第4話
8月6日 土曜日 ロケ地の教室にて
今日から撮影が始まる。内容は、主人公 城島仁(冴島)が、授業中によく目が合う
ヒロイン 花畑ゆりあ(俺)を気にしだすところから始まる。しかし、ヒロイン(俺)には彼氏 高原涼介(凌生)がいた。主人公(冴島)と彼氏(凌生)との争い。ヒロイン(俺)が通い詰めていたコロッケ屋さんのおばちゃん(保健室の先生)の死...。主人公(冴島)が持っていた図書カード300円分の窃盗事件...(犯人は凌生)。近所の田中さん(近所の田中さん)の入れ歯でこけるヒロイン(俺)...それを受け止める主人公(冴島)...惹かれ合う二人...。駄作の予感しかしないこの作品、本当に大丈夫だろうか。コロッケ屋の話はいるのだろうか。
カメラがセットされた。衣装も教室もエキストラも完璧だ。
「えー、監督の相模原弘樹です。今日はね、えー他の学校からもですね、エキストラで来ていただけたということで、本当に、ありがとうございます。えー皆さん、文化祭ですかね、そこで放映した俺達四人で作ったロケを見ていただいて、そこからこの映画部の活動をどんどんと、知っていただいてもらえたということで、今日も来てもらえたわけですね。本当にありがとうございます。では、始めていきましょう。」
俺の挨拶が終わると、全員が配置につく。祐也の掛け声とともに、カメラが回る。
今のシーンは、ただ冴島が俺と目を合わせるだけだが、それだけでもなんだか微妙な気持ちだ。
撮影した映像を見ると、尚微妙な気持ちになった。確かに、客観的に見ればただの美男美女の恋物語だろう。しかし、俺にとっては男と男(女装済み)の恋物語なのだ。
次々とシーンを撮っていく。撮影するたびにこんなに微妙な気分にならなければいけないのか。
一番きついのは、声を出すシーンである。
冴島と特訓はしたが、改めて考えると、なんとも複雑である。
カメラが止まると、祐也が俺の方に駆け寄ってきた。
「ひろちゃん、大丈夫?」
「祐也...。」
「...ひろちゃんさ、なんか雰囲気変わったね。女の子っぽい感じだよ。」
「は?」
「可愛いと思う。」
そう言うと、祐也はカメラに戻った。
なんだ、なんだよ気持ち悪いな。大体やらされてんだよ俺は。
こんな時までちゃん付けすんじゃないよ。
女子生徒との会話シーンが、本当にきつかった。
(女子生徒4)「ねえゆりあ、あいつのことどう思ってんのよ!」
(俺) 「あ、あいつって?なんのことよ。」
(女子生徒5)「好きなんでしょ?城島のこと!」
(俺) 「べ、別に!勘違いしないでよね!」
どこのギャルゲだよ。大体セリフのチョイス古くないか?
もうやめたい…俺はなんでこんなことしているんだよ。大体俺監督だぞ。
監修させろよ。もっと俺に監修させろよ。
8月22日 月曜日 ロケ地の公園にて
今日で...今日でやっと撮影が終わる。長かった...いや、たった二週間とちょっとくらいしかやってないけど...本当に長かった。
(俺)「やめて!私のために争わないで!」
殴り合う主人公城島仁(冴島)、高原京介(凌生)。
(俺)「私...私は...仁くんが好き!」
言いたくもないセリフを吐くと、二人の手が止まる。
(俺)「好きよ...仁くん。」
(凌生)「負けたよ...仁。」
やかましいわ。その遠い目を今すぐ潰してスムージーにしてやろうか。
(冴島)「ゆりあ…!」
冴島に抱きしめられる俺。もうどうでも良くなった。
次第に近くなる俺と冴島の唇。...え?これって...まじでするの?は?
冴島が小さく囁く。
「ごめん...監督。」
もういい。好きにしろ。
俺は...この日、男を捨てた。
8月31日 水曜日 部室にて
部室での完成した映像の試写会。
全員が、今までにないほどの剣幕で、再生されたビデオを見つめる。
結果、割と面白かった。ムカつくけれど、割と面白かったのだ。
皆で泣きながら、部室で完成祝福パーティーを開催した。
(監督)「祐也、カメラ回ってる?」
(祐也)「うん!ばっちり!」
(監督)「えー、今回、この映画が完成したことを祝して、かんぱーい!」
俺のその掛け声とともに、四人のグラスが打ち合う。
(凌生)「今回、俺の企画で大成功だな!監督!」
(監督)「ああ!凌生!じゃんじゃん飲め!後で殴ってやる!」
(祐也)「ひろちゃん可愛かったねえ!」
(冴島)「本当に可愛かったですよ!監督!」
(監督)「お前らの家のポストに納豆ぶちまけてやろうか?まあ、可愛かったのは
事実だけどな。俺可愛かったもんな。」
(凌生)「高校生にもなって気持ち悪いな。」
(監督)「うるせえよ。お前が企画したんだろ!」
打ち上げも終わり、後は『シャイな高校あんちきしょう』のロケと、映画の放映日を待つのみだ。
9月1日 木曜日 部室にて
夏休み最終日まで、あと10日。先生に許可を得るためには、この最終日の3日前までにロケ映像を提出しなければならない。そう...要するに時間がないのである。
期限は試写会も設けるとして、ぎりぎりになるが、7日だ。
祐也の編集は早くて3時間で終わる。だが、じっくりやってほしいという気持ちもある。...ロケは、今日から5日までに行かなければならない。
部内装会議である!
「おい!お前ら!今から会議を始める。凌生、企画は考えてきてるか?」
「...。」
凌生の様子がおかしい。いつもなら、俺の声を遮ってまで発表したがるのに、今日はうつむいて全く喋らない。
「凌生?どうしたんだ?企画は?」
「監督...ごめんなさい。」
「何?」
「思いつかないんです...。」
「え?」
「監督...俺...出し切っちゃいました。映画で。」
「...ええ⁉」
ま、まずい…これは…まずい!これは...ロケ自体が中止という可能性が...。
納品に間に合わなければ映画部の株は下がり...廃部の危機に...これはまずい!
...だが、正直いつも凌生に頼りすぎていたところはある...。
「凌生、大丈夫。大丈夫だ。」
「監督...。」
「諸々の予定を考えると、今日から6日もある。よしお前ら!3日から5日まで、旅行行くぞ!」
「ひ、ひろちゃん⁉」
「か、監督!無茶ですよ!流石に!お金とかどうするつもりですか!」
「俺が全部出してやる!流石に海外は無理だが、日本なら何処へだって俺が連れてってやる!今日中に親に相談しとけ!無理は承知だ。だが、完成させるにはこれしか無い。何処に行くか、今から会議だ!」
「か、監督...いや、弘樹...ありがとう。」
「良いよ。それより、お前がうつむいてると違和感あるからさ、顔上げろよ。今から 考えようや凌生。...何処へ行きたい?」
理想的 くま @mittan5kai
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