くたばれクソガキ

ぶざますぎる

くたばれクソガキ

 ある女性から聞いた話。

 彼女は可愛らしい見た目の女性だったが、私と話す間、視線の動きが落ち着かなかった。復、始終ニコニコとして友好的な態度だったが、時折、気性の激しさを伺わせるような口吻で話した。そしてどことなく、錯乱の気配を感じさせた。

 

 ――多分、君も見たことあると思うよ。有名な動画みたいだから。インドだったかな。エレベータ事故の動画なんだけどね。子どもがエレベータの籠戸と外戸の間に閉じ込められるの。ほら、古いエレベータって隙間があるじゃない。でね、子どもが閉じ込められたまま、エレベータが上昇するの。当然、子どもは潰されるよね。でもいっぺんにじゃないよ。バキバキって感じで足から手から押し潰されて、最後は、残った頭が破裂するの。

 気分悪くなったかな。平気でしょ。君、そういうの苦手じゃなさそうだもんね。でね、私、一時期その動画にハマってたんだよね。なんていうかな、当時、子どもがひどい目に合う動画を見るのが好きだったんだけど、そのエレベータのやつは、特にお気に入りだったんだよね。

 前に住んでたマンションでね、騒音問題で悩まされてたの。上の階が子持ちでね、これがまた可愛くないクソガキなの。顔も不細工で性格も悪いの。朝から晩まで家の中を走り回ったり、金切り声をあげたり……。廊下で挨拶したって無視するしね。ホントとロクでもないクソガキだったの。

 子どものことだから許してやれって思ってる?管理会社にも同じことを言われたよ。一応、注意喚起の掲示はしたみたいだけどね。でもさ、ほら、クソガキって親も大体クソなの。全然改善されなかったよ。気に入ってたマンションと気に入ってた土地だったから、引っ越したくなかったし、そもそも、何で私は悪くないのに引っ越さなきゃならないわけ?

 毎日毎日ドンドンドンドン……。ストレスが溜まってきてね。もうノイローゼすれすれ。正直、殺意を抱いてたよ。そのクソガキに。でも捕まるのは嫌だしね。死んでくれればなぁ、死んでくれないかなぁ、って漠然と願ってたの。だけど、そう思い通りにはいかないでしょ。それでムシャクシャして、どうにかして発散する必要があったの。

 だからさっき言ったみたいに、子どもがひどい目に合う動画を見始めたの。子どもが怪我したり死んだりする動画を観てね、あのクソガキの姿を動画の子どもに重ねて楽しんでたの。中でもエレベータの動画はフェイバリットでね。たまにあのクソガキとはマンション内で顔を合わせてたんだけど、その度に心の中で

「お前も””ああ””なれ、お前も””ああ””なれ」

 って念じてたよ。

 でもね、天網恢恢疎にして漏らさずって言うでしょ。あれって正しいよ。悪人って言うのは最後にはやっつけられるんだよ。あのクソガキね、死んだの。大型車の下に潜り込んでたらしいよ。それで発車に合わせてタイヤでグシャッ。普通、ああいう車の運転手さんって、車を出す前に車体の下を確認すると思うんだけど、どうしたんだろうね。不運だよね。もちろん運転手さんがだよ。あんなクソガキのせいでひどい目にあってさ。

 マンションの管理人さんから事故のことを聞いたんだけど、聞いた瞬間にうれしくなって、思わず「やった!」って叫びそうになっちゃった。それに、どうしても管理人さんに確認したい気持ちを抑えるのが大変だったなぁ

「あのクソガキはどうやって死んだんですか?エレベータ事故の動画みたいにグチャグチャってなったんですか?頭は破裂したんですか?」って。

 クソガキのバカ親どもはすぐに引っ越していったよ。私の勝ち……ってわけにもいかなかったんだけどね。

 マンションの中であのクソガキを見るようになっちゃってさ。

 別に血まみれとか、体がグチャグチャとかじゃないよ。生きてる時と同じ、可愛さの欠片もない馬鹿面をぶら下げて突っ立ってるの。最初は私を恨んで化けて出たのかと思ったけど、違ったみたい。馬鹿ガキは死んでも馬鹿なんだね。

 え、恨む云々の理由?あ、ごめんね。ほら、一応私は心の中であのクソガキを呪ってたわけじゃない?それが原因じゃないにしても、クソガキは死んだわけだからさ。クソガキの側からすれば、あまり面白くないんじゃないかなって。まあでも、馬鹿は馬鹿だよ。あのガキ、突っ立てるだけで何もしないもん。自分が死んだことに気がつかない幽霊って話はよくあるけどさ、あの馬鹿もそうだったのかな。でもさ、あの馬鹿面をずっと見せられるのはムカつくんだよね。残念だったけど、私も引っ越したの。

 今の住まいは気に入ってるよ。もしかして、あのクソガキが私を追っかけてきたとか思ってる?そんな訳ないじゃん。私は平和に過ごしてるよ。今度は最上階だしね。ホント、馬鹿ガキが死んでくれて清々したよ。今でもあのマンションで、馬鹿面ぶら下げて突っ立ってるのかな。


<了>

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