借金

高黄森哉

返済


 リア充が憎い。呪詛を垂れ流すその前に、リア充とはなにか、知らない人のために説明しよう。リアはリアルのリア、である。そして、充は充実の充、ではない。獣のジュウが転じて、充足の充になったものだ。これは、『障害』という単語を『障碍』と書き換える、といった具合に、『障碍』という言葉を『聖徳太子』のイメージと結びつけることで、その印象を和らげることにした、という例と似ている(こんなことを書くと、差別だと非難されそうだが、俺が面白おかしく説明しているのは『単語』であって、その括りに入る人間でないことに留意されたし)。

 第一、若い楽しさは、それは楽しさの前借に他ならない。俺はガリガリの脇腹をガリガリ言わせて歯を軋ませる。がり勉の俺は、いま必死に勉強に耐えているが、それは辛さの前借であり、終わったとには楽しさが待っているのだ。



 俺に言わせれば世の中はシーソーである。



 金持ちは精神的に病み、それと対応する貧乏は清く、アスリートは馬鹿であり、運動音痴は天才、モテる女は同性に嫌われ、モテない女子は同性に性的な目を向けられ、そして、俺は禁欲的でじっと耐えているので、人生の後半には、天国のような幸福が待っているのである。

 宝くじは当たる。素晴らしい相手が見つかる。趣味に打ち込む。テーマパークにほぼ毎日遊びに行く。格好の良いバイクや車を乗り回す。話題の店に食べに行く。これらは、今を楽しんでいる人間には反転して降りかかる。シーソーの形をした鎌が振り下ろされるように。

 今に見てろ。貯金は尽きる、女遊びは飽き男色に目覚める、趣味をやりつくす、テーマパークで働く羽目になる、カッコウのいいバイクや車は金属の疲労で壊れる、話題の店はもう話題じゃなくなる。これは、すでに始まっている!


 信号が青になると。俺は周囲のリア充、ないし、差別的であるがここは堂々、声を大にして発言しよう、リアたちと、縞々模様の横断帯を渡る。シマウマめ。大きく錯覚させやがって。シマウマ類・シマウマ目・シマウマ科、のシマウマめ。自分を大きく見せやがって。どす、っと刺される。

 俺は、何が起こったか、分からなかった。シマウマのような服の男が走り去った。次々と人を刺していく。俺と一緒に渡っていた、リア充も、同じように地に伏した。嗚呼、そうか。そうか。通り魔か。俺は、リアルに充実していた彼らが羨ましくなった。そうかそうか、借金は踏み倒せるのか。債鬼は地獄まで追ってこれないのだった。薄れゆく視界のなかで、信号が赤になった。






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借金 高黄森哉 @kamikawa2001

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