ、あれだけ優秀だし皆言ってるなら自分も悪く言ったって構わないだろうという甘えもあったのだろう。だが今の沙奈にそんな人の心理を理解しろというのは無理な話だ。


 女性にはことごとく断られた。ほぼ全員が自分がどれだけ無神経で仲間にするには不適格かという丁寧な説明付きで。

 だからといって男性メンバーのところへは行きたくない。またクレイル達のようになるのが怖いし、明らかに下心がある人達も多い。以前も誘われる時にやたら身体を触ってくる人も多かった。

 でもパーティーに入れてくれる女性パーティーは皆無。

 調子に乗ってる時は気づかなかったけど、私ってずいぶん性格悪いんだな。そうじゃないとこんな目に合わないよね、こんなに断られないよね……。


 最後に残った女性のいるパーティーにも断られたその日、沙奈は机に突っ伏して泣いた。その女性の言葉も沙奈にダメージを与えていた。

『きついこと言うけど、貴方みたいな能力一流性格三流の人なんて誰も雇わないと思うわよ。一人でやっていけるだけの能力はあるんだから誰かを当てにするのやめたら?』

 その女性のパーティーでは女性はその人一人だった。他の男性メンバーは有能な沙奈だし女性が増えれば嬉しいんじゃないか? とその女性にも言ったが、女性はムッとしてこのパーティーにはこんな子いらないと言った。あまりにも馬鹿にされすぎて言い返す気力もなくすごすごと帰る沙奈を気の毒に思ったのか、男性メンバーは何人かが「言い過ぎでは」 「そもそも直接話したこともないのによくあそこまで性格悪いって断言できるな」 と言った。女性は怒り狂って「何よ皆言ってるでしょ。皆言うからあの子は性悪なのよ! それとも何? ここの女性全員が嘘ついてるとでも言うの!?」 とまくし立てるので気の弱い男性陣はそれ以上話を続けることはしなかった。


 そんなことがあったとも知らない沙奈は、自分の評判の悪さに絶望して、ここからどうにかするには、と必死に考えた。考えた結果……。




 その頃、沙奈がいなくなったクレイルのパーティーは目に見えて戦果が悪くなった。もう少しでSランク到達というところまで来ていたのに、沙奈が居なくなった途端にFランクに逆戻りとなった。それまで馬鹿にしていた人間達はいい気味だ、元々身の丈にあってなかったんだと笑うが、静観していただけの人間は呆れていた。

「あんな有用な子を外す意味が分からない」

「聞けば異世界人っていうじゃないか。いくら有能でも身寄りもないのに追い出すとは」

「16だろ? 多少調子に乗ってもしょうがないじゃないか。戦闘で無能なら分かるが有能だから目障りになったっていくらなんでも心の狭い……」


 クレイル達も今や嫌というほどサナを追い出したのが悪手だと理解していた。

 報酬が減った。宿が低ランクになった。戦闘で怪我することが増えたのに薬もまともに買えない。人間一度贅沢に慣れると中々元の貧乏生活に戻れないものだ。サナが戻れば生活ランクも戻るのだろうが……。


 沙奈が女性パーティーから断られまくったのはクレイル達も一因だった。突然追い出されて思考が働かない沙奈を尻目に、近くにいた女性パーティーに声をかけて「サナが仲間にしてくれと言っても断ってくれ」 と頼んだ。憧れのクレイルパーティーの頼みなら、と女性達は快く引き受けた。彼女らが必要以上に沙奈に冷たかったのはクレイル達が追い出すと決断するまで悩ませた苦しみの元凶に成敗を、と女性達の幼稚な正義感が働いたのもあるのだろう。さらにクレイル達に頼まれないまでも、最近この街に来たばかりの女性パーティー達などは天才少女と聞いて一人でかっこよく自立しているタイプを想像していたのだが、実際はイケメンに囲まれて姫やっている女の子だった図を見て勝手に裏切られたような気持ちになっていた。

 クレイルが女性パーティーに沙奈を避けるよう言ったのは、最初は簡単に他に鞍替えしてここに居た時より楽しそうにしてたらムカつくから、という程度のものだったが、パーティーが落ちぶれるにしたがって、誰からも断られれば向こうから謝って戻ってくるんじゃないか、と考えが変化していった。


 そして今日、最後に残った女性のいるパーティーからもきつい言葉で断られているのを見て、もう頃合いだろうと思った。

 一向にこちらに来ないし、ああまで矜持をボコボコに折られれば戻ってきた際にはさぞ謙虚になっているだろう。明日の朝に迎えに行ってやろう。「あまりにも可哀想だから戻ってきてもいいよ」 と言えばきっと喜ぶだろう。クレイルのその提案はクレイル以外のメンバーも名案だと喜んでいた。



 朝、クレイル達がサナの泊まる宿屋の一室に向かった。コンコンとノックしても返事がない。ショックで自殺したりしてないよな、とレジスが呟いたことで慌ててドアを開ける。鍵はかかっていなかった。


 そこは綺麗に片付けられていて、人の気配はなかった。

 通りかかった緑髪のメイドにここに泊まっていた少女はどうしたのかと聞くと「夜が明ける前に出ていかれましたよ」 と言う。

 ただ出かけただけならクエストをこなしにいっただけかもしれないが、荷物が一切無かった。これは……。

 慌てて宿屋の受付に行き、沙奈がどこに行ったか心当たりはないかと聞くと、沙奈と見られる女性が遠方に行く馬車に乗るのを見たという。


 絶望するクレイル達を見ながら、先程の緑髪のメイドが口の端で笑った。

 何もこの街の女性全員がクレイルの味方だったわけではない。このメイドは部屋に帰ってくるたびにいつも死にそうな顔をしているサナを見ていて、気の毒に思ってこっそり差し入れをしたり愚痴を聞いたりしていた。自分に戦闘能力があればパーティーを作って一緒に戦ったのに、と思うくらいにはサナに同情していた。それをサナは自分が金を払っている立場の人間だから、と思っていたようだが、よってたかってあそこまで子供の自尊心を折る人間達はどうかしてるとメイドは思う。

 ここでの生活に希望が見いだせない、と嘆くサナに、なら、遠くの街ならどうだろうかと提案したのはメイドだった。誰も知る人がいない街ならサナを悪く言う人間もいないだろうと。メイドとしてはサナをこの街から逃がしてあげたかった。世間知らずのサナを良いように使う人間しかいないこの街から。

 サナは元々遠出が得意でないのだが、もう背に腹は代えられないと覚悟を決めて行くことを決めた。その際に朝早くに行こうと言うサナを説得して「朝では大勢に見られて陰口を叩かれる。未明のうちに出発するといい」 と勧めた。そうしてクレイル達に見つかることなくサナはこの街から飛び出した。



 それからその街は火の消えたようになった。いや、沙奈のいる前に戻っただけなのだが、沙奈がいた時の繁栄ぶりを見た人間にはそう思えたのだ。

 クレイル達は抜け殻のように日々を送っている。そしてけしかけたのは自分達なのに沙奈に悪口を言った女性達に嫌味を言ってはストレス発散をしている。そうなると当然人は波が引くように離れていく。




 沙奈はというと、別の街、別のギルドで名前を変え、Bランクの振りをして細々と生活している。もう目立つ生活はこりごりだった。

 いつか、元の世界に戻る方法を見つけたいと思いながら彼女は生きている。





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