サボテン

ぶざますぎる

サボテン

 曩時、Aという人物から聞いた話。

 Aは地元の、サボテンハウスと呼ばれている心霊スポットに往った。鉄骨3階建てのその廃墟は「建物の仔細、謂れは不明だが、とにかく幽霊が出る」と有名だった。

 Aは昼間にひとり、そのサボテンハウスを訪うた。

 1階をぐるっと回り、2階、そして3階へ。

 3階で、大量のマネキンの頭が山のように積まれているのを見つけた。そのマネキンの頭には、洋灯吊や千枚通しが沢山、突き刺さっていた。

「ヘルレイザーって映画でさ、ピンヘッドっているだろ。あんな感じだよ」

 Aは言った。

「そんな感じの頭が山になって……」

 Aは固まって、ひとつのマネキンと目を合わた。

 1分くらい、凝としていた。

 以下、Aが私に語った儘を叙すが

 ――そうですが、ハイハイ、こんにちは

 という声が、眼前のマネキンの頭の山の中から、聴こえた。中年の、男か女か判らない、酒焼けしたような声。

 Aはサボテンハウスから、一人暮らしの部屋に逃げ戻った。

 暫時、茫然として気づいた。その時分に読んでいた本――ケッチャムの『隣の家の少女』――机上に置いたその本の表紙を、見覚えのない洋灯吊が貫いていた。

 

 正直、私はAの話を信じていない。

 彼は人間的に尊敬できる処が少なかった人物であり、よく嘘もついていたから。

 百歩譲って、マネキンの頭の山の存在は信じるとしても、それ以外は嘘、もしくはパニックによる幻聴か幻覚の類だろう。

 それに、Aも死んでしまったので、もう細部を問い詰めることもできない。


<了>

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サボテン ぶざますぎる @buzamasugiru

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